日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
NPPVのインターフェイスフィッティングと人工呼吸器条件とのマッチング
竹内 伸太郎石川 悠加
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2020 年 29 巻 2 号 p. 218-221

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要旨

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy; DMD)などの神経筋疾患患者の慢性呼吸不全の治療は,非侵襲的陽圧人工呼吸(noninvasive positive pressure ventilation; NPPV)が第一選択である1,2,3,4,5,6.神経筋疾患は呼吸不全の進行に伴い,NPPV使用時間を睡眠時に加えて昼間の覚醒時に延長することもある7,8,9.終日までのNPPVにより,気管切開を回避してDMD患者の延命が可能となってきており7,10,11,12,13,そのノウハウは他の神経筋疾患にも応用が可能とされる.神経筋疾患の経験は,重症心身障害児(者)に対する呼吸ケアにも役立てられる14.これらの小児期発症のNPPVの効果では,インターフェイスと人工呼吸器条件を適切にする工夫と技術が求められる15.インターフェイスは,快適性とエアリークコントロールを要する.呼吸筋力が低下した神経筋疾患患者において,現状の携帯型人工呼吸器では,睡眠時のトリガの設定が困難なことがあり,REM期に上気道の狭窄を伴い易いことが知られている16.これらに対して,睡眠時に呼気弁を用いた閉鎖回路でのターゲットボリューム活用の効果が検討されている16.また,終日NPPV例に睡眠時と覚醒時の複数の条件設定を使い分ける方法がある.

小児の神経筋疾患の呼吸管理のスタンダード

神経筋疾患に関連するガイドラインとして,英国呼吸器学会(British thoracic society: BTS)から「筋力低下のある小児の呼吸マネジメント」ガイドライン3,カナダ呼吸器学会から「小児在宅人工呼吸ガイドライン」17(Can J Respir 2017; 1: 7-36)などが公表されてきた.

重症心身障害児(者)が,急性期病棟からの退院を余儀なくされているが,呼吸ケアの最適化には,BTSガイドラインの神経筋疾患のエビデンスにもとづいたアプローチと評価指標が示唆されている14

疾患別では,脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy: SMA)18,DMD1,先天性筋ジストロフィー19,先天性ミオパチー20などの国際ガイドラインが公表されている.

ドイツの在宅人工呼吸ガイドライン

2018年に公表された「慢性呼吸不全治療における気管切開人工呼吸およびNPPVに関するドイツのガイドライン」21,22には,増加している小児の神経筋疾患の特徴を成人と比べて示し,特別な事項も明記されている.「気管切開は,あらゆるNPPVの選択肢を使い尽くした後に限定して行う.成長した後に気管切開を閉鎖する可能性を見極める」ことが勧められている.理由として,「①成人よりチューブ関連の緊急事態が頻回に起こること,②気管切開は発語や嚥下を妨げ,幼稚園や学校でケアの質が保障された家族や小児専門看護師の緊密な観察とサポートを要し,発達の重大な障害になること,③気管切開は子どものボディ・イメージに明らかに影響し,周囲の関係者にかなりの負担になること」,が挙げられている.

インターフェイスについても述べられており21,22,「市販の鼻マスクは死腔が多くフィッティング不良のため,乳幼児や年少児では手作り鼻マスクが著しく増えている.また,顔が小さく顔面変形がある場合には個人用マスクの作成が必要である.顔面中央部の変形は,鼻マスクの圧迫が強いことで増強する.幼少期や筋疾患の児は緊急時(人工呼吸器の故障,停電,嘔気/嘔吐)に自身でマスクをはずせないため,口鼻マスクや顔マスクを避け,鼻マスク使用が推奨される(口からのエアリークが問題の場合は口鼻マスクを考慮).神経筋疾患などでNPPV使用者が成人へ移行する場合には境目なく専門性の高い熟練の全てが手渡されることが重要である」と記載されている.

NPPVの適応に関しては,「基礎疾患により判断されるものではない.閉塞性睡眠時無呼吸症候群,中枢性呼吸調節障害,慢性肺胞低換気,慢性および急性呼吸不全という呼吸機能障害の種類と程度により判断される」21,22.また,「しばしば言われている小児における協調性の欠如は経験あるセンターでは問題にならない.適応が的確で,好みに合わせて調整すると,大半の児は治療の効果を得て耐容し要求もする.児自身が症状の改善に気付くとさらに効果は増す」とされる21,22

神経筋疾患と重症心身障害児(者)における人工呼吸の特徴や原則は,「小児で長期の換気不全を認める疾患は複雑で多様な障害を持つため,専門的な多科多職種が関わるセンターで行う.医療的側面だけでなく,患者と家族の許容できるQOLと最大限の社会参加を目指す」とされる21,22

インターフェイス選定

当院は,小児期発症の神経筋疾患と重症心身障害児(者)の専門施設で240床を有する.そのうち34名の小児期発症神経筋疾患患者が療養中の病棟では,34名全例がNPPVである.夜間睡眠時に使用しているインターフェイスは,ネーザルマスクが8種類で30名,鼻閉対策のためフルフェイスマスク2種類を4名が使用している.慢性呼吸不全の進行により,20名が睡眠時に加えて昼間の覚醒時にもNPPVを延長使用している.覚醒時に使用しているインターフェイスは,ネーザルピロー6種類を13名,ネーザルマスク4種類を4名,マウスピース2種類を3名が使用している.インターフェイスの選択時には,夜間用ではエアリークが少なくフィットするもの,覚醒時用では会話や飲食そして視野と眼鏡使用を考慮した.特に覚醒時にNPPVを延長する際には,マウスピースが受け入れられ易く効果的であった.また,終日NPPVにおいては,覚醒時と睡眠時で圧迫部位が異なる複数のインターフェイスを使い分けることにより顔面皮膚トラブルを回避することが可能である9,23,24,25

夜間睡眠時のNPPV

近年,神経筋疾患において,NPPVが睡眠呼吸障害を引き起こす可能性が指摘された16.「トリガ不良,中枢性無呼吸,声帯閉鎖により,中途覚醒の増加,アドヒアランス低下,睡眠深度の不良を引き起こす.特に,声帯閉鎖は,上気道から下気道へエアが急激に入りPtcCO2が低下すると,過換気の防止や下気道の保護のために反射的に声帯が閉まる.そのため,NPPVの条件調整には,睡眠時の観察およびPtcCO2を含めたモニタリングから呼吸問題の特定とトラブルシューティングに熟練した専門スタッフを要する」.このため,閉鎖系回路を使用した量保障のモードの効果も示唆されている16.当院においても呼気弁付シングル回路によるターゲットボリューム活用例が増えてきた.

食事中のNPPV

食事中のNPPVは,呼吸仕事量の軽減により,口腔咽頭筋の筋力や耐久力が改善し,嚥下困難を軽減する7.それにより栄養状態をより良く維持するとされる.前述した当院神経筋疾患病棟において,20名がNPPV下で経口摂取を行なっている.その際には呼気弁付シングル回路で従量式調節換気従量式換気(volume control ventilation; VCV)を用いて,PEEPをOFFにしている.舌肥大と嚥下機能の低下により嚥下遅滞が問題になった例では,食事形態の変更の他に,食事中のNPPVに酸素を付加したり,呼吸回数と吸気時間を減らし嚥下に必要な呼気時間を十分に延長させ,減じた分時換気量は1回換気量を増やすことで補う(夜間睡眠時の実測送気量が 500~550 mLなら,食事時にはそれより多い 700 mLの1回換気量を設定する)などにより,NPPV下での経口摂取の継続と体重維持をしている(表1).これらの調整は,食事中の経皮PCO2/SpO2モニタリングを確認しながら行なっている.

表1 NPPV下での食事が再開できたDMD症例の睡眠時と食事時の人工呼吸器条件
【夜間睡眠時用】【食事用】
モードPCVモードVCV
PC above17hPa1回換気量700mL
PEEP0PEEP0
RR18RR16
Ti1.5Ti1.3
Rise time850
酸素付加なし酸素付加4L/min
ネーザルマスク使用ネーザルピロー使用

症例

以下に症例を紹介する.

症例1:DMD(25歳).睡眠時の経皮PCO2/SpO2モニタリング(TCM TOSCA®,RADIOMETER社,デンマーク)により経皮的炭酸ガス分圧(transcutaneous carbon dioxide tension: PtcCO2)で 45 mmHg以上の高値を認めた(表2).使用中のネーザルマスクは顔型に合わず,マスク周囲からのエアリークが多いため,よくフィットするネーザルマスクに交換した.人工呼吸器の設定条件は変更せず,インターフェイスだけを交換して再検査を実施した.結果,睡眠中のPtcCO2平均値は 15 mmHg低下(正常範囲より低値),最高値も 10 mmHg低下した.インターフェイスの選択およびフィッティングは重要で,慢性呼吸不全の定期検査においては,人工呼吸器の設定条件を調整する前に確認する必要がある.特に睡眠中のNPPV状態の看護師による経時的観察が求められると考える.

表2 A,B:インターフェイスがNPPV効果に影響を及ぼす
A.人工呼吸器条件
人工呼吸器設定条件
携帯型人工呼吸器
呼気弁付シングル回路
モード T
IPAP20 hPa
PEEP2 hPa
RR15 BPM
Ti1.6
Rise Time4
B.インターフェイス交換前後の経皮PCO2/SpO2モニタ値
エアリークが多いマスクエアリークが少ないマスク
SpO2 mean98.71%98.12%
PtcCO2 mean47.60 mmHg32.28 mmHg
PtcCO2 max53 mmHg43 mmHg
RR mean58.76 bpm53.00 bpm

症例2:肢体型筋ジストロフィー(52歳).終日NPPV.NPPVにより呑気をしやすく苦しいと訴える.呑気すると高炭酸ガス血症が増悪する.携帯型人工呼吸器の機種Aから機種Bに変更した.変更後の機種Bは,設定圧のIPAPを下げた状態でも機種Aに比べてPtcCO2が低下した(表3).人工呼吸器の設定条件は,使用する機種により大きく異なる.Rise timeやプラトー(フォールタイム)だけでなく,バイアスフロー,呼気の抜け具合なども機種によって異なっている.そのため,現在使用中の機種では十分な治療効果が得られない時でも,使用する機種のマッチングを考慮することは重要となる.

表3 人工呼吸器の機種変更によるNPPV効果の変化
変更前 携帯型A変更後 携帯型B
回路構成とモード呼気弁を用いたT呼気弁を用いたPCV
設定圧(IPAP/EPAP)16/0 hPa14/0 hPa
呼吸回数14回/分14回/分
睡眠時SpO2平均98.98%98.87%
睡眠時SpO2最低94%以下なし94%以下なし
睡眠時PtcCO2平均44.37 mmHg35.54 mmHg
睡眠時PtcCO2最高48 mmHg44 mmHg

おわりに

夜間睡眠時のNPPVは有効な換気ができ,昼間の覚醒時のNPPVは食事を含めた生活と活動のしやすさを考慮する.睡眠時と覚醒時,それぞれ最も適切と思われるインターフェイスと人工呼吸器条件のマッチングが求められる.今までは不可能だったことが,新型人工呼吸器や新たに追加された機能により,解決できることも増えてきた.神経筋疾患と重症心身障害児(者)において,様々なテクノロジーとテクニックを駆使することで,生活により密着した快適なNPPV継続に努めたい.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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