日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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教育講演
COPD治療効果の評価の仕方
藤本 圭作
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2019 年 28 巻 1 号 p. 27-32

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要旨

COPDに対する薬剤,呼吸リハビリテーション,栄養,酸素などの介入による治療効果の判定には,自覚症状,呼吸機能,運動耐容能,QOL,ADL,血液中のバイオマーカーといった評価項目だけでなく,増悪,経年的な呼吸機能低下,生命予後といった将来の危険性に対する効果も評価されるようになってきた.どの項目をエンドポイントとするかは治療介入の種類によって異なるが,多くの評価項目で相対的に評価することが望ましいと考えられる.本稿ではそれぞれの評価項目について紹介し,我々が考案した動的肺過膨張の評価法についても述べる.

緒言

COPDに対する臨床試験において,治療効果判定に1秒量の改善が第一評価項目として評価されてきた.しかし1秒量の改善と息切れ症状,運動耐容能,QOLの改善とは必ずしも一致しない.また症状やQOLの改善だけでなく,増悪や予後といった将来の危険性の軽減が重要な管理目標となってきた.その結果,最近の臨床治験評価項目として,1秒量の改善だけでなく,肺過膨張,自覚症状,運動耐容能およびQOLに対する改善効果,さらに増悪回数や重症な増悪の予防効果,経年的な呼吸機能の低下,生命予後の改善が第一評価項目として組み入れられるようになってきた.また,安静時における静的肺過膨張だけでなく,動的肺過膨張(dynamic lung hyperinflation, DLH)の評価も行われるようになった.どの項目をエンドポイントとするかは治療介入の種類によって異なるが,多くの評価項目で相対的に評価することが望ましいと考えられる.本稿ではそれぞれの評価項目について紹介し,我々が考案したDLHの評価法についても述べる.

自覚症状およびQOLの評価

COPDにおける自覚症状として,喀痰・咳嗽症状もあるが,最も日常生活や労作に影響を与える労作時呼吸困難に対する治療効果判定が重要である.呼吸困難感は,気流閉塞の程度よりも5年生存率の予測に優れていることが報告されている1.息切れの評価法として頻用されているものについて説明する.Borg CR-10スケール(修正Borgスケール)は0~10の比例的分類尺度で呼吸困難の程度を定量的に評価し,6分間歩行試験などの運動負荷をおこなった際の息切れの程度の評価に用いられる2.VASは,100mmの水平直線に呼吸困難の程度を直接マーキングし定量的に評価することができる.修正MRC(mMRC)質問票は,呼吸困難を生じる日常活動のレベルを0~4までで評価する.COPDでは死亡3,健康状態,機能的障害,他の呼吸困難の指標との強い関係が証明されているが4,粗い5段階の単面的な評価なため,分別性や反応性には劣る.Baseline Dyspnea Index(BDI)は「magnitude of task:仕事量」に加えて,「functional impairment:(日常生活上呼吸困難のために生じる)機能障害」と「magnitude of effort:(行動の遂行のため必要とされる)努力の程度」の3項目を各0~4までの5段階で評価し,合計で0~12のスコアとなる.MRCとは逆にスコアが低いほど呼吸困難の度合いが強い.BDIがある時点での呼吸困難の評価であることに対して,その変化を測定するのがTDI(Transition Dyspnea Index)であり,薬物療法をおこなったときの息切れの改善の程度の評価に用いられる.

健康関連QOLおよびADLの評価

健康関連QOLの評価には,包括的尺度の質問票としてMedical Outcomes Study Short-Form 36-Item(SF-36),Sickness Impact Profile(SIP),Nottingham Health Profile(NHP),EuroQoLなどがあり,一般的な健康感を問う質問票になっているのに対して,St. George Respiratory Questionnaire(SGRQ)質問票やChronic Respiratory Disease Questionnaire(CRQ)質問票はCOPDを主な標的とした疾患特異的な質問票である.SGRQは,症状,活動,影響の3つの領域(計50項目)から構成され,個々の項目に重みづけがされており,各領域のスコアと総スコアが評価に用いられ,スコアが高いほどQOLは不良である.また臨床的に意味のある最小の差をMinimal Clinical Important Difference(MCID)とし,SGRQ total scoreは4ポイント以上の改善を有意とする.また,SGRQをCOPD用にアレンジしたSGRQ-CやSGRQを簡略化し,8項目を0~40点で評価するCOPD assessment test(CAT)質問票が良く用いられ,SGRQと良好な相関がある5.CRQは,呼吸困難,疲労,感情,病期による支配感の4つの領域(計20項目)から構成される.各項目は7段階のスケールで評価され,その合計が各領域のスコアとなるが,総スコアでも評価され,スコアが低い程QOLが低下している.MCIDは0.5ポイント以上の改善である.呼吸困難の領域は,最近2週間で呼吸困難を生じた重要な活動を5つ選択するため,患者個々で選ぶ活動項目が異なり,患者間での比較ができないという問題点がある.

ADLの評価として,Barthel Index(BI)や長崎大学が開発した長崎大学呼吸器日常生活活動評価表(NRADL)がある6.BIは,食事,車椅子からベッドへの移動,整容,トイレ動作,入浴,歩行,階段昇降,着替え,排便コントロール,排尿コントロールの10の項目からなる.NRADLは,入院患者を対象とした,食事,排泄,整容,入浴,更衣,病室内移動,病棟内移動,院内移動,階段昇降,外出・買い物,連続歩行距離の12項目からなる評価票と外来通院患者を対象とした,食事,排泄,整容,入浴,更衣,屋内歩行,階段昇降,外出,荷物の運搬・持ち上げ,軽作業,連続歩行距離の12項目からなる評価票がある.また,COPDを対象とし,食事,排泄,入浴,洗髪,整容,更衣,歩行,階段,屋外歩行,会話の項目で酸素療法を加味したADLの評価としてpulmonary emphysema-ADL(P-ADL)がある.

近年,身体活動性の評価が重要であることが強調されている.その理由として,身体活動性は独立した寄与因子として生存率と密接な関係にあり,3軸加速度計を用いた身体活動量の評価において活動量が低いほど増悪による入院までの期間が短いことが報告されている7.以上のことから,身体活動量を増やし維持することは増悪を予防し,生存率を向上させ,COPDの管理において重要である.身体活動量は薬物療法のみで改善されるわけではなく,活動量計などの身体活動性の客観的な評価を踏まえた患者への指導,モチベーションの向上,行動変容が重要である8

呼吸機能評価

薬物治療の大規模臨床試験では昔から1秒量の改善がエンドポイントとして評価されてきた.これは気管支拡張薬吸入後の1秒量がCOPDの予後を規定する重要な因子であることによる.1秒量の改善効果は投薬直前のトラフ値と投薬後のピーク値が良く用いられている.しかしながら,呼吸困難の程度や運動能力,QOLは1秒量による重症度だけで規定されるものでなく,同じ%1秒量であっても呼吸困難が強く,厳しく運動能力が制限され,QOLが顕著に低下しているCOPDもいれば,それほどでもない患者がいることは臨床の現場でよく経験することである9.また,必ずしも1秒量の改善が自覚症状や運動耐容能の改善と良い相関が得られないことが指摘されている10.このため,近年は1秒量だけでなく,静的肺過膨張やDLHに対する効果も評価されるようになってきた11.運動耐容能に影響する因子は気流閉塞,換気制限,ガス交換障害,肺循環障害,低酸素血症,高炭酸ガス血症,乳酸の増加,筋肉疲労,骨格筋の機能障害,心機能障害,貧血など多々あるが,中でもCOPDにおいてはDLHが重要な運動制限因子となっている.安静時の機能的残気量(FRC)および最大吸気量(IC)は肺コンプライアンスの上昇とエアートラップによる肺過膨張を反映するが,さらに労作に伴う換気量の増加,特に呼吸数の増加に依存してエアートラップが増強しDLHが生じる.これに伴い吸気予備量が減少することによって,さらに換気が制限され呼吸困難が急速に進行する.COPD診断と治療のためのガイドライン 第4版の病態生理の項目で,“COPD患者において,労作時呼吸困難の原因となる基本的病態は,気流閉塞と動的肺過膨張である”と記載されている.

DLHの評価

O’Donnellら12は,長時間作用性抗コリン薬(LAMA)であるチオトロピウムの大規模臨床試験において,治療によるDLHの軽減と運動耐容能および運動負荷時の呼吸困難感の改善との間に有意な相関があることを報告している.O’Donnellらの方法は,運動負荷中にbreath by breathで経時的にICを測定し,その減少量でDLHが評価されている.しかし,労作中に最大吸気を行わせることは呼吸困難感を増大させ,重症な呼吸困難を訴える患者では正確に評価することは困難と思われる.また,測定には高価な機器が必要となる.DLHが呼吸数依存性に生じることから,運動負荷を加えないで過呼吸によって定量的に評価する方法,すなわち過呼吸法を考案した13.安静呼吸時にICを測定した後,メトロノームに合わせて,呼吸回数を20回/分,30回/分,40回/分と増やし,30秒間の過呼吸に続いて最大吸気させ,IC量の減少程度により評価をおこなった.健常人では呼吸数を段階的に増加させてもICは変わらないが,COPDでは病期に応じて呼吸数の増加に伴いICは低下を示した(図1).

図1

過呼吸法による動的肺過膨張の評価

IC,最大吸気量;ICrest,安静呼吸時のIC; IC20,IC30,IC40,20,30,40回/分の呼吸を30秒間おこなった直後のIC.健常人および病期Iは呼吸数を増加させても変化しないが,病期II以上のCOPDは病期の進行と共に過呼吸に伴うICの減少は大きくなる.

これまで過呼吸法によるDLHの測定は,body boxを用い,30秒間の過呼吸に続いて,シャッターにて呼吸回路を閉鎖し,体プレティスモグラフ法にて呼気終末肺気量(end expiratory lung volume, EELV)を測定した後に最大吸気させICを測定していた13.測定にはbody boxが必要となるが,我々はスパイロメーターを改良し,簡便に測定する装置を開発した.電子音と光の点滅に合わせて30秒の過呼吸をおこない,過呼吸に続いて最大吸気させICを測定する.ICの測定は過呼吸最後の3呼吸の平均EELVレベルからの量として計測されるようにした(図2).図3に健常人(A)とCOPD患者(B)の実際の測定の1例を示す.

図2

過呼吸法による動的肺過膨張測定専用のスパイロメーター

A.フローセンサ(検査時)と大気(ゼロ補正時)に切り替えることで,被検者が呼吸していてもフローのゼロ補正がおこなえるため,被検者は,フローセンサーから口を外す必要がない.B.電子音と光の点滅で呼吸数,呼吸のタイミングを知らせる.C.COPD患者を例として測定の流れを示す.ICの測定は過呼吸最後の3呼吸の平均EELVレベルからの量として計測される.

図3

健常人ボランティア(A)とCOPD患者(B)の実際の測定例を示す

健常人では呼吸数を段階的に増加させてもICは変わらないが,COPD患者では呼吸数の増加に伴いICは低下を示した.

運動能力および運動耐容能の評価2

運動能力の評価としてよく使われているのは歩行試験である.一方,最大の運動負荷をおこないその耐容能を評価するのは,漸増運動負荷試験である(表1).時間内歩行試験およびシャトルウォーク試験では歩行距離,息切れの程度(修正ボルグスケール),経皮的酸素飽和度(SpO2)の低下程度,脈拍数の増加程度を評価する.時間内歩行試験は被験者のモチベーションに依存するが,シャトルウォークテストは歩行速度が規定されるのでより漸増負荷試験に近い負荷方法である.漸増運動負荷試験はトレッドミルやエアロバイクを用いて運動負荷を漸増させ,最大の負荷を加える試験で,心電図,血圧,息切れの程度,SpO2,呼気ガス分析にて換気量,呼吸数,1回換気量,酸素摂取量,炭酸ガス排出量をモニターし,最大酸素摂取量( V ˙ O2max, V ˙ O2peak),最大負荷量(WTmax),AT(anaerobic threshold)を算出する.これによって最大の運動耐容能の評価と詳細な運動制限因子の解析ができる.また,表にはないが,漸増運動負荷試験での最大負荷量の60~80%の負荷量でおこなう定常運動負荷試験があり,運動の持続力を評価する.

表1 各運動負荷試験の特徴
6分間歩行試験シャトル・ウォーク試験漸増運動負荷試験
実施場所フィールドフィールド検査室
特殊な機器・器具の必要性なし歩行スピードの録音されたCD運動負荷装置と呼気ガス分析器
歩行スピード指定なし指定あり指定あり
目的日常生活における機能障害の重症度を評価することが目的日常生活における機能障害の重症度を評価することが目的最大酸素摂取量の決定や運動制限因子の詳細な解明が目的
特徴患者のモチベーションに影響を受けるある程度定量的な負荷が可能で漸増運動負荷試験に近い正確な運動耐容能および運動制限因子の解明が可能
評価項目
あるいは運動耐容能歩行距離歩行距離あるいは時間最大酸素摂取量,最大負荷量
息切れ症状修正Borg scale修正Borg scale修正Borg scale
SpO2
脈拍数
心電図××
血圧××
酸素摂取量( V ˙ O2××
CO2排出量( V ˙ CO2××
anaerobic threshold(AT)××
分時換気量( V ˙ E)××
呼吸数(f)××
1回換気量(VT)××

将来の危険性に対する効果

COPDにとって増悪は重症化および生命予後を左右する重要なイベントであり,これを回避することは重要である.増悪の評価は患者からの申告や医師の判断に委ねられることが多いが,過小評価されることが問題である14.症状日誌等による客観的な評価をおこなうことによって増悪の頻度は増加する.また,増悪の頻度だけでなく,重症な増悪を回避することも重要なアウトカムである.また,病期の進行を抑制し,生存率を向上させることが可能となれば理想的な治療ということになる.以前は禁煙がエビデンスのある唯一の治療であったが,近年,新しい薬剤の登場により,増悪を抑制することが可能となり15,経年的な1秒量の減少に対しても効果が認められ16,薬物療法が将来の危険を軽減させることが可能となってきた.さらにUPLIFT試験ではチオトロピウムが4年間の死亡リスクを13%減少させたと報告されている17.また,非薬物療法においてもアクションプランを含む自己管理は増悪を予防し得る18ことや,増悪後の呼吸リハビリテーションは再入院や予後を改善できる可能性も示されている19

その他

介入される治療により期待される効果は異なる.呼吸リハビリテーションと栄養補助療法の介入においては,筋力,炎症マーカー(hsCRP,IL-6,IL-8, TNF-αなど)や栄養状態を反映する血液マーカー,筋肉量,安静時エネルギー代謝量(REE),運動能力が重要な評価項目となる20.また,肺循環障害に対する評価として,右心カテーテル検査,心臓超音波検査が重要となる.さらに,吸入ステロイドの併用による肺炎合併リスクの増加,気管支拡張薬による心臓血管疾患の悪化,LAMAによる排尿障害および緑内障の悪化などの有害事象の評価もおこなうことは重要である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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