日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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症例報告
多職種協働により早期から理学療法を実施できた体外式膜型人工肺からの離脱症例
小森 清伸木村 純子藤原 望前野 佳与子藤井 宏一妻鹿 旭小畠 久和
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2021 年 29 巻 3 号 p. 488-491

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要旨

症例は63歳女性.他院入院後に呼吸状態悪化を認め,画像上びまん性肺胞出血疑いおよび縦隔気腫と診断の上,治療目的に当院に転院したが,著明な低酸素血症を認め,入院同日にveno-venous extracorporeal membrane oxygenation(以下;VV-ECMO)を導入した.覚醒時のECMO下での患者の状態は安定しており,積極的理学療法を実施することを計画した.その際の各職種の役割や中止基準等,多職種間で話し合いながらリハビリテーション計画を作成した.ECMO導入中に起立・足踏み練習まで可能となり,VV-ECMO・人工呼吸器離脱後まもなく歩行練習を開始した.第33病日,自宅独歩退院した.

VV-ECMO装着下でのリハビリテーションに確立されたエビデンスはないが,今回,多職種協働で早期から理学療法を実施したことにより運動機能低下を予防し,良好な転帰を得たと考えられた.しかし,ECMOは侵襲的かつ高度な医療技術であり,理学療法の適応や方法について検討を続ける必要がある.

緒言

体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation: ECMO)は侵襲的かつ高度な医療技術であり,専門的なチームと適切な設備を有する施設で行われる.ECMOを導入した際には,生命に関わる重篤な合併症が発生する可能性が高く,導入には慎重な評価・管理が必要である1.近年,ECMO管理下での早期理学療法について,その安全性が報告されている2.本邦でも,Veno-Venous ECMO(VV-ECMO)に対する早期からのABCDEバンドルの遂行や患者個人に合わせたリハビリテーション計画の構築が必要とされている3

当院の集中治療センターは,集中治療医・主治医・看護師・臨床工学技士(以下;CE)・理学療法士(以下;PT)・言語聴覚士が参加するカンファレンスを毎朝開催し,患者の経過及び今後の治療方針を話し合う.その後の病棟ラウンドで,より密にリハビリテーションを含めたその日の治療計画を決定する.

今回,重症呼吸不全によりVV-ECMO 導入となった症例に対し,早期より理学療法を開始し,自宅退院可能となった症例を経験したため報告する.

なお,個人情報について倫理的配慮を行い,患者・家族より許可を得て写真の掲載をした.また,当院の薬剤技術局症例報告等審査委員会にて承認を得た.

症例

【症例】

腎盂腎炎疑いで他院に入院中の63歳女性.入院後に抗生剤加療を行うも炎症反応は改善せず,P-ANCA高値からANCA関連血管炎疑いで当院に紹介予定であった.当院転院1日前に呼吸状態悪化を認め,びまん性肺胞出血疑いに対してステロイドパルス療法および非侵襲的人工呼吸管理を開始したが,呼吸状態の改善を認めず,侵襲的人工呼吸管理を開始し,加療目的に当院に転院した.

来院時vitalは,Glasgow Coma Scale E3VTM6,血圧156/80 mmHg,脈拍96/分,呼吸数31回/分,体温36.3°C,人工呼吸器設定PCV 吸気圧 18 cmH2O,呼気終末陽圧10 cmH2O,酸素濃度 0.8,経皮的動脈血酸素飽和度(以下;SpO2)88%であった.

【原病治療経過】

ANCA関連血管炎に対する治療は,前医でステロイドパルス療法が開始されるも経過不良であり,当院では,血漿交換療法ならびエンドキサンパルス療法を追加した.また,併存する急性腎障害に対して持続緩徐式血液濾過透析を開始した.来院時に認めた著明な低酸素血症ならび縦隔気腫については,Murray score 3.75であり,VV-ECMOの適応と判断し,導入した(図1).第8病日のCTで原病の改善を確認した上で,ECMOをweaningし,第10病日にECMOならび人工呼吸器を離脱した.以後,第22病日に酸素療法を終了し,第33病日に自宅独歩退院した.

図1

ECMO管理中の理学療法の様子,a-1. a-2)側臥位管理,b)立位場面,c)起座位

【理学療法経過】

第2病日より理学療法を開始した.本症例では,病勢に応じ3期に分け,肺胞出血の病勢が安定するまでの第2-5病日を「肺保護戦略期」,病勢安定後からECMOおよび人工呼吸器離脱までの第5-10病日を「Weaning期」,第10病日以降を「回復期」とし,各期でデバイスの管理やリスク管理を行うために多職種協働で理学療法を展開した(図2).介入時の各職種の役割は,①医師:離床の適応判断や全身状態・鎮痛鎮静の管理,②PT:姿勢調整方法や運動機能評価に基づいた離床プランの作成,離床の手順や介助部位の伝達,③看護師:ルート管理とバイタル測定,④CE:送脱血管の管理や人工呼吸器・ECMOの観察と定めた.肺保護戦略期とWeaning期は,理学療法介入前にRichmond Agitation Sedation Scale -1~0で経過するように,医師により鎮痛鎮静薬を調整し(図2),理学療法時の自動運動を可能にした.左鼠径部に透析用カテーテルが挿入されていたが,右股関節屈曲運動は医師同席で許可あり,端座位時を考慮しベッド上で左右股関節屈曲90度まで可動し,ECMO血液流量をCEが確認し著明な変動がないことを確認した.

図2

理学療法経過と多職種協働

肺保護戦略期は,気道クリアランス法と胸郭可動域運動を実施し,コンディショニングを図った.ECMO中は自発換気がほぼなく,換気量も小さいため,胸郭運動は消失していた.胸郭可動性の維持のために上肢の関節可動域運動を実施し,加えて体位ドレナージで気道浄化を促した.全身調整や覚醒維持,無気肺予防目的にギャッチアップ座位は積極的に実施した.側臥位での姿勢調整は,送血管が屈曲しないように医師・看護師・CEと共に実施し,馬蹄形のクッションを使用し頸部位置を調整することで,安全に血液流量を維持することができた(図1).PT介入時以外や休日の呼吸リハビリテーションを進めるために方法を実践しながら多職種での共有を図った.

Weaning期では,肺胞出血の陰影改善を認めたが,縦隔気腫や気胸の改善は認めず,引き続き体位ドレナージ法を継続し,第5病日より離床を開始した.上記の通り役割を明確にし,ECMO血液流量やバイタルサイン変動時に速やかに対応し得るよう離床の手順や離床した際の姿勢,ルート・ドレーン類の位置などのイメージの共有を図った.初回の端座位練習時,股関節屈曲90度以上とならないように座面高を調整し介入した.軽介助で端座位への移行は可能であったが,一度ECMO血液流量低下を認め,再調整しECMO血液流量が維持出来ることをCEにて確認の上,起立練習を実施した.その後,前面にオーバーテーブルを設置し,上肢支持にて安楽姿位をとることで座位時間の延長を図ることが出来た.第8病日まで同様に座位・起立練習を実施し,第9病日には歩行器前腕支持下での足踏み動作練習を開始した.一連の動作でバイタルサインの著明な変化や回路トラブルはなく,有害事象は認めなかった.

回復期では,第10病日にECMO・人工呼吸器を離脱し,高流量鼻カニュラ(High Flow Nasal Cannula; HFNC)使用下で足踏み動作練習を実施した.第12病日の理学療法時は,マスク 5 Lへ変更し,軽介助で歩行器歩行可能であったが,10 m歩行後SpO2 89%まで低下し酸素化改善までに安静を要した.徐々に歩行距離・頻度を増やし,第18病日に酸素架台を使用し,棟内歩行自立となった.

考察

VV-ECMO装着下での早期理学療法は本邦でも散見され,トレーニングされたチームによる高度な管理下は離床を妨げないとされている4が,確立されたエビデンスはなく,介入方法についての具体的な報告はない.当院では2018年1月から2019年12月の間にVV-ECMOを要した症例は13例であり,この症例がECMO装着下で端座位以降の離床を実施した初めての症例であった.この症例を通じて,医師や看護師,CEと共にカンファレンスを重ね,役割を明確にすることで,有害事象なくスムーズな離床に繋げることができると認識できた.多職種協働により休日も同様に継続した呼吸理学療法を実施できたことで明らかな呼吸器合併症を生じることなく呼吸機能の維持・改善が得られたと示唆された.本症例以降8症例中6症例でECMO装着下での早期理学療法を実施することができ,本症例での経験が大きく寄与した.

一方,ECMOのトラブルは致死的になる可能性があり,ECMO装着下で理学療法を行う際には,その適応を常に評価する必要がある.今回の経験を元に,当院では,ECMO下理学療法に対するマニュアルを作成し,その適応や介入方法を各職種間で共有することで,より安全にECMO装着下で理学療法を行うことができると考える.

備考

本論文の要旨は,第29回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2019年11月,愛知)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2021 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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