第28回呼吸ケアリハビリテーション学会のシンポジウム4の「睡眠呼吸障害治療の新展開」にて,5つの演題が発表された.一般社会の大型コホートにおける睡眠呼吸障害の疫学,中枢性睡眠時無呼吸治療の現状,CPAP療法における遠隔モニタリングシステムの導入,慢性呼吸不全患者の睡眠剤使用と血液ガスの問題,COPDの睡眠呼吸障害に対するハイフローとNPPV療法についてなど,近年の睡眠呼吸障害領域の諸問題について幅広く発表され,討議された.発表の多くが過去,現状の成績ばかりでなく,自施設での臨床研究に基づいての報告も入っており,非常に有意義な発表であり,明日からの臨床に役立つシンポジウムであったと考えられた.また,睡眠時無呼吸のみでなく,睡眠関連低換気障害も考慮しての呼吸管理が重要であることが認識されたシンポジウムであった.
多くの治療法の発展進歩により,様々の病態の管理は良好になりつつあるので,さらなる病態のコントロールのためには未だ多くの領域でコントロール不十分な睡眠呼吸障害の克服は重要と考えられる.大型コホートでの客観的睡眠時間を用いた睡眠呼吸障害の頻度は他のcommon diseasesと睡眠呼吸障害との合併を考えるうえで重要である.なぜなら,例えば,COPDと閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea: OSA)の合併であるoverlap症候群はCOPD単独より予後が悪く,OSAの治療によりCOPD単独と同等になると報告されていることからも明らかと考えられる.本シンポジウムで松本氏は,「ながはまスタディでは,2013年から2016年までの4年間で参加した34-80歳の地域住民9,850人のうち,加速度計(アクチグラフ®)で週末1日以上,平日4日以上を含む5日以上の平均客観的睡眠時間の測定とパルスオキシメーターで2日以上の有効なデータが取得可能であった7051人(全体の71.6%)を解析対象とした所,睡眠時間は平均6時間ほどであまり性差は見られなかったが,睡眠呼吸障害の頻度については明確な性差が認められた.睡眠呼吸障害は男性において81.0%と半分以上に認められていたが,閉経前女性では25.1%,閉経後女性でも60.2%であった.また,治療対象と考えられる,中等症以上の睡眠呼吸障害の頻度は男性で23.7%と多いこと,閉経前女性では1.5%と少ないものの,閉経後女性では9.5%と頻度が高くなることが判明した.さらに,睡眠呼吸障害は重症度が上がるに従って高血圧,糖尿病ともに関連度が増加した.肥満も同様の傾向が認められたが,短時間睡眠は高血圧,糖尿病との関連は認めなかった.睡眠呼吸障害と高血圧,糖尿病との関連を性別ごとに分けて検討すると,高血圧では男性の方が女性よりも睡眠呼吸障害の関連が大きい傾向であった.また糖尿病では男性は睡眠呼吸障害の関連は認めず,女性でのみ認められ,しかも閉経前女性では中等症以上の睡眠呼吸障害で28倍と著明な関連度の増加を認めた.」1)と発表した.本邦でも睡眠呼吸障害の頻度は高く,生活習慣病との関連において,男女差がみられるとのことであった.さらに,閉経前女性の睡眠呼吸障害の頻度は従来の報告通り,閉経後に比して低いが,肥満度が高まり,いったん中等・重症になると高血圧,糖尿病の頻度が顕著に上昇するとの点は,閉経前の女性の体重の増加,例えば,妊娠中の女性は体重が増加するので睡眠呼吸障害に注意が必要と考えられた.
2015年にSERVE-HF試験の結果が発表され2),左室駆出率45%以下の心不全患者の中枢性睡眠時無呼吸(central sleep apnea: CSA)に対するadaptive servo ventilation(ASV)使用は予後改善効果が認められず,副次評価項目である心血管死,全死亡死を増加させる可能性が示され大きな問題となった2).本邦では,循環器病学会から2度にわたるステートメントが発表された3,4).葛西氏はこれらの経過を発表するとともに,日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)についても説明され5),本邦におけるASV使用の現状と原則について講演された.
平成30年の診療報酬改定にてCPAPに関しては遠隔加算が認められたが,村瀬氏は「平成28-29年度厚生労働科学研究補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)にて「有効性と安全性を維持した在宅呼吸管理の対面診療間隔決定と機器使用 のアドヒランスの向上を目指した遠隔モニタリングモデル構築を目指す検討」を分担研究者・研究協力者と共に行った.遠隔医療の導入を在宅呼吸療法領域への導入をめざす,基盤研究として,遠隔モニタリングシステムを利用して,治療アドヒアランスを維持しながら外来対面診療間隔を延長できることを証明するために,実証研究(多施設共同のランダム化対照非劣性試験)を行い,終了した.在宅持続陽圧(CPAP)症例508例であり,目標症例数を達成した.3カ月の毎月対面診療に対する遠隔医療を導入による3か月受診はアドヒアランスの点において非劣性であった.日本呼吸器学会認定施設・関連施設,日本睡眠学会認定医療機関施設に実体アンケート調査を行った所,1年目では69%であったCPAPの毎月受診が,2年目のアンケートでも約65%が毎月受診していた.海外の事情を文献上の検索を行った所,CPAP遠隔医療に関しては良好な成績が多かった.遠隔医療実施時の在宅呼吸遠隔モニタリング情報環境整備手引き(案),遠隔モニタリングシステム導入の手引き(案),遠隔持続陽圧呼吸管理導入の簡易版マニュアル(案)の作成を終えた6).平成30年度に行われる診療報酬改定に向けて,呼吸器学会,睡眠学会,呼吸ケア・リハビリテーション及び心不全学会共同提案の「在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料2に対する遠隔モニタリング加算」の基盤資料作成に尽力し,平成30年度の診療報酬改定にてCPAPに関しては遠隔加算が認められた.」と報告された.
茆原氏は在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT),非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure ventilation: NPPV)療法患者には不眠の患者が多く,睡眠剤投与がなされていることが多いが,慎重に投与する限りおいて,高PaCO2血症の進展を招かないとのことであった.但し,例えばHOT患者においては病態の進展(肺機能の低下)により,II型呼吸不全に進展していく患者が存在するので,茆原氏も述べたように適切・適時な動脈血ガス分析が必要であると考えられる.また,氏はHOTにより,日中のPaO2値を高めに維持されていた群の生命予後が良好であったと報告された7).
最後に富井氏は,COPDの睡眠呼吸障害について発表された.COPDも睡眠呼吸障害(特にOSA)も頻度が高く,COPDとOSAの合併overlap症候群の頻度も高くなる.既述のようにoverlap症候群は通常のOSAより予後が悪く,OSAの治療により予後は通常のCOPDと同等になると報告されている.氏はOSA以外にも特にREM睡眠期に重篤となる睡眠関連低換気障害の管理も重要と述べられた.そして,COPDには様々な睡眠呼吸障害が合併しうるので,治療方法にもCPAP,EPAP(expiratory positive airway pressure: EPAP),IPAP(inspiratory positive airway pressure: IPAP)が患者の呼吸状態を感知して変動する機器(諸種類のNPPV)について説明された.また,酸素投与法の中で高流量法のひとつである,ハイフローセラピーについて,自験例を含めて解説された.
睡眠呼吸障害の頻度は高く,一般的に何らかの生活習慣病を合併するとさらに頻度は高くなり,睡眠呼吸障害の管理が良好でなければ,原疾患のコントロールも困難な事がしばしばみられる.本シンポジウムを通して,閉塞性,中枢性睡眠時無呼吸及び睡眠関連低換気の病態を理解し,治療管理することは重要であることが再度認識された.
陳和夫:寄附講座(フィリップス,フクダ電子,フクダライフテック京滋,レスピロニクス).