日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
Online ISSN : 2189-4760
Print ISSN : 1881-7319
ISSN-L : 1881-7319
原著
主観的運動強度に合わせた吸気筋トレーニングの効果
山川 貴久景山 剛
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 29 巻 2 号 p. 311-316

詳細
要旨

【目的】本研究では,簡便に行える吸気筋トレーニングの指標獲得を目的とし,従来の提唱されてきた指標と主観的運動強度の指標を用いたトレーニングの効果比較を行った.

【対象と方法】健常成人40名を,修正Borg scale 2群,修正Borg scale 4群,初回測定30%固定群,対照群の計4群へ無作為に振り分け,トレーニング前,4週間後に呼吸機能,呼吸筋力を測定した.吸気筋トレーニングにはThreshold IMTを用いた.

【結果】最大吸気圧の変化量は,トレーニングを実施した3群は対照群に比べ,有意に高値であった.また,トレーニング群間では有意差を認めなかった.呼吸機能の変化量は,全ての群間で有意差を認めなかった.

【結語】吸気筋トレーニングの負荷設定は,主観的運動強度「修正Borg scale」を指標とした方法でも代用が可能となり,呼吸筋力の測定をせずとも介入できる可能性が示唆された.

緒言

呼吸筋トレーニングは,呼吸リハビリテーションの分野において取り上げられる種目の1つであり1,2,3,呼吸筋に適度な負荷刺激を与えることにより,呼吸筋力と持久力の増強を図る方法である1,2.また,呼吸筋トレーニングには吸気筋と呼気筋のトレーニングがあるが,主に吸気筋トレーニングの臨床応用が図られている3

現在,呼吸筋トレーニングに関する研究は,COPDを対象としたものが多く,メタアナリシスもいくつか報告されている4.Evidenceとしては,2007年の米国胸部医師学会(American College of Chest Physicians; ACCP)/米国心血管・呼吸リハビリテーション協会(American Association of Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitation; AACVPR)では「呼吸リハビリテーションの本質的な構成要素としてルーチンで吸気筋トレーニングを行う科学的根拠は明確ではない」が推奨グレード1B評価とされ5,2011年の理学療法診療ガイドラインでは,呼吸筋トレーニングの単独効果,運動療法との併用がどちらも推奨グレードB評価とされている6

トレーニング指標としては,最大吸気圧の30±5%で,1日30分間もしくは15分間を2回,週4,5回実施することが提唱されている1,7.COPDに対するトレーニング効果として,Gosselinkら8による報告では,最大吸気圧,呼吸筋耐久力,漸増負荷圧,運動耐容能,Borg scale,呼吸困難評価(transitional dyspnea index; TDI),健康関連QOL(chronic respiratory disease questionnaire; CRQ)の全ての項目で有意な改善が認められている.また近年では,競泳やサイクリング等のスポーツ分野でも取り入れられ,有効性が示されてきている9,10

吸気筋トレーニング分野の研究として,負荷圧11,12,13,頻度14,呼吸回数設定15,効果持続性16,実施環境17,QOL(quality of life)への影響18,呼気筋トレーニングとの比較11,19等の検討が少なからず行われてきているが,いずれも負荷指標としては呼吸筋力から算出されるものを使用するため,呼吸筋力測定が必須となってくるものがほとんどであり,その他の指標を活用している研究は多くは見受けられない.

この呼吸筋力測定には侵襲を伴う方法と非侵襲の方法があるが,理学療法分野では主に非侵襲方法である口腔内圧測定法が行われている20.しかしながら,呼吸筋力は通常のスパイロメータのみでは測定ができず特定の器具が必要となるため,臨床現場では器具が揃っていないことも多く,病院以外でトレーニングを実施する場合も同様に呼吸筋力測定を行えないことが予測される.そのため,負荷指標を呼吸筋力から算出する場合は,適切な負荷設定が簡便に行えるとは言い難いのではないかと考えられた.そこで本研究は,簡便に行える吸気筋トレーニングの指標獲得を目的とし,従来の提唱されてきた指標と主観的運動強度の指標「修正Borg scale」を用いたトレーニングの効果比較を行った.

対象と方法

1. 対象

対象は,吸気筋トレーニングを行うことに支障をきたす整形外科疾患,呼吸器循環器疾患のない健常な成人40名(男性15名,女性25名)とし,全て非喫煙者とした.年齢は28.2±6.8歳,身長は164.4±9.3 cm,体重は57.8±11.1 kg,BMI(body mass index)は21.2±2.8 kg/m2であった.対象者背景は表1に示す.

表1 対象者の背景
全対象者修正Borg scale 2修正Borg scale 4初回測定30%固定対照群
人数(人)40名
(男性15/女性25)
10名
(男性3/女性7)
10名
(男性4/女性6)
10名
(男性3/女性7)
10名
(男性5/女性5)
年齢(歳)28.2±6.833.0±9.229.1±7.825.2±2.525.4±2.5
身長(cm)164.4±9.3165.0±8.5164.2±5.9164.9±12.8163.7±10.1
体重(kg)57.8±11.156.0±8.259.7±12.156.7±10.858.6±13.9
BMI(kg/m221.2±2.820.5±1.522.0±3.520.7±2.521.7±3.4

数値は平均値±SDにて表記する.

BMI: body mass index

SD: standard deviation(標準偏差)

対象者には研究内容を説明し,理解を得たうえで研究参加の同意を書面で得た.本研究は,平和台病院倫理委員会の承認(承認番号30-01),帝京平成大学倫理委員会の承認(承認番号29-123)を受けて行った.

2. 方法

全対象者(40名)を,乱数表を用いて無作為に4群(各群10名ずつ)に振り分け,その内の3群をトレーニング群とした.トレーニング群の内訳は,修正Borg scale 2(弱い)を指標としてトレーニングを行う群(以下,修正Borg scale 2群),修正Borg scale 4(やや強い)を指標としてトレーニングを行う群(以下,修正Borg scale 4群),初回測定時の最大吸気圧30%を指標としてトレーニングを行う群(以下,初回測定30%固定群)とした.また,日常生活の影響をみるために1群を対照群とした.

トレーニングは吸気筋訓練器具Threshold IMT(Philips社製)を貸与し,頻度は1日2回,1回15分,期間は4週間とし,週に5日間ずつ実施した.また,トレーニング実施頻度確認のためトレーニングチェック表を配布し,必ず記録を残すものとした.負荷設定として,修正Borg scale 2群,修正Borg scale 4群は定められた指標に合わせて,毎回のトレーニング開始時にThreshold IMTの負荷調整を随時対象者自身が行い,初回測定30%固定群は初回評価で得られた最大吸気圧の30%に固定し,その負荷圧でトレーニングを4週間継続した.

トレーニング効果の評価として,トレーニング前,4週間後に呼吸機能,呼吸筋力を測定した.さらに,トレーニング時の負荷圧(%)算出,トレーニング時の修正Borg scale評価を必要な群のみ実施した.

1) 呼吸機能測定

呼吸機能の測定には,スパイロメータ(Autospiro AS-507,ミナト医科学 社製)を使用し,トレーニング前,4週間後にそれぞれ実施した.測定肢位は椅子座位とし,ノーズクリップを装着し,マウスピースをくわえて測定した.測定項目は,努力性肺活量(forced vital capacity;以下FVC),1秒量(forced expiratory volume in one second;以下FEV1),1秒率(forced expiratory volume % in one second;以下FEV1/FVC),ピークフロー(peak expiratory flow rate;以下PEFR)の4項目とした.それぞれ3回測定し,FVC+FEV1が最大値を示したときの各々の値を採用した11,14

2) 呼吸筋力測定

呼吸筋力の測定には,スパイロメータに呼吸筋力系ユニット(呼吸筋力計AAM377,ミナト医科学 社製)を接続して使用し,トレーニング前,4週間後にそれぞれ実施した.測定肢位は椅子座位とし,ノーズクリップを装着し,マウスピースをくわえて測定した.

測定項目は最大吸気口腔内圧(以下,最大吸気圧),最大呼気口腔内圧(以下,最大呼気圧)の2項目とした.最大吸気圧は残気量(residual volume; RV)位から最大吸気,最大呼気圧は全肺気量(total lung capacity; TLC)位から最大呼気を行い,順序は最大吸気圧→最大呼気圧で統一した.それぞれ3回測定し,最大値を採用した.ただし,測定終了後,再現性表示が「不」の場合,「良」となるまで測定回数を追加した11,14

3) トレーニング時の負荷圧(%)

修正Borg scale 2群,修正Borg scale 4群,初回測定30%固定群はトレーニング開始日,最終日にThreshold IMTの負荷圧を記録し,各時期に測定した最大吸気圧の何%相当であるかを算出した.

4) 修正Borg scale評価

初回測定30%固定群はトレーニング開始日,最終日にトレーニング時の修正Borg scale評価を実施し記録した.

3. 統計処理

統計処理にはSPSS statistics(ver. 22)を使用した.

各群における呼吸機能・呼吸筋力のトレーニング効果の有無については,正規性が認められない項目(初回測定30%固定群における最大吸気圧,最大呼気圧)はWilcoxonの符号付き順位検定を使用,その他の項目には対応のあるt検定を使用した.

各群間の変化量を比較するためにFVC・FEV1・FEV1/FVCはトレーニングの条件を要因としたKruskal-Wallis検定を使用,PEFR・最大吸気圧・最大呼気圧は一元配置分散分析を使用し,多重比較検定にはtukeyの方法を用いた.

修正Borg scale 2群,修正Borg scale 4群,初回測定30%固定群におけるトレーニング時の負荷圧(%)は,開始日と最終日の比較を実施し,対応のあるt検定を使用した.

初回測定30%固定群における修正Borg scale評価は,開始日と最終日の比較を実施し,Wilcoxonの符号付き順位検定を使用した.

いずれの検定も有意水準は5%未満(p<0.05)とした.

結果

修正Borg scale 2群,修正Borg scale 4群,初回測定30%固定群,対照群におけるトレーニング前,4週間後の呼吸機能,呼吸筋力の測定値,変化量を表2に記載した.

表2 呼吸機能,呼吸筋力の変化
トレーニング前4週間後変化量
FVC
(L)
修正Borg scale 23.71±0.693.71±0.70-0.04(-0.13-0.15)
修正Borg scale 43.69±0.913.70±0.810.00(-0.10-0.05)
初回測定30%固定3.79±0.983.76±0.96-0.04(-0.09-0.03)
対照群3.65±0.633.65±0.62-0.01(-0.11-0.07)
FEV1
(L)
修正Borg scale 23.23±0.593.18±0.66-0.05(-0.10--0.03)
修正Borg scale 43.15±0.763.12±0.73-0.05(-0.15--0.01)
初回測定30%固定3.45±0.873.37±0.88-0.02(-0.10-0.01)
対照群3.28±0.593.30±0.540.06(-0.02-0.10)
FEV1/FVC
(%)
修正Borg scale 287.16±4.9785.38±4.50-1.01(-1.66--0.53)
修正Borg scale 485.49±6.5084.34±7.22-0.06(-2.64-0.32)
初回測定30%固定91.41±5.6489.78±7.32-0.07(-2.63-1.19)
対照群89.68±4.9390.59±3.170.27(-0.53-1.83)
PEFR
(L/s)
修正Borg scale 26.88±1.376.92±1.58  0.03±0.83
修正Borg scale 46.91±1.907.24±2.10  0.34±0.58
初回測定30%固定6.90±1.707.17±2.43  0.27±1.48
対照群7.46±2.307.88±2.22  0.42±0.89
最大吸気圧
(cmH2O)
修正Borg scale 276.3±20.698.6±18.6*  22.3±11.0#
修正Borg scale 481.2±31.4106.2±29.3*  24.9±11.0#
初回測定30%固定63.5(58.9-75.9)93.0(80.1-105.3)*  22.4±14.2#
対照群77.8±21.675.3±17.2  -2.5±8.7
最大呼気圧
(cmH2O)
修正Borg scale 262.4±17.063.3±17.5  0.9±5.2
修正Borg scale 463.3±24.869.5±21.6  6.2±12.8
初回測定30%固定58.4(54.0-63.8)66.9(61.7-78.7)*  11.4±15.0#
対照群73.6±25.968.7±27.2  -4.8±7.3

初回測定30%固定群における最大吸気圧・最大呼気圧のトレーニング前・4週間後,および全ての群におけるFVC・FEV1・FEV1/FVCの変化量に関して,数値は中央値(第1四分位点-第3四分位点)にて表記.

その他の数値は平均値±SDにて表記.

各群における呼吸機能・呼吸筋力のトレーニング効果の有無については,正規性が認められない項目(初回測定30%固定群における最大吸気圧,最大呼気圧)はWilcoxonの符号付き順位検定を使用,その他の項目には対応のあるt検定を使用.

各群の変化量を比較するためにFVC・FEV1・FEV1/FVCはトレーニングの条件を要因としたKruskal-Wallis検定を使用,PEFR・最大吸気圧・最大呼気圧は一元配置分散分析を使用し,多重比較検定にはtukeyの方法を使用.

トレーニング前との比較(トレーニング効果):* p<0.05

対照群との比較(群間比較):#p<0.05

FVC: forced vital capacity(努力性肺活量)

FEV1: forced expiratory volume in one second(1秒量),FEV1/FVC: forced expiratory volume % in one second(1秒率)

PEFR: peak expiratory flow rate(ピークフロー)

SD: standard deviation(標準偏差)

修正Borg scale 2群,修正Borg scale 4群,初回測定30%固定群におけるトレーニング開始日,最終日の負荷圧(%),初回測定30%固定群における開始日,最終日の修正Borg scale評価を表3に記載した.

表3 トレーニング時の変化
開始日最終日
負荷圧
(%)
修正Borg scale 215.7±4.613.7±3.5
修正Borg scale 421.2±7.324.9±8.4
初回測定30%固定3023.4±4.5*
修正Borg scale評価修正Borg scale 2-
修正Borg scale 4-
初回測定30%固定5.0(4.3-6.8)2.5(2.0-3.8)*

初回測定30%固定群における修正Borg scale評価に関して,数値は中央値(第1四分位点-第3四分位点)にて表記.

その他の数値は平均値±SDにて表記.

負荷圧(%)は対応のあるt検定を使用.

修正Borg scale評価はWilcoxonの符号付き順位検定を使用.

開始日との比較:*p<0.05

SD: standard deviation(標準偏差)

1) 呼吸機能

呼吸機能のトレーニング効果は,全ての群において有意差を認めなかった.

呼吸機能のトレーニング前,4週間後における変化量はFVC,FEV1,FEV1/FVC,PEFRともに全てのトレーニング群と対照群において有意差を認めなかった(表2).

2) 呼吸筋力

呼吸筋力のトレーニング効果は,最大吸気圧は修正Borg scale 2群,修正Borg scale 4群,初回測定30%固定群が,トレーニング前に比べ4週間後が有意に高値であった(p<0.05).最大呼気圧は初回測定30%固定群が,トレーニング前に比べ4週間後が有意に高値であった(p<0.05).

最大吸気圧の変化量は,修正Borg scale 2群,修正Borg scale 4群,初回測定30%固定群が対照群に比べ,有意に高値であった(p<0.05).トレーニング群間では有意差を認めなかった.また,最大呼気圧の変化量は,初回測定30%固定群が対照群に比べ,有意に高値であった(p<0.05).その他の群間では有意差を認めなかった(表2).

3) トレーニング時の負荷圧(%)

修正Borg scale 2群,修正Borg scale 4群は,開始日と最終日の間で有意差を認めなかった.初回測定30%固定群は,開始日に比べ最終日が有意に低値であった(p<0.05)(表3).

4) 修正Borg scale評価

初回測定30%固定群における修正Borg scale評価は,開始日に比べ最終日が有意に低値であった(p<0.05)(表3).

考察

本研究は,簡便に行える吸気筋トレーニングの指標獲得を目的とし,従来の提唱されてきた指標と主観的運動強度の指標「修正Borg scale」を用いたトレーニングの効果比較を行った.

呼吸機能については,佐藤ら11,高良ら14の健常者を対象とした負荷比較や実施頻度に関する研究においても効果が認められなかったと報告している.本研究においても,吸気筋トレーニングの実施による呼吸機能の変化は認められず,これらの報告に準ずるものであった.呼吸機能に関しては肺実質の機能が多く反映すると考えており,本研究の対象者は健常者(非喫煙者)であり肺実質に能力低下が認められないものであること,介入内容は吸気筋トレーニングという筋力へのアプローチに関連していく点から,有意差が認められなかったと考えられた.

吸気筋トレーニング効果である最大吸気圧増加について,Larsonら12はCOPDに対して最大吸気圧30%負荷と15%負荷でトレーニングを実施した結果,最大吸気圧30%負荷群のみ有意に増加したと報告,Lisboaら13は,COPDに対して最大吸気圧30%負荷と12~17%負荷でトレーニングを実施した結果,最大吸気圧30%負荷群のみ有意な増加を報告した.しかし近年では,佐藤ら11は健常者に対し,最大吸気圧20%負荷でも有意に増加し,従来提唱されていた30%を下回る負荷でも効果が認められたことを報告した.これらはすべてThresholdを使用してのトレーニングではあるが,対象者の背景,疾患等の条件により結果が変動しているため,今後も対象者に合わせた負荷設定を検討していく余地はあるとみられる.また佐藤ら11は,最大吸気圧の40%と20%のトレーニング負荷で比較し,どちらも有意な増加を認めたがトレーニング効果に差がないことを報告している.つまりは,最低限の負荷量があれば最大吸気圧増加の効果に差が表れず,負荷を無理に高める必要がないことが予測された.本研究では修正Borg scale 2群,修正Borg scale 4群,初回測定30%固定群の3群から効果の差を認められないことからも,それぞれ最低限の負荷量は獲得できており,佐藤らの研究を支持する形となった.今回はトレーニングを実施した3群の中で,まず初回測定30%固定群においては,修正Borg scale評価は開始日5.0(4.3-6.8)から最終日2.5(2.0-3.8)と低下,トレーニング時の負荷圧(%)に関しても開始日30%から最終日23.4±4.5%と低下し,両項目とも開始日と比較すると最終日では有意な低下を認め,最大吸気圧の増加によって相対的な負担が軽減されていることが考えられた.しかし,最も主観的運動強度の値が低くみられる修正Borg scale 2群のトレーニング負荷圧(%)を算出すると,開始日は15.7±4.6%,最終日13.7±3.5%であり,それぞれの最大吸気圧の何%相当であったかを確認しても,最も負担の少ない群であることがわかる.これらトレーニング群間に有意差を認めないことからも,本研究の結論としては,最大吸気圧増加に必要な最低限負荷圧(%)が,健常者が対象の場合は20%未満だったのではないかと推測される.

最大呼気圧については,初回測定30%固定群のみ効果を認めるという結果だった.佐藤ら11,Sasaki19らの研究では,吸気筋トレーニング時には呼気筋群が関与することによって有意に増加したと考察されており,その他の先行研究でも,高負荷での吸気筋トレーニングでは最大呼気圧が有意に増加することがいくつか報告されている9,14,15.本研究では,初回測定30%固定群のみが最大呼気圧増加に必要な最低限の負荷量を獲得できていたと考えられた.修正Borg scale 4群のトレーニング時の負荷圧(%)は,開始日21.2±7.3%,最終日24.9±8.4%という数値が算出され,最終日のみに着目すれば初回測定30%固定群の23.4±4.5%負荷という数値をやや上回った形となるが,これは最大吸気圧がトレーニング期間中に徐々に増加した結果であり,4週間という短期間では必要最低限の負荷に到達した期間が短かった為に,本研究では最大呼気圧の有意な増加に繋がらなかったと考える.ただし,吸気筋トレーニングによる最大呼気圧増加の研究については解明されていないことが多く,今後もさらなる検討が必要な課題である.

以上のことから,吸気筋トレーニングは,従来提唱されてきた方法のほかに,主観的運動強度「修正Borg scale」を指標とした方法でも代用が可能となり,呼吸筋力の測定をせずとも介入できる可能性が示唆された.このことにより,測定環境のない場面での吸気筋トレーニングを実践しやすくなっていくことはもちろん,吸気筋トレーニング期間では最大吸気圧増加に合わせ,常に適切な負荷設定を行えることで,より効果的な介入に繋がるのではないかと考えられる.

本研究の限界点として,sham負荷による比較を行えていないため,プラセボ効果の可能性を否定できないことに加え,定期的に呼吸筋力を測定して調整する一般的な30%負荷の場合は,修正Borg scale 2群,修正Borg scale 4群との有意差が認められる可能性があったことが考えられた.今回の初回測定30%固定群での負荷設定は,高良ら14の先行研究に則って実施をしており,臨床現場では負荷設定のために毎回呼吸筋力計等を使用して計測するのは現実的には難しいこと,自宅での自主トレーニングを実施する者や,介護老人保健施設の入所者など呼吸筋力を測定できない環境にあることも多く考えられると想定してこの負荷設定を取り入れてきた.そのため本研究では,機器の操作を自身で行える症例が限定とはなるが,頻回に呼吸筋力測定ができない対象者への有用な指標になる可能性を示唆することができた.

今後の展望として,sham負荷群の追加と一般的な30%負荷群を設けることにより,プラセボ効果の否定に加え,より明確な効果判定を行っていくことが挙げられる.その後に健常者以外の対象を設定した研究やThreshold IMT以外の呼吸筋トレーニング器具を用いた比較で同様の効果が得られるかを検証していき,臨床応用の幅を広げていきたいと考える.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2020 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
feedback
Top