日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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研究報告
インシデントレポートからみた当院RSTの活動成果
手間本 真佐藤 伸之佐藤 照樹上田 歩逢坂 みなみ
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2020 年 29 巻 1 号 p. 162-166

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要旨

【目的】これまでのRST活動をまとめ,その成果をインシデントレポートの変遷から考察する.

【方法】2014-17年の人工呼吸器関連のインシデントを抽出し,内容と変遷についてRST活動との関連を検討した.当院RSTの主たる活動は週1回の病棟ラウンドで,安全管理,離脱,合併症予防などの観点から評価,提案を行なっている.また院内研修会やセミナーを開催している.

【結果】人工呼吸器関連のインシデントは全体の2-3%程度であった.項目別では呼吸器本体とチューブ関連が多かった.チューブ関連では当初予定外抜管が多く見られたが2017年には全インシデントに対する割合は有意に低下していた.

【考察】インシデントの内容は多岐にわたるが,予定外抜管に関しては低下していた.チューブ固定や鎮静に関するラウンドでの指導や研修会の開催,体位変換時のチューブ固定に関するマニュアル作成などのRST活動が寄与したと考えられた.

緒言

高度化・多様化した現在の医療において,安全の確保や事故の予防は重要である.人工呼吸療法に関しても事故防止の通達や提言が再三なされているが,事故の報告は後を絶たない.春田は1,専任の呼吸療法士が集中治療室で人工呼吸管理を行っている欧米と比較し,本邦では環境の整わない一般病棟で人工呼吸管理が行われていることが一因と述べている.日本呼吸療法医学会でも人工呼吸管理は重症部門で行うのが望ましいとしているが,当院の重症部門はICU(Intensive Care Unit)6床,EICU(Emergency Intensive Care Unit)6床の計12床のみである.そのため重症患者でも一般病棟で管理せざるを得ないケースも多く,一般病棟での適切な人工呼吸管理が必要となった.当院では2011年より一般病棟における安全かつ適切な人工呼吸管理を目的に,呼吸サポートチーム(Respiratory Support Team: RST)を設立した.本稿はこれまで行ってきたRST活動を振り返り,各年のインシデントレポート(以下インシデント)の報告内容,発生件数,その特徴などから活動成果について検討した.

対象と方法

1. インシデントの報告システムについて

当院のインシデントは「セーフマスター」というシステムを使用し,電子カルテ端末から入力している.レポートは「基本項目」「内容分類」「種類と物品」「発生場面」「事例の内容」「要因・記述」で構成される.事象レベル,報告者,発生日時・場所,患者情報,事例の内容,医療者要因,患者要因,環境要因などを入力し,医療安全管理室と部署のリスクマネージャー(部長,看護師長など)に送信する.医療安全管理室では事象レベル,マニュアルとの関係,事象の内容等を確認し必要に応じて更に情報を収集,重要な報告についてはカンファレンスで対策が検討される.

2. 集計と検定の方法

本研究は当院単施設の後ろ向き研究である.2014年から2017年までの当院インシデントから人工呼吸器,挿管チューブ,気管チューブ,気管カニューレを検索用語として人工呼吸器関連のインシデントを抽出した.報告内容から呼吸器本体,チューブ関連,薬剤関連,その他に分類した.予定外抜管インシデント数とその他のインシデント数との関係性を調査するためにχ2検定を行った.さらにどの年のインシデント数に特徴が見られるかを明らかにするために残差分析を行った.調整済み残差の絶対値が1.96以上の場合に有意と判断した.解析はSPSS Statistics ver 25(IBM, 2017)を使用し,有意水準は5%とした.

3. RST活動のまとめ

RSTは院内の委員会として医師,看護師,理学療法士,臨床工学技士(以下,ME),歯科衛生士,事務担当職員で構成されており,主たる活動は週1回の病棟ラウンドである.安全管理,人工呼吸器離脱,合併症予防などの観点から各職種が評価,提案を行い病棟スタッフに還元している.ラウンド件数の推移を図1に示す.ラウンド数は増えてはいないが呼吸ケアチーム加算算定率は増加しており,一般病棟における早期の介入が増えたと考えられた.理学療法士の視点からふり返ると,従来人工呼吸器装着患者はリハビリテーション(以下,リハ)の導入が遅れていた.呼吸器装着患者の理学療法処方件数は2010年は25件であったが,RSTを開始した2011年は29件,2012年は54件,2013年は44件と増加傾向を認めた.人工呼吸器装着中から行う早期リハの重要性が広まって来たものと思われた.また30°以上の頭部挙上についても,RST活動開始以降は遵守されてきている.その他の活動としては,院内を対象とした研修会(鎮静,口腔衛生,挿管チューブの固定,呼吸リハなど)を隔月で開催し,外部講師を招いたRSTセミナーを年1回開催している.また院内の他チーム(医療安全管理室,感染対策チーム,栄養サポートチームなど)と協働して活動している.今回は医療安全管理室との協働で人工呼吸器に関連するインシデントの変遷をまとめ,そこからRST活動の成果について考察した.

図1

RSTラウンド件数の推移

平成24年~平成29年までのRSTラウンド件数と加算数の推移

結果

2014年から2017年の全インシデントはそれぞれ年間1434, 2041, 2138, 2448件であった.そのうち前述の検索用語で抽出した人工呼吸器関連のインシデントは28(2.0%),58(2.8%),55(2.6%),44(1.8%)であった(表1).

表1 インシデント報告数
2014年2015年2016年2017年
全インシデント1434204121382448
人工呼吸器関連28585544

2014年~2017年の当院インシデント報告数(全インシデントと人工呼吸器関連)

報告者別で見ると,全インシデント,人工呼吸器関連ともに看護師からの報告が多く各年70~90%を占めた.MEからの報告は全インシデントでは1%にとどまるが,人工呼吸器関連では7%と看護師に次いで多いという特徴が見られた(図2).

図2

報告者職種別インシデントレポート

2014年から2017年までの全インシデントレポートと人工呼吸器関連インシデントの報告者職種別

インシデントの内容を呼吸器本体,チューブ関連,薬剤関連,その他の項目で比較すると,2014年はほぼ同数であったが,2015年以降は呼吸器本体とチューブ関連が80~90%を占めていた(図3).呼吸器本体の内訳は設定間違いや誤接続など多岐にわたり,加温加湿器の切り忘れなど電源に関するものが目立った(図4).チューブ関連の内訳は図5に示す.2014年は予定外抜管が全てであったがその後割合は減少傾向であった.予定外抜管とそれ以外のインシデント数に関してχ2検定を行った結果p=0.03と独立性を認めた.残差分析を行ったところ,予定外抜管インシデントの報告数は2015年で有意に多く(調整済み残差:2.2),2017年で有意に少ない事が判明した(調整済み残差:-2.7)(表2).薬剤関連の報告は,2014年には鎮静薬等の過剰投与や未投与が報告されていたが2015年以降は大幅に減少した.

図3

人工呼吸器関連インシデント内訳

図4

呼吸器本体インシデント内訳

図5

チューブ関連インシデント内訳

表2 予定外抜管とそれ以外のインシデントとの独立性の検定
2014年2015年2016年2017年
予定外抜管以外件数1434202121382448
予定外抜管件数920167
調整済み残差-0.12.2*0.7-2.7*
*  :p<0.05

考察

2010年に呼吸ケアチーム加算が導入されて以降,各病院でRSTの設立が進んでいるがその活動は多様である.RST活動が安全な呼吸療法に直接寄与するとした報告はないが,春田らは2RST発足後インシデント数が増加したことを,危機意識が向上し細かなインシデントにまで気付くようになった結果だとしてRST活動の成果と捉えている.そこで今回,当院でもインシデントの変遷からRST活動の評価を試みた.

全インシデントレポート数は徐々に増加しており,小さなことでも報告する土壌が根付いて来ていることをうかがわせる.人工呼吸器関連のインシデント数は全インシデントの2~3%で推移し大きな変動はなかった.報告者別では大多数が看護師からであるが,人工呼吸器関連では全インデントと比較しMEからの報告割合が多かった.MEはRSTラウンド以外にも毎日人工呼吸器のラウンドを行っており,専門的視点から点検することで看護師や他職種が見落としがちなインシデントに気づくためと考えた.一方他の職種からの報告内容は,多岐にわたり年ごとの変化はみられなかった.ME以外の職種の人工呼吸管理に対する関心の低さを示している可能性もあり,さらに啓蒙を進めていく必要があるかもしれない.

インシデントの内容別では,2014年は呼吸器本体,チューブ関連,薬剤関連,その他とそれぞれ同程度見られたが,2015年以降は呼吸器本体とチューブ関連が大部分を占めるようになった.薬剤関連の報告では,鎮痛鎮静薬や昇圧薬の誤投与などがみられたが,医療安全管理室主導で手順の見直しを行いダブルチェックや認証器具使用の徹底をはかったこと,また研修会やラウンドを通して適切な鎮静・鎮痛について意識が向上したことが減少につながったと考えた.呼吸器本体のインシデントは設定間違いや接続関連など様々であるが,本体及び加温加湿器の電源の入れ忘れ,切り忘れが注意を引く.最近の呼吸器本体にはバッテリーが内蔵されており,移動時など一時的に電源コードを外しても使用可能で,その後に電源コードを接続し忘れた事例や,延長コードに電源を接続したが延長コードが電源に接続していなかった事例などがある.加温加湿器に関しては,その電源とスイッチは本体とは別であるので,本体のみ動作確認して加温加湿器まで注意がいかないことが原因と考える.こういったインシデントは,MEが発見し報告している.幸い呼吸器本体が作動していなかったという重大事象には至っていないが,MEが発見するまで時間を要した場合重大なインシデントになりうる事例である.今後は,チェックリストを写真付きに改定するなど引き続き多職種への注意喚起を行うことで早期発見やインシデントを防ぐことが重要であると考えた.

チューブ関連のインシデントでは2014年はすべて予定外抜管の報告であったが,2015年以降その割合は減少している.予定外抜管は生命維持に直結する重大なインシデントである.その対策として適切な鎮静・鎮痛とチューブ固定の指導を行った.渡邉らは3,目標鎮静深度の明確化と共有化を図ることで適切な鎮静管理が可能となり,自己抜管が減少したと報告している.当院では,RSTラウンド時にRichmond Agitation-Sedation Scale(RASS)を用いて鎮静・鎮痛を評価し,使用する薬剤やその量など適切な管理を提案した.またRST研修会でも鎮静・鎮痛をテーマに取り上げた.事故抜管対策として,チューブ固定方法は各病棟で様々であったが,ラウンド時にその場で指摘し標準的な方法で固定し直した.院内の固定方法統一を徹底するため,模型を使用した実技を交えたRST研修会を開催した.体位変換時のチューブ逸脱予防として,体位変換時は必ずチューブ類を管理するスタッフとともに行うようマニュアルを作成し,リハビリの際も同様にリハスタッフ単独で行わず,看護師と協働で離床するようにしている.このような活動が予定外抜管の減少に寄与したものと考察した.

鎌田らは4人工呼吸管理では,現場スタッフを含めたチームワークが必要であり,RSTはチームワークの率先垂範の役割を担うと述べている.当院でもRSTの活動によって,人工呼吸管理における安全なチーム医療を啓蒙している.また2018年のRSTセミナーでは,多職種協働での人工呼吸機離脱シミュレーションを行なった.多職種で意見交換し学ぶことは,専門職による視点を共有することで職種単独では考えられなかったこと,気づかない視点などを改めて学ぶことが可能であり,より協働したチーム医療につながると考えた.

まとめ

これまでのRST活動をまとめ,医療安全管理室と協働し,人工呼吸器関連のインシデントから活動の成果について検討した.様々なインシデントの中で挿管チューブの予定外抜管に注目,チューブ固定や鎮静・鎮痛についてラウンド時の直接指導やRST研修会で取り上げたことが,予定外抜管の減少に寄与したと考えた.

備考

本論文の要旨は,第28回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2018年11月,千葉)で発表し,学会長より優秀演題として表彰された.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
  • 1)  春田良雄:呼吸サポートチーム.機器・試薬 34: 699-702, 2011.
  • 2)  春田良雄,市橋孝章,小山昌利,他:「人工呼吸器安全使用のための指針 第2版」とRSTは呼吸療法の安全にいかに寄与するか?.人工呼吸 29: 31-37, 2012.
  • 3)  渡邉恵理,岩永由美,畑中哲雄,他:集中治療における自己抜管回避のための鎮静スケールを活用した鎮静管理.日臨救急医会誌 15: 514-518, 2012.
  • 4)  鎌田亜紀,亀井亮太,南海由寛,他:当院における呼吸サポートチーム(respiratory support team)の活動課題の検討.人工呼吸 33: 188-190, 2016.
 
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