日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
日常生活動作の低下をきたした急性期高齢肺炎患者における在院日数に関与する因子
田村 宏玉木 彰荒木 信人名和 厳兪 陽子
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2019 年 28 巻 1 号 p. 126-129

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要旨

目的:入院中の高齢肺炎患者を対象に在院日数に関与する因子を調査し効果的な介入を検討することとした.

方法:対象は201X年4月~9月より当院に入院し,呼吸リハビリテーション(PR)依頼のあった高齢肺炎患者79例(年齢85.5±9.7歳).評価項目は在院日数,年齢,肺炎の重症度,入院前のBarthel Index(BI),入院からPR開始までの日数,CRP,BMI,血清アルブミン,入院日の室内気吸入時における酸素飽和度の最低値をカルテより後方視的に調査した.統計は在院日数と他の因子についてPearsonの積率相関係数を用いて検討し単相関を認めた因子について目的変数を在院日数,説明変数をその他の調査項目としてStepwise重回帰分析を行った.

結果と考案:入院前のBI,入院からPR開始までの日数に有意な相関を認め予測式が抽出された.今後は入院前のBIを踏まえPRの早期介入の必要性が示唆された.

はじめに

肺炎はわが国における死亡原因の第3位であり,65歳以上になると死亡率が上昇することが指摘されている1.急性期の高齢者肺炎における安静臥床は筋萎縮,運動能力の低下,日常生活動作(ADL)の低下を誘発し,在院日数の長期化や予後不良をきたすと述べられている2,3.その一方で,早期発症より4日間の在院期間において迅速な治療対応を図れば予後が良好となるとの知見も散見される4,5.これらを踏まえると急性期の高齢者肺炎の治療にあたり,早期より重症度や予後因子を把握し介入することは必須であり,円滑な治療計画のもと,在院日数を短縮させていくことが必要である.

しかし,こうした背景の中,急性期医療における高齢肺炎患者の在院日数を予測する因子に関する研究は比較的少ない.また,効果的な介入方法として在院日数に関連する因子を同定する報告は皆無である.

そこで本研究では高齢により日常生活動作の低下をきたし,急性発症した肺炎患者における在院日数と,それに影響する関連因子を調査した.そして,在院日数に対して各因子が与えている影響を明らかにし効果的な介入方法を検証することを目的とした.

対象と方法

1. 対象

対象は201X年4月から9月に当院内科にて肺炎の診断で入院し呼吸リハビリテーション(PR)の依頼があった75歳以上の後期高齢者79例(平均年齢85.5±9.7歳)を対象とした(表1).肺炎は米国感染症学会のガイドラインによる成人市中肺炎患者の重症度診断6を参照し,除外基準は他疾患による入院症例,肺炎発症後の死亡症例,心筋梗塞や肺梗塞などの重篤な合併症を併発した症例とした.

表1 患者背景
症例男/女27/52
年齢85.5±9.7
BMI19.0±5.0
認知機能
*認知症高齢者の日常生活自立度より33/46
 認知症なし(自立~I)/
 あり(II~IV.M)
抗菌薬投与日数5.8±3.4
PR提供総単位数単位15.4±18.2
入院元から退院先の変化件数あり/なし17/62
絶食期間2.1±3.3
最終栄養摂取状況
 経口摂取92.9%
 経鼻・経腸栄養7.1%
原因菌
 肺炎球菌84.8%
 黄色ブドウ球菌2.5%
 インフルエンザウイルス3.8%
 不明8.9%
基礎疾患の内訳
 循環器疾患49%
 脳血管疾患25%
 代謝疾患16%
 呼吸器疾患2%
 その他8%

n=79 mean±SD

BMI: body mass index

PR: Pulmonary Rehabilitation

対象患者には全例に対して内科的治療と並行してPR(呼吸練習,リラクセーション,排痰援助法,胸郭可動域運動,下肢筋力練習,離床練習,日常生活動作練習)を施行した.PRの開始は,当院に肺炎のクリティカルパスが無いため,循環動態および炎症所見が安定したことを確認した上で処方された.PRは本邦の呼吸リハビリテーションマニュアル第2版の急性期,急性期からの回復期における開始時のプログラムに準じて7開始し,退院まで継続した.

2. 調査内容

調査項目は在院日数,年齢,肺炎の重症度(A-DROP),入院前のBarthel Index(BI),入院からPR開始までの日数,炎症所見として入院中最高値のC反応性蛋白(CRP),栄養指標として入院初日の血清アルブミン値(Alb),BMI,入院初日の室内気吸入時における酸素飽和度の最低値(SpO2)をカルテより後方視的に調査した.

3. 統計解析

統計処理は相関性の解析として正規性分布の確認後,在院日数と各調査8項目との相関係数をPearsonの積率相関係数を用いて検証した.次に,関連因子の抽出として,有意に単相関を認めた項目を独立変数に,在院日数を従属変数とするStepwise重回帰分析を用いて検証した.分析には統計ソフトR(version 3.4.1)を使用し,いずれの統計解析においても,有意水準は5%とした.なお,各指標は平均値±標準偏差で示した.

4. 倫理的配慮

本研究は,市立芦屋病院倫理委員会の承認(芦市総第75号)を受けており,全ての対象者または家族に同意を得た.データは個人情報保護に十分に留意して管理した.

結果

高齢者肺炎にて入院した症例の在院日数と各因子の調査結果を表2に示した.在院日数と年齢,A-DROP,入院前のBI,入院からPR開始までの日数,CRP,Alb,BMI,SpO2との関連性を単相関にて検討した結果,入院前のBI(p<0.01,r=-0.30)および入院からPR開始までの日数(p<0.001,r=0.51)との間に有意な相関が認められた(表3).また,これら2つの変数について在院日数を従属変数としてStepwise重回帰分析を用いて検証した結果,入院前のBI(p<0.01,β=-0.15),入院からPR開始までの日数(p<0.001,β=1.04)が独立因子として抽出された.さらに,中等度の予測精度を認める重回帰式(18.37-0.15×入院前のBI+1.04×入院からPR開始までの日数)が得られた(R=0.32,調整済みR2=0.31).

表2 在院日数と各因子との調査結果
在院日数15.5±17.1
年齢85.5±9.7
重症度判定(A-DROP)2.5±0.6
入院前のBarthel Index15.8±23.2
入院からPR開始までの日数6.1±5.4
CRPmg/mL8.1±6.7
血清アルブミンg/dL2.9±0.5
BMI19.0±5.0
室内気吸入時における酸素飽和度89.7±12.3

n=79 mean±SD

PR: Pulmonary Rehabilitation

CRP: C-reactive protein BMI: body mass index

BUN: blood urea nitrogen Cr: Creatinine

表3 在院日数と各調査項目との相関係数
相関係数(r)p値
年齢0.110.34
重症度判定(A-DROP)0.180.13
入院前のBarthel Index-0.30p<0.01
入院からPR開始までの日数0.51p<0.001
CRP0.120.29
血清アルブミン-0.060.58
BMI-0.170.18
室内気吸入時における酸素飽和度0.120.31

n=79 mean±SD

在院日数と各調査項目との結果をPearsonの積率相関係数を用いて検討した.

p<0.05.

考察

本研究は,高齢肺炎患者の在院日数に関与する因子を明らかにし,効果的な介入方法を検討することを目的としたものである.結果より,高齢肺炎患者の在院日数に影響を与える因子として入院前のBIが抽出された.BIは高齢者の日常生活動作(ADL)の評価法として推奨されているが8,高齢者肺炎とBIとの関連について多くは加齢に伴い基礎疾患を有するため,BIの低下をきたし肺炎に罹患しやすいと指摘されている9.また,基礎疾患によるADL能力の低下は罹患後,在院日数へ影響を及ぼし,高齢になるほど長期化すると述べられている10.肺炎の罹患要因における報告で森口は11,老人福祉施設入所者の健康状態と免疫能について検討した結果,ADL能力の低い高齢者は免疫細胞であるナチュラルキラー細胞の低下が顕著であったことを指摘しており,細菌やウイルスによる易感染性の増加を招くことを指摘している.一方,Baikは12高齢者を対象とした大規模臨床試験において肺炎の罹患リスクは身体活動性やADL能力の低下とともに増加することを示し,同様の研究では,55歳から80歳の女性を6年間追跡した結果,身体の不活動性は罹患による入院リスクの増加と相関する13と述べている.

本研究では,対象者の基礎疾患として循環器疾患,脳血管疾患を多く認めた.高齢者肺炎には基礎疾患を有することが多いという報告14を踏まえると,ADL能力の低下をきたし重症化する一因子になり得るものと推察される.本研究の入院前のBIは15.8±23.2点と中等度から重度の介助を要していた.また,肺炎の重症度より中等症を示したことや室内吸入時における酸素飽和度の低値を認めたことからADL能力の低下が免疫能と相関するという報告13を踏まえると,罹患後増悪し在院日数の延長につながったものと推測された.これらの結果から,効果的な介入方法は入院初日より基礎疾患の有無と入院前のADL能力としてBIをスクリーニング評価として導入し,結果を勘案した上で内科治療と並行して身体活動性に重点を置いたPR計画を立案することが重要であると考えられた.具体的にはADL能力が重度の症例の場合は咳嗽および喀痰機能の低下が予想されるため肺病変部位に合わせたドレナージ肢位の選定,スクイージング手技の共有化など看護師協力のもと,排痰援助を目的とした包括的アプローチの推進が重要と思われた.また,中等度の症例の場合は,早期離床,坐位の獲得を目的としたもの,軽症の場合は排痰援助法,呼吸練習,下肢筋力練習など患者教育を目的としたものを選択することが適正であると想定された.今回,当院における急性期の高齢肺炎は誤嚥性肺炎を多く認めたことから,言語聴覚士による摂食・嚥下リハビリテーションも含めたPR計画の推進が重要視された.

次に,高齢肺炎患者の在院日数に影響を与える因子として入院からPR開始までの日数が抽出された.早期のPRは高齢者において気道クリアランスの改善に寄与し,在院日数を短縮させると述べられている15.また,安静臥床が長期化すると骨格筋の廃用性萎縮が顕著となることから早期離床が推奨されている16,17.瀧澤はPRにおいて離床を目指したADL練習を早期に開始することで肺炎のみならず廃用症候群の予防に寄与し在院日数の短縮につながると報告している18.本研究の結果では,入院からPR開始までの介入は6.1±5.4日であり,発症から早期に介入した症例は回復が良好となり,在院日数の短縮を有意に認めた.

Morris19らはPRの段階的なプロトコールを設定しPRの早期介入を実現することで入院期間が減少することを示している.当院のPRの開始については肺炎のクリニカルパスおよび標準化されたPRのプロトコールが適用されていない.したがって,入院後肺炎のクリニカルパスを作成した上で早期におけるPRの開始基準と,段階的なPRのプロトコールの設定を構築することが重要視された.

また,早期介入を図る為には主治医の理解と判断が重要であると指摘されている19.この点については早期にPRがもたらす効果についてエビデンスを踏まえた研修会の開催,症例カンファレンスを通じて認識を改めていく必要がある.本研究の結果から,急性発症より可及的早期にPRの介入を図る必要性が示唆された.

本研究にはいくつかの限界がある.1つ目は,高齢肺炎患者の重症度の分類が明確でないことが挙げられる.高齢肺炎患者の基礎疾患は在院日数に影響を及ぼすことから疾患の重症度としてのバイアスを排除する必要性が考えられる.2つ目は本研究での転帰における調査分析について詳細に行えていないことが挙げられる.高齢者施設及び介護施設においては多種多様となっていることから今回の退院がシームレスな入院元の生活に繋がっていたかの検証ができていない.転帰先が在院日数に影響を及ぼす可能性も考えられるため,両者の関連性について分析していくことが今後の課題と考える.最後に本研究は単一施設での研究であり,症例数の関係で多変量解析を実施できなかった.今後は多施設共同研究を行い,より多くの症例を集積することが課題である.

結論

本研究では,入院中の高齢肺炎患者を対象に在院日数に関与する障害因子を調査し,効果的な介入方法を検討することを目的とした.その結果,入院前のBI,入院からPR開始までの日数に有意な相関を認め,予測式が抽出された.今後,呼吸ケアの視点からもPRを施行するにあたり基礎疾患の有無と入院前のBIを踏まえ可及的早期にPRを開始する必要性が示唆された.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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