日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
Online ISSN : 2189-4760
Print ISSN : 1881-7319
ISSN-L : 1881-7319
原著
小型軽量化を目指し開発した携帯型酸素濃縮器
川内 翔平藤本 圭作
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 30 巻 1 号 p. 89-95

詳細
要旨

背景:我々は携帯型酸素濃縮器(以下POC)の小型軽量化をおこなってきた.開発したPOC試作1号機と2号機が現在販売されている従来機と同等の酸素化効果があるかを明らかにする.

方法:運動誘発性低酸素血症の者を対象とし,POC試作機(190×60×200 mm,1,850 g,バッテリー除く)と従来機の無作為交叉試験で,2 L/分相当の酸素が供給される呼吸同調設定で定常運動負荷試験を行い,SpO2を比較した.一呼吸あたりの酸素吐出量はPOC試作1号機で 17.0 ml,POC試作2号機で 28.5 mlとした.

結果:従来機とPOC試作1号機の比較では運動時最低SpO2は従来機が有意に高値であった.16名を対象としたPOC試作2号機の比較では運動時最低SpO2の差は-1.04±2.6%と従来機と同程度であった.

結論:開発した小型軽量POCは従来機と同等の効果を有し,酸素化に吐出量が影響することが明らかになった.

緒言

携帯型酸素濃縮器(portable oxygen concentrator,以下POC)とは空気から窒素を取り除き,濃縮した高濃度の酸素を患者へ供給する酸素濃縮器の携帯型である.酸素ボンベと異なり電源につなぐことで酸素を持続的に供給可能である.しかしPOCは重さ 5 kg以上のものが多く,移動時にはカート等を使用する.そのため,日常生活活動が制限され,生命予後に関わる身体活動量や生活の質(QOL)がPOCの使用によって低下すると報告されている1.また,在宅酸素療法患者へのアンケート調査で携帯型POCの改善すべき点は「小型化」,「携帯性・重さ」が42~53%を占めたと報告されている2.そこで我々は従来のPOCに比べて小型軽量化し,背負って持ち運ぶことも可能な新たなPOCを企業と共同開発した(図1).産業分野で使用される空気圧機器を開発している株式会社コガネイの技術によって空気を圧縮するコンプレッサーの小型化や酸素濃縮過程の効率化によってPOCの小型化が実現した.先行研究ではPOCの酸素供給性能が低酸素血症の改善という酸素化性能に影響すると報告されており3,開発したPOCにおいても内部の酸素濃縮過程の改良に伴い酸素化性能が低下する可能性が考えられた.そのため,開発したPOCが小型軽量化されてもなお従来のPOCと同等の酸素化性能を有しているか否かを明らかにすることを目的に本研究を実施した.

図1

開発した携帯型酸素濃縮器と装着例

対象と方法

対象者

2016年~2019年に信州大学医学附属病院での歩行試験および学生実習でトレッドミルによる運動負荷試験をおこなった際にSpO2>3%のdesaturationあるいは最低SpO2<90%を認めた閉塞性肺疾患,間質性肺疾患,肺癌の術後,原因不明の運動誘発性低酸素血症の者を対象とした.呼吸機能検査において気管支拡張剤吸入後の1秒率が70%未満の者を閉塞性肺疾患群とし,胸部HR-CT(high resolution-computed tomography)画像において両側肺にびまん性の間質性陰影を認め,呼吸機能検査で肺拡散能の低下を示し,身体所見や血液検査所見等から間質性肺疾患と診断されている者を間質性肺疾患群とした.漸増運動負荷試験が禁忌となる状態や疾患を有している対象者および心不全患者は除外した4

プロトコール

対象者は最初にスパイロメトリーを実施した.次にトレッドミルによる漸増運動負荷試験によって最大運動負荷を評価した.トレッドミルが実施困難な被験者には自転車エルゴメーターを用いた.次に,得られた最大運動負荷の70~80%の運動負荷量で定常運動負荷試験を室内気吸入下で実施した.その後,十分な休憩をとりつつ,開発したPOC試作機と従来のPOC(以下 現POC)を用いて定常運動負荷試験を無作為交差試験にておこなった.定常運動負荷試験の際はいずれの機器も 2 L/分の連続酸素供給に相当する呼吸同調設定(同調 2 L/分相当)で酸素吸入をおこなった.室内気吸入下,POC試作機,現POCの3つの条件で定常運動負荷をおこなった際の最も運動持続時間が短かった時間をisotimeとし,isotimeのSpO2および運動負荷前後のSpO2を3群間で比較した.また,運動終了直後の呼吸困難感および下肢疲労感の修正Borg Scaleと運動耐容能の指標である定常運動持続時間を3群間で比較した.POC試作機は,同調 2 L/分相当の設定において一呼吸あたりの酸素吐出量が 17.0 mlのPOC試作1号機を最初に用い従来機と比較し,次に一呼吸あたりの吐出量を 28.5 mlに改良したPOC試作2号機で比較検討をおこなった.

本研究は産学共創プラットフォーム(OPERA)の研究開発課題3.装着型超小型酸素濃縮器システム構築および使用者負担低減検証という,信州大学と株式会社コガネイとの共同開発研究である.

開発した携帯型酸素濃縮器と比較した従来の携帯型酸素濃縮器

POC試作機の基本的な構造は従来機と同様でゼオライトで窒素を吸着するタイプである.小型軽量化は株式会社コガネイ独自の技術である気体流路制御技術によって取り込んだ空気を圧縮するコンプレッサー周辺の部品集約化および圧縮した空気を高濃度酸素に分離するためのゼオライトへの吸着をより効率化したため実現した.大きさは 190×60×200 mm,重さは 1,850 gである.本研究の試作機においては供給する酸素濃度は90%であり,酸素供給様式は呼吸同調設定のみ可能で最大で同調 2 L/分相当である.同調 2 L/分相当の設定における一呼吸あたりの酸素吐出量はPOC試作1号機では 17.0 mlであるが,気体流路をより効率化しPOC試作2号機では 28.5 mlに改良した.これらPOC試作機の呼吸同調設定時における酸素吐出量は従来機と同様に呼吸数20回/分下での一呼吸あたりの酸素吐出量の1分間の平均と定義した.

比較対照となる現POCは日本国内ですでに販売されている機器で,大きさは195×270×297 mm,重さは 6,000 gである.供給する酸素濃度は90%であり,酸素供給様式は連続または呼吸同調設定から選択可能で連続供給設定では 1 L/分,呼吸同調設定では 3 L/分相当まで選択可能である.同調 2 L/分相当の設定における一呼吸あたりの酸素吐出量は 28 mlである.

同じ同調 2 L/分相当の設定にも関わらず一呼吸あたりの酸素吐出量がPOC試作1号機および2号機,現POC間で異なるのは,連続供給設定に相当する呼吸同調設定における一呼吸あたりの酸素吐出量が明確に定められていないためである.現在,呼吸同調設定における一呼吸あたりの酸素吐出量が連続供給設定の流量の1/6~1/3の範囲であればその相当量と表記される傾向がある.またそれぞれのPOCの酸素濃縮性能によって一呼吸あたりの酸素吐出量が異なることも同じ同調 2 L/分相当の設定で吐出量が異なる要因である.現在ほとんどのPOCは 1 L/分までの連続供給設定に対応しているが,2 L/分以上の酸素供給の場合には吸気時のみ酸素を吐出する呼吸同調設定によって連続的な酸素供給と酸素化性能を同等とすることで相当量としている.一般的に吸気と呼気の時間比であるI:E比が1:2であるため吸気時にのみ酸素を供給し連続供給設定の1/3の酸素供給量にすることが可能とされている5.その内吸気の前半が肺胞に達しガス交換に主に利用されることからさらに1/2にし,最大で連続供給設定の1/6にすることも可能とされている6.そのため呼吸数20回/分の場合,2 L/分の連続供給設定の場合には一呼吸あたり 100 mlの酸素を吸入すると計算されるが,呼吸同調設定の場合には一呼吸あたり 33.3 mlから最大で 16.7 mlまでを 2 L/分相当とすることが可能と考えられる.

呼吸機能検査

スパイロメトリー検査にはスパイロメーターのSP-390Rhino(フクダ電子株式会社,東京)を用い,日本呼吸器学会の方法に準じて対象者の呼吸機能を評価した.一秒量と肺活量の予測値も日本呼吸器学会の基準を採用した7

肺気量分画および肺拡散能力の測定にはChestac-8900(チェスト株式会社,東京)を用い,肺気量分画の測定はボディプレスチモグラフ法を採用した.肺気量分画および肺拡散能力の予測値にはBorenおよび西田らの予測式を用いた8,9

トレッドミルあるいはエルゴメーターによる運動負荷試験

トレッドミルによる運動負荷試験が困難な対象者は自転車エルゴメーターを使用し運動負荷試験を実施した.まず漸増運動負荷試験により最大運動負荷量を評価した.プロトコールについては,トレッドミル(Auto Runner AT-200,ミナト医科学株式会社,大阪)の場合は連続的に負荷が増加する「TR-3」を,エルゴメーター(Corival cpet, Lode B.V. Co., Ltd., Groningen,ニュージーランド)の場合は1分間に 10 Wずつ負荷が増加するramp負荷を用い,エンドポイントは症候限界とした.呼気ガス装置(AE-310S AEROMONITOR, ミナト医科学株式会社,大阪)を用いて,breath-by-breath法で酸素摂取量(Oxygen uptake:以下 V ˙ O2)を測定し,最大酸素摂取量( V ˙ O2 max)を評価した.次に,漸増運動負荷試験から得られた最大運動負荷の70~80%の負荷量で定常運動負荷試験を実施し,対象者は症候限界または20分間の上限まで定常運動負荷をおこなった.運動負荷中のSpO2はパルスオキシメーター(AnypalWalk ATP-W03,フクダ電子,東京)で連続的に測定した.

統計方法

POC間の安静時,isotime時,終了時におけるSpO2をWilcoxonの符号付き順位検定を使用し比較した.また,修正Borg Scaleと運動持続時間も同様の比較解析をおこなった.これらの解析は,酸素吐出量を変更したPOC試作1号機および2号機で各々実施した.有意水準はp<0.05とし,統計解析にはSPSS statistics ver. 25(IBM,東京)を使用した.

倫理的配慮

本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,対象者には十分な説明をおこない書面にて同意を得た.また,信州大学の医学部医倫理委員会の承認を受けて実施した(研究番号:jRCTs032180031).

結果

POC試作1号機と現POCの比較

POC試作1号機での比較における対象者の属性を表1(上段)に示す.対象者は閉塞性肺疾患が5名,肺癌術後が1名であった.全6名中の5名はトレッドミル,1名はエルゴメーターでの運動負荷試験を実施した.スパイロメトリー検査では閉塞性肺疾患では閉塞性換気障害を示した.%DLCOおよび V ˙ O2 maxはどの群においても基準値内であった.これらの群を対象にしたPOC試作1号機の比較結果を表2に示す.室内気下のSpO2は安静時94.4±1.9%から運動中のisotime時には91.8±3.4%,運動終了時には89.7±3.8%まで低下し軽度の運動時低酸素血症を示した.これら室内気の結果に比べて現POCによる酸素吸入下では安静時から運動終了時までの全体的なSpO2の上昇を示した.しかし,POC試作1号機による酸素吸入下ではSpO2は安静時95.2±1.9%からisotime時92.0±3.2%,運動終了時には91.3±3.2%となり,室内気下と同程度の結果となった(図2左).また,isotime時と運動終了時におけるPOC間のSpO2差はそれぞれ-2.1±1.8%,-1.2±1.1%であり,POC試作1号機は有意に低値を示した(p<0.05).室内気に比べ,現POCとPOC試作1号機では呼吸困難感の指標である修正Borg Scaleの軽減を示したが運動持続時間の改善は示されなかった.全6名中2名はすべての条件下での定常運動負荷試験において運動持続時間が上限の20分に達したため中止となった.それぞれのPOC下による定常運動負荷試験では呼吸困難感に比べて下肢疲労感が高値であった.

表1 対象者の基本的な身体および呼吸機能と血液ガスデータ
閉塞性肺疾患間質性肺疾患肺癌術後EID
POC試作1号機
n51
年齢,歳70.4±11.363.0
Packs-year37.8±27.520
BMI,kg/m227.3±7.130.1
%VC,%117.6±37.689.8
FEV1/FVC,%59.7±12.679.4
RV/TLC,%39.8±3.6
%DLCO,%85.9±22.9
V ˙ O2 max,ml/kg/min24.0±3.220.2
POC試作2号機
n943
年齢,歳73.2±9.966.8±10.134.3±10.0
Packs-year51.3±31.830.8±35.70.2±0.3
BMI,kg/m224.2±3.425.1±2.525.3±3.3
%VC,%97.0±14.872.9±47.093.8±11.7
FEV1/FVC,%50.8±9.981.3±11.885.8±9.6
RV/TLC,%46.7±26.642.4±13.1
%DLCO,%67.9±20.239.0±26.1
V ˙ O2 max,ml/kg/min14.5±6.017.8±6.743.5±10.7

脚注:平均±標準偏差.肺癌術後患者およびEID患者の残気量,肺拡散能力は未測定.

略語:EID,運動誘発性低酸素血症;BMI,body mass index;VC,肺活量;FEV1,1秒量;FVC,努力性肺活量;RV,残気量;TLC,全肺気量;DLCO,一酸化炭素肺拡散能; V ˙ O2 max,最大酸素摂取量.

表2 POC試作1号機における各条件下の比較
室内気現POCPOC試作1号機POC間差
安静時SpO2, %94.4±1.996.6±0.995.2±1.9-1.4±1.6
isotime SpO2, %91.8±3.494.5±1.992.0±3.2*-2.1±1.8
終了時 SpO2, %89.7±3.892.5±3.291.3±3.2*-1.2±1.1
最高心拍数,bpm127.8±15.4126.0±7.3129.0±11.12.6±3.1
運動持続時間,秒827.7±416.5760.0±353.3740.0±67.3-20.0±49.0
呼吸困難感BS4.7±2.73.5±2.43.7±2.70.2±1.0
下肢疲労感BS4.5±3.34.5±3.44.3±3.60.2±0.4

脚注:平均±標準偏差.*p<0.05 vs 現POC.isotime:3条件の定常運動負荷試験における最短の運動終了時点.POC間差:POC試作1号機-現POC.

略語:現POC,従来の携帯型酸素濃縮器;POC試作1号機,開発した携帯型酸素濃縮器の1号機;SpO2,経皮的動脈血酸素飽和度;bpm,beats/minute; BS,修正Borg Scale.

図2

開発した携帯型酸素濃縮器と従来の携帯型酸素濃縮器間の運動時SpO2の比較

脚注:左図:POC試作1号機における比較結果.右図:POC試作2号機における比較結果.*p<0.05:現POC vs POC試作1号機.isotime:3条件の定常運動負荷試験における最短の運動終了時点.

略語:現POC,従来の携帯型酸素濃縮器;POC試作機,開発した携帯型酸素濃縮器;SpO2,経皮的動脈血酸素飽和度.

POC試作2号機と現POCの比較

POC試作2号機での比較における対象者の属性を表1(下段)に示す.対象者は閉塞性肺疾患が9名,間質性肺疾患が4名,原因不明の運動誘発性低酸素血症が3名であった.その内3名はトレッドミル,13名は自転車エルゴメーターでの定常運動負荷試験を実施した. V ˙ O2 maxおよび%DLCOは閉塞性肺疾患および間質性肺疾患群において低値を示した.これらの対象群におけるPOC試作2号機と現POCの比較結果を表3に示す.室内気下のSpO2は安静時92.6±3.3%からisotime時には87.7±4.4%,運動終了時には86.1±4.0%まで低下し運動時低酸素血症を示した.これら室内気の結果に比べて現POCおよびPOC試作2号機下ではそれぞれ安静時から運動終了時の全体的なSpO2の上昇を示し,POC間のSpO2差はisotime時および運動終了時でそれぞれ-1.04±2.6%,-0.9±3.6%となり有意差を示さなかった(図2右).運動終了時の呼吸困難感の修正Borg Scaleは室内気に対し,現POCとPOC試作2号機で同程度の軽減効果を示したが運動持続時間の改善効果は示さずPOC試作1号機による比較と同じ傾向を示した.全16名中2名はすべての条件下での定常運動負荷試験において運動持続時間が上限の20分に達したため中止となった.それぞれのPOC下による定常運動負荷試験では呼吸困難感に比べて下肢疲労感が高値であり,室内気下に比べてPOC下で下肢疲労感が高値を示した.

表3 POC試作2号機における各条件下の比較
室内気現POCPOC試作2号機POC間差
安静時SpO2, %92.6±3.394.8±2.694.8±3.2-0.007±3.2
isotime SpO2, %87.7±4.491.2±3.190.0±2.9-1.04±2.6
終了時 SpO2, %86.1±4.089.8±2.888.7±3.6-0.9±3.6
最高心拍数,bpm131.8±11.9128.4±20.1128.9±17.00.5±11.3
運動持続時間,秒583.9±338.9555.8±276.1583.9±303.828.2±72.5
呼吸困難感BS4.8±1.73.3±2.23.6±2.30.2±1.0
下肢疲労感BS4.5±2.54.8±1.94.6±2.3-0.1±1.5

脚注:平均±標準偏差.isotime: 3条件の定常運動負荷試験における最短の運動終了時点.POC間差: POC試作2号機-現POC.

略語:現POC,従来の携帯型酸素濃縮器;POC試作2号機,開発した携帯型酸素濃縮器の2号機;SpO2,経皮的動脈血酸素飽和度;bpm,beats/minute; BS,修正Borg Scale.

考察

開発したPOC試作機が現POCと同等の性能を有しているかを明らかにすることを目的に慢性呼吸器疾患と運動誘発性低酸素血症を対象とし,POC試作機と現POCを用い,それぞれ同調 2 L/分相当の酸素供給設定で運動時SpO2を比較した.その結果,一呼吸あたりの酸素吐出量が 17.0 mlであるPOC試作1号機の運動時SpO2は従来のPOCに比べて有意に低値を示したが,酸素吐出量を 28.5 mlに変更したPOC試作2号機では従来のPOCと比べてSpO2は同程度となった.したがって開発したPOC試作2号機は現POCと同等の性能を有しており,運動時低酸素血症の改善に対しては,同じ同調 2 L/分相当の設定であっても一呼吸あたりの酸素吐出量が重要であることが明らかになった.

一般的にはパルスオキシメーターの測定誤差は±2%と報告されており10,11.今回のPOC試作2号機と現POCのisotime時および運動終了時のSpO2差はこの2%以内に収まっており,同等と判断した.慢性呼吸器疾患患者を対象におこなった先行研究では,POCの性能を6分間歩行試験で評価しているが,我々の結果と同様に一呼吸あたりの酸素吐出量がもっとも多いPOCにおいて運動誘発性SpO2低下を有意に抑制し,最低SpO2が有意に高値であったと報告している3.しかし,運動時SpO2低下には呼吸数変動も影響すると報告されている12.Chatburnら12は人工的な肺モデルを用いて様々な呼吸条件下におけるPOCの性能を検討し,どのPOCにおいても呼吸同調設定では呼吸数の増加に合わせて一呼吸あたりの酸素吐出量は減少し,人工肺モデル内で測定した吸入気酸素濃度は低下を示す傾向にあり,その程度はPOC製品間で様々であったと報告している.POC試作機においても,呼吸数の変動と酸素吐出量の関係は検討しており,先行研究と同程度の呼吸数増加に伴う酸素吐出量の減少を示した(データは非公開)12.今後は人工肺モデルを用い,呼吸パターンも含め本機器の詳細な性能検証をおこなう予定である.

室内気吸入下に比べて各POC下でSpO2や呼吸困難感は改善を示したにも関わらず運動耐容能は改善を示さなかった要因は,desaturationのみが運動制限因子になっていないためと考える.藤本らのCOPDにおける報告では,気流閉塞が重症でかつSpO2≦88%のdesaturationを示した患者では,明らかな酸素吸入による6分間歩行距離の改善がみられたが,気流閉塞およびdesaturationが軽度な患者では改善が見られていない13.また,desaturationが4%より大きく,酸素吸入によって運動耐容能が10%より大きく改善を示す対象者は,持続的な酸素吸入の効果が得られると報告されている14.本研究ではこの条件を満たした者は4名のみであり,閉塞性肺疾患ではdesaturation以外の気流制限や動的肺過膨張が重要な運動制限因子となっていることから15,酸素吸入により有意な改善が得られなかったと考えられた.また,POC試作1号機および2号機のどちらの場合においても呼吸困難感に比べて下肢疲労感が高値であったことから下肢疲労感が結果に影響したことによってPOCによる運動耐容能の改善が得られなかったとも考えられる.これは本研究の対象者の68%が65歳以上の高齢者であったためと考える.先行研究においても高齢な慢性呼吸器疾患患者では呼吸困難感に比べて下肢疲労感が高くなる傾向が報告されている16

今回,開発したPOCの利点は小型化である.電力の80%以上を消費する重要な部分であるコンプレッサーが小型化されたことで酸素供給能力も低下することが考えられた12.しかし,気体流路がより効率化されており小型化されてもなお現POCと同等の酸素供給が可能となるように設計されているため現POCと同等の効果が得られた.POCが小型軽量化され,持ち運びが便利になったことで在宅酸素療法における酸素療法の遵守率向上および身体活動量の向上が期待される.先行研究では在宅酸素療法患者の65%のみが酸素療法を遵守していると報告されており17,酸素療法の遵守率を低下させる要因は酸素デバイスが重く扱いにくいことや,周囲の視線が気になることであるとも報告されている18.また,在宅で酸素ボンベを使用しているCOPD患者の日中における平均身体活動量は健常者の1/3程度のみであったと報告されている1.開発されたPOCは小型軽量かつ背負って装着可能なため在宅酸素療法患者の酸素療法遵守率および身体活動量を向上させると考えられ,今後,在宅での効果を検証する研究をおこなう予定である.

本研究はいくつかの限界を有している.1つは対象疾患が統一されていない点である.2つ目に患者によって評価方法が異なり,トレッドミルが出来ない患者では代わりにエルゴメーターで評価した点である.トレッドミルに比べ,エルゴメーターでは仕事率および酸素摂取量が小さいためSpO2の低下が軽度であったと考えられた19.3つ目に1日に3回の定常運動負荷試験を行うことによる疲労が結果に影響した可能性がある.POC試作2号機と現POCの比較では室内気下に比べてPOC条件下での下肢疲労感が軽度高値を示しているため疲労が影響しているとも考えられる.

結論

開発された小型軽量かつ背負って装着可能なPOCは従来のPOCと同等の酸素化効果を有しており,身体活動量,QOLの改善効果が期待される.今後は基礎的研究および在宅での効果検証を行う予定である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

藤本圭作;講演料(帝人在宅医療),研究費・助成金(デンソー,村田製作所,コガネイ)

文献
 
© 2021 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
feedback
Top