日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
呼吸に関わる認定・専門看護師のコンピテンシー
新 智美
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2020 年 29 巻 1 号 p. 13-15

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要旨

呼吸ケアを要する患者は原病の治療以外に合併症や併存症を含めた統合(包括)的ケアが必要である.更に将来を見据えニーズに沿った包括的呼吸ケアであることが望ましい.近年の医療機能分化により,自施設以外の事業所の多職種と連携して,患者が生活する地域全体にアプローチすることが慢性呼吸器疾患を患う患者の生涯を支える上で欠かせない.呼吸器専門医院を開業し共同経営者として地域医療を実践し,呼吸ケアを看護師として追及した筆者の実践は,病院だけでは経験できない大きな充実感がある.今後,病床再編で看護師の活躍の場は病院から在宅へシフトし,入院期間の短期化で治療もケアも完結せずに在宅に委ねられる.医療資源の乏しい在宅で高度な呼吸ケアを安定的に提供するには,多職種と連携して身に付けたスキルミクスの実践が求められる.本シンポジウムでは筆者の活動を紹介し,呼吸ケアに関連した認定・専門看護師のコンピテンシーを考察したい.

はじめに

呼吸ケアを要する患者は原病の治療以外に合併症や併存症を含めた全人的ケアが必要である.更に将来を見据えニーズに沿った包括的呼吸ケアであることが望ましい.それは,慢性的な呼吸困難を抱えさまざまな心理的・社会的問題で苦悩していることも多く,薬物療法と非薬物療法を複合的に行っても,原病の進行や増悪などで一度低下したQOLの向上の道のりは短くない1.また,高齢者であれば,自分の老いを受容し,増悪と軽快を繰り返しながら緩徐に進行していく中で,生き方自体の見直しを迫られる.しかしこれまでの患者自身の人生経験と療養を支援する専門スタッフからの指導を活かし,セルフケアの中で安定期を患者なりに理解し,自己コントロールすることでQOLの向上は可能と考えている.

包括的呼吸ケアには,近年の医療機能分化により,自施設以外の事業所の多職種と連携して,患者が生活する地域全体にアプローチすることが生涯を支える上で欠かせない視点となる.筆者が呼吸ケアの分野に関わったのは急性期病院でのCOPD管理が契機である.2009年の本会ワークショップで発表した病院での業務と比べ,呼吸器専門施設を開業し共同経営者として地域医療を実践し,呼吸ケアを看護師として追及してきた取り組みは,病院だけでは経験できない大きな充実感がある.

COPD disease management

筆者は急性期病院において外来看護師として,2007年から循環型COPD地域連携パスを作成し,住民の肺がん検診者の中のハイリスクグループに一次予防の禁煙と二次予防の低線量CTを行うシステムを構築し,中核病院の外来看護師がパスマネージャーとして運用した.平時はかかりつけ医の診療を受診し,1年に1回中核病院に戻り,病気のみならず生活の状況,運動の習慣,受療行動,癌検診やワクチン接種など決められた検査と共に評価した.パスマネージャーが外来看護師であることで,患者や家族からの相談ばかりでなく,各種連携事業所からの病状報告や相談の窓口として機能した.外来看護師達は継続看護を展開し個別性のある患者指導をチームで行った.2008年の当学会学術集会にて,対象患者では新規の悪性腫瘍が高率に出現すること,原病に限った介入だけでなく継続的に包括的ケアが必要な対象であることを示し,優秀賞を頂戴した.この時はまだ重症までの連携パスで最重症は含まれていなかったが,現在ではNPPVを含む人工呼吸器管理や看取りまで地域の事業所と連携して可能になっている.地域連携パスの運用と同時に地域連携の会を発足し,医療介護福祉行政職が協働する場を創設した.

筆者の主な活動

日本看護協会では,専門看護師に期待される機能として実践・相談・調整・倫理調整・教育・研究とされ,認定看護師も実践・指導・相談と示している.欧米の高度実践看護師では実践がより強調されているが,仕事の大部分が自施設の業務に限定されている点では本邦のそれと大差はないように見える.著者の主な活動を専門看護師に期待される6つの機能に整理した(図1).

図1

主な活動内容 専門看護師に期待される6つのカテゴリーに活動内容を整理

1. 実践

実践は,個人,家族及び集団に対して卓越した看護を実践することである.筆者は現在,共同経営している呼吸器内科を主とする診療所の看護師として外来診療と訪問診療に携わっている.外来患者には継続看護を基本に考え,睡眠時無呼吸症候群の患者ではCPAPパスを作成し標準ケアを構築した.また個別対応もパスに吸収できるようにし,外来看護師と臨床検査技師が協働しながら患者と共にアドヒアランスの向上のみならず,生活改善によるCPAP離脱も目指し個別ケアを実施している.訪問診療では,小児から高齢の患者まで管理しているが,医的ケアが必要な小児に対して,患児の家族および行政と災害時の対応について協議し,子育て支援の一環として医的ケアを要する小児一人ひとりに災害用備蓄ロッカーを耐震構造の市の施設内に設置することになった.

2. 相談

相談は,看護者を含むケア提供者に対しコンサルテーションを行うことである.筆者には,自施設内外を問わず,職種や患者を問わず,様々な内容の相談が寄せられるようになった.患者に関わることは,チームの問題としてフィードバックし考えを深め解決するようにした.地域住民からの救済を求める相談もあり,プライバシーに配慮し,必要な時は,保健所や法律家と連携をとっている.

3. 調整

調整は,必要なケアが円滑に行われるために,保健医療福祉に携わる人々の間のコーディネイションを行うことである.筆者は,患者対象の医療的調整の他,地域の醸成を踏まえ,多事業所の健全な競争を阻害しないように経験知を広げる調整をしている.症例検討を通し,工夫された優れた技術を特定の事業所の患者のみが恩恵を受けるのではなく,地域の知として技術の交流の場を調整している.

4. 倫理調整

倫理調整は,個人,家族及び集団の権利を守るために,倫理的な問題や葛藤の解決を図ることである.患者の人権や尊厳に関係する内容では,社会福祉士と相談しながら行っている.患者の思いについて,詳細な裏付け作業を行うことで,医療職との認識の違いを解消し,真実に近づくよう努めている.また,地域で働く医療介護福祉職は人的資源として重要である.この方々を守っていくのも地域課題と考えている.個人の価値観や道徳概念の違いで,誤解が無いように,報告に用いる写真のモラルについてフィードバックしながら,基準を決めている.また,医療介護福祉職の苦情窓口を在宅サポートセンターが担うよう調整した.

5. 教育

教育は,看護者に対しケアを向上させるため教育的役割を果たすことである.筆者は,現任教育と看護学生を対象に,呼吸ケアと多職種連携の実践を指導している.また,地域住民向けに有志が集まり,演劇や講習会を開催している.

6. 研究

研究は,専門知識及び技術の向上並びに開発を図るために実践の場における研究活動を行うことである.筆者は,地域連携の会で検討した内容を深め,地域課題として取り組んでいる.2007年から当地域連携の会で運用したCOPD地域連携パスの運用実績やたばこ関連疾患の包括的ケアの必要性,また,地域課題を当会に発表した.

実際の症例

筆者が関わった再重症COPD・喘息70代男性A氏への看護実践を以下に示す.A氏の喫煙歴は30本/50年間,ブリンクマン指数1500であった.X-11年,喘息発作で中核病院救急外来を受診し,地域の診療所へ一旦は紹介したが,コントロール不良で中核病院の管理となり,この時から当院医師が管理する様になった.X-9年にHOTを開始した.X-6.5年に当院起業と共に管理を移行し,訪問診療と訪問リハビリテーションを開始した.X-4年からNPPVを導入し,訪問看護を開始した.A氏は一人暮らしで,この頃から外出ができない状況になった.同時期から,Information and Communication Technology(以下:ICT)連携をしている先進地域の支援で当院管理の訪問診療患者のICT連携を多職種で開始した.

ICT連携のチームには,訪問医療機関の医師と看護師・理学療法士(以下:PT)と作業療法士と社会福祉士,他事業所の訪問看護師,介護ヘルパー,ケアマネージャー,薬剤師,福祉用具会社,HOT会社,NPPV会社で,知りえる情報は全員同じで職種によって情報の制限をしない方法で誓約書を交わし,情報共有に取り組んだ.

呼吸困難で外出の機会が無いA氏の喪失感を看護師が発信すると,PTから電動車椅子の提案があり,薬剤師や介護ヘルパーなどから賛意を寄せられ,A氏に関わる全員で患者の希望に沿えるようICT上で意見がまとまった.電動車椅子の運転の安全性を福祉用具会社が考え機種を選び,運転の練習はPTや介護ヘルパーで行い,ケアマネージャーは外出先のスーパーなどに電動車椅子の乗り入れを打診した.金銭面や屋外駐車スペース確保と充電について社会福祉士とケアマネージャーが協力し情報を整理することで,患者が自分で決定した.精神的支援や生活動作・環境調整の支援は全員で工夫を重ねた.

ICT上に支援の評価と患者の様子が掲載され,A氏に関わる人々の,意見や感じ方の自由な表現の場ができ,もう無理だと思ったことでも,挑戦するアイデアを出し合い,話し合う場となった.独居のA氏は一人でスーパーに行けるようになり,次の外出先の相談を訪問者に話すようになった.

X年,A氏が発熱したため,訪問看護師の要請で緊急往診し,自宅で抗生剤の点滴を開始したが,翌日には患者から呼吸困難辛く,入院の希望があった.同日入院し12日後入院先で死亡した.HOT導入後9年,NPPV導入後4年,中核病院から当院へ管理移行して6.5年,最後の入院も含め当院管理中の入院は2回であった.

呼吸に関わる認定・専門看護師のコンピテンシー

対象の患者・家族の表面化している問題について,安定期・増悪期に関わらず,迅速に対応し解決に導くことは,認定・専門看護師の責務である.しかし,潜在化している問題にも目を向け,その問題を理解し,解決の方法や生活上の工夫を共に考えることは,認定・専門看護師の社会的な役割である2,3.もちろん,看護活動の範囲は広い.

そして,どの様な疾病を抱えていても,その方らしく生活していけるように,地域課題に具体的方策をとりながら時代の変化,家族関係と疾病構造の変化に対応しながら,モラルを守り開発・創造することを期待されている.

おわりに

今後,病床再編で看護師の活躍の場は病院から在宅へシフトし,入院期間の短期化で治療もケアも完結せずに在宅に委ねられる.医療資源の乏しい在宅で高度な呼吸ケアを安定的に実践するために,多職種と連携しそのスキルを身に付けたスキルミクスナースが求められる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
  • 1)  大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター編:在宅酸素療法ケアマニュアル,メディカ出版,大阪,2012.
  • 2)   Shuler  PA,  Huebscher  R,  Hallock  J: Providing wholistic health care for the elderly: Utilization of the Shuler nurse practitioner practice model. J AM Acad Nurse Pract 13: 297-303, 2001.
  • 3)   Hamric  AB,  Hanson  CM,  Tracy  MF, et al.: 中村美鈴,江川幸二(監訳):高度実践看護総合的アプローチAdvanced Practice Nursing,へるす出版,東京,2017.
 
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