日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
一般市民を対象とした肺年齢測定会がCOPDの理解度を向上させるか
森 広輔髻谷 満今井 宏太菅野 寛子稲垣 武河野 純子本田 憲胤藤原 耕三千住 秀明
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2021 年 30 巻 1 号 p. 83-88

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要旨

【背景と目的】近年,COPDの啓発活動として,肺年齢測定会が開催されている.しかし,一般市民を対象とした肺年齢測定会により,対象者がCOPDの理解を得られるかは明らかにされていない.本研究の目的は,一般市民を対象とした肺年齢測定会により対象者がCOPDの理解を得られるか,さらに理解が得られない対象者の特性を明らかにすることである.

【対象と方法】2018年5月から2019年2月に開催された肺年齢測定会に参加した2036名に対し,肺年齢の提示およびCOPDの説明の後,COPDの理解度についてアンケート調査を行った.

【結果】1887名(92.7%)がCOPDを理解することが可能であった.理解が得られなかった対象者の特徴は“60歳以上”,COPDを“知らない”,および肺年齢の感想が“わからない”であった.

【結語】一般市民を対象とした肺年齢測定会により,対象者はCOPDを理解することが可能である.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease,以下COPD)は,タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入・曝露することなどにより生ずる気流閉塞を示す肺疾患であり,喫煙習慣を背景に中高年に発症する生活習慣病である.COPDは世界の死亡原因の第3位(2016年)であり1,我が国においても40歳以上の人口の8.6%,約530万人がCOPDに罹患していると推定され,その多くが未診断,未治療の状態である2

厚生労働省は「健康日本21(第二次)」3で,COPD認知度(以下,認知度)を2022年までに80%まで向上させることを目標に挙げ,COPDの予防,早期発見に取り組んでいる.しかし,GOLD(The Global Initiative for Chronic Obstructive Pulmonary Disease)日本委員会による認知度調査(2019年)4では認知度27.8%であり目標には届いていない.2018年9月に報告された「健康日本21(第二次)」中間評価報告書5では,生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底において,COPDの認知度向上は「変わらない」とし,認知度について現状のままでは目標達成は困難な状況にあるとしている.今後の対策として,COPDの早期発見に向けたスパイロメトリーの更なる普及・実施や,あらゆる世代により一層の普及・啓発を図ることが必要とされている.スパイロメトリーの結果より算出される「肺年齢」は禁煙指導に有効6,7とされ,COPD啓蒙活動や健康関連イベント8,9で利用されている.安藤ら10は特定健診にCOPD検診を組み入れることにより,COPD認知度が向上すると報告しているが,一般市民を対象とした肺年齢測定会により,対象者がCOPDに対する理解を得られているかは明らかにされていない.

本研究の目的は,一般市民を対象とした肺年齢測定会により対象者がCOPDに対する理解を得られるか,さらに,理解を得られない対象者の特性を明らかにすることである.

対象と方法

1. 対象

対象は,2018年5月から2019年2月に,行政や医師会,民間団体などの主催により関東地域にて開催(合計16回)された健康関連イベントにおいて肺年齢測定会のブースを設け,アンケートの趣旨を説明し,同意の得られた2099名とした.対象者にはヘルシンキ宣言,および人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に基づき,研究内容を口頭で説明し,アンケートの回答をもって調査の同意とした.

2. 方法

本研究では6項目のアンケート調査を実施した(表1).項目ごとにQ1を「喫煙習慣」,Q2を「COPD認知度」,Q3を「主症状」,Q4を「肺年齢測定経験」,Q5を「肺年齢の測定結果に対する感想(以下,肺年齢の感想)」,Q6を「COPD理解度(以下,理解度)」と定義した.

表1 アンケート
定義アンケート内容(選択肢)
Q1喫煙習慣喫煙していますか?
(している・過去にしていた・していない)
Q2COPD認知度COPD(慢性閉塞性肺疾患)についてご存じでしたか?
(知っていた・内容までは知らないが,聞いたことはある・知らなかった)
Q3主症状あてはまる症状があればお選びください?(複数回答可)
(咳・タン・息切れ)
Q4肺年齢測定経験肺年齢測定をしたことがありますか?
(ある・ない)
Q5肺年齢の測定結果に対する感想肺年齢測定をしてみていかがでしたか?
(予想通りの数値だった・思ったより悪かった・思ったより良かった・わからない)
Q6COPD理解度肺年齢測定を通じて,COPDという疾患をすることができましたか?
(できた・できなかった・わからない)

6項目のアンケート調査を実施し,項目ごとに定義づけを行った.

肺年齢の説明前にQ1-4を調査し,説明後にQ5,6を調査した.

対象者に基本属性(年齢,性別,体重,身長)とアンケート調査(Q1-4)を行った後,呼吸機能測定を実施し,肺年齢を測定した.アンケートおよび測定結果をもとに肺年齢実年齢差(以下,肺年齢差)およびCOPDの原因や慢性の咳,タン,息切れなどの症状について5分程度の説明を行った後,アンケート調査(Q5,6)を実施した.

呼吸機能測定は,日本呼吸器学会「呼吸機能検査ガイドライン」11に準じて実施し,被検者の測定は3回までとした.測定にはオートスパイロAS-407(ミナト医科学株式会社,大阪)を使用し,努力性肺活量(Forced Vital Capacity, FVC),1秒量(Forced Expiratory Volume in one(first)second, FEV1),1秒率(FEV1/FVC),肺年齢を測定した.

3. 解析方法

アンケート結果のうち1項目でも無回答がある63例を欠損データとし,2036例を解析対象とした.

本研究では,認知度に関して“知っていた”,“内容までは知らないが,聞いたことはある”を「認知あり」,“知らなかった”を「認知なし」とし,理解度に関して“できた”を「理解あり」,“できなかった”,“わからない”を「理解なし」.また,主症状に関して,咳・タン・息切れのうち1項目でもありと回答したものを「主症状あり」と定義した.さらに,問診により得られた身長,体重よりBody Mass Index(BMI)を算出し,“<18.5”を「痩せ」,“18.5≦,<25.0”を「標準」,“25.0≦”を「肥満」と定義した.

理解度について,理解の相違における対象者の違いを検討するため,χ2検定を用いた.また,「理解なし」の対象者と各調査項目との関連を検討するため,目的変数として理解度,説明変数として年齢,BMI,喫煙習慣,主症状の有無,認知度,肺年齢測定経験,肺年齢差,肺年齢の感想を強制投入法による二項ロジスティック回帰分析を行い,オッズ比(Odds Ratio,以下OR)と95%信頼区間(Confidence Interval,以下CI)を算出した.統計解析はPASW Statistics 25.0 for Windows(Chicago, SSPS Inc.)を使用し,いずれも統計学的有意水準は危険率5%未満とした.

本研究は,当院の倫理審査委員会(承認番号20007)にて承認を得た.

結果

対象者の基本属性を表2に示す.対象者のうち男性は863例(42.4%),女性は1173例(57.6%)であった.年齢は60歳以上(45.3%)が多かった.BMIは痩せが179例(8.8%),肥満が350例(17.2%)であった.喫煙習慣は現喫煙が303例(14.9%),過去喫煙が418例(20.5%)であった.認知度について“知っていた”が370例(18.2%),“内容までは知らないが,聞いたことがある”が513例(25.2%)であり,認知度は43.4%であった.過去に肺年齢測定経験がある参加者は199例(9.8%)であった.理解度について理解ありは1887例(92.7%),理解なしは149例(7.3%)であった.理解度の相違による対象者の違いについて,年齢において,理解ありは40歳以上,60歳未満(31.1%)の割合が多く,理解なしは60歳以上(59.7%)が多かった(p<0.01).認知度において,理解ありは認知あり(44.9%)が多く,理解なしは認知なし(76.5%)が多かった(p<0.01).また,肺年齢の感想において,理解ありは“思ったより悪かった”(37.3%)が多く,理解なしは“わからない”(20.8%)が多かった.他の項目で差は有意ではなかった.

表2 対象者の基本属性
全体理解あり理解なし検定結果
n=2036n=1887n=149
実数(%)実数(%)実数(%)
性別(名)男性863(42.4)798(42.3)65(43.6)χ2=0.101(df1)
女性1173(57.6)1089(57.7)84(56.4)
年齢(歳)40歳未満494(24.3)467(24.7)27(18.1)χ2=13.550(df2)**
40歳以上,60歳未満620(30.5)587(31.1)33(22.1)
60歳以上922(45.3)833(44.1)89(59.7)
BMI(kg/m2標準1507(74.0)1403(74.4)104(69.8)χ2=3.712(df2)
痩せ179(8.8)168(8.9)11(7.4)
肥満350(17.2)316(16.7)34(22.8)
喫煙習慣非喫煙1315(64.6)1216(64.4)99(66.4)χ2=5.597(df2)
過去喫煙418(20.5)397(21.0)21(14.1)
現喫煙303(14.9)274(14.5)29(19.5)
COPD認知度認知あり883(43.4)848(44.9)35(23.5)χ2=25.868(df1)**
認知なし1153(56.6)1039(55.1)114(76.5)
主症状あり644(31.6)597(31.9)47(32.4)χ2=0.015(df1)
肺年齢測定経験あり199(9.8)182(9.6)17(11.4)χ2=0.488(df1)
肺年齢実年齢差071(3.5)67(3.6)4(2.7)χ2=1.516(df2)
-1歳以下789(38.7)737(39.1)52(34.9)
+1歳以上1176(57.8)1083(57.4)93(62.4)
肺年齢の測定結果に対する感想予想通りの数値だった319(15.7)300(15.9)19(12.8)χ2=57.205(df3)**
思ったより良かった842(41.4)786(41.7)56(37.6)
思ったより悪かった746(36.6)703(37.3)43(28.9)
わからない129(6.3)98(5.2)31(20.8)

理解あり群と理解なし群の比較にχ2検定を用いた.

χ2検定 **p<0.01

「理解なし」の対象者と各調査項目との関連を表3に示す.理解なしへ影響する因子は年齢が60歳以上(OR=1.71, 95%CI=1.05-2.76),認知度が認知なし(OR=2.70,95%CI=1.80-4.05)および肺年齢の感想が“わからない”(OR=4.60, 95%CI=2.41-8.80)であった.

表3 「理解なし」と各調査項目との関連   n=149
理解なし
OR(95%CI)
年齢40歳未満1(ref)
40歳以上,60歳未満0.98(0.57-1.69)
60歳以上1.71(1.05-2.76)*
BMI標準1(ref)
痩せ0.94(0.48-1.83)
肥満1.42(0.93-2.19)
喫煙習慣非喫煙1(ref)
過去喫煙0.68(0.40-1.16)
現喫煙1.50(0.94-2.39)
主症状なし1(ref)
あり0.97(0.67-1.41)
COPD認知度認知あり1(ref)
認知なし2.70(1.80-4.05)**
肺年齢測定経験なし1(ref)
あり1.60(0.90-2.85)
肺年齢実年齢差01(ref)
-1歳以下1.29(0.43-3.85)
+1歳以上1.59(0.54-4.70)
肺年齢の測定結果に対する感想予想通りの数値だった1(ref)
思ったより良かった1.13(0.65-1.99)
思ったより悪かった1.04(0.58-1.88)
わからない4.60(2.41-8.80)**

理解なし群における各調査項目との関連の分析に二項ロジスティック回帰分析を用いた.

*p<0.05 **p<0.01

OR=オッズ比,CI=信頼区間,ref=基準カテゴリー,BMI=Body Mass Index

考察

本研究は,一般市民を対象とした肺年齢測定会において肺年齢を用いた短時間の説明により,対象者がCOPDの理解を得られるかを明らかにするためにアンケート調査を行った.対象者は,COPDの認知度に関して,“知っていた”が18.2%,“内容までは知らないが,聞いたことがある”が25.2%である.認知度は43.4%であり,GOLD日本委員会による認知度調査4の認知度(27.8%)より高かった.西尾ら12は,一般市民を対象とした健康フェスティバルにおける肺年齢測定の対象者の認知度は高く,COPDに対する認識が高いと報告しており,本研究においても同様の結果を示した.また,対象者の喫煙率は14.9%であった.日本人の成人喫煙率(2018年)13は17.8%であり,対象者の喫煙に対する有害性の認識の高さを反映した結果であると推測される.

肺年齢の測定は喫煙者の禁煙指導に有効6,7とされ,近年,COPD啓蒙活動や健康関連イベントなどで利用されている.本研究において,アンケート調査の結果1887例(92.7%)の対象者がCOPDを“理解できた”と答えており,一般市民を対象とした肺年齢測定会が対象者のCOPDの理解に有効であった.

理解度の相違による対象者の違いについて,理解ありは40歳以上,60歳未満の割合が多く,理解なしは60歳以上が多かった.杉山ら14は,認知度は40-60歳代で高く,20-30歳代,70歳以上で低かったと報告している.また,GOLD日本委員会の認知度調査4では,COPDを知る経路を「医師や医療関係者から聞いて」,「テレビ」,「インターネット」,「家族・知人から聞いて」の順に多いと報告している.このうち,一般市民が能動的にCOPDを知る機会は主に「インターネット」が考えられるが,インターネットの利用率は60歳台以降で低下すると報告されており15,高齢者が能動的にCOPDを知る機会は少ないと思われる.本研究の対象者は60歳以上が922名(45.3%)と多く,一般市民を対象とした肺年齢測定会は高齢者がCOPDを知る機会として有効な手段となる可能性がある.

肺年齢の感想において,理解ありは“思ったより悪かった”と答えた割合が多かった.肺年齢は,性別,年齢,身長から算出される1秒量の正常基準値を推定する回帰式を応用したものである.しかし,1秒量を推定する回帰式の特性から,健常者の約半数において肺年齢が実年齢よりも高くなること,同年齢の健常者でも1秒量の測定値にはばらつきがあり,許容すべき年齢範囲が考慮されていないことが指摘されており16,2014年にLMS法によるスパイログラムの基準値17が示されたものの,現在普及しているスパイロメトリーでは機器への修正は困難である.日本呼吸器学会の肺年齢に関するステートメント18において,「肺年齢が実年齢とどのくらい乖離していれば異常とするかなどにこだわることなく,これまで通り,あくまでも疾患の啓発や禁煙指導の参考に使用.」とされている.本研究において,対象者のうち1176名(57.8%)の肺年齢差が+1歳以上となっており,肺年齢を予想よりも悪いと感じた対象者が多かったことが推測される.

理解なしは,年齢が60歳以上,認知度が認知なし,肺年齢の感想が“わからない”に有意な関連性を認めた.60歳以上の対象者のうち,理解なし89名の年齢分布(同年代での割合)は60-69歳が26名(8.7%),70-79歳が44名(9.5%),80歳以上が19名(11.9%)であった.高齢期における実行機能の低下に変わる要因19として,処理速度の遅延や自動的処理に対する制御的・努力的処理の低下,注意資源・容量の制限,抑制の低下,感覚(視覚や聴覚)の低下などが指摘されており.高齢者への説明においては,会話をゆっくりと行う工夫やCOPDの冊子を用いた説明が必要と思われる.肺年齢測定会は,主催者の企画により同一場所で行われる測定会と,広く参加者を募るため主催場所が意図的に変更される測定会がある.本研究では「肺年齢」を用いた5分程度のCOPDの説明では対象者のうち149名(7.3%)がCOPDの理解が困難であった.今後は,理解が困難な対象者のための教育スタッフを考慮する必要があるかもしれない.

本研究の対象者のうち男性は863名(42.4%)であった.田島ら20は高齢者サロンにおける男性の参加動機は勧誘,社会・地域貢献,人間関係の構築,妻の参加,歳を重ねたであったと報告している.一般市民を対象とした肺年齢測定会において,目標である「COPDの認知度向上」に「COPDの早期発見」を加えるならば,行政の発行する広報紙やホームページ,肺年齢測定経験のある友人や家族からの勧誘など,喫煙習慣の多い男性21の参加を促す工夫が必要である.

本研究の限界は,対象者毎の介入時間が短く,理解した内容を調査することが困難であったことである.また,一般市民を対象としたため,認知度の経時的な変化について調査が困難であった.今後の課題として,より広く認知度を高めるため肺年齢測定会を定期的に開催し,関連地域における認知度の経時的な変化を調査する必要がある.

謝辞

本研究は独立行政法人環境再生保全機構の研究費(気管支ぜん息・COPD患者の健康回復に関する調査研究,代表:千住秀明)の助成を受けたものである.

本研究にご協力を頂きました東京都福祉保健局保健政策部健康推進課,東久留米市医師会そしてアンケートの回答をくださった東京都民の皆様に深謝致します.

本論文の要旨は,第29回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2019年11月,愛知)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

千住秀明;研究費・助成金(独立行政法人環境再生保全機構)

文献
 
© 2021 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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