日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
Online ISSN : 2189-4760
Print ISSN : 1881-7319
ISSN-L : 1881-7319
原著
入院期心不全患者に対する吸気筋トレーニングの効果
加賀屋 勇気皆方 伸大倉 和貴越後谷 和貴阿部 芳久塩谷 隆信
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2019 年 28 巻 2 号 p. 342-348

詳細
要旨

【目的】心不全の入院期に行う吸気筋トレーニング(IMT)の効果と安全性を検討すること.

【方法】入院期心不全患者24名を,最大吸気口腔内圧(PImax)の40%でIMTを行うIMT群(13名)と,プラセボ群(11名)に分類した.IMTは30回2セットを2週間継続した.実施前後にPImax,6分間歩行距離,およびその前後の呼吸困難感(Borg Scale),膝伸展筋力を測定した.体重,EF,CTR,BNPの推移も確認した.IMT中には心電図モニタリングを行った.各測定値の差は,分割プロットデザインによる分散分析,またはMann-WhitneyのU検定にて検討した.

【結果】PImax(P<0.05)で有意な交互作用がみられ,Borg Scaleは,IMT群で有意な低下がみられた(P<0.05).両群で2名,IMT中に期外収縮の出現,頻度増加を認めたが,心不全増悪は見られなかった.

【結論】入院期心不全患者に行うIMTは安全に施行可能であり,吸気筋力の向上,労作時の呼吸苦を軽減する効果があると考えられる.

緒言

心不全とは,なんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群と定義される1.予後は悪く,増悪を繰り返しながら徐々に死に至る.心不全患者の予後に関しては,運動耐容能との関連2,骨格筋筋力との関連3が広く知られているが,吸気筋力も同様に予後と関連することが報告されている4.また,心不全患者においてみられる労作時の疲労感や息切れ,呼吸困難感の原因のひとつとして,呼吸筋の筋力低下が影響し,換気能力の制限が,運動耐容能の制限因子となることが報告されている5,6.さらに,心不全患者を対象とした吸気筋トレーニング(inspiratory muscle training: IMT)に関する報告では,最大吸気口腔内圧(Maximum Inspiratory Mouth Pressure: PImax)の改善のみならず,最高酸素摂取量(peak V ˙ O2),および6分間歩行距離(6 Minutes Walking Distance: 6MWD)で表される運動耐容能や,換気効率の指標である V ˙ E vs. V ˙ CO2 slopeの改善,Quality of Life(QOL)の改善といった効果が報告されている7.しかしながら,これらの報告は,慢性期の安定した患者に対して6-12週程度の長期間にわたるIMTを行った結果であり,入院期の心不全患者に対してIMTを実践し,どのような効果が得られるのか,また安全に施行可能かについての報告はない.本研究では,入院期の心不全患者を対象に,通常の心臓リハビリテーションに,IMTを併用した効果と安全性について明らかにすることを目的とした.

対象と方法

1. 対象

心不全の診断で当センターに入院し,心臓リハビリテーションを施行した患者(心不全の進展ステージCに該当)の中で,研究への参加同意が得られた24名を対象とした.IMTを開始する条件は,①浮腫や,胸水,肺うっ血が落ち着き安静時の呼吸困難感がないこと,②自力歩行が可能で,6分間歩行試験が実施可能であること,③研究に用いるトレーニング機器を適切に使用できることとした.なお,歩行の制限因子となる整形外科的疾患,有意な冠動脈狭窄,呼吸器疾患,その他運動を妨げる脳卒中や神経系疾患,精神疾患などの重篤な障害がある者は除外した.

倫理的配慮として,対象者には,本研究の目的と内容について十分に説明し,研究への参加は自由意志であることを明示したうえで,参加の意志が得られた場合に,書面にて同意を得た.

2. IMTと心臓リハビリテーション

(1)IMT

対象を40%PImaxの強度でIMTを行う群(IMT群:n=13)と10%PImaxの強度で行う群(プラセボ群:n=11)とに分類した.両群ともに,理学療法士による完全監視下にて,30回を1セットにしたIMTを,1日2回,2週間継続実施した8.IMT中の呼吸の深さや,速さについて理学療法士が,声掛けを行いながら適切に行えるよう調整した.また途中で呼吸が続かなくなった場合には,適宜休憩を挟んで行うこととした.なお,後述するPImaxの測定を3日に1度行い,その結果に基づき,担当理学療法士が負荷強度を調整した.トレーニング機器には呼吸筋トレーナーPOWERbreathe KH2(POWERbreathe International社製)を用いた.IMT中は,モニター心電図で監視を行い,不整脈出現の有無を確認した.

(2)心臓リハビリテーション

全例に対して,心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン,および心不全の心臓リハビリテーション標準プログラムに則り,入院期のリハビリテーションを実施した9,10.運動療法は,自転車エルゴメータによる有酸素運動,自重での筋力トレーニングを主として実施した.

3. 測定項目

(1)吸気筋力

吸気筋力の指標としてPImaxを測定した.測定には,POWERbreathe KH2(POWERbreathe International社製)に搭載されたMIPテストモードを使用した.測定の手順・方法に関しては,ATS/ERSの呼吸筋テストのステートメントを参照した11.測定は3回行い,最大値を採用した.また鈴木ら12の予測式を用いて,予測値に対する実測値の割合(%PImax)を算出した.

(2)6分間歩行試験

6分間歩行試験(6 Minutes Walking Test: 6MWT)は,ATSとERSのガイドラインに従って実施した13.測定項目は,6分間歩行距離(6MWD),および旧Borg Scaleにより評価した6MWT直後の呼吸困難感とした.

(3)膝伸展筋力

膝伸展筋力として大腿四頭筋の等尺性筋力を測定した.測定には,ハンドヘルドダイナモメーター(μTAS F-1:アニマ社製)を使用した.測定肢位は,端座位で膝関節屈曲90度とした.大腿部が水平となるようにタオルを大腿遠位部と座面との間に挟み調整した.センサーは下腿遠位前面に設置し,ベルトで検査台の脚に連結し固定した.測定は5秒程度かけて行い,30秒の間隔を空けて2回測定した.測定値は,2回の測定で高い方の値を採用し,実測値に加え,体重で除した膝伸展筋力体重比として処理を行った.なお単位はkgf,およびkgf/kgとした.

4. その他基本情報

対象患者の臨床的背景として,年齢,身長,体重,体格指数(Body Mass Index: BMI),および心不全重症度に関して,左室駆出率(Ejection Fraction: EF),心胸郭比(Cardio-Thoracic Ratio: CTR),脳性ナトリウム利尿ペプチド(Brain natriuretic peptide: BNP),NYHA(New York Heart Association)分類,さらにクリニカルシナリオ(Clinical Scenario: CS)分類,入院時酸素投与量,人工呼吸器使用の有無,IABP使用の有無に関する情報を収集した.また急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)1に従いLVEFによる心不全の分類も行った.加えて心不全の原因疾患,内服薬の内容,IMT開始時点における入院からの経過日数を収集した.

5. 統計解析

各測定値の平均値に対して,IMTの負荷強度と,トレーニング期間を2要因とする,分割プロットデザインによる分散分析を行った.交互作用のある項目に関しては,事後検定を行った.BNPは対数変換を行った(以下log BNPとする).なお,ノンパラメトリックな変数を含むものに対しては,2週間のIMT前後での測定値の差を取り,2群間でMann-WhitneyのU検定も行った.

すべての統計解析には,R version 3.2.0(The R Foundation for Statistical Computing)およびRコマンダー version 2.2-1を用い,有意水準は5%未満(P<0.05)とした.

結果

対象者の臨床的背景を表1に示す.IMT開始時の年齢,身長,体重,BMI,EF,CTR,BNPには両群間に差はなかった.NYHA分類は,IMT群でII度が6名,III度が7名であり,プラセボ群では,II度が6名,III度が5名であった.CS分類においては,IMT群で1が4名,2が5名,3が4名であり,プラセボ群では,1が4名,2が4名,3が3名であった.両群ともにCS4および5で入院となった者はいなかった.人工呼吸器使用については,プラセボ群で1名のみであった.IABP使用者はおらず,酸素投与量についても両群で差を認めなかった.なおIMT開始の段階で酸素投与を持続している者は皆無であった.LVEFによる心不全の分類,心不全の原因疾患,内服薬の内容,入院からIMT開始日までの日数に関して両群で差はなかった.

表1 対象者の臨床的背景
IMT群(n=13)プラセボ群(n=11)P-value
年齢(歳)70±1169±120.925
身長(cm)163.2±9.0162.2±9.80.561
体重(kg)60.5±14.560.7±11.90.150
BMI(kg/m222.5±4.123.1±2.70.702
EF(%)39.7±16.937.3±15.10.962
CTR(%)56±5.955±5.30.504
BNP(pg/ml)706±612570±4090.625
NYHA分類 (I/II/III/IV)0/6/7/00/6/5/0-
CS分類(1/2/3/4/5)4/5/4/0/04/4/3/0/0-
入院時酸素投与量(L)0.8±1.71.5±2.50.418
人工呼吸器使用件数01-
IABP使用件数00-
LVEFによる心不全の分類
 HFrEF760.782
 HFpEF221.000
 HFmrEF420.414
 HFrecEF01-
心不全の原因疾患
 虚血性心疾患210.564
 心筋症650.763
 弁膜症320.655
 不整脈230.655
内服薬
β遮断薬11(85%)9(82%)0.835
 ACE阻害薬or ARB9(69%)7(64%)0.617
 抗アルドステロン薬4(31%)5(45%)0.739
 利尿薬13(100%)11(100%)0.683
 スタチン4(31%)3(27%)0.705
 抗不整脈薬7(54%)6(55%)0.782
IMTの開始日(病日)18±1317±120.949

The values are presented as mean±standard deviation. The analysis was performed using paired t test.

BMI, body mass index; EF, ejection fraction 左室駆出率;CTR, Cardio-Thoracic Ratio 心胸郭比;BNP, brain natriuretic peptide 脳性ナトリウム利尿ペプチド;NYHA, New York Heart Association ニューヨーク心臓協会;LVEF, left ventricular ejection fraction 左室駆出率;HFrEF, heart failure with reduced ejection fraction LVEFの低下した心不全;HFpEF, heart failure with preserved ejection fraction LVEFの保たれた心不全;HFmrEF, heart failure with midrange ejection fraction LVEFが軽度低下した心不全;HFrecEF, heart failure with recovered ejection fraction LVEFが改善した心不全

1. IMTの実施状況

本研究に登録された24名全員が,設定した強度でのIMTを実施率100%で完遂した.IMT導入時に,30回の連続呼吸が行えず,途中で休憩を要する者は40%PImaxの強度で7名,10%PImaxの強度で4名みられたが,その全員が,IMT開始4日目までに休憩を挟まず連続呼吸が可能となった.

2. 群間におけるIMT期間前後での各測定値の差

IMT群(40%PImax)とプラセボ群(10%PImax)とに分類し,2週間のIMTを行った前後で,PImax,%PImax,6MWD,膝伸展筋力,膝伸展筋力体重比を測定した.交互作用を認めた項目はPImax(P<0.05)および%PImax(P<0.05)のみであった.さらにPImax,%PImaxの両項目ともに,事後検定にてIMT群のトレーニング期間(P<0.01)に有意差を認めた.その他の項目に関しては,交互作用を認めず,6MWD(P<0.01),膝伸展筋力(P<0.01),膝伸展筋力体重比(P<0.01)の各項目で,トレーニング期間にのみ主効果を認めた.6MWT直後のBorg Scaleは,初期評価時と比較して最終評価時に,プラセボ群でわずかに上昇しているが,IMT群では低下した(表2).また介入前後でのBorg Scaleの変化量を比較したところ,プラセボ群と比較して,IMT群(P<0.05)で有意に低下していた(図1).

表2 2週間のIMTによる吸気筋力および各測定値の変化
IMT群(40%PImax)プラセボ群(10%PImax)ANOVA for split-plot factorial design
prepostprepostmain-effect
(period)
P-value
interaction
P-value
PImax(cmH2O)65.6±20.180.3±20.2*66.1±14.768.0±12.70.0030.019
%PImax(% predicted)95.8±25.5118.4±33.6*94.4±21.7100.5±32.40.0020.048
6MWD(m)416±87.5431±101.7421±68.7463±77.0<0.0010.500
6MWT直後のBorg Scale15±0.714±0.913±0.814±1.0--
膝伸展筋力(kgf)28.2±9.531.5±10.327.3±7.629.4±7.50.0010.437
膝伸展筋力体重比(kgf/kg)0.47±0.10.52±0.10.45±0.10.50±0.1<0.0010.759

The results are expressed as mean±standard deviation. Borg Scale after 6MWT is expressed as median±average deviation. The analysis was performed using ANOVA for split-plot factorial design. * p<0.01(pre vs. post)

IMT, inspiratory muscle training 吸気筋トレーニング;ANOVA, analysis of variance; Pre, pre-intervention values; Post, post-intervention values; PImax, maximum inspiratory mouth pressure 最大吸気口腔内圧;6MWD, 6 minutes walking distance 6分間歩行距離;

図1

2週間のIMTによる6MWT直後のBorg Scaleの変化

The analysis was performed using Mann-Whitney U test(*P<0.05)

IMT, inspiratory muscle training 吸気筋トレーニング;6MWT, 6 minutes walking test;

3. IMT期間前後での心不全増悪の有無

IMTの安全性を確認するため,心不全増悪の指標となる,体重,EF,CTR,log BNPの各項目を,2週間のIMTを行った前後の時期から収集した.すべての項目で交互作用を認めなかった.体重(P<0.05),CTR(P<0.01),log BNP(P<0.05)の項目に関しては,両群ともにトレーニング開始時より減少しており,トレーニング期間に主効果を認めた(表3).またIMT群においてトレーニング開始後に利尿薬の追加等の治療を要した心不全増悪例は見られなかった.

表3 2週間のIMT前後での心不全増悪マーカーの変化
IMT群(40%PImax)プラセボ群(10%PImax)ANOVA for split-plot factorial design
prepostprepostmain-effect
(period)
P-value
interaction
P-value
体重(kg)60.5±14.559.9±14.760.7±11.959.8±12.00.0200.561
EF(%)39.7±16.938.6±14.137.3±15.140.8±16.70.5180.151
CTR(%)56±5.954±6.655±5.353±5.10.0070.898
log BNP2.69±0.42.50±0.42.66±0.32.23±0.40.0100.145

The results are expressed as mean±standard deviation. The analysis was performed using ANOVA for split-plot factorial design.

IMT, inspiratory muscle training 吸気筋トレーニング;ANOVA, analysis of variance; Pre, pre-intervention values; Post, post-intervention values; PImax, maximum inspiratory mouth pressure 最大吸気口腔内圧;EF, ejection fraction 左室駆出率;CTR, Cardio-Thoracic Ratio 心胸郭比;BNP, brain natriuretic peptide 脳性ナトリウム利尿ペプチド

IMT中には心電図モニタリングも実施した.IMTに伴う不整脈の出現頻度が増加した者はIMT群で2名(15.4%),プラセボ群で2名(18.2%)であった.いずれも,心室期外収縮の出現または頻度増加であり,2週間のIMT介入中1度だけ確認された.自覚症状はなく,3連発以上の連発は見られなかった.また4名とも心室頻拍を有するHFrEFを呈した病態であり,抗不整脈薬を内服していた.IMT中に不整脈が出現,または増加した対象者の臨床的背景を表4に示した.

表4 IMT中に不整脈が出現,または増加した対象者の臨床的背景
対象者原因疾患合併症/既往歴出現・増加した不整脈ST低下
1IMT群拡張型心筋症VT,CKDPVC-
2IMT群心サルコイドーシスVT,CKDPVC-
3プラセボ群拡張型心筋症VTPVC-
4プラセボ群弁膜症VT,af, CKDPVC-

IMT, inspiratory muscle training 吸気筋トレーニング;VT, ventricular tachycardia 心室頻拍;CKD, chronic kidney disease 慢性腎臓病;PVC, premature ventricular contraction 心室期外収縮;af, atrial fibrillation 心房細動

考察

本研究の結果,入院期の心不全患者に対して,通常の心臓リハビリテーションに2週間のIMTを併用して実施したところ,吸気筋力の有意な改善,および6MWT直後の呼吸困難感の有意な低下を認めた.また心不全の心臓リハビリテーション標準プログラム10で示されている体液貯留を疑う3日間(直ちに対応)および7 日間(監視強化)で2Kg 以上の体重の増加は両群ともになく,心機能低下や心負荷増大を疑うEFの低下,CTRの拡大,BNPの増加に関して,IMT群とプラセボ群とで差を認めず,心不全増悪はみられなかった.一方で,運動耐容能の指標である6MWDの改善には至らなかった.

IMTの効果として,心不全患者の吸気筋力,運動耐容能,呼吸困難感を改善するという報告は複数のシステマティックレビューを通してなされてきた7,14,15.本研究の結果は,吸気筋力の向上,労作時呼吸困難感の改善という点においては,これまでの報告を支持する内容であった.しかしながら,先行研究で報告されている運動耐容能の改善には至らなかった.本研究のトレーニングプログラムは,通常の心臓リハビリテーションに加え,40%PImaxの強度で,2週間の監視下IMTを行うというものであった.強度と期間の設定に関して,Dall’Agoらは,30%PImaxの負荷強度で,12週間のIMTを行い,PImax,および 6MWDの改善を認めたことを報告している16.また,Winkelmann ERらは,有酸素運動に30%PImaxのIMTを併用し,12週間のトレーニングを行うことで,PImaxに加え,peak V ˙ O2,6MWDの改善が得られたことを報告している17.これらの報告が示すように,IMTの負荷強度に関しては,本研究で用いた40%PImaxは運動耐容能を改善するに十分な強度であったと考えられる.しかしながら,トレーニング期間が,入院中の2週間と極めて短期間であったため,6MWDで見た運動耐容能の改善には至らなかったと推測される.さらに,前述したDall’Ago16らの研究では,IMT群の予測値に対するPImaxの割合は,59.5±2.2%と低下しており,Winkelmann ER17らの検討でも同様に,61±2%と低値であった.このように先行研究においては,Inspiratory Muscle Weakness: IMWと定義されているPImaxが予測値の70%未満にまで低下した患者を対象としている.対して,本研究のIMT群は,トレーニング開始前の時点ですでに%PImaxの平均が95.8%と先行研究と比べ,高値であった.このことも運動耐容能の改善に至らなかった理由のひとつと考えられる.しかしながら,6MWT直後のBorg Scaleは,プラセボ群と比較して有意に低下しており,わずか2週間のIMTでも,労作時の息切れ感,疲労感を改善させる可能性が示唆された.

本研究では,IMTの安全性についても検討した.IMTの導入は安静時の症状がないことを条件としたが,心不全の発症あるいは増悪から比較的早期の時期に行われたIMTの報告はこれまでなされていない.心疾患患者全体を対象としたIMTの安全性に関する検討として,Ramos PSらは,IMT中の血行動態を評価し,30%PImaxで15回2セットという限局的なプロトコルながら,IMTに伴う血圧,心拍数の有意な変化がないこと,臨床上問題となる不整脈の出現がないことを報告している18.本研究では,負荷強度に関わらず,15-20%の割合で,心室期外収縮の出現,または頻度増加を認めた.2連発以内であり自覚症状もないこと,必ずしも再現性がないことから,IMTの中止には至らなかった.しかしながら,急性期から亜急性期にかけての心不全患者に対するIMTでは,心電図モニタリングを行うべきであり,本研究においては有害事象には至っていないが,特に心室頻拍といった不整脈既往を有する患者への介入では,期外収縮の頻度増加や連発に注意しながら行う必要があると考える.IMTによる心不全の増悪に関して,本研究のIMT群では,体重,EF,CTR,BNPの心不全増悪と関与する各指標の推移はいずれもプラセボ群との間に,差を認めなかった.これらの結果は,入院期から導入するIMTは,少なくとも40%PImax以下の範囲で行う場合には,心不全増悪を来すほどの負荷ではないことを示唆するものである.

本研究の限界として,対象患者の吸気筋力がトレーニング前の時点で,予測値の100%に近い状態にあったことが挙げられる.吸気筋力が70%未満まで高度に低下したIMWを呈する患者のみを抽出し,IMTの効果を検証することが今後必要と考える.また,安全性の観点では,本研究は不整脈の出現および心不全マーカーの推移に着目したが,IMT中の血行動態に関しては十分に検証できていない.IMT中の血圧や心拍数変動についてさらなる検討が必要である.

以上のように,本研究では,入院期の心不全患者に40%PImaxの強度でIMTを行い,心不全増悪を来すことなく,吸気筋力の向上と,6MWT直後の呼吸困難感の改善という結果を得た.これらは,心不全患者に対するIMTを比較的早期から行うことの有効性と安全性を示唆するものであると考える.ただし,IMT中に,不整脈を認めた者もおり,実施に際しては,心電図モニタリングや,血行動態の評価を行うことが望ましい.

備考

本論文の要旨は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2019 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
feedback
Top