日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
呼気終末二酸化炭素分圧測定装置 “カプノアイ®”の有用性
渡邉 彰楠 啓輔川上 真由大野 静香佐藤 千賀伊東 亮治阿部 聖裕
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2021 年 30 巻 1 号 p. 102-108

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要旨

【目的】呼気終末二酸化炭素分圧(PETCO2)測定装置であるカプノアイ®の有用性を検討した.

【方法】入院患者50名を対象とし,動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)およびPETCO2を測定し比較検討した.またカプノアイ®の忍容性を質問票にて調査した.

【結果】PaCO2は29.4-75.8 torr(中央値42.9),PETCO2は21-72 torr(中央値35)であり,良好な相関を示した(r=0.75).高炭酸ガス血症に対するPETCO2のカットオフ値は37 torrであった(感度86%,特異度79%).PaCO2とPETCO2との差は測定時の呼吸数と有意に正の相関を示した(r=0.55).患者の80%がカプノアイ®は「全く苦しくない」と回答した.

【結語】カプノアイ®の忍容性は高く,測定値はPaCO2と良好な相関を示した.呼吸数はPaCO2とPETCO2との差に影響するため注意を要する.

緒言

呼吸不全患者の管理において高炭酸ガス血症の有無を確認することは重要であるが,動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の測定には侵襲的な動脈血採血が必要であり,費用もかかる.一方,呼吸ガス二酸化炭素分圧を吸光度計で測定し呼気終末二酸化炭素分圧(PETCO2)からPaCO2を推定する方法は1966年に初めて報告され1,主に人工呼吸管理中の患者において良好な相関や有用性が報告されてきた2

カプノアイ®MC-600(日本精密測器・渋川)は,2015年に医療機器として承認された呼吸ガス二酸化炭素分圧をメインストリーム式で測定する装置でありパルスオキシメーターが付属している.被験者の呼気をマウスピースを用いて吸光度計に誘導することで他からのガスの混入を防ぎ,6回呼吸する間二酸化炭素分圧を連続測定した結果で即座にPETCO2を表示する簡便かつ安価な装置であるが,その有用性についての報告は少ない.今回我々は,当院呼吸器内科に入院し動脈血液ガス分析を行った患者について,カプノアイ®によるPETCO2を測定し有用性と忍容性について検討した.

対象と方法

1. 対象

2017年7月から2018年3月までに当院呼吸器内科に入院し,動脈血ガス分析を行う予定があり,文書にて研究参加の同意を得ることのできた患者50名を対象とした.アンケート調査においてカプノアイ®に対する先入観を除くため,カプノアイ®検査歴のある患者は除外した.

2. 方法

酸素投与中の患者は投与を継続し,臥位で15分以上安静とした後,鼠径部大腿動脈より動脈血を採取した.続けて,臥位のままカプノアイ®(モード2)にてPETCO2,呼吸数および経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定した.測定時には安静呼吸をするよう声掛けをした.

動脈血ガス分析は,採血後10分以内にRAPID POINT 500e(シーメンス・ミュンヘン)を用いて行った.

検査後,患者に対しアンケート調査を行った.アンケートは書面で選択肢を提示し,回答を集計した(図1).

図1

(A)アンケート調査票.(B)1問目の結果.(C)2問目の結果

主疾患,年齢,BMIおよび1か月以内の肺機能検査結果(TV,FEV1,%FEV1,%FVC)は,診療録より情報を得た.

本研究は2017年7月当院倫理委員会の承認を受けた.研究目的を紙面と口頭にて十分説明し,文書にて同意を得た.個人情報の管理には細心の注意を払い,倫理的な配慮を行った.

3. 統計

相関性は相関図,Altmanの偏差図にて検討した.相関係数はSpearmanの順位相関係数検定にて計算し,有意水準を5%未満とした.多変量解析は重回帰分析を行った.統計処理はフリーソフトEZR3を用いた.

結果

対象者の背景を表1に示す.年齢63-94歳(中央値80.5歳).男性38名,女性12名であった.主疾患はCOPD 19名,間質性肺炎9名,肺結核後遺症5名などであり,測定時酸素投与中の患者は34名であった.PaCO2は29.4-75.8 torr(中央値42.9 torr)であり,カプノアイ®によるPETCO2は21-72 torr(中央値35 torr)であった(表1).カプノアイ®によるPETCO2とPaCO2との相関係数はr=0.775(p<0.001)であり良好な相関を示した(図2).高炭酸ガス血症(PaCO2>45 torr)を検出するためのROC曲線を描記すると,曲線下面積 0.89(95%信頼区間 0.802-0.978)となり,カットオフ値をPETCO2 37 torrとすると感度86%,特異度79%であった.また感度100%となるカットオフ値はPETCO2 31 torrで,このときの特異度は41%となった(図3).

表1 患者背景
年齢63-94歳(80.5歳)
性別男性:38   女性:12
身長140-179 cm(158.2 cm)
体重29.6-90.9 kg(48.1 kg)
BMI13.1-32.6(19.8)
主疾患COPD19
間質性肺炎9
肺結核後遺症5
その他の拘束性肺疾患*14
気管支拡張症4
肺非結核性抗酸菌症2
肺切除後2
その他*25
酸素吸入中34例/50例
%FVC(n=39)21.9%-139%62.3%
%FEV1(n=39)18.5%-125%50.7%
TV(n=38)0.22-1.42 L(0.66 L)
PaCO229.4-75.8 torr(42.9 torr)
PETCO2(カプノアイ®21-72 torr(35 torr)
高炭酸ガス血症(PaCO2>45)21例/50例

下限-上限(中央値).

*1;  じん肺1,びまん性胸膜肥厚1,左慢性膿胸1,両肺葉切除後+右慢性膿胸1.

*2;  特発性器質化肺炎1,肺アスペルギルス症1,肺腺癌1,原発性肺胞低換気症候群1,気管支喘息+慢性心不全1.

図2

(A)カプノアイによる PETCO2と PaCO2の相関図と(B)偏差図

PETCO2と PaCO2は良好な相関を示す.点線は平均,破線は±2 SD.

図3

高炭酸ガス血症に対する PETCO2のROC曲線

最も左隅に近づく点は PETCO2=37となる.

PaCO2とPETCO2との差(P(a-ET)CO2)に影響する因子を明らかにするため,年齢,BMI,PaCO2,呼吸数,および1か月以内に肺機能検査を行っていた患者(39名)についてはTV,FEV1,%FEV1,%FVCを加えて,P(a-ET)CO2との相関を検討した.その結果,BMI, PaCO2,呼吸数が有意に相関したが,多変量解析の結果,呼吸数のみが独立した因子であった.(表2A,B図4).

表2 (A)P(a-ET)CO2との相関(単変量解析).(B)P(a-ET)CO2との相関(多変量解析).(C)PaCO2との相関(単変量解析).(D)PaCO2との相関(多変量解析)
A単変量解析(P(a-ET)CO2との相関)
因子相関係数p値
年齢-0.0370.797
BMI-0.3290.021
呼吸数0.5460.000
PaCO20.3160.025
%FVC-0.1240.451
FEV1-0.1880.251
%FEV1-0.1630.322
TV-0.2690.102
B多変量解析(P(a-ET)CO2との相関)
因子回帰係数95%信頼区間p値
下限上限
BMI-0.338-0.7430.0670.100
呼吸数0.4520.2150.6900.000
PaCO20.054-0.0910.2000.456
C単変量解析(PaCO2との相関)
因子相関係数p値
年齢-0.0080.956
BMI-0.2570.074
呼吸数0.2710.057
PETCO20.775<0.001
%FVC-0.3530.028
FEV1-0.664<0.001
%FEV1-0.619<0.001
TV-0.4370.006
D多変量解析(PaCO2との相関)
因子回帰係数95%信頼区間p値
下限上限
PETCO20.7170.5310.904<0.001
%FVC0.007-0.0850.0990.885
%FEV1-0.104-0.203-0.0060.039
TV-4.639-11.9802.7050.207
図4

P(a-ET)CO2と呼吸数との相関図

呼吸数が多くなるとP(a-ET)CO2は大きくなる.

カプノアイ®の忍容性を検討するために行ったアンケート調査の結果を図1B,Cに示す.検査時の苦しさについては,「全く苦しくない」80%,「少しは苦しい」12%であり,「苦しいのでやりたくない」との回答はなかった.「動脈血ガス検査とカプノアイ®のどちらを好むか」についての調査では,カプノアイ®の方を好む患者は50%,どちらでもよいが36%で,動脈血ガス検査の方を好む患者はいなかった.また測定中に3%以上のSpO2 低下がみられたのは3例あり,うち1例はSpO2 89%に低下した.これら3例の患者のアンケート調査では,「全く苦しくない」が2例,「少しは苦しい」が1例であった.動脈血採血,カプノアイ®による測定,いずれにも他に明らかな有害事象は認めなかった.

PETCO2及びPaCO2と肺機能検査結果との相関について検討すると,PETCO2との有意な相関がみられたのはFEV1,%FEV1のみであったが,PaCO2はTV,FEV1,%FEV1,%FVCいずれも有意に相関した(図5).PaCO2と有意に相関する因子のうちTV,%FEV1,%FVCとPETCO2を説明変数とした重回帰分析を行うとPETCO2,%FEV1が独立した因子であった(表2C,D).

図5

(上段)PETCO2と(A)%FVC,(B)%FEV1,(C)TVとの相関図

%FEV1のみ有意に相関している.

(下段)PaCO2と(D)%FVC,(E)%FEV1,(F)TVとの相関図

3項目とも有意に相関している.

考察

1. カプノアイ®によるPETCO2とPaCO2との相関について

カプノアイ®によるPETCO2とPaCO2とは良好な相関を示した.挿管管理下での吸光度計によるPETCO2とPaCO2との相関を検討した既報2,4,5と同様の結果であった.人工呼吸管理下でなくとも,カプノアイ®のマウスピースを用いた測定で良好な結果が得られることが判明した.

PaCO2と相関する因子を多変量解析した結果,PETCO2,%FEV1が独立した因子となり既報6と同様であったが,%FEV1の回帰係数は非常に少なく,臨床的意義は少ないと考えられた.

P(a-ET)CO2とBMIは既報6と同様に有意な相関を認めたが,重回帰分析の結果,独立した因子は呼吸数のみであった.P(a-ET)CO2は,死腔/一回換気量と相関7,8し,呼吸数,BMIいずれも一回換気量と相関するためと考えられた.本研究では,測定前に安静に呼吸するよう声掛けをしたのみで,呼吸数が多くても再測定は行わなかった.カプノアイ®の測定の容易さを証明するために初回一度のみの測定としたためであるが,よりゆっくり呼吸するよう指導することで,P(a-ET)CO2を減らせる可能性がある.

一方,%FEV1 や%FVCはP(a-ET)CO2と相関はなく,%FEV1や%FVCが低下している患者においてもカプノアイ®は有用であると考えられた.

高齢者では手技が拙劣になり,測定誤差が増大する可能性も予想された.しかし今回の検討ではP(a-ET)CO2と年齢との間に相関を認めなかった.その理由として,症例数が少なかったことに加え,カプノアイ®は吸気時にマウスピースから多少口が外れたとしても呼気時に外れなければ十分測定できる,非常に手技の容易な機器であること,高齢者であっても今回の対象が文書による同意可能な患者であったため,手技の理解が十分であったこと,などが考えられた.

2. カプノアイ®の感度・特異度について

急性期の呼吸不全管理に用いるにはPETCO2は測定値のばらつきが大きく十分とはいえない9が,慢性期の患者において動脈血ガス分析を行うべき患者を効率的にスクリーニングするには,感度86%,特異度79%という結果は良好であると思われる.一方,高炭酸ガス血症を見逃さないためにはカットオフ値をPETCO2 31 torrにすると感度が100%になるため,より有用と考えられた.測定目的に応じてカットオフ値を変更することも考慮すべきである.

3. カプノアイ®の忍容性・安全性について

アンケート調査の結果,カプノアイ®の忍容性は非常に良好であることが判明した.安全性については,一部SpO2が低下した症例を認めたが,SpO2<90%となった症例は1例のみであり,酸素吸入中の患者であっても,安全かつ患者に負担を強いることなく検査ができた.SpO2を測定しながらPETCO2を測定できることは,カプノアイ® MC-600の特徴の一つであるが,今回の検討ではSpO2のモニタリングが有用であった症例は認めなかった.

4. カプノアイ®の簡便性について

本研究ではカプノアイ®使用歴のない患者を対象とし,測定も一回限りとしたが,PaCO2との良好な相関が得られ,失敗の少ない手技の容易な検査と考えられた.カプノアイ®の測定時間は短く,1分程度で終了するため,繰り返し測定も可能である.また乾電池で作動し重量も530 gと軽いため携帯も容易である.一方,カプノアイ®の欠点としては,マウスピースで呼気をサンプリングできない患者では測定できず,PaCO2が上昇しやすい睡眠中などに連続したモニタリングはできない.またTOSCA®などの経皮二酸化炭素分圧測定装置に比べると精度に劣る5.これらも侵襲性が低く比較的簡便な測定法である4,10,11が,測定値が安定するまで数分以上かかる点が欠点となる.

5. カプノアイ®によるスクリーニング検査について

スクリーニングに適した検査として,低侵襲,低価格,簡便,感度の高さといった特徴が挙げられる.カプノアイ®は本体が45万円,1検体当たりの費用は約390円と動脈血ガス分析(当院採用のRAPID POINT 500eでは本体約900万円,カートリッジと洗浄液だけでも1検体あたり約1,780円)と比較し低価格であるため,カプノアイ®によるPETCO2測定はすべての特徴を満たしており,スクリーニングに適した検査であると考えられた.

在宅診療やへき地での診療など動脈血ガス分析を容易に行えない状態にある患者において,カプノアイ®によるスクリーニングを行うことで,動脈血ガス分析を行うか否かの判断材料となる可能性がある.また動脈血ガス分析装置のある病院においても,スクリーニングを行うことで不必要な動脈血ガス分析を省略できる可能性がある.本研究の対象者を高炭酸ガス血症の有無を確認するために行ったと仮定すると,カットオフ値PETCO2 31 torrであれば50例中13例で動脈血ガス分析を省略できた.高炭酸ガス血症の検査前確率がより低い集団を対象にする場合,カプノアイ®によるスクリーニングはより有望であると考えられる.

6. 肺機能検査結果とカプノアイ®測定値との相関

PaCO2では%FVC,FEV1,%FEV1,TV,いずれも有意に相関したが,PETCO2とではFEV1,%FEV1のみであり既報6と異なり%FVC,TV,での相関はみられなかった.しかし有意ではないものの相関傾向にあり,症例数が十分でない可能性があった.肺機能検査との相関において,PETCO2はPaCO2に劣ると考えられた.

7. 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界として,検討症例が比較的少数であること,単一施設による検討であったこと,対象疾患が多様であったことが挙げられる.今後の課題としては,カプノアイ®によるスクリーニング検査の需要が大きいと思われる在宅診療や神経筋疾患患者について検討すること,慢性期患者の経過観察における有用性を検討すること,が考えられた.

結語

カプノアイ®の忍容性は高く,測定値はPaCO2と良好な相関を示した.呼吸数はPaCO2とPETCO2との差に影響するため注意を要する.

備考

本論文の要旨は,第5回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会中国・四国支部学術集会(2018年6月,山口)で発表した.

著者のCOI(conflict of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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