2019 年 28 巻 2 号 p. 186-189
COPDによる死亡が増加しているが,我が国での特徴としてCOPDによる死亡者は80歳以上の高齢者が多い.つまり息切れなどの症状を抱えて長生きをしている可能性がある.健康寿命延伸という観点からも,COPD患者に対しては薬物療法のみならず,呼吸リハビリテーションを含む包括的介入を行うことが重要であるが,本セミナーでは介入の基軸である薬物療法について解説したい.最新のガイドラインでは治療の中心は長時間作用型気管支拡張薬である.増悪予防においても,吸入ステロイドのポジションは限定的になり,抗コリン薬とβ刺激薬の併用が主体になりつつある.短時間作用型気管支拡張薬のアシストユースや喘息様症状を持つCOPD患者への対応も併せて紹介する.本学会員が中心となって最新の知見を臨床現場へ反映させていくことを目指していきたい.
死因に占めるCOPDの割合は上昇しており,WHOの報告によると2015年は第4位,2020年には第3位になると推測されている1,2).本邦でもCOPDによる死亡が増加しているが,我が国での特徴としてCOPDによる死亡者に占める80歳以上の割合が2/3以上を占めていることが挙げられる3).これはCOPDに罹患しながら,息切れなどの症状を抱えて長生きをしていることを示しているかもしれない.政府が推進する健康寿命延伸という観点からも,COPD患者に対しては薬物療法のみならず,呼吸リハビリテーションを含む包括的介入を行い,症状コントロールや身体活動性の向上と維持を積極的に行うことが求められる.当学会員が果たす役割は,まさにこの点にある.つまり我々は実臨床において,治療目標を患者に提示しながら包括的な介入を行うことが重要と考えられる.
日本呼吸器学会が示すCOPDの診断と治療のためのガイドライン第5版(以下COPDガイドラン)においてCOPDは「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生じた肺疾患であり,呼吸機能検査で気流閉塞を示す.気流閉塞は末梢気道病変と気腫病変がさまざまな割合で複合的に作用することにより起こる.臨床的には徐々に生じる労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰を特徴とするが,これらの症状に乏しいこともある.」と定義されている4).COPDでは,気流閉塞により肺過膨張が起こり,労作時呼吸困難,運動耐容能低下や活動性の低下が引き起こされ,QOL低下をきたす.そのため気管支拡張薬により狭窄した気道を拡張することが治療の基本である.特に末梢気道を拡張することが重要と考えられる.
COPDガイドラインによると第一選択薬としては,長時間作用型抗コリン薬(long acting muscarinic antagonist: LAMA)および長時間作用型β刺激薬(long acting beta stimulant: LABA)が挙げられている.それぞれの薬剤の特徴は図に示す(表1).3次元気道解析ソフトを用いたCT解析で,吸入薬による気管支拡張効果は,LAMA5),ICS/LABA6)ともにその効果を認めたが,LAMAであるtiotropiumは中枢測よりも末梢側において,より気管支拡張効果が強いことが示された.tiotropiumは4年間にわたる呼吸機能改善効果7)や,LABAと比較した際の増悪抑制効果に優れており8),単剤としての治療第一選択としては現時点ではLAMAが優先される.
【LAMA】 |
・持続した呼吸機能改善(FEV1上昇や肺容量減少)効果により,COPD患者の症状やQOLを改善し,運動耐容能を向上させる(エビデンスA). |
・チオトロピウムやグリコピロニウムはCOPD増悪回数や増悪による入院頻度を減少させる(エビデンスA). |
・チオトロピウムは疾患進行(FEV1の経年低下)を中等度の患者で抑制し,死亡率を低下させる可能性も示唆される(エビデンスB). |
・抗コリン薬は,体内への吸収が低く,常用量であれば全身性の副作用はほとんどない. |
・禁忌は閉塞性緑内障の患者と前立腺肥大症患者(排尿障害のある場合) |
(開放性緑内障では問題ない.排尿困難症がみられた場合でも使用を中止すれば改善する.) |
【LABA】 |
・LABAは気道平滑筋を拡張させ,閉塞性障害や肺過膨張の改善,呼吸困難の軽減,QOLの改善,増悪の予防(エビデンスA),運動耐容能の改善,身体活動性の改善(エビデンスB)などの効果を示す. |
・副作用として,頻脈,手指の振戦,動脈血酸素分圧の軽度低下などがあるが,常用量であれば問題ない. |
COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第5版:第III章 治療と管理 C.安定期の管理
治療効果に乏しい際は,異なるクラスの薬剤を追加することが推奨されている.最近はLAMAとLABA両薬剤が配合された配合薬が上市されており,それぞれの配合薬について,呼吸機能改善,増悪抑制,息切れなどの症状抑制,運動耐容能改善などについての統合的な試験が行われ,多くの知見が得られている.現在臨床で使用できる3薬剤(tiotropimu/olodaterol,glycopironium/indacaterol,umeclidinium/vilanterol)は配合される薬剤の違いのほかに,デバイスが異なっておりこの点を考慮した薬剤選択も必要である.患者や介護者の状況に配慮し,きめ細やかな吸入支援が求められる.
医療介入および診療を継続いていく中で,臨床上で重要なポイントは「息切れや症状の改善」と「増悪予防」であると考える.これらの管理目標が達成されることで,疾患の進行抑制や予後改善が得られると期待されるからである.
息切れや症状の改善については,3つの配合薬ともに効果が得られており,最大吸気量(inspiratory capacity: IC)や残気量の改善がそれらの効果を裏付けている9,10,11).これらの指標の改善により症状緩和が得られ,身体活動性向上や維持が期待される.また,労作を行う前(つまり息切れを感じる前)に短時間型気管支拡張薬を吸入することで,運動時もしくは入浴時など日常生活の呼吸困難予防に有用である.その際,気管支拡張効果は短時間型抗コリン薬が優れているが,効果発現が速やかである点からは短時間型β刺激薬が有用とされている12).
増悪予防については,glycopyrronium/indacaterolで証明されている13)が,特に多くの患者で認められる軽症の増悪を抑制していることに注目したい.増悪は患者から医療者(特に医師)へ報告されないことも多く14),これら報告されない増悪が抑制されることに利点があると思われる.また従来は増悪予防に吸入ステロイドが重視されてきたが,増悪予防に対するLAMA/LABAであるglycopyrronium/indacaterolとICS/LABAであるsalmeterol/fluticasoneの直接比較試験において,LAMA/LABAが優れていたこと15)や,ICS(fluticasone),LAMA(tiotropiumu),LABA(salmeterol)の併用からICS(fluticasone)を中止した際の増悪頻度に変化はなかったこと16)からICSの増悪予防における位置づけは限定的になってきている.本研究のサブ解析の結果から末梢血好酸球が400個/μl以上の症例ではICSが増悪抑制の効果が示唆されている17).
また2017年には世界的なCOPD診断,治療に対する文書であるGOLDが改訂された18).治療に関する主な改訂点としては,呼吸機能低下の程度は引き続き重視されるものの,治療選択とは独立した.治療選択は横軸にCATやmMRCで評価した症状の程度,縦軸に増悪頻度を設定し,それぞれの程度の組み合わせにより4つのグループ分けに分類されている.グループAでは何らかの気管支拡張薬を用い,その効果判定を行い,薬剤継続,中止または他のクラスの薬剤への変更などを考慮するとされている.最近の報告ではGOLD stage 1 もしくは2の患者群でのtiotropiumの1秒量の経年低下における有効性が示唆されている19).グループBでは,LAMAもしくはLABA単剤から治療を開始し,症状が残存する際に速やかにLAMA+LABAへの変更が推奨されている.これは,症状,呼吸機能ともに単剤よりも配合薬が優れるとの報告に基づいており,効果が不十分な場合には早めのstep upを考慮すべきであるとしている.増悪が多いグループC,Dにおいては,従来はICS/LABAが第一選択であったが前述の臨床研究の結果を踏まえLAMA+LABAが治療の中心とされている.症例によってはICS併用も選択できる.またグループDではICSの中止やLAMA+LABAからICS/LABAへの変更,PDE4阻害薬やマクロライドの記載もある.しかしこれらの推奨については,必ずしもエビデンスが確立しておらず今後の臨床試験の結果や実地臨床での検証が求められる.GOLDは絶対的なものではなく本邦の医療事情やコンセンサスに従って運用していくことが重要である.
喘息合併の典型的な症例(Asthma COPD overlap: ACO)においては,ICSを併用することに異論はないが,喘息合併はないにもかかわらず,喘息の要素を併せ持つCOPD症例も存在する.北海道COPDコホート研究では,呼吸器専門医により喘息合併が否定されたCOPD症例において,呼吸機能の気道可逆性,末梢血好酸球増多,血清IgE陽性もしくは特異抗原に対するアレルギー反応陽性のいずれか2つ以上をもつ症例をAsthma-like featuresのあるCOPD症例と定義し,増悪頻度や10年生存率を解析した20).その結果,Asthma-like featuresを2つ以上持つCOPD症例は,1つ以下の群と比較して,増悪頻度には差はなくむしろ10年生存率は良好であった.このような症例についは,ICSの適応があるかもしれない.喘息の合併をどのような定義で,もしくはどのような範囲でとらえるかによりICSの適応は変化しうる.臨床現場ではICSの使用の適否はある程度柔軟に検討しても良いかもしれない.
COPD患者の自然経過や治療反応性は様々であることが知られてきている.さらに患者ごとに様々な側面があり,特に治療することのできる患者の特性(treatable traits)を意識しながら薬物治療を行う必要がある.
本稿では,COPDの薬物療法について概説したが,薬物療法は非薬物療法と併せた包括的治療介入へつなげていくことで,より高い効果が期待できるため,本学会員が中心となって最新の知見を臨床現場へ反映させていくことを目指していきたい.
福家聡;講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム,アストラゼネカ)