日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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間質性肺炎の診断と治療
杉野 圭史
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2019 年 28 巻 2 号 p. 190-195

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要旨

間質性肺炎が疑われた場合は,予後の面および治療内容を決定する上でも特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis; IPF)とそれ以外の間質性肺炎を鑑別することが重要なポイントである.現在,IPFに対しては抗線維化薬であるニンテダニブおよびピルフェニドンが推奨されている.一方,非特異的間質性肺炎,膠原病肺,薬剤性肺炎,過敏性肺炎などでは,ステロイド単独投与や免疫抑制薬との併用療法が一定の効果を示すことが知られている.加えて,急性増悪時のステロイド治療に加えてトロンボモジュリンや抗線維化薬の併用,肺高血圧合併例に対するホスホジエステラーゼ5型阻害薬,エンドセリン受容体拮抗薬などの導入,閉塞性換気障害を有する気腫合併肺線維症患者に対する吸入長時間作動型抗コリン薬・β刺激薬の導入,慢性安定期の患者においては,リハビリテーション導入を考慮する.間質性肺炎患者では,労作時の呼吸困難による身体機能低下がdeconditioningをもたらし,運動耐容能の減少,QOLの低下,不安やうつ状態に繋がると考えられる.これら運動耐容能の減少,QOLの低下,不安やうつ状態に対して,呼吸リハビリテーション(特に運動療法)は改善効果が期待できる.

本稿では,間質性肺炎の診断と治療について,自験例を交えながら概説する.

間質性肺炎とは?

肺は空気の通り道である気道とガス交換(血液に酸素を取り込む一方で,二酸化炭素を放出する)を行う肺胞から成っていて,肺胞の中を実質,肺胞の壁を間質と呼んでいる.間質性肺炎は,さまざまな原因から肺の間質が厚く硬くなり(線維化),ガス交換がうまくできなくなる病気である(図1).間質性肺炎は100を超える原因があるといわれているが1,その危険因子として,加齢と喫煙,遺伝的素因が挙げられる.その他,原因が明らかなものとして,関節に炎症が生じて変形が起こる関節リウマチや特徴的な皮膚症状と筋肉痛を主症状とする多発筋炎・皮膚筋炎などの膠原病,抗癌薬,漢方薬,消炎鎮痛薬などのアレルギー反応による薬剤性,ほこりやカビ・鳥の分泌物・羽毛などを慢性的に吸入することによりアレルギー反応が生じ引き起こされる慢性過敏性肺炎,職業上,アスベストなどの粉塵を吸入することにより生じるじん肺,放射線照射やサルコイドーシスといった肉芽腫性疾患でも見られる.一方,原因を特定できない間質性肺炎は「特発性間質性肺炎」と呼ばれており,現在,6つの主要な特発性間質性肺炎,2つの稀な特発性間質性肺炎,分類不能の特発性間質性肺炎の9型に分類され,特発性間質性肺炎のうち,患者の約半数は「特発性肺線維症idiopathic pulmonary fibrosis; IPF」と診断される2

図1

健常人と間質性肺炎患者のガス交換の比較

間質性肺炎を疑うポイント

初診時の詳細な問診(図2)に加えて,聴診上,特に背下部に吸気終末時の捻髪音(fine crackles)を聴取することが大変有用である.また,ばち指(図3)の存在は,数年にわたり肺の線維化が進行していることを示唆する所見で,25~50%前後に認められる3.その他全身症状として,体重減少,倦怠感,易疲労感を訴えることがある.発熱や皮膚・関節症状を認める場合は,感染症の合併,急性増悪ならびに膠原病に伴う間質性肺炎を疑う必要がある.

図2

間質性肺炎が疑われた際に施行する問診票

図3

特発性肺線維症患者におけるばち指

胸部画像検査上,両肺びまん性に間質性陰影(胸部X線は,胸部CTに比べて病変の分布,肺容積減少などの経時的変化を的確に捉えることができるため,X線,CTの両方を施行するべきである),呼吸機能検査上,拘束性換気障害および拡散能低下,労作時酸素分圧低下(酸素飽和度低下)などが挙げられる.検査の中でも胸部高分解能CT(high resolution computed tomography; HRCT)は,わずかな早期間質性肺病変も捉えることができ,さらに肺全体の病変分布を把握することができるため,間質性肺炎の診断上必須の検査である(図4).

図4

外科的肺生検で診断された軽症早期の特発性肺線維症

A:両側下葉胸膜下優位に網状病変と軽度のすりガラス陰影を認める(胸部CT冠状断).

B:胸膜下,小葉辺縁優位の肺胞虚脱を伴った線維化を認める(EVG染色,1 scale=2 mm).

C:蜂巣肺内腔にはPAS染色で青色に染まる繊維芽細胞巣が散見される(PAS染色,1 scale=200 μm)

専門外来へ紹介するタイミング

間質性肺炎が疑われた場合は,まずその中でも治療抵抗性で予後不良であるIPFを鑑別することが重要となる.また,最終診断の精度を高めるには,間質性肺炎の診断に精通した臨床医,放射線画像診断医,病理医による集学的検討(multidisciplinary discussion; MDD)が重要とされている点や,一部の間質性肺炎は,特発性(原因不明),二次性(何らかの原因がある)を問わず,進行性あるいは急速に悪化し致死的な状況に至るため,上記のような自・他覚所見,検査所見が認められた際は,できるだけ速やかに専門医に相談,紹介するべきである.しかしながら,そのような専門性の高い病院・施設および医師は,大都市部に集中しているため,地方医療においては,より専門性の高い診療提供は困難な場合が多く,開業医や総合病院の専門外の医師が間質性肺炎診療を行う現状があり,解決案を検討していくべきである.

間質性肺炎の診断と治療

先にも触れたように,間質性肺炎が疑われた場合は,予後の面および治療内容を決定する上でもIPFとそれ以外の間質性肺炎を鑑別することが重要なポイントである.本邦の診断手順(図54を参考に検査を行うことにより,早期診断,早期治療につながる.その際にMDDが重要とされている.さらに,2018年に発表されたIPF診断の国際新ガイドライン5では,胸部HRCT画像パターンによってUIP(典型的なUIP),Probable UIP(UIPの可能性が高い),Indeterminate for UIP(UIPと断定できない),Alternative Diagnosis(他疾患が考えられる)の4つに区分され,病理組織学的所見との組み合わせによる診断法が示されている(図6).今回のガイドラインではUIPパターンを有する患者に加え,UIPパターン以外の患者でも外科的肺生検(胸腔鏡下肺生検)が施行できない場合は,気管支肺胞洗浄所見とMDDによりIPFと診断することが可能とされている.

図5

間質性肺疾患の診断アルゴリズム

日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 改訂第3版.南江堂 東京,2016より引用改変.

図6

IPF診断における胸部HRCTパターン

IPF以外の間質性肺炎では,原因からの回避,禁煙,ステロイドおよび免疫抑制薬が治療法となる場合が多い.一方,IPF患者では現在,ステロイド,免疫抑制薬は推奨されておらず,抗線維化薬であるニンテダニブ(オフェブ®),ピルフェニドン(ピレスパ®)が第一選択薬である6

明らかな自覚症状もなく無治療の安定期のIPF患者では無治療経過観察とする場合が多いが,6ヶ月毎の重症度評価,効果判定を行うべきである.本邦におけるIPFの重症度分類では,安静時の動脈血酸素分圧値と歩行時のdesaturationの有無により重症度I度からIV度までに分類されている7表1).現状では,6分間歩行試験でdesaturationの有無を問わずPaO2 80 Torr以上では重症度I度であるが,その有無による予後の違いが指摘されており,今後,PaO2 80 Torr以上でdesaturationを伴う症例は重症度IIとする改定案も検討されている8.6ヶ月間の経過観察中に5~10%以上のFVC量の低下を認めた場合は,積極的な治療介入を要する.重症度I度およびII度の軽症例においては原則的に無治療経過観察(場合によってはNアセチルシステイン(N-acetylcysteine; NAC)単独吸入療法として,baselineから6ヶ月間の経過観察中に5~10%以上のFVC量の低下を認めた場合は,NAC単独吸入療法や抗線維化薬(ニンテダニブ,ピルフェニドン)を検討する.一方,重症度III度およびIV度の進行症例においては,ニンテダニブあるいはピルフェニドン単剤投与を開始する.さらに病勢進行を示す症例では,抗線維化薬の変更あるいは併用を検討する.本邦では,IPFの難病医療費助成制度により認定基準を満たせば,高価な抗線維化薬を使用する際も高額医療費の軽減が可能となる.一方,非薬物療法として,酸素療法,呼吸リハビリテーションも適応患者には導入するべきである.また,経過中に肺高血圧症,原発性肺癌,急性増悪等を合併することが多く注意が必要であり,適切な治療管理が求められる.

表1 IPFの重症度分類
重症度分類安静時動脈血ガス6分間歩行時 SpO2
I80 Torr 以上
II70 Torr 以上 80 Torr 未満90% 未満の場合はIIIにする
III60 Torr 以上 70 Torr 未満90% 未満の場合はIVにする
IV60 Torr 未満測定不要

急性増悪

IPFの経過中に両肺に新たな浸潤陰影,すりガラス陰影が出現し,著明な低酸素血症をきたすことがあり,その原因が不明な場合は急性増悪(acute exacerbation; AE)と定義される9.死亡率は約50%と極めて予後不良であり4,IPFの死因の40%を占める10

現時点までIPFのAEに明らかな有効性が示された薬物療法はない.一方で,近年本邦よりPMX-DHP療法11,トロンボモジュリン12,13,ピルフェニドン14が有効であったと報告されたが,いずれも後ろ向きかつ複数の薬物療法との併用下での検討であり,今後は前向き検討の必要性はあるものの,期待できる治療法の一つと考えられる.

呼吸リハビリテーションの適応

間質性肺炎では,労作時の呼吸困難による身体機能低下がdeconditioningをもたらし,運動耐容能の減少,QOLの低下,不安やうつ状態に繋がると考えられる.これら運動耐容能の減少,QOLの低下,不安やうつ状態に対して,呼吸リハビリテーション(特に運動療法)は改善効果が期待できる.すでに間質性肺炎における呼吸リハビリテーションの有用性に関しては,2014年に5つの無作為比較試験を対象としたコクランレビューによって,運動耐容能の改善(6MWDの延長)において中等度,呼吸困難感およびQOLの改善において弱いながらも推奨されている15.間質性肺炎(特にIPF)に対して呼吸リハビリテーションを行うに当たり,豊富な経験と知識を有するリハビリテーション科医師および理学療法士・作業療法士との協力が必要不可欠である.また,運動時に著明な低酸素血症を呈することが多く,酸素投与や酸素流量の増加を常に考慮しなければならない.そのため,呼吸器内科医,リハビリテーション医,理学療法士,作業療法士,看護師等からなるチーム編成と定期的なミーティングを行うことにより,これらの患者に対して安全でより効果的な呼吸リハビリテーションを導入することが可能となる.比較的軽症の患者においては,呼吸リハビリテーションは呼吸困難感,運動耐容能,筋力の改善が得られるが,一方で重症例においては,部分的な改善にとどまることが多い.したがって,患者選択基準や運動療法の頻度や強度など,多面的な側面から実施方法について詳細な検証を行い,重症度に合わせた最適な呼吸リハビリテーションプログラムを作成することが必要である16

おわりに

IPFをはじめとする慢性線維化型間質性肺炎の臨床経過および薬物および呼吸リハビリテーションのような非薬物の治療反応性は種々である.我々は,実地臨床では明らかなエビデンスがなくとも個々の症例で有効例を経験することがある.このような知見から,疾患多様性を有するIPFをはじめとする慢性線維化型間質性肺炎患者の中から治療反応良好群を見出すことにより,将来的なオーダーメイド治療につながるものと考えられる.

謝辞

本稿の内容に関して御指導頂きました一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院の坪井永保理事長,東邦大学医学部内科学講座呼吸器内科学分野(大森)の本間 栄教授に深謝致します.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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© 2019 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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