2020 年 29 巻 2 号 p. 304-310
本研究の目的は,多施設における慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者80名を対象とし,サルコペニアの有病率や臨床的特徴を調査することである.調査項目は,年齢,%1秒量,体格指数(BMI),脂肪量指数(FMI),膝伸展筋力,6分間歩行距離(6MWD),1日あたりの歩数,運動量,CAT(COPD Assessment Test),MNA(Mini Nutritional Assessment),10食品群チェックシートとした.結果,本研究のサルコペニアの有病率は30.0%であり,サルコペニア群は非サルコペニア群と比較し,%1秒量,mMRC息切れスケール,BMI,FMI,膝伸展筋力,1日あたりの歩数,運動量,MNA,10食品群チェックシートの得点には有意差を認めた.以上より,本研究のCOPDのサルコペニア患者は,疾患重症度,身体不活動,低栄養の要素すべての影響を受けていた.
サルコペニアの原因は,加齢により生じる一次性サルコペニアと,疾患,身体不活動,低栄養によって生じる二次性サルコペニアに分類される1).慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)患者は,労作時の息切れに伴う身体不活動による骨格筋の廃用や換気仕事量増大による消耗,呼吸困難に伴う食事摂取量の低下などにより,サルコペニアを発症しやすいと考えられる.サルコペニアは,フレイルの中核的病態であり運動障害のみならず身体機能低下をもたらし,日常生活の自立を著しく阻害するとともに,死亡率の上昇とも関係している2)ため,サルコペニアの予防と改善は重要であると考えられる.
サルコペニアの診断に関しては,2014年にAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)によりアジア人のための診断基準3)が提唱され,我が国でも2017年にサルコペニアに関する診療ガイドラインが策定されたばかりである.そのため,我が国におけるCOPD患者のサルコペニア合併に関する報告は少ない.
そこで本研究の目的は,多施設における外来COPD患者を対象に,AWGSの診断基準3)にてサルコペニアを診断し,サルコペニアの有病率や臨床的特徴を調査することとした.
対象は,2017年8月から2018年10月までの期間に,大垣市民病院および平松内科・呼吸器内科クリニックに外来通院中の,COPD診断と治療のためのガイドライン4)の診断基準を満たしたCOPD患者である.そのCOPD 患者の中から以下の条件を満たした場合に,本研究の調査対象に取り込んだ.①過去6ヵ月以内に増悪の病歴がなく,標準的医療により病状が安定している.②労作時の息切れなどの臨床的症状がある,③歩行能力に影響を及ぼす顕著な運動器・中枢神経系疾患を有していない,④本研究に関し,書面および口頭で説明し同意が得られた者.除外基準として,体内にペースメーカーなどの金属封入物がある者とした.80名が調査対象に取り込まれ,全例が全ての調査を完遂した.
2. 倫理的配慮大垣市民病院倫理委員会および中部学院大学倫理委員会(D18-003)の承認を得て行った.なお,対象者には研究の趣旨と内容について書面を用いて説明し,同意を得て行った.
3. 調査方法と項目通常診療の評価項目に体成分分析装置を用いた身体組成を追加して測定した.調査項目は,①身体組成,②呼吸機能,③呼吸困難感,④身体活動量,⑤歩行速度,⑥運動耐容能,⑦筋力,⑧健康関連QOL,⑨栄養状態とした.
1) サルコペニアの診断本研究では,AWGSの診断基準3)に従い,握力低下(男性:26 kg未満,女性:18 kg未満)または歩行速度低下(0.8 m/秒)を呈し,筋肉量減少[骨格筋指数(Skeletal Muscle Index; SMI);男性:7.0 kg/m2未満,女性:5.7 kg/m2未満]を呈する患者をサルコペニアと診断した.さらに,筋肉量が減少した患者を筋肉量減少群とした.
2) 身体組成身体組成の評価は,生体電気インピーダンス法(Bioelectrical Impedance Analysis; BIA法)にて,SMI,脂肪指数(Fat Mass Index: FMI),体格指数(Body Mass Index: BMI)を用いた.身体組成は,体成分分析装置(Inbody 470,インボディ・ジャパン社製)を用いて測定した.なお,SMIは四肢骨格筋量の合計を身長の2乗で除して算出した.
3) 呼吸機能呼吸機能の評価は,対標準1秒量(%FEV1)を用いた.また,GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)の病期分類5)に基づいて,対象者をstage IからIVに分類した.
4) 呼吸困難感呼吸困難感は,modified-Medical Research Council(mMRC)息切れスケール5)を用いて評価した.
5) 身体活動量身体活動量の評価は,1日あたりの歩数(歩/日)と運動量(kcal/日)を用いた.身体活動量は,加速度センサー付き歩数計(ライフコーダー EX,スズケン社製)を用いて測定した.測定は,起床後から就寝までの入浴中を除いた時間とし,左上前腸骨棘部に装着するようにした.7日間の連続測定したデータから1日あたりの平均値を算出し,研究対象データとして用いた.
6) 歩行速度歩行速度の評価は,4 m通常歩行テスト(4-metre gait speed: 4MGS)を行った.4MGSは,6 m以上のスペースを確保し,0 mから 6 mまで歩行してもらい,1 mから 5 mまでの 4 m歩行に要する時間を測定した6).歩行速度は距離を所要時間で除して算出した.
7) 運動耐容能運動耐容能の評価は,6分間歩行テスト(6-minute walk test: 6MWT)を行った.6MWT はAmerican Thoracic Societyの手順7)に従って実施し,6分間歩行距離(6-minute walk distance: 6MWD)を研究対象データとして用いた.
8) 筋力筋力の評価は,握力,膝伸展筋力を用いた.左右それぞれ2回ずつ測定して最大値を採用した.握力の測定は,スメドレー式握力計(握力計ST T-1780,トーエイライト社製)を,膝伸展筋力の測定は,筋力計(ミュータス F-1,アニマ社製)を用いた.
9) 健康関連QOL健康関連QOLの評価は,COPD Assessment Test(CAT)を用いた.CATは①咳,②喀痰,③息苦しさ,④労作時の息切れ,⑤日常生活での活動制限,⑥外出への不安,⑦睡眠,⑧活力の8項目をそれぞれ0-5点の6段階で評価する質問票である8).
10) 栄養状態栄養状態の評価は,簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional Assessment: MNA),10食品群チェックシートを用いた.MNAは国際老年医学会によって開発された65歳以上の高齢者を対象とする低栄養スクリーニングであり,その妥当性や有用性が報告されている9).また,食品摂取の多様性については,熊谷ら10)が開発した10食品群チェックシートを用いて,肉類,魚介類,卵類,大豆製品,乳製品,緑黄色野菜,海藻類,いも類,果物,油脂類の10食品の10日間における食品摂取頻度を把握した.得点算出方法は,先述した10食品について一日の内で食べたら丸をつけてもらい,10日間で1食品につき10点,総得点は100点となる.本研究では,動物性タンパク質を多く含んでいる食品の肉類,魚介類,卵類,乳製品の合計得点(40点満点),総得点(100点満点)を研究対象データとして用いた.
4. 統計解析対象者の基本特性を平均値と標準偏差で示した.全対象に対するサルコペニアの有病率と筋肉量減少群の割合を示した.また,サルコペニアの有病率について,年齢別,GOLDの重症度別,mMRC息切れスケール別に示した.COPDのサルコペニア患者と非サルコペニア患者の患者背景を比較するため,対象者をAWGSの診断基準に従い,サルコペニア群と非サルコペニア群に分け各調査項目を比較した.正規分布したデータは対応のないt-testを,正規分布しなかったデータはMann-Whitney U検定を用いた.また,年齢別,GOLDの重症度別,mMRC息切れスケール別における有病率を比較するため,カイ二乗検定を行った.なお,mMRC息切れスケール別を比較する際は,グレード4の人数が2名と少なかったため,グレード4はグレード3に含めグレード3以上群とし,3群間にて比較した.統計解析ソフトはSPSS ver 23.0 for Windows(Armonk, NY. IBM Corp)を用い,有意水準は5%とした.そして,カイ二乗検定で有意な関連があった場合には調整済み残差を用い,残差分析を行った(残差の有意水準は絶対値で1.96).
外来通院中の安定期にあるCOPD患者80名で解析を行った.調査項目の人数および平均値±標準偏差を表1に示す.
人数(名) | |
性別(男性/女性) | 62/18 |
GOLD重症度分類(I/II/III/IV) | 22/17/26/15 |
mMRC息切れスケール(1/2/3/4) | 20/37/21/2 |
平均値±標準偏差 | |
年齢(歳) | 75.3±5.8 |
FEV1(% predicted) | 60.7±34.7 |
BMI(kg/m2) | 21.2±3.8 |
FMI(kg/m2) | 5.6±2.5 |
6分間歩行距離(m) | 410±101 |
CAT(点) | 12.3±8.2 |
サルコペニアの指標 | |
SMI(kg/m2) | 6.4±1.0 |
握力(kg) | 29.7±7.8 |
膝伸展筋力(kgf) | 30.0±12.6 |
歩行速度(m/s) | 0.93±0.17 |
身体活動量 | |
歩数(歩/日) | 4343±2415 |
運動量(kcal/日) | 94.7±58.7 |
栄養状態 | |
MNA(点) | 24.8±3.3 |
10食品チェックシート | |
総得点(点) | 79.4±14.7 |
肉類,魚介類,卵類,乳製品の合計得点(点) | 30.2±6.6 |
GOLD: Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease; mMRC: modified-medical research council; FEV1: Forced Expiratory Volume in 1 second; BMI: Body Mass Index; SMI: Skeletal Muscle Index; FMI: Fat Mass Index; CAT: COPD Assessment Test; MNA: Mini Nutritional Assessment
全対象におけるサルコペニアの有病率と筋肉量減少群の割合を図1に示す.サルコペニアの有病率は30.0%,筋肉量減少を呈した者の割合は57.5%であった.
全対象におけるサルコペニアの有病率と筋肉量減少群の割合
年齢別,GOLD Stage別,mMRC息切れスケール別のサルコペニアの有病率を図2に示す.年齢別の有病率は,60歳代 16.7%(2名),70歳代 30.6%(15名),80歳代 36.8%(7名)であった.GOLD Stage別の有病率は,I 22.7%(5名),II 23.5%(4名),III 19.2%(5名),IV 66.7%(10名)であった.mMRC息切れスケール別の有病率は,1 20.0%(4名),2 24.3%(9名),3 47.8%(9名),4 100%(2名)であった.年齢別およびmMRC息切れスケール別の3群間には有意差を認めず,GOLD Stage別においてはStage IVの有病率が,他の群に比べて有意に高かった.
年齢別,GOLDの重症度別,mMRC息切れスケール別におけるサルコペニアの有病率
GOLD: Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease; mMRC: modified-medical research council
n:その群の人数を示す
p:カイ二乗検定による有意確率を示す
*:調整済み残差の絶対値>1.96
サルコペニア群と非サルコペニア群の基本特性を表2に示す.年齢,6MWD,CATには有意差は認められなかった.一方,mMRC息切れスケール,%FEV1, BMI,FMI,膝伸展筋力,1日あたりの歩数,運動量,MNA, 10食品群チェックシートの総得点,肉類,魚介類,卵類,乳製品の合計得点は,両群において有意差を認めた.
サルコペニア群 | 非サルコペニア群 | p値 | |
---|---|---|---|
n=24 | n=56 | ||
年齢(歳) | 76.4(6.3) | 74.9(5.5) | p=0.302 |
mMRC | 2.4(0.9) | 1.9(0.7) | p=0.019 |
FEV1(% predicted) | 47.4(26.6) | 66.0(36.3) | p=0.028 |
BMI(kg/m2) | 18.1(2.4) | 22.5(3.6) | p<0.001 |
FMI(kg/m2) | 3.9(1.8) | 6.3(2.5) | p<0.001 |
6分間歩行距離(m) | 388(115) | 421(95) | p=0.212 |
CAT(点) | 13.4(8.9) | 11.8(7.9) | p=0.458 |
筋力 | |||
膝伸展筋力(kgf) | 24.9(13.7) | 30.9(11.1) | p<0.001 |
身体活動量 | |||
歩数(歩/日) | 3256(2414) | 4781(2292) | p=0.01 |
運動量(kcal/日) | 70.7(50.8) | 104.4(59.4) | p=0.02 |
栄養状態 | |||
MNA(ポイント) | 21.1(3.1) | 26.4(3.2) | p=0.005 |
10食品チェックシート | |||
総得点(点) | 72.1(18.7) | 82.4(11.6) | p=0.004 |
肉類,魚介類,卵類,乳製品の合計得点(点) | 26.9(2.4) | 34.5(5.6) | p=0.03 |
平均値(標準偏差)
mMRC: modified-medical research council; FEV1: Forced Expiratory Volume in 1 second; BMI: Body Mass Index; SMI: Skeletal Muscle Index; FMI: Fat Mass Index; CAT: COPD Assessment Test; MNA: Mini Nutritional Assessment
本研究は,我が国において,多施設における外来通院中の安定期にあるCOPD患者を対象に,AWGSの基準に従い,サルコペニアの有病率や基本特性を調査した初めての研究である.
1. COPD患者のサルコペニアの有病率について本研究のCOPD患者のサルコペニアの有病率は,30.0%であった.日本人を対象とした地域在住の65歳以上の高齢者におけるサルコペニアの有病率は7.5%11)~8.2%12)であることが示されている.それらの有病率と比較すると本研究の有病率は高い.COPDにおけるサルコペニアは,加齢により生じる一次性サルコペニアだけでなく,二次性サルコペニアが加わった状態であると考えられている13).本研究の結果からもCOPD患者は地域高齢者よりサルコペニアを発症しやすいことが再確認された.諸外国の外来COPD患者を対象としたサルコペニアの有病率と比較すると,イギリスの先行研究では,14.5%であったと報告されており14),本研究の有病率は高かった.筋肉量は50歳以降,1年で1~2%減少する15,16)こと,サルコペニアの有病率は人種によっても異なることが報告されている17)ため,対象とした年齢や人種の違いだと思われる.本研究の対象の平均年齢は75歳であったのに対し,その先行研究ではサルコペニアでなかったCOPD患者は66歳,サルコペニアであった患者でも73歳であった.韓国の先行研究では,外来COPD患者のサルコペニアの有病率は25%であったと報告されており18),本研究とほぼ同等であった.
COPD患者のサルコペニアの有病率を年齢別,GOLD Stage別,mMRC息切れスケール別に検討すると,本研究においては,年齢別の有病率には差を認めなかった.一方,病期分類のStage IV(きわめて高度の気流閉塞)になると66.7%でサルコペニアを発症し,有意に高い有病率を示した.mMRC息切れスケールのグレード3以上の有病率は47.8%であり,有意差は認めないものの有意傾向(p=0.08)を示した.以上のことより,COPD患者のサルコペニア発症には,病期の重症度や日常生活の息切れの程度が影響する可能性が考えられる.また,病期分類がStage IVでサルコペニアを発症していない5名のうち4名は,mMRC息切れスケールがグレード2以下であった.Stage IVまで進行したとしても,日常生活の息切れの程度が弱ければサルコペニアを発症しにくいかもしれない.
2. COPDのサルコペニア患者の臨床的特徴について本研究のサルコペニア群は非サルコペニア群に比べて,1日あたりの平均歩数と運動量が有意に低く,サルコペニア群の身体活動量は非サルコペニア群より低下していた.平成29年国民健康・栄養調査19)で報告されている65歳以上の1日あたりの平均歩数(男性:5,597歩,女性:4,726歩)と比べても,本研究のサルコペニア群の1日あたりの平均歩数(3256歩)は低く,身体活動性が低下していることが示された.しかし,本研究のサルコペニア群と非サルコペニア群において6MWDには差がなかった.これらのことより,COPDのサルコペニアは,運動耐容能(最大の運動能力)よりも身体活動量(実際に日常生活で活動している量)に影響を与えていることが示唆された.
COPD患者は呼吸困難や食欲の低下に伴う食事摂取量の低下20,21)や呼吸に消費するエネルギーの増加22)などで栄養障害を呈しやすい.本研究の結果より,サルコペニア群は非サルコペニア群に比べて,BMIやFMIが低いため増大した消費エネルギー量に見合う摂取エネルギー量が十分に確保できていなく,筋タンパクの分解がより亢進した状態であることが推察される.その結果,SMIが低くなり筋力低下を生じていると考えられる.さらに,サルコペニア群は,非サルコペニア群に比べてMNAのポイントも低く,平均ポイントも21.1点と「低栄養のおそれあり」と判断される.これらのことより,サルコペニア群は,悪液質の影響を受けていることを示唆する.
サルコペニア群は非サルコペニア群に比べて10食品群チェックシートの総得点が低いため,食物摂取の多様性が低いと考えられる.食物摂取の多様性は,血中アルブミンと関連する23)ことや栄養状態と関連する24)ことが報告されている.また,サルコペニア群は非サルコペニア群に比べて,肉類,魚介類,卵類,乳製品の合計得点も低かったため,動物性タンパク質の摂取頻度も低いと考えられる.これらのことより,サルコペニア群は,食物摂取の多様性がより低くなっており,適切な食事が摂取できず栄養状態が悪化していると考えられる.
本研究のサルコペニア群と非サルコペニア群のCATには差がなく,COPDのサルコペニア患者の特徴を反映しないことが示唆された.本研究のサルコペニア群は非サルコペニア群に比べて1秒量が低い.先述したように,Stage IVまで進行すると66.7%のCOPD患者がサルコペニアを発症していた.
以上のことより,本研究におけるCOPDのサルコペニア患者は,疾患重症度,身体不活動,低栄養すべての要素の影響を大きく受けていたと考えられる.
3. フレイルとの関連フレイルは,サルコペニアや低栄養を背景として,筋力や身体活動量が減少し,身体機能が低下していくという悪循環(フレイルサイクル)を形成することがFriedらによって提唱されている25).サルコペニアはフレイルの中核的病態である.Lahoussらは大規模コホートスタディにおいてCOPD患者のフレイルの頻度が健常高齢者より高く,また気流閉塞が高度になるほどその頻度が増すことを示した26).本研究においてもStage IVまで進行するとサルコペニアの頻度は高く,COPD患者のサルコペニアが低身体活動性,栄養摂取の障害と関連することが示されており,サルコペニアがフレイルと密接に関連していることが示唆された.
また,GaliziaらはフレイルがCOPDにおいて非COPDと比較しより顕著に予後を悪化させることを示した27).これはCOPD患者において通常のフレイルサイクルに加え,呼吸困難に伴う活動性の低下-骨格筋の機能障害-動作時の乳酸産生の増加による換気の亢進-呼吸困難の増悪-さらなる活動性の低下,という呼吸困難に関連した悪循環28)が重なることによってフレイルの進行がより加速されることが可能性として考えられる.本研究においても,サルコペニア群は非サルコペニア群に比べて,mMRC息切れスケールでみた呼吸困難度は有意に高く,呼吸困難感がフレイル-サルコペニアと関連している可能性が示唆されたが,さらなる検証が必要と思われる.
本研究の課題として,対象数が少なかったため,性別ごとに検討できていないことや多変量解析などの統計手法を用いて詳細に分析できなかったことが挙げられる.今後,対象者数を増やし,引き続き調査を行う必要があると考えている.
4. 結語本研究より,COPDのサルコペニア患者は,疾患重症度,身体不活動,低栄養の要素すべての影響を受けていることが分かった.ただ,患者個々によって,どの要素がどの程度相まっているかは異なる.したがって,COPD患者に対してはサルコペニアの有無を評価し,患者個々の必要性に応じた包括的な呼吸リハビリテーションプログラム(身体活動性の向上を目的とした患者教育,効果的に筋量を改善する筋力トレーニング,積極的な栄養補助療法)を提供することが重要であると考えられた.今後,今回対象とした患者(登録症例)の生命予後などを調査するためのコホート研究やCOPDのサルコペニア患者を対象に,前述した包括的な呼吸リハビリテーションを介入した研究が必要であると思われた.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.