2021 年 30 巻 1 号 p. 45-48
長期NPPV導入後に患者の生命予後を決定する因子として導入数ヶ月後のPaCO2の重要性が明らかになってきている.
高PaCO2血症がある患者は昼間の眠気など自覚症状が強いと考えられがちであるが,我々の研究では患者の自覚症状と日中のPaCO2値が関連しないことが判明し,慢性呼吸不全患者の呼吸管理には血液ガスの測定が不可欠であることが明らかになった.
長期NPPV症例における日中の自発呼吸下の酸素投与量に関してはガイドラインにも明記されていない.自験例の解析で,比較的多めの酸素投与で日中のPaO2を高めに保った患者群で生命予後が良いとの結果が得られた.
長期酸素療法使用慢性呼吸不全患者における呼吸リハビリテーションにおいて,ネーザルハイフローを併用するとリハビリテーション中の低酸素を予防し運動耐容能を改善することが可能であった.
慢性呼吸不全患者における長期NPPV療法は,拘束性胸郭疾患(restrictive thoracic disease: RTD)においてQOLや生存率を改善し1,2),慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)でも長期非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation: NPPV)導入後にPaCO2が低下した患者群は導入しなかった群よりも生命予後が改善することが示されている3).長期NPPV療法導入後の予後予測指標としてPaCO2値の有用性が報告されており,我々の検討でもRTD症例では長期NPPV導入3~6カ月後のPaCO2が 60 Torr未満の群は 60 Torr以上群よりも予後が良好であり4),COPD症例では導入6か月後のPaCO2 60 Torr未満の群は 60 Torr以上の群よりも予後良好であった5).
このように長期NPPV療法後のPaCO2の重要性が示されているが,PaCO2値とQOLや主観的な睡眠の質・眠気などとの関連は明らかにされていない.多施設共同研究による長期酸素療法(long-term oxygen therapy: LTOT)施行症例(夜間NPPV併用症例を含む)における自覚症状の程度と日中PaCO2値について検討した.
PaCO2と対照的に長期NPPV症例における日中自発呼吸下の至適PaO2値や酸素投与量については明らかではない.自験例における長期NPPV療法導入後のRTD患者の長期NPPV導入後PaO2値と予後について検討した6).
呼吸リハビリテーションは運動耐容能やADL・呼吸困難感を改善させるが7),LTOT施行中の慢性呼吸不全患者では,リハビリテーション中の低酸素や呼吸苦により十分な負荷をかけられずリハビリテーションの効果が減弱する傾向がある.ネーザルハイフロー(high-flow nasal cannula: HFNC)は高濃度・高流量酸素投与が可能であり,酸素化の改善や死腔換気の減少と気道内陽圧を生み出し換気効率を改善し呼吸仕事量を軽減させる8).HFNC下では高強度のリハビリテーションが可能となり,運動耐用能の改善につながる可能性があるためHFNC併用呼吸リハビリテーションの有用性を検討した.
2013年よりLTOT施行355症例(夜間NPPV併用症例を含む)を対象に多施設前向きコホート研究を行っている.初年度の日中PaCO2(0 m-PaCO2)とQOL・睡眠の質・眠気などとの関連を調査した.QOL等の指標としてSevere Respiratory Insufficiency Questionnaire(SRI:重症呼吸不全用の健康関連QOL質問票)・Hospital Anxiety and Depression(HAD:不安・抑うつ質問票)・Medical Research Council Scale(MRC:呼吸困難感)・Athens Insomnia Scale(AIS:アテネ不眠尺度)・Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI:睡眠の質)・Epworth Sleepiness Scale(ESS:眠気)の各質問票を用いた.
成績・結果LTOTのみ施行症例は 0 m-PaCO2高値はSRI低値・HADの不安項目高値と有意に相関し(図1A,B),HADの抑うつ項目高値・AIS高値と相関する傾向を認めた(表1).一方長期NPPV併用症例は 0 m-PaCO2はいずれの質問票とも関連していなかった(表1).
LTOT施行症例(夜間NPPV併用症例を含む)における 0 m-PaCO2とSRI(A),HAD不安項目(B)との相関
LTOT+NPPV | LTOTのみ | |
---|---|---|
SRI 総スコア | (-) | PaCO2高いとQOL低い |
HAD 抑うつ | (-) | PaCO2高いと抑うつ傾向 |
HAD 不安 | (-) | PaCO2高いと不安強い |
MRC | (-) | (-) |
AIS | (-) | PaCO2高いと不眠傾向 |
PSQI | (-) | (-) |
ESS | (-) | (-) |
SRI: Severe Respiratory Insufficiency Questionnaire
HAD: Hospital Anxiety and Depression
MRC: Medical Research Council Scale
AIS: Athens Insomnia Scale
PSQI: Pittsburgh Sleep Quality Index
ESS: Epworth Sleepiness Scale
RTDによる慢性II型呼吸不全に対し長期NPPV療法を導入した141名の患者を対象とした.NPPV導入12か月後の日中 PaO2 ≥ 80 Torr群とPaO2<80 Torr群の患者でNPPV導入後の入院や死亡について比較した.
成績・結果NPPV導入後,PaO2<80 Torr群と比較しPaO2 ≥ 80 Torr群のPaCO2増加速度が進行することはなかった(図2A).NPPV導入後の呼吸不全増悪による入院頻度は導入前と比較し,両群ともに減少し両群間の差はなかった.NPPV導入4年後の生存率はPaO2 ≥ 80 Torr群がPaO2<80 Torr群より有意に予後良好であった(図2B).
RTDによる慢性II型呼吸不全に対し長期NPPV導入後のPaCO2変化(A),長期NPPV導入12か月後の日中 PaO2 ≥ 80 Torr群とPaO2<80 Torr群別の生存率比較(B)
LTOT中の慢性呼吸不全患者32名を対象とした前向き非盲検無作為化比較試験を施行した.自転車エルゴメーターによる漸増運動負荷試験を施行し,最大負荷量の80%で定常運動負荷試験を施行した.HFNC(100% 50 L)下(n=16,HFNC群),酸素経鼻 6 L/minカニュラ下(n=16,酸素療法群)で定常運動負荷試験と同負荷量でリハビリテーションを4週間施行した.
成績・結果リハビリテーション前の定常運動負荷試験で,HFNC下は経鼻 6 L/minカニュラ下・LTOT下より有意に運動持続時間の延長を認め(図3A),経鼻 6 L/minカニュラ下よりも呼吸困難感の軽減を認めた(図3A).HFNC下は経鼻 6 L/minカニュラ下・LTOT下と比較し,定常運動負荷試験開始6分後のSpO2高値・脈拍低値であり経皮的二酸化炭素分圧は差を認めなかった(図3B).4週間のリハビリテーション後,HFNC群は6分間歩行距離が有意に延長したが(p=0.006),酸素療法群は変化しなかった(p=0.98)(図3C).リハビリテーション中,心不全・不整脈など有害事象は認めなかった.
リハビリテーション前の定常運動負荷試験における3条件下での運動持続時間と呼吸困難感(A),定常運動負荷試験開始6分後のSpO2・脈拍・経皮的二酸化炭素分圧(B).4週間のリハビリテーション前後によるHFNC群と酸素療法群別の6分間歩行距離の変化(図C)
図3Bの*:両群間にp<0.05の有意差あり
慢性呼吸不全患者,特に長期NPPV療法を導入した患者における動脈血液ガス測定はPaCO2が予後予測指標として有用であることが報告されており,その重要性が認識されている.高CO2血症は自覚症状として眠気・不眠・頭痛・全身倦怠感等を認めQOL低下と関連することが知られているが,検討①ではLTOT症例は日中PaCO2が高いほど健康関連QOLが有意に低く,不安が有意に強く,抑うつと不眠が強い傾向にあったがNPPV症例ではいずれの指標とも相関を認めなかった.この結果から慢性呼吸不全,特に長期NPPV症例では日中自発呼吸下のPaCO2値が高いからといって,自覚される睡眠の質や抑うつ不安感が悪化するわけではなく自覚症状からPaCO2値を予見することが困難であると考えられ,改めて呼吸管理における動脈血液ガス施行の重要性が認識される結果となった.
長期NPPV療法を導入した患者における日中自発呼吸下の至適PaO2値や酸素投与量については詳細な検討がされていなかった.長期NPPV症例は高CO2血症を合併しているので,酸素過量投与によるCO2ナルコーシス誘発を懸念し酸素投与量を少なくする傾向がある.検討②の結果,長期NPPV導入12か月後のPaO2 ≥ 80 Torr群はPaO2<80 Torr群と比較し,高CO2血症の進行はなくCO2ナルコーシスを含む呼吸不全増悪による入院頻度も増加しなかった.さらにPaO2 ≥ 80 Torr群はPaO2<80 Torr群よりも有意に4年生存率が良好な結果が得られた6).この結果からPaCO2がコントロールできていれば,PaO2を高めに保つことで労作時等の低酸素を予防し予後の改善につながる可能性が示唆された.検討②は後ろ向き研究であり,今後前向き研究による検証が望まれる.
LTOT施行中の慢性呼吸不全患者における呼吸リハビリテーション中の低酸素血症に対しては,酸素流量を増やして対応することが一般的だが鼻カニュラでは高流量による不快感のため 6 L/minが限度であった.検討③の結果,定常負荷試験においてHFNC下は経鼻 6 L/minカニュラ下・LTOT下より有意に運動持続時間が延長し,4週間のリハビリテーション後,HFNC群のみ6分間歩行距離が改善した.これはHFNCによる①.正確かつ高濃度の酸素供給 ②.死腔換気の軽減 ③.呼気終末陽圧効果 ④.Low levelの吸気補助といった機序を介して, リハビリテーション中の低酸素や心負荷の軽減と呼吸仕事量を軽減させ,リハビリテーションの持続時間が延長し6分間歩行距離が改善したと考えられる.高濃度酸素投与を施行したが,定常負荷試験6分後の経皮的二酸化炭素分圧は増加せず,心不全・不整脈など有害事象は認めなかった.今後さらに多数症例や単一疾患での検討が望まれる.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.