日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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セルフマネジメントの継続を支える看護
今戸 美奈子
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2020 年 29 巻 1 号 p. 24-27

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要旨

セルフマネジメントとは,慢性疾患患者が病気とともに生活するための日々の仕事や務めであり,治療や病気に応じた療養法を適切に続けること,日常の活動や役割を保つこと,治療や療養により生じる様々な感情と付き合うことが含まれる.慢性呼吸器疾患患者の場合,疾患の進行や息切れの増強に応じて,吸入薬による治療に加えて呼吸リハビリテーション,在宅酸素療法などの治療や療養法を適切に毎日行い,普段の役割や活動の維持,感情の調整が必要とされるが,実際には難しいことも多い.例えば,在宅酸素療法を行う患者が実際の生活では酸素を処方通りに使用していないといった状況は少なくない.患者がセルフマネジメントを継続していくことを支えるためには,患者個々の病気や生活の体験を十分に理解し,その人の目指す生活のあり方を捉えた上で具体的なマネジメント法を話し合う等の細やかな支援が重要である.

緒言

慢性疾患患者は,日々自らの病気や症状と付き合いながら生活していくために様々なセルフマネジメントを行っている.そのセルフマネジメントをより適切な内容や方法で実践・継続していくためには,医療者による支援は欠かせない.医療者により定められた治療や療養法に従うようコンプライアンスを求めるのではなく,患者自身がより個々の健康を最大限にするというダイナミックな意味を含むセルフマネジメントを継続していくための支援について,事例を紹介しながら概説する.

慢性呼吸器疾患患者のセルフマネジメント

慢性疾患患者にとってセルフマネジメントとは,病気とともに生きていく上での生涯にわたる仕事や務め(task)と言われる1.その仕事や務めには,①服薬などの治療,病気に応じた特定の療養法を続けるといった医学的管理,②生活上の役割や行動を保つ,あるいは調整すること,③慢性的な状況における様々な感情に上手く対処することの3つが含まれる.慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD)患者の場合,禁煙やワクチン接種,気管支拡張薬の吸入等の薬物療法,身体活動性の維持,呼吸リハビリテーション,在宅酸素療法など様々な治療や療養法を継続していくこと,息切れとともに普段の生活活動や役割・習慣を保つよう調整すること,症状や体の変化,治療に伴う感情の変化に上手く対処していくことがセルフマネジメントとして必要となる.これらのセルフマネジメントは,診断時から病状が進行するにつれて新たな治療や療養法が上乗せされ増えていくことにより,より複雑なものとなっていく.また,機能の低下や合併症の出現に伴い,それまで続けていた療養法を修正せざるを得ない状況もあり,困難に直面することが多い.そのため,慢性呼吸器疾患患者のセルフマネジメントへの支援は,患者それぞれの病期や経過の特徴を理解した上での支援が不可欠となる.

COPD患者の場合,セルフマネジメントに関する教育介入により,健康関連QOLの改善や入院回数の減少といった効果が示されている2.しかしながら,これらの介入試験においてセルフマネジメントに関する教育介入の内容は様々であり,また,教育を受けた内容を適切に実行している対象者が少ないことも指摘された2,3.そこで2016年にCOPDのセルフマネジメント介入の定義が提案され,その中でセルフマネジメントの最終的なゴールは,a)身体的な健康を最適化し維持すること,b)日常生活における症状や機能障害を減らし,情動的なwell-being,社会的なwell-being,生活の質を向上させること,c)医療専門職者や家族,友人,地域と効果的な協力関係を確立することと示された4.患者個々の病期や経過により具体的なゴールの内容は異なるが,セルフマネジメントを支援する方向性として,医療職者は個々の患者が目指す生活のあり方を捉えた上で,最適化するように関わることが重要といえる.

セルフマネジメントを継続する支援の実際

1) 支援の場としての看護外来

セルフマネジメントの教育や支援を行う場は,増悪による入院時に行われることもあるが,在宅や外来の場は,患者の普段の生活状態が捉えやすいため,より重要と考える.当院では,慢性呼吸器疾患患者の療養生活の支援として呼吸器センター看護外来を2014年に開設した.在宅酸素療法導入後の患者等を対象として,個別にセルフマネジメントの継続への支援を行っている.具体的な支援内容の項目としては,自宅での酸素や呼吸器の管理,増悪時の対処を含む体調管理,服薬,息切れの対処,日常生活の動作法,身体活動や運動,栄養,ストレス対処,在宅支援調整等に関して,患者個々の生活状況を捉えながら適切に継続するための具体策を話し合いながら実行できるよう支援している.2016年4月から2017年10月に看護外来で支援を提供したCOPD患者97名,延べ533件の支援内容を先に述べた項目別に集計すると,1人1回の介入あたり平均6.2項目の支援が行われていた.この結果は,外来通院中のCOPD患者が,体調管理や息切れの対処,酸素や呼吸器の管理,服薬など病気に関連したセルフマネジメントのみならず,ストレス対処などの心理社会的側面も含めた多面的な介入を必要としている状況の一端を表していると考えられた.セルフマネジメントを適切に継続していくためには,まずは支援が提供できる場や看護外来等のシステムを整えることも重要である.

2) 在宅酸素療法を適切に継続するための支援例

在宅酸素療法は,慢性呼吸不全患者が行うセルフマネジメントの中で,適切な継続が難しい治療の一つである.長期酸素療法を行う患者の調査において,適切なアドヒアランスの患者(酸素吸入を1日15時間以上行っている)は45-70%5と報告されている.また,本邦の在宅呼吸ケア白書では,外出時は「携帯用酸素が重たい」,「人目が気になる」等の理由で酸素吸入をしない6という患者の意見も示された.これらの在宅酸素療法のアドヒアランスに関する報告から,医療者は患者が日常生活で処方通りに酸素吸入を継続することには様々な困難があることを理解しておく必要があるといえる.また同時に,患者は酸素療法に伴う生活範囲の制限,酸素への依存の恐怖など様々な障壁を経験しながらも,酸素を使用した生活に適応しようと挑戦している7といった患者の体験も支援する上で捉えておくことが重要である.

(1)事例紹介:A氏,70歳代前半,男性,COPD,元会社員

A氏は,8年前にCOPDと診断され気管支拡張薬を開始,1年前に息切れの増強と労作時の低酸素血症を認め,在宅酸素療法が導入されていた(安静時・睡眠時 0.5 L/分,労作時 2 L/分).ある定期通院日,看護師は,酸素ボンベを持っているもののカニュラを付けずに歩いているA氏を見かけたので,体調を尋ねつつ酸素について話しかけたところ,次のような反応であった.

体調は同じ,変わりないですよ.酸素は…あまり使っていません(少し怒り気味).病気は治らないから,酸素を吸っても一緒かなと思って.酸素は人目がつかないところで,家でじっとしているときに吸っている.動くときは邪魔くさくて,酸素をつけていない.息は動いたら苦しいけど仕方ない.

(2)アセスメントと介入のプロセス

在宅酸素療法導入後1年経過しているA氏であったが,処方された酸素流量を使いながら生活することができておらず,労作時の息切れや低酸素血症は改善されていない状況であった.看護師として,A氏が上手く病気と付き合いセルフマネジメントを行いながら生活ができるよう支援を行うことを提案し,同意を得て以下の介入を開始した.

①A氏の体験と病状のアセスメントを行う

A氏の臨床所見や重症度等から病態のアセスメントを行うとともに,A氏の病気や酸素療法に伴う体験,どのように自分の病状を捉えているかについて聴いた.A氏は,「病気が治るという治療であれば努力して行うが,酸素療法は努力しても意味がないように感じる」,「動くと苦しいのはどうにかならないかと思うが,酸素を付けるのは見た目が悪い」等と考えていることを語った.これらの発言から,A氏はCOPDという病気や酸素療法に関する理解が曖昧であり,セルフマネジメントとして何に取り組むとよいか明確になっていない,また取り組むことの意味が見出せていない,酸素療法に関しては外見の変化に伴う心理的負担も大きいといった課題があるために,酸素療法が適切に実行できていないと判断された.同時に,息苦しさに関しては何かできるのであれば努力しようとする思いは持っているという強みも見出された.

②体験をもとに身体の理解を促す

A氏が体験している息苦しさ等の主観的な感覚を手がかりとして,疾患の特徴や酸素吸入が必要とされる身体状態の理解を促す関わりを行った.歩行時の息苦しさの感覚と経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)や脈拍といった客観的指標のすり合わせを一緒に行い,その際にA氏が表出する疑問に答える形で疾患や息切れに関する知識の補強を行った.また,A氏自身がすでに行っているマネジメントとして,自宅内で酸素吸入しているときの身体の感覚や変化を振り返り,酸素吸入により身体にどのような変化が起こっているのかの解釈を一緒に考えるよう関わった.

③セルフマネジメントの意味づけを行う

酸素療法だけではなく,A氏がすでに行っているセルフマネジメントとして,気管支拡張薬の吸入や定期的な通院,ワクチン接種などがもたらす効果や継続していることの意味を言語化して伝えた.そして,これらの治療をA氏が自ら継続していることは,病気を完全に治すわけではないが,現在の身体の機能をよりよい状態に保ち,A氏なりの普通の日常生活を維持することに役立っていることを話した.こうしてA氏が病気と付き合いながら生活する上で目指す状態を共有した.この過程の中で,酸素吸入下ではより長い距離を歩くことができるという評価も行いながら,A氏の目指す生活のために酸素療法がどのような価値を持った治療であるか,実感できるように関わった.

④感情の調整を支える

A氏は,酸素療法について「見た目が悪い」と思いながらも酸素ボンベを持って外来に来たり,自宅内では酸素を吸ったりとA氏なりの努力をされていたので,その努力を労った.また,酸素療法に関して否定的な感情は,特別なことではなく,多くの患者が抱く反応であることを保証した.外見に関する思いには,カニュラが目立たないような具体策の情報提供を行った.先に述べた①~③の介入の中で起こる酸素療法への感情の変化に対して,一貫して肯定的な態度で対応し,A氏が安心して自らの思いを話すことが出来る関係形成に努めた.

(3)A氏の行動の変化

A氏への介入は,毎月の外来受診時に1回約30分程度,実施した.介入開始後,A氏は自分の身体の反応に関心を持ち始め,自宅でのSpO2のセルフモニタリング結果を日誌に記載して外来へ持参するようになった.その結果を看護師と振り返り話し合うことで,労作時のSpO2低下や頻脈といった身体の変化を納得して受け止め,入浴や散歩時に酸素吸入を試すようになった.自らの意志で酸素吸入を行い,その効果を実感する経験を繰り返すことにより,徐々に酸素吸入を行う場面は増えていった.介入開始から半年後,A氏は酸素ボンベを持って散歩に行くことが習慣となり,自らが目標とした電車で友人と外出する行動も達成できた.これらの体験を通して,「酸素があるから出かけることができる」と,酸素が自分自身の生活にとって効果的な資源であるとの発言が聞かれるようになった.A氏は,その後も概ね処方通りの酸素吸入が安定して継続できている.

(4)行動の変化・維持をもたらしたセルフマネジメントのスキル

A氏の事例において,在宅酸素療法に関するセルフマネジメントが適切に実行・継続できるように支援した方法は,問題解決のスキルを基盤としたものである.セルフマネジメントのスキルには,問題解決,意思決定,資源の活用,患者―医療者のパートナーシップ形成,実際の行動に取り組むこと,自分なりのマネジメントに仕立てること,の6つがあるが,最も中心となるものは問題解決のスキルである(表11.問題解決は,問題の本質が何かを明らかにして目標を設定し,解決策を洗い出し,実行・評価するプロセスである.セルフマネジメントは,日常生活の様々な出来事と密接に関連しているため,患者自身で色々な状況や課題を上手く解決し対処していく力を高めることが重要となる.A氏の事例においては,看護師はA氏が自らの症状や身体的な状態を適切に認識し,解決する方法を模索し,実行し,その結果を自ら評価して継続するかどうかを選択するといったプロセスを辿ることができるよう支援した.やや時間は要したものの,A氏自身で納得して酸素吸入を行うという行動を選択したことにより,結果として在宅酸素療法が適切に継続されることが可能となったと考える.また,この問題解決のプロセスを進める上で,実際の行動に取り組む際には,自信がないと行動には移せないので自己効力感を高める支援も不可欠である.ただし,問題解決に取り掛かる際,その問題が患者にとって重大な影響を及ぼしている場合,上手く解決のプロセスが進まないこともある.在宅酸素療法など新しい治療が導入された際,患者は酸素がなければ生きていけない状態になったとのショックから心理的危機状態に陥りやすい.怒りや悲しみ,抑うつといった反応を経て,新たな治療に取り組もうと意欲が出てくるまでに時間がかかるケースも経験する.そのため,セルフマネジメントの支援に関わる医療者は,障害受容に関する心理的な反応のプロセスも念頭に,患者の体験を十分に受け止め,患者の力を見守りつつ支援していくことが大切である.

表1 セルフマネジメントのスキル
◆ 問題解決:問題や課題の状況を認識し,解決,実行,評価していくプロセス
◆ 意思決定:十分な情報に基づき,日々の様々な行動を決めること
◆ 資源の活用
◆ 患者―医療者とのパートナーシップ形成
◆ 実際の行動に取り組む(自己効力感が必要)
◆ 自分なりのマネジメントに仕立てること(self-tailoring)

文献1をもとに著者作成)

まとめ

セルフマネジメントは実行や継続が難しいものであり,その支援は患者の体験を聴くことから始まる.COPD患者は,症状や病状の進行に伴いセルフマネジメントが多様化・複雑化していく.医療者は,患者が目指す生活の状態を共有し,上手くセルフマネジメントが継続されるよう患者自身の問題解決のスキルを高めることが重要である.セルフマネジメントの支援は,その人の行動をよりよいものに「変える」支援ではなく,「変わるように整え,待つ」支援ではないかと考える.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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