日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
慢性閉塞性肺疾患患者における身体活動量と吸気筋トレーニングの関連性と可能性
川越 厚良古川 大岩倉 正浩大倉 和貴菅原 慶勇高橋 仁美塩谷 隆信
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2021 年 30 巻 1 号 p. 59-64

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要旨

慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の主症状は呼吸困難であり,身体機能低下を伴う予後の不良へと導く悪循環が形成されることは周知の事実である.その悪循環には日常生活の中の身体活動量(PA)という因子も深く関わっており,患者診療における評価・治療・管理の面で非常に重要な柱になっている.PAの管理が,予後を見通す重要な因子になることから,様々な取組によるPAへの介入方法が検討されてきており,PAの改善が予後に与えうる影響を解明することも今後の課題になりうる.一方,吸気筋トレーニング(IMT)は未だにエビデンスレベルは低いものの,テクノロジーの進化に伴う新たなデバイスの発展により,その効果について再び脚光を浴びつつある.本稿では,PAに対する介入方法と影響因子,新たな負荷様式を備えたデバイスによるIMTの効果,そして両者の関連性を含め,IMTがCOPD患者のPAに影響する可能性について提言したい.

はじめに

慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease;以下COPD)患者において身体活動量(Physical Activity;以下PA)は,生存率と関連する重要な指標である1,2.Waschkiら1は,COPD患者の日常生活活動は死亡原因の最大の予測因子であると報告しており,Garciaら2は,低活動群は高活動群に比較して,5年生存率が約55%低いと報告している.COPD患者の主症状である呼吸機能低下に起因した呼吸困難の増強は,低活動な生活様式をもたらし,更に症状を進行させる悪循環に陥ることが報告されており3,当にPAという指標はそのプロセスにおける重要な評価因子である.

予後に関連するPAを改善させる介入法を検討する報告は近年増加しており,様々な取り組みが行われている4.その一つとして吸気筋トレーニング(Inspiratory muscle training;以下IMT)による効果もPAの改善を導く可能性が示唆される.近年,IMTに用いられる機器は発展してきており,より効果的な負荷量を提供できる設定になっている5.本稿では,PAの改善に向けた取り組みと,IMTのエビデンスを含め,両者の関連性から,IMTによる効果がPAの改善に繋がる可能性について,言及していきたい.

PAに対する取り組みとその効果

PAの評価や改善に向けた取り組みの重要性は,近年のガイドラインに明記されている6,7.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸理学療法学会,および日本呼吸器学会の3学会合同による呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)に関するステートメント6においては,そのコンセプトや有益性には身体活動の向上が示されており,歩数計による活動性評価が必須の評価として新たに加えられた.本ガイドラインにおいて,活動性の高い生活様式へと行動変容していくための最適な介入内容を検討していく必要があると述べられている.COPDの国際的なガイドラインであるglobal initiative for chronic obstructive lung disease(以下,GOLD)7の報告においても,日常生活の身体活動の確保は重症度の高いCOPD患者も含め,全てのCOPD患者に推奨されるとし,PAを改善させる取り組みは今後も促進されるべきとしている.

近年は加速度計の発展により日常生活の微小な加速度を伴う低強度のPAが測定可能となり,PAの指標の一つである座位以下の行動様式に伴う低活動性の動作(Sedentary behavior,以下SB)の量も検出可能である.1日のSBの量が510分以上では,510分未満の群と比較して5年生存率が約40%低下すると報告されており8,筆者らの先行研究におけるCOPD患者の1日のSBの量も平均521分と同等な活動性を示している9.このような低活動性に陥ってしまった患者の活動性向上,あるいは低活動性に陥らないように高い活動性を維持していくことが重要である.

PAを改善させる取り組みを検討する報告は近年多くみられ,薬物治療による効果から,呼吸リハの効果,そして歩数計によるフィードバックを加えた患者教育による効果などが報告されている.また,PAに対する介入の効果をレビューする報告も散見されており,2016年に報告されたMantoaniら10のレビューでは,より長い期間の呼吸リハ介入によりPAに対する効果は期待されるとしているが,より質の高い検討を必要すると述べており,エビデンスのレベルは低い状態であった.さらに,Lahhamら11の報告では,運動療法に加え,PA改善のためのカウンセリング介入を加えた効果をメタ分析しており,解析した論文件数は多くはないものの,運動療法のみならず,呼吸リハに併用したPA改善に向けたカウンセリングにより,一定のPA改善効果を認めている.2018年のShioyaら4による薬物療法の効果の検討も含めたレビューの報告でも,薬物療法や呼吸リハによるPA改善の効果が得られており,加えて呼吸リハにカウンセリングを併用した効果の中でも,歩数計によるフィードバックを加えた検討において,より大きなPAの改善が得られている傾向がみられている.著者らは,解析可能なデータを含んだ文献のみで,さらにメタ分析を実施したところ,呼吸リハ単独による有意なPA改善効果に加え,薬物療法やカウンセリングを併用した呼吸リハにより,さらに大きいPA改善効果が示されていた(図1).しかし,本検討においては解析できるデータが限られていることから,エビデンスの質としても低い状態であり,さらにデータを蓄積して検討する必要がある.

図1

PAに対する効果のメタ分析結果

a.呼吸リハ前後における単独効果の検討

b.薬物治療による効果の検討

c.呼吸リハとカウンセリングを併用した効果の検討

PA: Physical activity

著者らの先行研究においても,呼吸リハに併用した歩数計によるフィードバック介入(月1回のPAレポートによるフィードバック;図2)を1年間継続したことにより,PA改善への付加効果が示されている12.Olsenら13の提唱する健康志向を高めるためのコーチングの原則には1)目標設定,2)動機付けを行う面談,3)医療職同士の協同介入,4)長期的な介入プログラムを挙げている.前述したレビューによる報告を踏まえ,COPD患者におけるPAに対するアプローチ方法についても,活動量計による客観的な数値による目標設定,そして動機付けを行うためのレポートの活用,多職種による包括的介入が長期的に行われることが,行動変容に繋がり,PAの改善,あるいは維持が実現できるのではないかと考える.

図2

フィードバックのためのPAレポート

上から1日の運動量(kcal),エネルギー消費量,歩数の1ヵ月分の推移とそれぞれの平均値を表示している.

IMTのエビデンスと機器の発展

IMTは呼吸リハの運動療法プログラムの一つとして位置づけられており,運動処方における負荷強度の設定は最大吸気口腔内圧(maximum inspiratory mouth pressure;以下PImax)の30%(低強度)から,60-70%(高強度)と幅広く設定される.また1回のトレーニングにおける持続時間を15分と設定する方法や呼吸回数を30回と設定する方法が提唱されている14.しかし,その効果は一定ではなく, American College of Chest Physicians, and American Association of Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitation(ACCP/AACVPR)におけるガイドライン15や本邦における理学療法診療ガイドライン16では,推奨レベルはB(行うべき科学的根拠がある)と位置付けており,GOLDガイドライン7においては,エビデンスレベルはCに留まっている.2011年のGosselinkら17のレビューにおいては,2000年から2009年の32文献を対象としたメタ分析の結果,運動耐容能や呼吸困難の指標には有意な改善が認められると報告されており,2018年のBeaumontら18の最新のレビューでも同様な結果を示していた.以上の2つのレビューにより,最近の見解として,IMTの効果は証明されつつある.しかし,Schultzら19による無作為化比較試験(Randomised controlled trial;以下,RCT)では3週間の呼吸リハプログラムにIMTを付加した効果を検討した結果,PImaxには有意な改善が得られたものの,その他の臨床的指標の改善度に有意な差はなかったと報告されている.COPDに対するIMTの効果には,未だに議論の余地があることが現状であり20,更なるエビデンスの蓄積が求められる.

近年,IMTに用いられる吸気抵抗負荷法による機器は発展を遂げており,従来のスプリングの長さを調節することによって抵抗を変えるMechanical Thresholdタイプ(以下,スレショルド型)に対し,バルブ弁口面積をテーパリング方式によって変化させるTapered flow resistiveタイプ(以下,テーパー型)が開発されている5図3).その違いは負荷様式にあり,吸気時間全体における抵抗が一定である従来のタイプに対し,テーパー型は徐々に吸気抵抗が低下することで,吸気量が増加し,仕事量は従来よりも増加する点にある5図4).Langerら5はテーパー型を用いたIMTにより,従来のスレショルド型よりも有意にPImaxや吸気持久力が改善したと報告しており,Charususinら21による219名のCOPD患者を対象としたRCTでは,呼吸リハにIMTを付加することでエルゴメータによる耐久時間が有意に延長し,運動負荷試験時の呼吸困難が有意に軽減したことを報告している.

図3

IMTに用いられる機器(PowerBreathe®

a.スプリングの長さによって負荷抵抗を調整する.

b.バルブ弁口面積の変化によって負荷抵抗を調整する.

図4

スレショルド型とテーパー型の負荷様式の違い(文献5より引用)

スレッショルド型は吸気抵抗(Pressure)が一定であるが,テーパー型は徐々に低下する.結果として,吸気量(Volume)の増加はテーパー型の方が多く,仕事量(Work)も大きくなる.

PAの改善とIMTによる効果の関連性と可能性

PAとIMTという両者の関連性を紐解く上で,PAは評価項目の一つのアウトカムであり,IMTは呼吸リハプログラムの介入の一つという視点でみることは想像に難くない.PAに影響する因子としては,薬物治療や酸素投与,カウンセリングによる介入といった非薬物療法の他に,社会環境因子,そして呼吸機能,運動機能といった臨床的指標など様々な因子が挙げられている22.その中でも,臨床的指標としての運動耐容能や呼吸困難,そして動的肺過膨張(Dynamic Hyperinflation;以下,DH)の関連性に注目してみると,IMTの効果はPAの改善に間接的に寄与する可能性も示唆される.COPD患者の労作時呼吸困難の主要因はDHであり23,テーパー型のIMTによりDHに関わる運動時の換気様式の指標(一回換気量や吸気時間)が改善することが近年,報告されている5,21.大倉ら24における本邦の多施設共同RCTでは,吸気回数を指定したIMTにより,プラセボ群では有意差がみられなかった1日の歩数あるいは中等度の強度以上の活動時間(moderate to vigorous physical activity;以下,MVPA)は有意に改善したと報告されている(図5).Polkeyら20はCOPD患者の換気様式に伴う横隔膜の機能不全に対してはIMTによる効果が見込める可能性はあるとし,今後は吸気筋力に代わる,より有用な臨床的指標を評価項目として検討する必要があると述べている.以上より,IMTによるPAの改善効果も期待され,先に述べたPA改善に向けたアプローチに付加的な効果が期待できる可能性も示唆される(図6).

図5

多施設共同無作為化比較試験におけるIMTの効果24

6分間歩行距離(6MWD)はIMT群で有意に増加しており,歩数(Steps)やMVPAにおいては交互作用も確認されている

図6

呼吸リハにおけるPA改善向けた行動変容アプローチ

目標設定や動機付け,多職種による包括的介入,長期的な介入プログラムに加え,IMTによる付加効果によるPA増加の可能性も期待される.

まとめ

近年,主要な評価項目として注目されているPAというアウトカムと,機器の発展を遂げたIMTによる介入の両者の関連性から,PAの改善に向けたアプローチの一つとして,IMTの間接的影響の可能性について言及した.COPD患者の予後に関連するPAの維持・改善を図る上で,多職種による包括的な呼吸リハによるアプローチは重要な寄与因子である.そして,呼吸リハプログラムにおける運動療法の一つであるIMTの付加効果としての意義は,今後更なる検討により,エビデンスを構築していく必要がある.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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