間質性肺炎には種々の疾患が含まれており,原因や病理組織パターンによって臨床経過や治療反応性が異なる.薬物療法の導入にあたり,治療反応性と副作用のリスクを勘案し,治療に関する最新のガイドラインや手引きを利活用し,十分なインフォームドコンセントの下で,総合的に判断すべきである.特発性肺線維症(IPF)では,抗線維化薬が中心的役割を果たすものと考えられるが,現時点で治癒させる薬物はなく,今後さらなる新薬の開発・治験が必要である.一方,IPF以外の間質性肺炎では,一部に自然寛解する場合もあるが,有症状例や呼吸機能低下例では積極的に薬物療法(ステロイドや免疫抑制薬等)の導入を検討すべきである.
間質性肺炎とは,肺間質を炎症や線維化病変の基本的な場とするびまん性肺疾患で,原因を特定できる間質性肺炎(膠原病,じん肺,過敏性肺炎,薬剤性など)と現時点では原因を特定できない特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias; IIPs)とに2大別される1,2).間質性肺炎が疑われる場合には,詳細な病歴聴取,身体所見・検査所見の評価を行うとともに,発症様式や臨床経過などの情報も加味し,間質性肺炎の原因を同定することが重要である.また,原因が同定できずIIPsと診断した場合には,予後不良である特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis; IPF)とIPF以外のIIPsでは治療目標・戦略が異なるため,集学的かつ総合的な議論による診断(Multidisciplinary discussion; MDD)を行い,治療方針を決定する2,3).
IIPsの薬物療法に関しては,2016年に刊行された「IIPs診断と治療の手引き改訂第3版」2)で詳細に解説されている.IPF以外のIIPsでは,通常ステロイドや免疫抑制薬による薬物治療を行う.一方IPFでは,悪化・進行する症例に対して抗線維化薬であるピルフェニドンやニンテダニブによる治療が行われる.国内外のガイドライン4,5)における2つの抗線維化薬の推奨は,「慢性安定期のIPF患者に対して抗線維化薬(ピルフェニドン・ニンテダニブ)投与を行うことを提案する(推奨の強さ:弱い推奨,エビデンスの質:中)」であるが,どのような患者に,いつから開始し,いつまで続けることが医療経済面を含め最も効果的であるかについては,現時点では不明である.また,IPFや非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitial pneumonia; NSIP)の急性増悪時には,ステロイドパルス療法等が行われる.
本ワークショップでは,「IIPs診断と治療の手引き改訂第3版」2),および2017年2月に刊行されたわが国の「IPFの治療ガイドライン2017」5)を中心に,IIPsにおける最新の薬物療法について解説した.
IIPsの治療目標では,臨床経過や予後などの疾患の挙動(disease behavior)を考慮し,治療目標・モニタリング戦略(表1)が掲げられ2),治療目標は臨床的特性に応じて原因除去から疾患進行の抑制まで,幅広い設定となっている.
疾患の挙動(臨床経過) | 治療の目標 | モニタリングの方法 |
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可逆性あり & self-limited(例:RB-ILD) | 可能性のある原因除去 | 疾患の寛解を確認するため短期間(3~6ヵ月) |
可逆性あるが悪化のリスクあり(例:NSIPの一部,DIP,COP) | 初期の反応性をみて,有効な長期治療を行う | 治療反応性確認のため短期間観察 効果が持続するか確認するため長期間観察 |
病気は持続するも安定(例:NSIPの一部) | 状態の維持 | 臨床経過を評価するため長期間観察 |
進行性,安定化する可能性があるが非可逆性(例:fibrotic NSIPの一部) | 安定化 | 臨床経過を評価するため長期間観察 |
治療にもかかわらず,進行性,非可逆性 (例:IPF,fibrotic NSIPの一部) | 進行を遅くする | 臨床経過を評価するため,移植あるいは緩和の要否を評価するため長期間観察 |
文献2)より引用
IIPsの治療戦略は,最も頻度の高いIPFとそれ以外の疾患(non-IPF)で大きく異なる.IPF以外の疾患では,通常ステロイドや免疫抑制薬による薬物治療を行う.一方IPFでは,悪化・進行する症例に対して抗線維化薬であるピルフェニドン(ピレスパ®)やニンテダニブ(オフェブ®)による治療が行われる.また,IPFやNSIPの急性増悪では,ステロイドパルス療法等が行われる.
1. 特発性肺線維症(IPF)ステートメント(推奨の強さ) | エビデンスの質 | |
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CQ1 | ステロイド単独療法は行わないことを強く推奨(1) | 非常に低(D) |
CQ2 | ステロイドと免疫抑制薬の併用は行わないことを強く推奨(1) | 低(C) |
CQ3 | 大多数の患者にはNAC吸入単独療法を行わないことを提案するが,少数の患者にはこの治療法が合理的な選択肢である可能性がある(2) | 低(C) |
CQ4 | ピルフェニドンを投与することを提案する(2) | 中(B) |
CQ5 | ニンテダニブを投与することを提案する(2) | 中(B) |
CQ6 | 大多数の患者にはピルフェニドンとNAC吸入を行わないことを提案するが,少数の患者にはこの治療法が合理的な選択肢である可能性がある(2) | 低(C) |
CQ7 | 委員会はピルフェニドンとニンテダニブの併用に関する推奨は,現段階では結論づけない |
文献5)より引用
ステートメント(推奨の強さ) | エビデンスの質 | |
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CQ10 | パルス療法を含めたステロイド療法行うことを提案する(2) | 非常に低(D) |
CQ11 | 免疫抑制薬を投与することを提案するが,少数の患者にはこの治療法が合理的な選択肢でない可能性がある(2) | 低(C) |
CQ12 | 好中球エラスターゼ阻害薬の投与を行わないことを提案するが,少数の患者にはこの治療法が合理的な選択肢である可能性がある(2) | 非常に低(D) |
CQ13 | PMX療法を行わないことを提案するが,少数の患者にはこの治療法が合理的な選択肢である可能性がある(2) | 低(C) |
CQ14 | リコンビナントトロンボモジュリンを投与しないことを提案するが,少数の患者にはこの治療法が合理的な選択肢である可能性がある(2) | 低(C) |
文献5)より引用
<慢性期>(表2)
①ピルフェニドン
ガイドラインにおける推奨は,「慢性安定期のIPF患者に対してピルフェニドン投与を行うことを提案する(推奨の強さ2 エビデンスの質B)」である.国内外の5つの臨床試験を用いた統合解析やメタ解析6,7)では,IPF進行の抑制(努力肺活量(FVC)の経時的悪化抑制)とともに全死亡・IPF関連死亡の減少効果も示されている.主な副作用は食欲不振・腹部不快感・悪心,光線過敏症(日焼け),肝機能障害で,消化器症状のほとんどは投与開始から3ヶ月以内に発現する.実臨床では,ピルフェニドンの有効性と有害事象とのバランスを見極めながら治療を行うことが重要で8),1回 200 mg,1日3回(毎食後)から開始し,約2週間かけて1回 400~600 mg(1日 1,200~1,800 mg/日)まで増量し,消化器症状には,モサプリドや六君子湯,プロトンポンプ阻害薬,ヒスタミンH2受容体拮抗薬などの併用やピルフェニドンの減量を考慮する.また,光線過敏症対策には,帽子・日傘などによる紫外線遮断,紫外線遮断薬の塗布を行うが,ほとんどの場合対処可能である.
②ニンテダニブ
ガイドラインにおける推奨は,「慢性安定期のIPF患者に対してニンテダニブ投与を行うことを提案する(推奨の強さ2 エビデンスの質B)」である.国際共同で行われた3つの臨床試験の統合解析9)では,ニンテダニブのFVCの経時的低下抑制効果,初回急性増悪までの期間延長効果,QOLの改善効果とともに全死亡の減少効果が示されている.主な副作用は下痢,悪心・嘔吐,肝機能障害で,注意すべき副作用は血栓塞栓症,血小板減少,出血,消化管穿孔などである.下痢,悪心・嘔吐に対しては,補液や止瀉薬,制吐薬を投与し,効果不十分の場合には本剤の減量(1回 100 mg,1日2回)や中断を行い,改善すれば再増量を行う.高度な下痢が続く場合には投与を中止する.肝機能障害(ASTやALTが基準値上限の3倍以上)で,肝障害の徴候や症状を伴う場合にはただちに中止する.肝障害の徴候や症状を伴わない場合には減量(1回 100 mg,1日2回)や中断を行い,改善すれば再増量を行う.また,出血リスク(出血性素因や抗凝固薬使用中など)を有する場合には,適応を慎重に検討すべきである.
<急性増悪時>(表3)
①ステロイドパルス療法
ガイドラインにおける推奨は,「パルス療法を含めたステロイド療法行うことを提案する(推奨の強さ2 エビデンスの質D)」である.
②免疫抑制薬(エンドキサンパルス療法等)
ガイドラインにおける推奨は,「免疫抑制薬を投与することを提案するが,少数の患者にはこの治療法が合理的な選択肢でない可能性がある(推奨の強さ2 エビデンスの質C)」である.
その他の治療薬
③好中球エラスターゼ阻害薬
④リコンビナントトロンボモジュリン
⑤ポリミキシンB固定化線維カラム(PMX)
いずれの治療法も,ガイドラインにおける推奨は,「投与を行わないことを提案するが,少数の患者にはこの治療法が合理的な選択肢である可能性がある」である.
2. 非特異性間質性肺炎(NSIP)NSIPは,cellular NSIPとfibrotic NSIPの2つに分類され,実臨床では2つを区別し治療戦略を立てる2).cellular NSIPではステロイドの単独療法が選択され,fibrotic NSIPではその一部でステロイドの初期治療効果が良好であっても,経過中しばしば再燃を繰り返すことがあり,その場合にはステロイドと免疫抑制薬との併用を行う.その際には,ステロイドや免疫抑制薬の長期使用による副作用対策が重要である.感染症の誘発(とくに結核,真菌,サイトメガロウイルス,ニューモシスチス肺炎など),消化性潰瘍,糖尿病,骨粗鬆症,ミオパチーなどが重要である.このような副作用が出現した際には,ベネフィット・リスクバランスを考慮した上で,ステロイドの継続,減量,あるいは中止を検討する.ステロイド投与が長期化する場合は,ニューモシスチス肺炎予防のためスルファメトキサゾール・トリメトプリムの投与を行い,また閉経後の女性,高齢者では骨粗鬆症や圧迫骨折を生じやすく,ビスホスホネートなどの投与が必要である.
3. 特発性器質化肺炎(COP)COPの自然軽快はまれで,多くはステロイド治療が必要であり,数週から3ヵ月以内の経過で80%以上の症例が改善するが,再発は高率に生じ,ステロイド量を 15 mg/日以下に減量した場合,あるいは治療中止後1~3ヵ月以内に再発することが多い.
4. 急性間質性肺炎(AIP)AIPは,一般的には治療抵抗性であり治療法は未だ確立されていないが,パルス療法を含むステロイドや免疫抑制薬を用いる.人工呼吸管理では,ARDSに準じた肺保護戦略として1回換気量の制限や高CO2許容換気などが行われる.
5. 剥離性間質性肺炎(DIP)DIPの治療は,禁煙とともにステロイド治療が行われる.しかし,一部の症例ではステロイド抵抗性で,まれに急性増悪することもある.
6. 呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD)RB-ILDは,ほぼ100%が現喫煙者である.治療はDIPと同様禁煙を行い,多くの場合改善するが,改善しない場合にはステロイド治療を行う.
わが国の指定難病であるIIPsの発症から死亡までの臨床経過は症例ごとに様々で,かつ予後予測も困難である.中でもIPFの多くは慢性進行性の経過をたどる.近年欧米では,抗線維化薬の登場により,IPFの早期発見・早期治療の重要性が指摘されている10).一方,わが国のIPF診療実態を踏まえると,IPFに対する抗線維化薬よる治療開始のタイミングは,無症状CT発見受診群と有症状受診群とに分けて考えるべきであると思われる11).有症状受診群では,予後不良因子の有無を評価し,軽症例でも治療開始を検討すべきである.一方無症状CT発見受診群では,初期評価を行った後に,軽症例では一定期間(3~6ヶ月間)の臨床経過を観察し,悪化・進行する場合に治療開始を検討することも1つの選択肢であると思われる.いずれの場合にも,担当医は十分な時間をかけて患者の価値観や希望について患者と話し合い,適切な治療方針を決定すべきである4,5).
坂東政司;講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム,塩野義製薬)