日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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国際シンポジウム
つなぎ紡いでいくシームレスな呼吸ケア
―慢性呼吸器疾患看護認定看護師にできること―
上田 真弓
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2019 年 28 巻 2 号 p. 235-237

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要旨

慢性呼吸器疾患看護認定看護師(Chronic Respiratory Nursing-Certified Nurse:以下,CRN-CN)は,慢性疾患や終末期を迎える患者とその家族が,在宅で安心して療養生活を送れるように支援する使命がある.当センターでのCRN-CNの活動としては,人工呼吸管理に関することや患者教育・スタッフ教育などを主とした,施設内の活動を中心に行っている.今後,施設内だけの認定活動に限らず地域医療スタッフとの連携を図り,安楽な呼吸ケアについて実践・指導・相談の認定活動を拡大し,地域と病院をつなぐ看護師となりえることを課題としている.本シンポジウムでは,地域から求められる慢性呼吸器疾患看護認定看護師の在り方や具体的な実践課題などについて検討し,シームレスな呼吸ケアを目指すための方策を見出す.

はじめに

2025年対策として「時々入院,ほぼ在宅」へ医療改革が発令され,それが現実化される時は刻々と近づいている.

当センターは,市の基幹病院として院内に「地域包括支援センター」のサブセンターを併設し,地域医療と介護の連携を図るとともに,介護サービスの利用等が円滑にできるような施設形態をとっている.退院支援看護師の介入などで少しずつ,患者の生活を在宅へシフトされるようにはなってきたが,疾病により障害をもつと患者・家族自身が在宅での療養生活を選択しないケースや,地域への移行が難しいケースも多い現状がある.これを打破するために,まずは医療者が「在宅で暮らすこと」への意義と,「在宅でも出来る医療やケア」をきちんと熟知しておくことが必要である.また医療者は,患者が安心して,その人らしい療養生活が送れるために「自分に何が出来るか」,そして自身の「専門職としての役割は何か」を再認識し,具体的に行動する術を考え実践することが重要である.

日本看護協会の定めた認定看護師の役割として,特定の看護分野において熟練した看護技術を用いて水準の高い看護を実践する【実践】,看護実践を通して看護職に対し指導を行う【指導】,看護職に対しコンサルテーションを行うという【相談】という3つの役割がある.その中でのCRN-CNの役割として,各病期に応じた呼吸機能の評価及び呼吸管理,呼吸リハビリテーションの実施,急性増悪予防のためのセルフケア支援などがある.全国には2017年11月現在で272名のCRN-CNが存在しているが,その92%は病院に在籍しており,そのうち81%が病棟勤務を兼任しながら認定看護師として活動している現状がある1

つなぐ呼吸ケア

1. RST情報提供書の活用

当センターでは呼吸ケアをシームレスにつなぐため,独自にRST(呼吸ケアサポートチーム)情報提供書を作成し活用している.RST情報提供書を作成・導入した経緯として,急性期病院から人工呼吸器を装着されて転送されてきた患者の受入れ時に,前施設で現在の人工呼吸モードを選択した理由や,Spontaneous Breathing Trial: SBTの実施回数,SBT失敗の要因などについて情報を得ることで,シームレスな呼吸ケアが行えると考えたためである.当センターでは現在,RST情報提供書を転院先施設や地域医療スタッフに宛てて,これからの患者の自律や在宅復帰を見据えた提案を行っている.

【事例】COPDの既往があり,前施設にて半年前より気管切開下で夜間のみ人工呼吸器を装着していた.当センターには外科的手術目的のため転院されてきた.転院後RST介入でカンファレンスを行った結果,今後,気管切開口を閉鎖できる可能性があると判断した.しかし,入院前の転院先へ戻るまでの治療期間は1カ月であり,気管切開口を閉鎖するまでには時間がないため,次の段階でのカニューレ製品の提案,そして次の段階は気管切開口を閉鎖できる可能性をこめて,RST情報提供書に記載し伝達した.

半年後,転院先の看護師より「まさか,喋れるとは思ってはいませんでした」「感動しました」という言葉が聴かれ,RST情報提供書を基に呼吸リハビリテーションを継続した結果,気管切開口の閉鎖に至り在宅生活に戻られたと報告をうけた.これこそ【つなぐケア】であり,情報提供書という紙1枚の提案から,患者のQOL向上へと繋がりひろがっていく,看護の素晴らしさを実感した症例であった.

2. 退院支援

在宅酸素療法(以下HOT)を患者に円滑に導入するためには,多職種連携は欠かせない.CRN-CNの役割としては,さまざまな角度からの患者の身体アセスメント,そして家族を含めた在宅生活へとマネジメントしていく専門的な知見からの実践的役割,患者とその家族に関わる全ての医療者それぞれの意見を調整するコーディネーション力が不可欠であると考えている.

当センターでは,HOT導入患者の退院前に往診医や訪問看護,訪問リハビリ,福祉用具などの業者を含めた退院時合同カンファレンスを行っている.退院時合同カンファレンスでは,酸素量とSpO2などの呼吸機能評価やパニックコントロールに関することなど,呼吸ケアに関しての相談がCRN-CNに多くよせられる.これらを振り返るとHOT導入患者が,病院から在宅へ移行する際にはCRN-CNの専門性が求められていると考える.その中でも筆者は,退院支援においてCRN-CNとして最も重要な役割は,患者とその家族の思いをつなぐことが一番重要であると考えている.

3. 看・看連携

病院と在宅の間におけるシームレスなケアには,病院と在宅における看護師間の連携,いわゆる看・看連携による【つなぐケア】が重要である.訪問看護師からCRN-CNに求めることとして,「人工呼吸管理について看護の視点からの指導をしてほしい」,「スクィージングなどの呼吸リハビリについて教えてほしい」,「気管カニューレの選択のアドバイスがほしい」,「困難症例など一緒に同行訪問してほしい」などの声が聴かれる.これらは呼吸器看護アセスメント,呼吸リハビリテーション,On-The-Job-Training: OJTによる看護師教育などCRN-CNの役割とリンクしており,認定看護師との協働や活用が求められていると実感している.まずはCRN-CN自身が勤務する地域における医療スタッフの呼吸ケアへのニーズを把握することが必要である.これにより地域の呼吸ケアの実態を把握し介入していくことで,呼吸ケアの充実,そして看・看連携を強化していくことに繋がると考える.

4. つなぐケア実践への課題

これらのつなぐケアのまとめとして,「言葉でつなぐ」「顔のみえる連携」により,地域における医療スタッフへの呼吸ケアのバトンをいかに上手く渡すかが,患者や家族が安心して暮らせる生活に繋がると考える.

今後の課題としては【つなぐケア】で,病院から在宅に退院後,継続した看護ケアによりどれだけの成果が患者にもたらされたかを評価する必要がある.このためには,病院看護師による退院後訪問や,横断的に患者の状態に関するデータを収集し,看護ケアのアウトカムを確実に出していかなければならない.また,前述したように病院で勤務するCRN-CNの8割は病棟勤務である現状がある.病棟勤務との兼任の認定活動において,地域活動を含む活動時間の調整を,組織管理者と戦略的な費用対効果を見据えて,交渉していくことも必要と考える.

紡いでゆく ~ひとつひとつ丁寧に,その人らしい未来に紡いでゆく~

1. その人らしさを支援するテーラーメード看護

今後,疾病構造の変化や医療技術の進歩,人口の高齢化により,急性疾患から生活習慣病をはじめとする慢性疾患主体へと変化していく.これに伴い慢性呼吸器疾患患者の増加が予測され,疾患と上手く向き合いながら生活していくセルフマネジメント獲得のためのケアの充実が求められる.

慢性呼吸器疾患患者と家族への看護の需要が高まる中で看護師は,呼吸困難という死をも感じる苦痛と苦悩,予後不明な疾患への脅威,療養生活を余儀なくされる患者心理を捉え,患者と家族が息切れ等の自覚症状をコントロールしながらも,その人らしい生活が送れるような支援が必要である.つまり,慢性呼吸器疾患患者へのセルフマネジメント教育において,患者個々のライフスタイルに応じた息切れを少なくする方法,すなわちテーラーメードな呼吸ケアが重要となってくる.

【事例】妻と2人暮らしをしていた80代の男性で,肺血栓塞栓症,間質性肺炎,およびCOPDで入院した.人工呼吸管理となったが離脱後,HOT導入となった.

HOT導入するにあたり,まずは患者の家屋状況や在宅での行動範囲を想定した酸素量の評価,入浴動作評価,および退院前家屋調査を理学療法士・作業療法士と協働し行った.退院支援においても,多職種で包括的な患者教育や在宅を見据えた退院カンファレンスを行い,CRN-CNとして患者と家族,そして医療スタッフ間の調整を行った.

退院1週間後,外来での面談では「やりたいことあっても,ブレーキかけながら少しずつやっています.家は良いですね」と満面の笑顔で語られていた.この時,筆者は患者の「ブレーキをかけながら」の意味を上手く捉えられていなかったのかもしれないと振り返って思う.退院後1ケ月後,急性増悪にて入院され,「こんなすぐ悪くなるなら,動かない方がいいですね」,「動くと息苦しくなるし,今度は家に帰ってもあまり動かないようにします」「また,こんなことになるのは,やっぱり怖いです」と語った.これを受けCRN-CNとして,医師と理学療法士・作業療法士・病棟看護師に緊急招集をかけ,とにかく現在は患者の気持ちに寄り添い,タイミングをみて,再度,動くことの意義について少しずつ患者の反応をキャッチしながら関わっていこうとケアプランを調整した.その後の面談で患者は「少しずつ,休み休みでも動くことにしています」と再び笑顔が戻り,「外出するまでに勇気が出ました」と語った.

このケースを振り返ると,退院1週間後の外来受診時から急性増悪の間に,何かしらの要因で,患者のセルフマネジメント力が低下した可能性があったと考える.退院後,すぐに訪問看護ステーションによる介入があるケースであれば,患者の異常をキャッチし対応できたと考えるが,このような自立している患者の多くは訪問看護師の介入がないケースが多いため,何かしらの方法で,看護師が退院後の在宅生活をフォローしていくことが必要ではないかと考える.これにより患者の不安が軽減し,急性増悪やそれによる再入院を予防できるのではないかとも考える.この事例は,トランジショナルケア(移行期ケア)の充実が必要な時代であること示唆していると考える.

トランジショナル・ケアは,次の医療機能や施設に【つなぐ】ということに留まらず,治療環境の移行や治療や療養内容の変化に対応して,患者が必要なセルフマネジメントを行うことができるように支援することが含まれている2.シームレスに地域につなぐことは重要であるが,これにプラスして,病院から地域へ移行する際の患者の不安な思いに寄り添い,患者のもつセルフマネジメント力を高めるような全人的なサポートが求められているのではないかと考える.このためには,退院後訪問指導や電話相談などで,「みまもり,導く支援」が患者のセルフマネジメント力を高め,一日でも多くの安心した療養生活が送れることに繋がると考える.

これからの在宅医療を支えるCRN-CNとして

今後の実践課題として,まだまだ地域格差はあるが,在宅や施設においてHOTや在宅人工呼吸器使用患者の受け入れ体制が十分でない現状がある.まずは地域が求めるCRN-CNのニーズを把握し,地域における医療スタッフとの連携をさらに強化していくことが必要である.

また,CRN-CNとして行った看護ケアのアウトカムを出していくことが重要である.例えば,「看護専門外来や電話相談での介入による再入院率・増悪回数の低下への影響」や,「移行期ケアにおけるCRN-CN介入での再入院率への影響,在宅での看取りの増加」など可視化できるようにデータ化し,評価することが,CRN-CNとしての位置づけを明確にしていくのではないかと考える.

最後に

CRN-CNのみにとどまらず,認定看護師不在の施設の医療スタッフも,2025年にむけて,みんなでひとつひとつ丁寧に患者の笑顔のためにできることは何かを考え,一歩ずつ歩んでゆくことが光り輝く未来へ繋がるのではないかと思い願っている.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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© 2019 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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