日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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教育講演
慢性閉塞性肺疾患患者の骨格筋機能障害とその評価
沓澤 智子
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2019 年 28 巻 1 号 p. 33-37

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要旨

COPD患者には,全身併存症の1つとして,骨格筋の機能障害が認められる.骨格筋機能障害とは,筋力の低下または持久力の低下,またはその両者として定義される.これには筋肉の萎縮だけではなく,筋肉の構造の変化,代謝の変化が関係する.これらの骨格筋の萎縮や機能障害は,運動耐容能の低下,身体活動性の低下をもたらし,生命予後にも関係することが報告されており,ATS/ERSの骨格筋機能障害に関する2014年の共同声明では,COPD患者の四肢筋の評価を奨励している.本稿では,COPDの筋肉機能障害の病態とその非侵襲的評価(筋肉量,筋力,持久力),加齢性サルコペニアとの違い,喫煙と骨格筋の変化につき概説する.最後に,筋肉の酸素化状態や代謝を非侵襲的に評価する近赤外分光法や31P-核磁気共鳴スペクトロスコピーについて,その測定法や結果について紹介する.

近年,慢性閉塞性肺疾患(COPD)は肺以外にも全身に影響が及ぶことが知られ,COPDを全身性疾患ととらえるようになってきた.これらの併存症には,代謝性疾患,心血管疾患,栄養障害,骨格筋機能障害,骨粗鬆症などがある.本稿では,骨格筋機能障害とその評価につき解説する.

骨格筋機能障害の定義とその影響

骨格筋機能障害とは,筋肉がその仕事を遂行する能力がないことを示し,筋力の低下または持久力の低下,またはその両者として定義される1.これには,筋肉の萎縮だけではなく,筋肉の構造の変化,代謝の変化が関係する2,3.COPD患者に認められる運動耐性の低下は,運動中の換気制限・ガス交換の障害が原因であると考えられてきた.しかしながら,COPD患者17名に80% V ˙ O2の自転車運動を施行した研究では,運動中止時の症状を調べると,35%の患者に下肢筋の疲労を,24%に呼吸困難と下肢筋の疲労を認めたと報告している4.このように,COPD患者では骨格筋機能障害により,運動耐性が低下することがあり,身体活動量やQOLの低下をもたらし,さらに生存期間にも関係することが報告されている4

American Thoracic Society(ATS)とEuropean Respiratory Society(ERS)は,この骨格筋機能障害の重要性に注目し,1999年にCOPD患者の骨格筋障害に関するステートメントを共同で発表し2,さらに2014に更新し, COPD患者の四肢筋の評価を奨励している3.その後,COPDの骨格筋機能障害の評価に関するガイドライン1も発表されている.

COPD患者の骨格筋機能障害とその評価

筋萎縮:COPD患者では,筋肉の萎縮が認められる.Bernardらは,COPD患者と健常人の大腿のCT画像から大腿筋肉の断面積を計測し,大腿筋肉の断面積がCOPD患者のほうが健常者より有意に小さいことを報告している5

全身の筋肉量を推定する指標には,body mass index(BMI)や徐脂肪量インデックス(fat free mass index, FFMI)がある.日本では,BMI 18.5未満が低体重と定義され,低体重の患者では筋肉量も低下していると推測されるが,BMIでは体組成の変化まではわからない.FFMIは,BMIより筋肉量をよく推測できる.FFMIの低下のカットオフ値はいくつかあり,Scholsらは,男性<16 kg/m2,女性<15 kg/m2を用いている6

FFMの測定法には生体電気インピーダンス法(BIA)と二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA)がある.BIAは,生体に微弱な交流電気を流し,組織の電気抵抗(インピーダンス)を測定するもので,一定の周波数の交電流を用いる単周波数分析法と低周波数から高周波数までの交電流を用いた多周波数分析法がある7.微弱な交電流を流すと,電流はおもに除脂肪量(FFM)を通り,体脂肪はほとんど電流が通過しないことを用いている.簡便で非侵襲的であることから集団検診によく用いられているが,体内の水分量の異常(浮腫,腹水等)では,単周波数BIAでは正確な測定ができないことが知られている.

DEXAは,2種類の異なるエネルギーの放射線を用いたもので,X線が物質内を通過する際の減衰率を用いている8.体組成を脂肪量(FM),骨組織(bone mineral),非脂肪軟部組織(lean tissue mass)の3つに分類する.最も簡便で客観性を有する筋量のゴールドスタンダードとされ,四肢においてはlean tissue massと骨格筋量がほぼ一致するといわれている.

四肢の筋肉量は,下肢であれば大腿周囲径の測定により推測できる.BIAやDEXAでも四肢のFFMを測定可能である.研究的なものとして,CT,MRI超音波で筋断面積や局所の筋肉量を測定している.

このような筋肉萎縮は,BMIの低下した患者に認められる頻度が高いが,肥満のCOPD患者でも筋萎縮は存在する.オランダのデータでは,BMI 25から30の患者の13.8%にFFMIの低下が認められ,体重はあるのに筋肉量が低下していることを疑わせる(図19

図1

COPD患者における,BMIと徐脂肪インデックス(FFMI)低下の患者の割合.■:低FFMI,□:正常FFMI.文献9)より作図

筋肉の構造の変化:COPD患者では,筋生検で採取された筋肉組織の所見から,筋線維のシフトがおこることが知られている2,3.筋線維は,ATPaseの染色性の違いからI型,IIa型 IIx/II型, IIb型に分類されている.I型筋線維は,好気性代謝の酵素が多く,ミトコンドリアの容量も多く,収縮は遅いが,疲労に強い特徴がある.IIb筋線維は,解糖系の酵素が多く,ミトコンドリアは少なく,収縮のスピードは速いが,疲労しやすい特性をもっている.個々の筋肉はこれらの筋線維が混在しており,その構成比によって,筋持久性が左右される.Goskerらは,COPD患者の大腿四頭筋の筋線維に関する系統レビューから,重症COPD患者では,年齢をマッチさせた健常人に比べ,タイプIの筋線維の減少とタイプIIxの増加が認められたと報告している10.またタイプI筋線維の比率は,気流閉塞が強い患者では減少していることを示した10.このような変化は,三角筋では認められなかったと報告している11

筋肉の構造の変化は,筋生検でのみ評価されており,非侵襲的な手法では評価ができないことから,実臨床の場ではなかなか評価を行うことができない.

筋肉のoxidative capacityの低下:COPD患者では,筋肉のoxidative capacityの低下が報告されている2,3.COPD患者の大腿四頭筋の筋組織の検討から,ミトコンドリアに含まれている3つの酵素,クエン酸シンターゼ,3-ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(HADH),チトクロームオキシダーゼの活性が低下していることが報告されている12. 加えて,phosphofructokinase, LDHといった解糖系の酵素が増加しているとの報告がなされている13.これらの結果は,ATPの産生が酸素を用いる好気性代謝から用いない解糖系へシフトしていることを示唆しており,筋線維がI型からIIxへシフトしていることと一致する.

筋力低下:COPD患者では,筋の萎縮がおこっているため,筋力は低下することが予測される.イギリスおよびオランダのCOPD患者の大腿四頭筋の筋力を調べた研究では,stage 4 の最重症患者の38%に大腿四頭筋力の低下を認めている14が,これは半数以上の患者には筋力低下はないことになる.またstage 1+2 の軽症から中等症の患者でも,26%の患者に筋力低下を認めている14.これらのことから,COPD患者には筋力低下を発症しやすいタイプの人がいると推測されている.大腿四頭筋の筋力低下については多くの報告があるが,上肢筋は比較的筋力が保たれているとする報告が多くみられる5,11

筋力の測定には,随意的な評価と不随意的な評価がある.随意的な評価には患者の協力が不可欠である.随意筋力測定には,徒手筋力テスト,握力に代表されるダイナモメーターを使った等尺性の最大随意筋力,等速性収縮の条件下で発揮されるトルクの測定がある.日常の臨床では,握力やハンドヘルドダイナモメーターによる膝の伸展力の測定が一般的である.不随意筋力は,末梢神経を電気または磁気で刺激するもので,研究的または診断目的で行われる.

持久力:筋持久力は通常,筋の随意収縮が運動系の疲労により減弱するまでの能力と定義される.COPD患者では,下肢筋,特に大腿四頭筋で持久力の検討がされ,患者群では持久力の低下が認められている2,3.持久力の低下は,重症COPD患者だけではなく,軽度から中等度のCOPD患者にも認められる15.またI型筋線維の比率やクエン酸シンターゼの酵素活性が低いと持久力は低下するとの報告もある16.これらの報告から,大腿四頭筋の筋持久力はCOPD患者で低下しているが,身体活動度が保たれている気流制限が軽度の患者の中にも,持久力が低下している患者群が存在するということが示されている.

自転車エルゴメータや歩行後の下肢筋の疲労に関する検討もされている.同じ酸素消費や同じ時間の自転車運動後,大腿四頭筋の疲労の程度を測定すると,COPD患者のほうが疲労度が大きいとの報告がある17が,Shuttle Walkingでは,自転車エルゴメータより大腿四頭筋の疲労は小さいと報告され4,運動方式によっても大腿四頭筋の疲労の程度は異なる.また歩行では,腓腹筋や前脛骨筋といった下腿の筋肉も疲労になりやすいと報告されている18

持久力は,一定負荷による運動の持続回数や持続時間などによって評価する.主に臨床で用いられるものとして,一定負荷に対する持続可能な時間や回数を基準とする量的な評価と,筋の収縮速度を規定し(等尺性~等速性筋収縮)最大努力性の筋力を反復させ,発揮される力または運動量の減衰程度をみる質的な評価があり,ほとんど随意的な検査が用いられている.

高齢者にみられるサルコペニアとの違い

近年,高齢者のサルコペニアが注目されている.サルコペニアとは筋肉量の減少のことを言うが,筋肉量が減少すると,筋力,パフォーマンスの低下が認められることから,近年は,筋量,筋力,運動機能の低下をとらえてサルコペニアとみなすアルゴリズムが提案されている.従って,サルコペニアは筋量の減少に,筋力の低下およびまたは身体機能の低下がみられる状態ということになる19.加齢以外に明らかな原因のないものを加齢性サルコペニア(一次性サルコペニア)という.

加齢によるサルコペニアの骨格筋は,筋断面積の低下,タイプIIの萎縮が優勢で20,COPD患者群にみられるタイプIの萎縮とは異なる.タイプII,すなわち速筋の萎縮がみられるため,瞬発力が低下していく.下肢筋の筋力低下が上肢筋より強いと報告されている.

また,不活動や様々な疾患や栄養状態も筋量低下をひきおこすため,これらは二次性サルコペニアと定義されている.

タバコと骨格筋機能障害21

喫煙は,COPD発症の最も重要な危険因子である.喫煙者では,大腿四頭筋の筋線維の萎縮が認められるという報告がいくつかあるが,筋力に関しては,低下しているとする報告と変わりないとする報告がある.これらの研究から喫煙そのものが骨格筋の萎縮を引き起こすが,筋力発生に対する影響はあまり大きくないと考えられている.この骨格筋の変化は,COPDの症状が始まる前に認められている.

タバコの煙には多くの有害物質が含まれている.その煙の成分や炎症メディエーターにより,筋タンパク質の分解が促進され,蛋白質の合成が阻害され,筋肉量が減少する.またタバコ煙に含まれる一酸化炭素により酸素運搬量が低下し,ATP産生の低下をもたらす.また,フリーラジカルや活性酸素による酸化ストレスも増加すると考えられている.

このように,タバコ煙への暴露は,明らかなCOPD発症前に骨格筋異常の発現に寄与していることが示唆されている.禁煙により,この筋肉の異常は回復するという報告もあるが,それを確かめるコホート研究が必要である.

運動中の筋肉代謝の非侵襲的測定

筋肉の代謝の変化をみるには,筋生検で得られた組織を用いて高エネルギーリン酸化合物の濃度や酵素活性を測定する方法があるが,侵襲を伴う.研究的に,筋肉組織内の高エネルギーリン酸化合物(ATP,クレアチンリン酸(PCr))や無機リン酸(Pi)を非侵襲的に測定する手法に 31P核磁気共鳴スペクトロスコピー(31P-MRS)がある2231P-MRSは,筋肉内に含まれているリンを検出するので,ATPの3つのリンのピーク,PCrのピーク,Piのピークが認められる(図2).このピークの面積が物質の量を示すが,生体内の物質の測定は絶対量を知るためのリファレンスをおくことが難しいため,各物質の量の比を比較することになる.またPiとPCrの化学シフトの差から筋肉内のpHが計算できる.

図2

運動終了時の31P-核磁気共鳴スペクトル:3分間の反復掌握運動を健常人とCOPD患者に施行.A:健常人,B:COPD患者.

我々は,健常人とCOPD患者に反復ハンドグリップを施行させ,運動中の前腕屈筋群のATP,PCrおよびpHの変化を測定してきた22.患者の運動終了時の31P-MRスペクトルは,健常人に比べて,PCrが低下していることが示され,またPiのピークが-PCrのほうに近づき,筋肉pHが低下していることがわかる.このことは,COPD患者では,運動により,嫌気的解糖がすすみやすく,乳酸の蓄積によりpHが低下したと考えられた.

筋肉の酸素化状態の測定から筋肉代謝を推測する方法には,近赤外分光法(NIRS)がある23.近赤外光とは波長 700-900 nmの光で,生体内のヘモグロビン(Hb)・ミオグロビン(Mb)に吸収される.近赤外光はおもに毛細血管内のHbに吸収されるので,組織の酸素化状態をみることができる.筋肉組織の酸素化Hb/Mb,脱酸素化Hb/Mbの変化から,酸素の供給と消費のバランスが推測できる.また酸素化Hb/Mbと脱酸素化Hb/Mbの和(総Hb/Mb)は,組織の血液量を示すことから,運動中の血液量の変化をみることができる.ただし,現在の方法ではHbとMbを区別することはできない.

また,光は生体に照射されると,生体は散乱体なので,光は直進せず,散乱しながら進む.従って,光が通ってきた距離(光路長)が長くなる.しかしながら,光路長が決定できないため,絶対濃度は測定できず,相対濃度またはある時点からの相対濃度の変化を測定している.受光を2点でするSRS法では,組織の酸素飽和度の測定が可能である.

図3に健常人の歩行中の腓腹筋のNIRSを示す24.歩行開始直後に総Hb/Mb,酸素化Hb/Mb(相対濃度の変化)が筋ポンプ作用により低下し,その後徐々に回復している.COPD患者では,運動終了後の酸素化Hb/Mbの回復が遅いとの報告25などがあるが,臨床的な評価に用いるにはまだ研究が必要である.

図3

6分間歩行中の腓腹筋酸素化状態(健常高齢者).:総ヘモグロビン/ミオグロビン(Hb/Mb),:酸素化Hb/Mb,:脱酸素化Hb/Mb,MG:腓腹筋.文献25)より改変

まとめ

COPD患者では,筋萎縮,筋線維のタイプのシフトといった形態の変化と代謝の変化が認められ,筋力低下・持久力低下をもたらす.筋肉量の評価は,BIAやDEXAでFFMIを測定する.局所の筋肉量は,画像診断が有用であるが,まだ研究的である.筋力は,握力,膝伸展力などで評価する.研究的ではあるが,31P-MRSやNIRSは筋肉のエネルギー代謝や酸素化状態を評価可能である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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