2019 年 28 巻 1 号 p. 72-78
呼吸管理において重要なことは,酸素化と換気量の改善である.酸素化の指標としてのSpO2モニターは広く使用されているが,換気量を反映するPaCO2についてのモニタリングは十分に行えないことが多い.しかし,2016年より経皮的動脈血二酸化炭素分圧(PtcCO2)測定が保険適応となり,臨床現場での期待も高まっている.我々はこれまでPtcCO2装置(TOSCA®)の精度について基礎的な検討や急性および慢性呼吸不全の呼吸管理における有用性を報告してきた.
2017年2月にはTOSCA 500®の後継最新機器であるTCM 5が国内で発売開始された.TCM 5は,基本構造は従来機のシステムを踏襲しながら,視認性,操作性,簡便性が改善されている.今回はTCM 5の精度検討や使用感についての調査結果も報告する.精度検討については,TCM 5を装着した上で動脈血採取を行いPtcCO2とPaCO2を比較した.PtcCO2とPaCO2は良好な正の相関を示し,相関係数はR2=0.93であった.また使用感については,本装置を使用した看護師にアンケート調査を行った.その結果,TOSCA 500®と比較して,大きさ,重さ,画面の見やすさ,スイッチを入れて使用できるまでの時間,数値の確認において,TCM 5の方が優位であった.本装置の精度は臨床使用において問題なく,操作性については従来機より軽量かつタッチパネルが採用されており優れていることが示唆された.当科での臨床使用経験を併せて,経皮的CO2モニタリング装置について概説したい.
本稿では,経皮CO2モニターのしくみ,経皮CO2モニターの精度の基礎的検証,臨床使用経験(喘息発作,肺結核後遺症,COPD),高流量酸素投与時のモニタリング,新規機器(TCM 5)の紹介,使用上の留意点について概説する.
今回紹介する,「経皮的動脈血二酸化炭素分圧測定装置」(TOSCA 500®とTCM)は,皮膚にセンサーを装着することで,経皮的にPaCO2を測定できる機器である.この機器の利点は,
・医師がいなくても,PaCO2が測定できること.
・12時間にわたり連続的に測定し,リアルタイムにモニタリングできること.
・針を刺したりしないため,患者への負担が少ないこと.
・センサーが外れても,患者への害はなく安全であること.
などが,挙げられる.
特に人手の少ない一般病棟や医師が不在の場合でも,動脈血ガス採取を行えなくても,安全にかつリアルタイムに呼吸状態の評価ができる.
まず,耳たぶに装着したセンサーによって皮膚を42°Cに温める(迅速に使用できるように一時的に44°Cまで上昇する).その結果,皮下の毛細血管が拡張し,そこに動脈血が直接流れ込むことで毛細血管が動脈血化する.流れ込んだ動脈血から二酸化炭素が皮膚表面に拡散し,そのガス分圧をセンサーを通じて測定している(図1)1).加温は42°Cのため,12時間までの連続装着においては低温熱傷の危険はほとんどない.
PtcCO2センサー
被検者のPaCO2をゆっくりと変化させた場合と,急速に変化した場合に,TOSCAで経皮的に測定したPtcCO2に正確に反映されるかどうかを検証した2)3).被験者のPaCO2を任意にコントロールできる機器(DUOGRAPH)を用いて被検者のPaCO2をゆっくりと変化させた場合(実験1)(図2a)に,PtcCO2は正確に反応した.また個人内でのPtcCO2とPaCO2比較では良好な相関を認めた(r=0.96-0.99)(図2b).また,PtcCO2とPaCO2回帰グラフの傾きはほぼ1に近似していた(0.938-1.544).PaCO2を急速に変化させた場合(実験2)(図3a)のPtcCO2は平均95秒程度で追いついていた(図3b).実験2で得られたPtcCO2を,実験1から得た補正式で補正した値はPaCO2の変化を良好に反映した.センサーの装着部位は,左右の耳朶ではほとんど左右差は認めず,前脛骨への装着と比較して胸壁への装着の方が耳朶との相関関係が良好であった.これらの結果から,TOSCAは臨床現場において問題なく使用できると判断した.
実験1(安定条件での比較)
PETCO2: end-tidal partial pressure of CO2(呼気終末炭酸ガス分圧)
PETO2: end-tidal partial pressure of O2(呼気終末酸素分圧)
実験2(急性に変化させた時)
PETCO2: end-tidal partial pressure of CO2(呼気終末炭酸ガス分圧)
PETO2: end-tidal partial pressure of O2(呼気終末酸素分圧)
各種呼吸器疾患(気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患(COPD),肺結核後遺症など)の急性期や慢性期呼吸管理の実際について紹介する.
症例1:喘息重積発作における急性期NPPVの使用4)(図4)
喘息重責発作での急性期NPPV使用
30歳代 男性.
前日夕から発作があり,翌日当科へ紹介された.受診時には意識はやや傾眠傾向,発汗著明,脈拍118/分整,聴診上全肺野に笛声音を聴取した.顔貌は苦悶様.動脈血ガス分析(室内気)ではpH 7.32,PaCO2 51.7 Torr,PaO2 44.5 Torrと呼吸性アシドーシスを呈し,薬物治療の開始後も意識レベルが低下していたためNPPV(BiPAP Synchrony®)を装着した.鼻マスク,Sモード,IPAP 12 cmH2O,EPAP 8 cmH2O,O2 10 Lで開始し,呼吸困難,動脈血ガス分析も改善したため挿管人工呼吸器は必要とせず約4時間で離脱.再増悪は認めなかった.
肺結核後遺症患者における急性期NPPV導入
60歳代 女性.
II型慢性呼吸不全を呈する肺結核後遺症の症例であったが,NPPVは導入せずに経過観察していた.しかし増悪をきたしII型呼吸不全の進行を認め,急性期にNPPVを導入した症例.pHは血液ガス分析が必要であったが,PaCO2はTOSCAでモニタリング可能であった.
COPD増悪
69歳代 男性.
慢性II型呼吸不全を呈するCOPDで通院中であったが,喘鳴,呼吸困難で当科を受診.低酸素血症と高炭酸ガス血症を認めた.臨床経過,検査・画像所見よりCOPD増悪と判断した.受診時にPaCO2 87 Torr(PtcCO2 92 Torr)であり換気補助が必要と判断しNPPVを開始し,ステロイドホルモン,気管支拡張薬および抗菌薬投与,呼吸理学療法による排痰も併用し,徐々に高炭酸ガス血症は改善した.図に示すように,PaCO2とPtcCO2の乖離はほとんど認めず,経時的にPtcCO2をモニターすることで厳重に呼吸状態を管理することができた.
症例4:COPDに対する慢性期NPPVの調整(図7)
COPD患者の慢性期NPPV調節
60歳代 女性.
慢性II型呼吸全を呈するCOPD患者に対して在宅でのNPPV療法と酸素療法を行っていたが,頭痛,意識の軽度混濁,倦怠感にて当科を受診.受診時にはPaCO2 96 Torrと悪化していた.NPPVのデータ解析からも1回換気量の平均値が 270 ml程度に低下していた.病態より換気量不足と判断し,IPAPの設定を上昇させたがTOSCAでのPtcCO2の値は低下していなかった.そこで吸気トリガーの感度を高めることのできる機種(BiPAP A40)へ変更し,吸気トリガーをAuto TrakからAuto Trak sensitiveへ変更したところ,PtcCO2は 80 Torrから 70 Torrへ低下した.その後さらにPtcCO2が低下したため,IPAPを 14 cmH2Oへ戻した.1回換気量の平均値は,374 mlへ増加していた.
本症例では,TOSCAによる換気量のモニタリングとNPPVのデータ解析を組み合わせることで,問題点の把握と解決へ導くことができた.
症例5:high-flow nasal cannula(HFNC)(高流量鼻カニュラ)での呼吸管理(図8)
TOSCAでPtcCO2が上昇しないかモニターした
70歳代 男性.
以前より気管支拡張症,慢性呼吸不全でHOTを施行中であった.喘鳴,湿性咳嗽,呼吸困難のため,安静時酸素を指示以上の 2 L/minで吸入していた.その後,傾眠,頭痛の悪化にて入院した.CO2ナルコーシスではあったが,喀痰が多くNPPVの適応とはならずHFNC(Optiflow®)を使用.薬物治療も開始した.入院時PaCO2 69.1 Torrであったが,退院時にはPaCO2 43.3 Torrまで改善し,これまでの酸素流量の指示で退院した.
慢性呼吸不全患者に対してHFNCの使用が行われつつあるが,PaCO2が上昇する懸念があり,呼吸状態が悪化した際には,速やかに換気補助療法へ移行する必要がある.リアルタイムにPtcCO2がモニタリングできるTOSCAによって慎重に経過を観察することが必要である.
2017年4月にTOSCA 500の後継機であるTCM 5が承認され,その精度検討と使用感についての調査を行った.
方法:精度検討については,当科通院中の慢性呼吸不全患者で血液ガス分析を必要とした患者に対して,書面で同意を得た上で動脈血採取とTCM 5の装着を行った.臥位で安静15分後に動脈血を採取した時点でのPtcCO2とPaCO2を比較し,その相関を検討した.使用感調査については,本装置を使用した病棟および外来看護師にアンケート調査を行った.
結果:症例は16例,平均73歳,COPD 8 例,間質性肺炎5例,肺結核後遺症2例,肥満低換気1例.HOT導入例は14例,安定期15例であった.PtcCO2は 37 Torrから 67 Torrまで分布しPaCO2と良好な正の相関を示した.相関係数はR2=0.93であった(図9a).使用感調査では,大きさ,重さ,画面の見やすさ,スイッチを入れて使用できるまでの時間,数値の確認においてTCM 5の方が優位であった.プローベの収納方法については従来機と同等であった(図9b).自由記載においてはTCM 5を支持する回答がほとんどであった.具体的には,チュートリアル表示画面に対しては,「紙のマニュアルを見なくてよいのでわかりやすい.」
TCM 5の精度検討
「見やすい.」「シンプルでとても分かりやすい.」,病棟使用中トレンド波形表示の必要性については,「常に表示されていなくても良いが,ないよりある方が良い.」「いつ下がったかわかりやすいため必要.」「必要,経過がわかるのであった方が良い.」「数値ごとに色分けされてあるので見やすかった.」との意見の以外に,「他のモニターもつけているので,波形までは必要ない.」「不要」との意見もあった.TCM 5では画面が拡大したことによる視認性の改善,タッチパネルによる操作性向上,チュートリアル機能による使用マニュアル標示などの多くの利点が評価された.また機器が小型化したことで病室を有効利用でき,ベッドサイドでのリハビリテーション時のモニタリングに有用であることが示唆された.
結論:TCM 5で測定したPtcCO2はPaCO2と良好に相関し,臨床使用において問題ないと思われた.従来機より軽量かつタッチパネルでの操作性向上など優れていることが示唆された.
光の干渉(low signal IQ):コンタクトジェルの不足,クリップが密着していないことによる.
還流不足(low perfusion index):末梢の環流が不良で,うっ血傾向や長時間同じ場所にセンサーを装着している際などに表示される.
メンブレンの管理:定期的交換とメンブレン内の電解液添加を遵守していない場合に表示される.またセンサーにコンタクトジェルやゴミが付着したままキャリブレーションボックス内へ収納した場合などに表示される.
呼吸状態や換気療法のモニタリングについて表に示す(表1).動脈血二酸化炭素分圧を測定する際には,動脈ラインを挿入し一定時間ごとに動脈血ガス分析を行うことが標準的な方法である.しかし,煩雑な取り扱いや自己抜去の危険性を考慮すると,手術室やICUなどの厳重な管理が可能な状態では施行できるが,一般病棟では施行は困難である.さらに,動脈血ガス分析は,一定時間ごとの評価のみ可能であり,リアルタイムで経時的な評価は不能である.また呼気CO2を用いる方法では,肺が正常であることと,不均等換気がないことが前提条件であるし,気管内挿管が必要であるため,慢性呼吸器疾患の場合には不適切である.本稿で触れた経皮的CO2モニターであるTOSCAやTCM 5は,個人ごとにPaCO2とPtcCO2の補正が必要であるものの,12時間にわたる連続的なモニタリングが可能である.また非侵襲的な方法であるため,患者や取り扱う医療従事者に対しても負担の少ない方法であると言える.マンパワーが十分ではない病棟においても,特に夜間の呼吸状態を的確に評価することが可能であり,本装置の有用性が期待されている.特に軽量,コンパクト化され,パネル表示も改良されたTCM 5は,病棟での使用はもとより,これまで十分にアプローチができなかった在宅での夜間の呼吸状態の把握に有用であり,より適切な治療につながると思われる.
![]() |
呼吸不全の評価においては,SpO2とPaCO2の両方を評価することが必要であり,特にII型呼吸不全では,人工呼吸器や補助換気療法を導入する判断を迫られる.ケアする医療者がいち早くその状態に気がつき,適切な処置へつなげていくという観点から,TOSCAやTCM 5によるモニタリングは,医療者および患者の両者にとっての負担が少ない一方で,連続的に呼吸状態を正確に把握できることから,特にマンパワーが十分ではない一般病棟や夜間において医療者の力強い味方になる.さらに在宅での有用性についても期待が持てる.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.