日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
外来COPD患者に対する週1回の呼吸リハビリテーションが身体活動量へ与える効果
藤沢 千春川浦 元気玉木 彰
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2020 年 29 巻 1 号 p. 141-146

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要旨

【目的】COPD患者に対して週1回の筋力トレーニング漸増性過負荷法と身体活動計を用いた教育指導による呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を8週間行うことで,身体活動量が増加するか検討した.

【方法】9名のCOPD患者をグループA/Bに無作為に分けて,グループAは週1回の呼吸リハ介入を8週間行い(呼吸リハ群),その後8週間呼吸リハ介入を行わずに経過観察した(非介入群).その後グループA/Bをクロスオーバーさせて,呼吸リハ群と非介入群とのデータを比較検討した.主要評価項目は1日の平均歩数,副次評価項目は大腿四頭筋筋力と生活活動範囲とした.

【結果】呼吸リハ群は非介入群と比較して,平均歩数と大腿四頭筋筋力が有意に増加した.一方,生活活動範囲は両群間で有意な差は認められなかった.

【結論】COPD患者において,筋力トレーニングと教育指導を併せた週1回の呼吸リハを8週間行うことで,身体活動量と下肢筋力が増加する可能性がある.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease:以下,COPD)では,咳・痰や労作時呼吸困難とそれに伴う身体機能障害や骨格筋量の減少によって日常生活動作の制限が助長され,身体活動量が低下する1,2,3,4.身体活動量が低下したCOPD患者は死亡リスクが高まり,入院回数が増加する5,6.Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)ガイドライン2017では,COPD患者の治療目標として身体活動量を重要な評価項目にしている1

COPD患者に対して筋力トレーニングを主体とした呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を行うことで,呼吸困難や筋力,生活の質が改善すると報告されている7.更に,活動量計を用いた教育指導を行うことで身体活動量は改善することも報告されている8

従来の呼吸リハは週2~7日のプログラムを8~12週間継続するものが多い7.しかし,頻回の通院は多くの外来COPD患者にとって困難であり,また,患者の経済負担が高額になるため実臨床での適用性は低い9

今回,外来COPD患者に対して,筋力トレーニングと活動量計を用いた教育指導を併せた週1回の呼吸リハを行うことで,身体活動量を増加させることができるか,無作為化クロスオーバー比較試験で検討した.

対象と方法

1. 対象

対象者の選択基準は2017年5月から2018年5月に外来通院中のCOPD患者で,医師が呼吸リハの適応と考えて研究参加を勧め,同意が得られた患者とした.除外基準は半年以内にCOPD増悪の既往を有する者,整形外科疾患や脳血管疾患により動作制限を有する者,心不全や虚血性心疾患を有する者,Mini mental state examinationにて23点以下の認知機能低下を認める者とした.倫理的配慮として口頭と書面にて,本研究参加に同意できない場合の不利益の排除,拒否権の保障,データ公開時の匿名化について説明して同意を得た.神鋼記念病院倫理委員会で承認(倫理審査番号1722)を得て,University Hospital Medical Information Networkの臨床試験登録(UMIN000031173)を行った.

2. 研究デザイン

本研究デザインは無作為化クロスオーバー比較試験とした.対象者の各群への割り振りは乱数表を使用して無作為化した.無作為化の割り付けコードと割り振り順番を第3者から隠蔽するため乱数表は封筒内で保管して,割り振り作業は盲検化された作業療法士1名が担当した.対象者の割り振り後の評価者と介入者は盲検化していない.

3. 研究プロトコル

無作為化クロスオーバー比較試験を行った.研究プロトコルは図1に示す.対象者を初期評価後,無作為にGroup AとGroup Bの2群に割り振った.Group AはPeriodIの8週間呼吸リハ介入を行い(呼吸リハ群),1週間のウォッシュアウト後,Period IIの8週間呼吸リハ介入を行わずに通常の生活を送ってもらった(非介入群).Group BはGroup Aとクロスオーバーさせた.

図1

研究プロトコル

4. 主要評価項目

1) 身体活動量

身体活動の評価には三軸加速度計(OMRON HEALTHCARE Co. Ltd, Active style pro HJA-750C)を使用した.活動計をズボンの腰部に垂直に装着し,就寝時と入浴時以外は装着するよう指導した.評価終了後対象者に活動量計を渡し,呼吸リハ群は週1回の来院時に1週間の平均歩数を算出して教育指導を行った.非介入群には教育指導を行わずに8週後にデータ解析を行った.解析時に,活動量計の装着時間が8時間/日未満または雨天日のデータは除外した.呼吸リハ群と非介入群共に8週間の1日平均歩数を身体活動量の代表値とした.

5. 副次評価項目

1) 等尺性膝伸展筋力

膝関節の最大等尺性膝伸展筋力はHand-held dynamometer(μTas F-1, ANIMA社製)で測定した.測定姿勢は端座位で,膝関節は屈曲90°の位置とした.最大等尺性収縮を5秒間,合計2回測定して,代表値は最大値を使用した.

2) 生活活動範囲

生活空間の移動範囲および外出した距離を評価するために,Life space assessment(LSA)を使用した.LSAの総合得点は日本理学療法士協会イーサス10の総合得点自動計算シートを使用して算出した.LSAは得点が低いほど生活活動範囲が低いことを示している.

3) 健康関連QOL

St. George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)を使用した.

6. 呼吸リハビリテーションプログラム

1) 筋力トレーニング

スクワット,階段昇降,レッグエクステンション(四頭筋訓練装置K2620M;ミナト医科学株式会社),カーフレイズの4種目を実施した.漸増性過負荷法を用いて,修正ボルグスケールが4~6の範囲内で毎週少しずつトレーニングの総負荷量を漸増した.反復回数を増やし,20回を超える場合は,修正ボルグスケールが4~6の範囲で,強度とセット数,セット間の休憩(最短30秒から最長3分)を調整した(図3).自主トレーニング指導は行わなかった.

図3

漸増性過負荷法の例(スクワットの場合)

強度,反復回数,セット数,休憩時間のどれかを毎週調整して総負荷量を増加させる.調整項目は対象者の状態に合わせて変更する.例えば,呼吸困難が強い場合は反復回数や強度,休憩時間は変えずにセット数を増やすことでトレーニング負荷量を増加させる.

中止基準は,(a)心拍数が 130 bpm以上,または安静時より20%以上の低下,(b)収縮期血圧が 180 mmHg以上,または安静時より20%以上の低下,(c)新たな不整脈の出現,(d)呼吸数が40回以上,(e)経皮酸素飽和度が90%以下,(f)患者が中止を要求する場合とした.

2) 教育指導

身体活動量の向上を目的に,過去1週間の活動量計のデータから歩行距離や歩行時間を算出して,歩行の指導を行った.目標歩数を超えていた場合,モチベーションを維持できるよう賞賛し,一方で歩数が極端に低下していた日は,その低下の要因を聴取し,歩数を増やす工夫を提案し,更に日常生活動作や呼吸法の指導を強化した.

7. 統計解析

研究プロトコル終了後に,本研究の検出力が十分であったかを身体活動量のデータからGpower 3.1.7による事後分析で検出力を確認した.

時期効果はGroup A(n=5)とGroupe B(n=4)のPeriodの差を比較した.順序効果は各Period(n=9)の和の平均値をSequence間で比較した.時期効果と順序効果は対応のないt検定またはマン・ホイットニ検定にて検証した.各群の前後比較と治療効果(Period間の差)は対応のあるt検定またはウィルコクソンの符号付順位で検証した.統計解析はSPSS Statistics 21.0(IBM, SPSS Tokyo, JAPAN)を使用して統計学的有意水準は5%とした.

結果

本研究の対象者の基本属性は表1に示す.登録された9名は脱落なく最終評価まで行えた(図1).研究期間中にCOPDの薬物治療や在宅酸素療法を新たに追加した症例はいなかった.

表1 対象者の基本属性(n=9)
評価項目
年齢72.11±7.10
性別男性6名/女性3名
BMI(kg/m223.34±3.01
FEV1(L)1.90±0.67
FEV1(%)55.91±10.38
FVC(L)3.37±0.96
罹患歴(年)4.69±2.87
GOLD stage
I0
II7
III2
IV0
気管支拡張薬(人)
LAMA3
LABA2
LAMA/LABA3
未使用者1

BMI: Body mass index, FEV: forced expiratory volume in one second, FVC: forced vital capacity, GOLD: Global Initiative for Chronic Obstrucstive Lung Disease, LAMA: long-acting muscarinic antagonist, LABA: long-acting beta-agonists, LAMA/LABA: long-acting muscarinic antagonist/long-acting beta-agonists

事後分析にて検出力を身体活動量(平均値,標準偏差,効果量=0.70)から算出した結果,検出力は0.9であった.

呼吸リハ群は,非介入群と比較して身体活動量と等尺性膝伸展筋力が有意に増加した(図2).等尺性膝伸展筋力は,呼吸リハ介入後に有意に増加した(表2).身体活動量と等尺性膝伸展筋力において,順序効果,時期効果はみられなかった.一方,SGRQとLSAは呼吸リハ介入後も有意な改善はみられず,非介入群においては8週間後のSGRQのTOTALスコアは有意に減少した(表2).

図2

呼吸リハ群とコントロール群の8週後の変化 *=P<0.05

表2 介入前後の変化および両群間の比較
絶対値変化率前後比較群間比較
項目平均値±SD
中央値(25%-75%)
平均値±SD
中央値(25%-75%)
P値P値
身体活動量
(歩数/日)
呼吸リハ群5627.02±1978.58--0.04
非介入群4376.74±1644.35--
等尺性膝伸展筋力呼吸リハ群23.19±11.130.24(0.09~0.30)0.010.02
28.96±11.38
非介入群28.85±13.88-0.07±0.230.75
24.74±10.66
生活活動範囲呼吸リハ群88.44±20.440.01±0.280.730.43
85.56±14.96
非介入群81.78±11.33-0.01±0.190.43
81.00±17.72
SGRQ
Symptom
呼吸リハ群35.2±13.060.30±0.600.370.19
41.86±16.13
非介入群38.04±7.56-0.12±0.190.14
32.90±6.67
SGRQ
Activity
呼吸リハ群42.10±13.960.00(-0.14~0.29)0.530.41
48.36(41.70~53.5)
非介入群47.66(42.22~48.40)-0.02(-0.11~0)0.35
42.30(41.70~48.40)
SGRQ
Impact
呼吸リハ群20.2±11.570.01(-0.26~0.26)0.800.38
21.27±9.18
非介入群24.39±10.83-0.12±0.320.27
17.90(13.22~21.50)
SGRQ
Total
呼吸リハ群30.70±11.16-0.09(-0.12~0.25)0.570.22
32.61±8.85
非介入群33.44±6.94-0.09±0.100.05
30.40±6.55

Standard deviation=SD, Hospital anxiety and depression scale=HADS, HADS-anxiety=HADS-A, HADS-depression=HADS-D, St. George’s Respiratory Questionnaire=SGRQ

考察

本研究では,外来COPD患者に対して週1回の筋力トレーニングと身体活動量の教育指導を併せた呼吸リハを行い,日常生活における平均歩数と下肢筋力に改善がみられた.

筋力トレーニングを主体とした呼吸リハは,COPD患者の身体機能や下肢筋力の改善に有効であることがシステマティックレビューで示されているが,身体活動量の改善には強いエビデンスレベルを示していない12,13.Egan ら13は 8週間の筋力トレーニング プログラムで,漸増過負荷法を用いて身体機能と身体活動が改善したことを報告しているが,漸増性過負荷方法のトレーニング種目や,強度や頻度,ボリュームの設定は明記されていない13,14,15.Elenaら16はシステマティックレビューで,運動療法におけるトレーニング方法や種類,介入期間や運動強度の設定が一貫していないことが身体活動量のエビデンスの低下につながっていると指摘している.一方,Lauraら8は歩数計を用いたフィード バックを行うことで平均歩数や身体機能,生活の質が改善したことを報告している.身体活動量の改善には筋力トレーニングのみならず教育指導が重要であると考えられる. これまでの COPD 呼吸リハの報告では,筋力トレーニングの頻度は週2~3回で2か月継続するものが多い7,11.しかし,外来 COPD 患者は交通手段の制限や外来呼吸リハ参加の順番待ち,経済負担の増加など10によって外来通院が制限されていることが少なくなく,呼吸リハのために頻回通院することは難しい.以上のことから,本研究では呼吸リハによる通院を週1回に設定し,従来のトレーニングよりも回数を減らすことでCOPD 患者の通院負担を軽減した.回数が少なくなる分,漸増過負荷方法による筋力トレーニングを用いて呼吸リハの負荷を増やし,通院しない日の身体活動量を増やすために,毎週加速度計を用いて患者にフィードバックを行い,モチベーションを維持する工夫を行った.この方法によって週1回の呼吸リハでも8週間通院することで,身体活動量と下肢筋力を増加させることができた.

本研究においてLSAは両群間と前後比較で有意差は認めなかった.COPD患者のLSAの制限は退院90日後の再入院率リスクを高め18,運動耐容能やQOLの低下,呼吸困難感と抑うつ症状の増悪,COPD重症度との関連性が報告されている(LSAスコア60点以下がLSA制限あり)18.LSAは個人の生活空間の広がりや移動を評価する指標であり,対象者の移動状況と自立度を調査できる10.そのため,COPD患者におけるLSAスコア低下(60点以下)は退院90日後の再入院率リスクを高め17,運動耐容能やQOLの低下,呼吸困難感と抑うつ症状の増悪との関連が報告されている18.活動量計と併せてLSAを評価することで,身体活動量の減少が居住空間内外のどちらで制限されているのか判断できる.本研究の対象者は,リハ介入前からLSAスコアが低下していなかったため呼吸リハによるLSAの増加効果は得られなかったが,身体活動量とLSAが共に低下したCOPD患者のLSAを改善させるには,生活移動範囲を改善させるための環境調整やADL指導を併せた呼吸リハが有効であるか今後の検討課題と考える.

本研究の限界として,施設環境や倫理的問題から1週間以上のウォッシュアウト期間を設けることが出来なかった.時期効果と順序効果に統計学的有意差を認めなかったが,Sequence 1 のPeriodIIである呼吸リハ群から非介入群へクロスオーバーされた対象者は少なくとも呼吸リハの時期効果が影響していた可能性は否定できない.

結論

外来COPD患者に対して,週1回の呼吸リハで漸増性過負荷法を用いた筋力トレーニングと身体活動量の教育指導を行うことで,平均歩数と下肢筋力を改善させることが可能である.

備考

本研究はJSPS科研費JP17H00691の助成を受けたものです.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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© 2020 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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