日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
医療介護関連肺炎における発症要因と時間解析の検討
三谷 有司沖 侑大郎藤本 由香里山口 卓巳山田 洋二山田 莞爾岩田 優助石川 朗
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2019 年 28 巻 1 号 p. 108-112

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要旨

【目的】 FIM,MASA,CONUTを用いて肺炎の関連因子について検討し,さらに肺炎発症までの期間に与える影響を考慮することで,院内肺炎発症の予測の妥当性について検証した.

【対象】医療療養ならびに一般病床に新規入院した130名.

【方法】入院から1年間の追跡調査の中で肺炎発症群と未発症群とに分類して比較した.さらに発症因子の検討にはロジスティック回帰分析を使用し,調査期間における影響度の検討にはKaplan-Meier分析,Coxハザード回帰分析を行った.

【結果】130名中52名(40.0%)が肺炎を発症.要因分析の結果,MASAが有意な因子であった.発症時間解析では,MASA<168群では有意に発症率が高かった

【結論】院内肺炎の要因として嚥下状態が重要な因子であることが示唆された.今後は活動・栄養の観点も加えて,肺炎の予防に繋げられるか検討していくべきであると考える.

緒言

現在,本邦における死因の第3位は「肺炎」であり,さらに肺炎による死亡の約97%は65歳以上の高齢者が占めている1.医療介護関連肺炎の主たる原因は誤嚥性肺炎だといわれており,さらに,高齢者肺炎のうち約80%は誤嚥性肺炎だと報告されている2.今後も平均寿命の延長によりその予防・治療については喫緊の課題といえる.

2011年に示された医療介護関連肺炎診療ガイドラインを含め,様々なガイドライン3,4においては,抗菌薬の投与やワクチン接種の重要性については明記されているものの,「日常生活動作」「嚥下状態」「栄養」を視点とした呼吸リハビリテーションについての報告は少ない.

近年では,サルコペニアなどが注目されており,その有病率は65歳以上の一般高齢者で約20%であると報告されている5.要介護者においてはその有病率はさらに上昇することが推察される.サルコペニアは主に低活動や低栄養が原因とされ,さらに,低栄養は嚥下障害との関連6についても報告がされている.それら危険因子については肺炎発症とも関連していると考えられ,予防の観点からも議論する意義は大きいと思われる.

一方,身体活動の評価については,加速度計を用いているのが大部分であり,嚥下状態についてもより正確性の高い嚥下造影検査(VF)が診断評価として用いられている.しかし,これらは被験者や実施場所が限られており,必ずしも病院・施設に常備されているものではない.より精度の高い評価・診断のためには必要ではあるが,現在のリハビリテーション場面で一般的に使用されている評価と肺炎の発症要因との関連性が検証されることにより予防に向けた評価の一助になると思われる.

本研究の目的は,医療介護関連肺炎の対象である療養病床ならびに一般病床入院患者において日常生活評価(Functional independence measure;以下,FIM),嚥下評価(The Mann assessment of swallowing ability;以下,MASA),栄養評価(Controlling nutritional status;以下,CONUT)を用いて肺炎発症との関連性と1年間の追跡調査から発症率との時間解析からその影響度について後方視的に検討し,臨床的意義を明らかにすることである.

対象と方法

1. 研究デザイン

後方視的観察研究.

2. 対象

平成27年4月1日から平成28年3月31日までに札幌西円山病院に新規入院した370名を対象とした.調査項目は性別,年齢,FIM,MASA,CONUT,入院から肺炎発症までの期間,在院期間を調査した.除外基準は入院時より肺炎を発症している例,データ欠損のある例,入院時に研究へのデータ使用に関して同意が得られなかった例とした.なお本研究は,神戸大学大学院保健学研究科(承認番号:606)ならびに札幌西円山病院の倫理委員会の承認を得ている.本研究において得られたデータは,要配慮個人情報に基づいて研究固有の番号を付けて匿名化し,解析した.

3. FIM(機能的自立度評価表)

Grangerらが開発した日常生活動作評価で7,個々の日常生活動作の自立度を1~7点の7段階で評価する.運動項目と認知項目に分けられ,運動項目は食事,整容,清拭,更衣上半身,更衣下半身,トイレ動作,排尿管理,排便管理,ベッド移乗,トイレ移乗,浴槽移乗,歩行(車椅子),階段の13項目で構成されている.認知項目は理解,表出,社会的交流,問題解決,記憶の5項目で構成され,合計が126点となる評価表である.

4. MASA

Mannらが開発した嚥下障害と誤嚥をスクリーニングする評価表である8.24項目で構成され,嚥下運動と感覚の評価,協力動作,聴覚理解,嚥下に関連する脳神経の情報,食塊の口腔内準備,クリアランス,咽頭反応,推奨される食事,総合的な嚥下のリスク評価から成る.各項目は5点から10点に重み付けしており,合計が200点となる評価法である.また,嚥下障害のリスク判定として,178~200点は異常なし,168~177点は軽度,139点~167点は中等度138点以下は重度と評価される.

5. CONUT

Gonzalezらが2003年に欧州静脈経腸栄養学会で発表した栄養評価法で,一般的に使用されているアルブミン,末梢血リンパ球数,総コレステロール値をスコア化し,3つのスコアを積算して求めたもの値である.合計点は0から12点でスコアが高いほど栄養状態が悪いことを示す.リスク判定として,0~1点は正常,2~4点は軽度異常,5~8点は中等度異常,9~12点は高度異常と評価される.

6. 統計学的解析

肺炎発症群と未発症群の2群に分け,各項目については,Shapiro-Wilk検定で正規性の有無を確認した.2群間の比較にはMann-Whitney-U検定,カイ二乗検定ならびに対応のないt検定を用いた.発症因子の検討にはロジスティック回帰分析(ステップワイズ変数増加法),発症率との影響についてはCoxハザード回帰分析(ステップワイズ変数増加法)を行った.また,各項目の発症期間と発症率プロットについては,Kaplan-Meier法を用い,その比較にlog-rank検定を使用した.統計ソフトはIBM SPSS statistic 24(SPSS Japan社製)を使用し,有意水準は5%とした.

結果

最終解析対象者は130名であった.対象者の基本属性は表1に示す.1年間の追跡調査で130名中52名(40.0%)が肺炎を発症した.2群間での比較については,FIM合計,FIM運動項目,FIM認知項目,MASAにおいて有意な差を認めた(p<0.01,表2).ロジスティック回帰分析ならびにCoxハザード回帰分析では,ともにモデルχ2検定によりモデルの有意性が保証された(p<0.01).変数の有意性はMASA(p<0.01,OR=1.01,95%CI: 1.01-1.02)と年齢(p=0.03,OR=0.94,95%CI: 0.89-0.99)(表3)が抽出され,MASA(p<0.01,HR=0.99,95%CI: 0.98-0.99)と年齢(p=0.008,HR=1.05,95%CI: 1.01-1.09)の順に影響していた(表4).

表1 対象者の属性
年齢(歳)83.9±8.2
性別(男性/女性)42/88
FIM合計40.4±24.4
FIM運動24.9±17.2
FIM認知15.5±9.0
MASA133.9±60.1
CONUT4.6±2.5

平均値±標準偏差

FIM: Functional independence measure

MASA: The Mann assessment of swallowing ability

CONUT: Controlling nutritional status

表2 2群間における単変量解析
肺炎発症群肺炎未発症群
52(40.0%)78(60.0%)
Q1Q2Q3P-velue
年齢85.6±7.782.8±8.28085890.096*
性別(男性/女性)17/3525/530.939**
FIM total30.6±17.447.0±26.221.83155.3<0.01*
FIM motor18.1±11.128.9±19.31316.532.5<0.01*
FIM cognition11.8±7.218±9.371423<0.01*
MASA107.0±59.5151.8±53.973.3155183.3<0.01*
CONUT4.7±2.64.6±2.50.901***

平均値±標準偏差 Q1: 25%タイル Q2: 50%タイル Q3: 75%タイル

Shapiro-Wilk 検定:CONUT P=0.062 その他 P<0.0001

FIM: Functional independence measure MASA: The Mann assessment of swallowing ability

CONUT: Controlling nutritional status

* Mann-Whitney U検定 ** カイ二乗検定 *** 対応のないt検定

表3 ロジスティック回帰分析の結果
変数回帰係数P-valueOR(95%CI)
MASA0.014<0.011.014(1.007-1.021)
年齢-0.0580.030.944(0.895-0.995)
FIM合計0.109
FIM運動0.144
FIM認知0.149
CONUT0.532

OR:オッズ比 95%CI:95% confidence interval

Hosmer-Lemeshow検定:P=0.540

モデルカイ二乗検定:P<0.0001

判別的中率:70.8%

FIM: Functional independence measure

MASA: The Mann assessment of swallowing ability

CONUT: Controlling nutritional status

表4 Coxハザード回帰分析の結果
変数回帰係数P-valueHR(95%CI)
MASA-0.01<0.010.990(0.986-0.995)
年齢0.0520.0081.054(1.014-1.095)
FIM合計0.221
FIM運動0.222
FIM認知0.359
CONUT0.836

HR:ハザード比 95%CI:95% confidence interval

モデルカイ二乗検定:P<0.0001

FIM: Functional independence measure

MASA: The Mann assessment of swallowing ability

CONUT: Controlling nutritional status

FIM,MASAのカットオフ値7,8を参考に2群間での未発症曲線について比較し,それぞれFIM<36点,MASA<168点において有意に発症率が高かった(log-rank検定;p<0.01)(図1).

図1

追跡期間に基づいた未発症曲線(Kaplan-Meiyer)

FIMに基づく肺炎の未発症曲線の比較では,FIM 36点未満群で同36点以上群よりも有意に発症率が高かった(左図,log-rank検定;p<0.01).MASAに基づく2群間での未発症曲線の比較では,MASA 168点未満群で同168点以上群よりも有意に発症率が高かった(右図,log-rank検定;p<0.01).

考察

本研究では,使用した評価項目が肺炎発症の要因となり得るか,さらにそれらの要因が入院から発症までの時間経過に与える影響について検討した.日常生活動作レベル(以下,ADL)と嚥下機能は肺炎発症と関連を認め,特に嚥下機能はその影響度が高いことが明らかになった.

高齢者における嚥下障害の有病率は,独居高齢者で30~40%,急性期病棟で44%,施設入所者で60%と報告されている9.今回の対象者も高齢であること,また,MASAの平均値からも肺炎発症群は嚥下障害を呈していた割合が高いことが推察された.また,嚥下障害と肺炎との関連については,様々な研究で散見されており,今回の結果は先行研究を支持するものであった10.今回使用したMASAは,Chojinらが肺炎患者を対象とした研究でも肺炎による死亡率や再発を予測する因子として有用であったと報告されている11.本研究においても同様の結果であり,さらに嚥下障害の中等度・重度群(MASA<168)は時間解析においても有意に発症率が高かった.これらからもMASAは肺炎発症を予測するツールとしての有用性が示唆された.しかし,肺炎発症者を対象とした先行研究では,MASAの項目において「呼吸状態」,「口腔通過時間」,「舌の筋力」,「嚥下と呼吸の関係」の順に異常が多かったと報告している.本研究ではMASAの各項目の比較について検討していないため,今後の課題とされた11

ADLについては,肺炎発症群において有意に低下していた.先行研究においてもPerformance status(PS)が3~4点の群と誤嚥の関連が報告されている12.GrangerらはFIM総点36点未満においてはほぼ完全に介助を要する状態だと報告している7.本研究における肺炎発症群でも平均30点程度であったことを考慮すると,概ね介助が必要な状態であったことが推察され,ADLの低下が肺炎の危険因子であると考えられた.しかし,今回身体活動の指標として「日常生活動作」を用いた.身体活動量の低下はADL上の要介護発生の危険因子であると報告されているが13,「低活動」という定義が「日常生活動作能力の低下」と関連するかどうかは検討が必要である.さらに,肺炎発症と日常生活動作との関連性について,我々らは検討してきたが14,ADLとの詳細な検証については今後の課題である10.栄養状態については,本研究ではCONUTを使用した.結果に有意な関連性は認めなかったが,肺炎発症群・未発症群ともに「軽度異常」(CONUT:2~4点)であり,低栄養は嚥下障害の独立した危険因子であるという報告15からもその関連性については重要である.今後その有用性については検討していく必要がある.

現在,誤嚥性肺炎に特化した呼吸リハビリテーションは検討されておらず,確固たるエビデンスは少ない15.しかし,立ち上がりや移動練習など身体機能に焦点をあてた早期のリハビリテーション介入が,誤嚥性肺炎の院内死亡率を低下させるとの報告16も散見され始めている.さらに,MASAを使用した先行研究でも呼吸状態や嚥下,舌の筋力について特に異常を認めている11ことから今後も「嚥下」「活動」「栄養」の観点から検討した呼吸リハビリテーション介入による肺炎発症への影響について調査していくことが重要と考える.

本研究の限界として,第一に単施設研究であり,サンプルサイズが少ないこと,第二に後方視的観察研究であったため,すでに肺炎予防の有効性が示されている口腔ケア17の状況やワクチン接種18状況についての詳細な検証ができなかったこと,第三に肺炎発症者すべてに詳細な検査(V.Fなど)を実施していなかったため誤嚥性肺炎の正確な診断が困難であったことが挙げられた.

結論として肺炎発症を予測するツールとして嚥下およびADL評価を実施していくことが重要であり,その中でもMASAはより簡便で有用なツールであることが示唆された.

備考

本論文の要旨は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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