日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
COPD患者における睡眠障害の現状と臨床指標に及ぼす影響
秋山 歩夢辻村 康彦三川 浩太郎伊藤 光後藤 圭子酒井 美登子平松 哲夫
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2021 年 30 巻 1 号 p. 96-101

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要旨

【目的】外来COPD患者の睡眠障害の現状を調査し,睡眠障害が臨床指標に及ぼす影響を明らかにすること.

【対象と方法】対象はCOPD患者126名.GOLD重症度分類I/II/III/IV:46/47/23/10(名).評価項目はピッツバーグ睡眠質問票(PSQI),歩数,6分間歩行距離(6MWD),COPD Assessment Test(CAT),息切れ問診票,老年期うつ病評価尺度(GDS-15-J)とした.検討内容は①睡眠障害を認める患者割合,②睡眠障害と疾患重症度,うつとの関係性,③睡眠障害の有無における各臨床指標を検討した.

【結果】睡眠障害は全体の35.7%に認め,疾患重症度やうつとの関係性を認めた.睡眠障害を有する患者は歩数,6MWDが低く,CAT,息切れ問診票の得点が高かった.

【結論】睡眠障害は疾患重症度の早い段階から認められ,身体機能,身体活動性,精神面にも影響を及ぼすことが明らかになった.

緒言

現代の日本において,睡眠に何らかの問題を抱える者は成人の約20%,60歳以上の高齢者ではその割合がさらに増加することが報告されている1.睡眠障害や睡眠の質の低下は精神疾患の発症リスクの増加や,日中の疲労感,認知能力の低下を招くことが知られている2

近年では,一般高齢者に留まらずCOPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)患者においても呼吸器症状だけではなく,睡眠にも影響を及ぼすことが報告されている.COPD患者では睡眠障害が一般高齢者よりも多く存在し,57~85%と高頻度に入眠障害や中途覚醒といった睡眠の質の低下を認めること3,4,5,6,さらに睡眠障害はCOPDの増悪頻度,死亡率に関連する7ことも報告されている.

従って,COPDの疾患管理においては呼吸機能や臨床症状,運動機能だけではなく,睡眠の状態も評価する必要があると考える.COPD患者の呼吸困難感による日中の低活動や精神状態が睡眠に影響を及ぼすことが予想されるが,COPDと睡眠との関係性は本邦では調査されておらず,クリニックにおけるCOPD患者に睡眠障害がどの程度存在するのか,睡眠障害と疾患重症度や臨床指標との関係性も不明である.

そこで,本研究の目的は当クリニックに通院しているCOPD患者における睡眠障害の現状を調査するとともに,睡眠障害が臨床指標に及ぼす影響を調査することとした.

対象と方法

1. 対象

対象は,2017年4月から2019年4月の間に当院に通院中のCOPD患者のうち,新たに呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)の処方があった者の中から,①年齢60歳以上,②1か月以内に症状悪化による定期外受診をしていない,③検査,測定に支障をきたす整形疾患,中枢神経系疾患を有していない者を対象とした.

2. 評価方法

評価項目は,主要評価項目として睡眠評価を行い,副次評価項目として身体活動量,運動耐容能,健康関連QOL(Health related Quality of Life:以下,HRQOL),呼吸困難感,うつを評価した.また,基本情報として,年齢,性別,BMI(Body Mass Index),呼吸機能検査,m-MRC(Modified-medical research council)息切れスケールに関して,診療記録の閲覧および自己回答式の問診票にて本人からの聞き取り調査をした.

1) 睡眠評価

睡眠評価にはピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index:以下,PSQI)を用いた.PSQIは直近1か月間の睡眠状況を聴取する質問紙で,①睡眠の質,②入眠時間,③睡眠時間,④睡眠効率,⑤睡眠困難,⑥睡眠薬の使用,⑦日中覚醒困難といった包括的な睡眠の状態を評価できる自己記入式の簡便な尺度である8,9.得点が高いほど,睡眠障害による影響が強く,カットオフ値6点以上で臨床的な睡眠障害有りと判定される9.本研究では睡眠障害の有無の判定に総合得点を用いた.

2) 身体活動量

身体活動量は加速度センサー付き歩数計(ライフコーダーEX,スズケン社製)を用いて測定し,1日の歩数を身体活動量とした.測定は起床後から就寝までの入浴中を除いた時間とし,左上前腸骨棘部に装着するようにした.14日間連続測定したデータから1日の平均歩数を算出し,研究対象データとして用いた.

3) 運動耐容能

運動耐容能の指標として,6分間歩行テスト(6-minute walk test:以下,6MWT)を実施した.6MWTの実施手順はAmerican Thoracic Societyの基準10に従って実施し,6分間歩行距離(6-minute walk distance:以下,6MWD)を研究対象データとして用いた.

4) HRQOL

HRQOLの評価には,COPD Assessment Test(以下,CAT)を用いた.CATは①咳,②喀痰,③息苦しさ,④労作時息切れ,⑤日常生活での活動制限,⑥外出への不安,⑦睡眠,⑧活力の8項目をそれぞれ0から5の6段階で評価する質問票である11.本研究においては,合計点を検討に用いた.

5) 呼吸困難感

呼吸困難感の評価は息切れ問診票を使用した(図1).息切れ問診票は,更衣,整容動作から掃除,洗濯といった家事動作,屋外での平地歩行や坂や階段など,屋内外の労作時の息切れの程度を0(息切れを感じない)から5(強く息切れを感じる)の6段階で評価する問診票である.研究対象データは合計点を用いた.

図1

息切れ問診票

監修:永井厚志 大塚製薬株式会社の許可を得て使用.

6) うつ評価

うつ評価は老年期うつ検査-15-日本版(Geriatric Depression Scale-15-J:以下,GDS-15-J)を用いた.GDS-15-Jは高齢者のうつ評価として,妥当性が示されている尺度であり,15項目の質問に対して,「はい」または「いいえ」の二択で回答する簡便な問診票である.合計点が6点以上でうつ傾向ありと判定される12,13.研究対象データは合計点を用いた.

3. 検討内容・統計処理

1) 睡眠障害の有病率

睡眠障害の有病率を検討するため,全対象者のうち睡眠障害有り(PSQI≧6)と判定された患者割合を調査した.

2) 睡眠障害の有無と疾患重症度との関係性

対象者をGOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)の気流閉塞分類14に従って4群に分け,睡眠障害の有無と疾患重症度との関係性をカイ二乗検定を用いて検討した.

3) 睡眠障害の有無とうつの有無との関係性

対象者のうちGDS-15-Jの合計点が6点以上の者をうつ傾向有り,6点未満の者をうつ傾向無しとして2群に分け,睡眠障害の有無とうつ傾向の有無との関係性をカイ二乗検定を用いて検討した.

4) 睡眠障害が臨床指標に及ぼす影響

睡眠障害が各臨床指標に及ぼす影響を検討するため,睡眠障害群,睡眠良好群における各臨床指標につき,歩数,6MWDはt検定を用いて,CAT,息切れ問診票の得点に関してはマン・ホイットニーのU検定を用いて2群間で比較検討した.

なお,統計処理は統計ソフト(SPSS ver. 23,IBM社製)を用い,統計学的有意差は5%未満とした.

4. 倫理的配慮

倫理的配慮として,本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,対象者には本研究の趣旨・方法・データ使用に関して説明し,書面同意を得て行った.得られたデータに関しては個人が特定されないように個人情報の保護に配慮して検討した.なお,本研究実施にあたり中部学院大学倫理委員会にて承認を得て実施した(承認番号:D18-0003,承認日:2018年6月5日).

結果

1. 対象者属性

対象者126名の平均年齢は71.1±7.1歳,男性112名,女性14名,BMI: 22.7±2.9 kg/m2,Brinkman Index: 1,006±608,m-MRC息切れスケールはグレード1:66名,グレード2:55名,グレード3:5名,肺機能においては% Forced Vital capacity(%FVC): 89.1±25.5%,Forced expiratory volume in one second(FEV1): 1.7±0.7 L,% Forced expiratory volume in one second(%FEV1): 73.3±30.2%,GOLDの重症度分類においてはステージI:46名,ステージII:47名,ステージIII:23名,ステージIV:10名であった(表1).

表1 対象者基本属性
n=126
年齢(歳)71.1±7.1
BMI(kg/m222.7±2.9
Brinkman Index1,006±608
%FVC(%)89.1±25.5
FEV1/FVC(%)57.9±14.4
%FEV1(%)73.3±30.2
GOLD重症度分類(I/II/III/IV)(名)46/47/23/10
mMRC息切れスケール(1/2/3/4)(名)66/55/5/0
睡眠薬服用状況(名/%)
オレキシン受容体拮抗薬2( 1.6%)
メラトニン受容体作動薬2( 1.6%)
非ベンゾジアゼピン系1( 0.8%)
ベンゾジアゼピン系1( 0.8%)
吸入療法服用状況(名/%)
LAMA27(21.4%)
LABA2( 1.6%)
ICS0( 0%)
ICS/LABA40(31.7%)
LAMA/LABA16(12.7%)
ICS/LAMA/LABA41(32.6%)
抗うつ薬服用状況(名/%)0( 0%)

平均±標準偏差

BMI: Body Mass Index,%FVC: % Forced Vital capacity,FEV1/FVC: Forced expiratory volume % in one second,%FEV1: % Forced expiratory volume in one second,GOLD: Global initiative for chronic Obstructive Pulmonary Disease,mMRC: Modified-medical research council,LAMA: long-acting muscarinic antagonists,LABA: long-acting beta2-agonists, ICS: inhaled corticosteroid

2. 睡眠障害の状況

睡眠障害の有病率は45/126名(35.7%)であった.

3. 疾患重症度,うつの有無と睡眠障害の有無との関係性

疾患重症度と睡眠障害の有無との関係性においては,GOLDの重症度分類ステージIの患者において睡眠障害有りと判定された患者は15名(32.6%),ステージIIでは12名(25.5%),ステージIIIでは12名(52.2%),ステージIVでは6名(60%)であり,中等症以降の患者において半数以上に睡眠障害が認められ,疾患重症度と睡眠障害の有無との関係性が認められた(p=0.043)(図2).

図2

疾患重症度と睡眠障害の有無との関係性

睡眠障害の有無と疾患重症度との関係性をカイ二乗検定を用いて検討.

また,GDS-15-Jによって判定されたうつ傾向の有無と睡眠障害の有無との関係性において,全体でうつ傾向有りと判定された患者は42/126名(33.3%)であった.そのうち30/42名(71.4%)に睡眠障害が認められ,一方でうつ傾向無しと判定されたにも関わらず睡眠障害を認めた患者は15/84名(17.9%)で,うつ傾向の有無と睡眠障害の有無との関係性が明らかになった(p<0.001)(図3).

図3

うつ傾向の有無と睡眠障害の有無との関係性

睡眠障害の有無とうつ傾向の有無との関係性をカイ二乗検定を用いて検討.

4. 睡眠障害の有無における各臨床指標の比較

睡眠障害群,睡眠良好群における各臨床指標の比較検討では,歩数,睡眠障害群:5,156±2,765歩,睡眠良好群:6,218±2,583歩(p=0.043).6MWD,睡眠障害群:465.9±94.3 m,睡眠良好群:496.1±75.9 m(p=0.044).CAT,睡眠障害群:9.0±5.0点,睡眠良好群:5.6±3.5点(p<0.001).息切れ問診票,睡眠障害群:10.9±6.4点,睡眠良好群:6.3±4.3点(p<0.001).全てにおいて,2群間に有意差が認められた(表2).

表2 各臨床指標の2群間比較
睡眠障害群
(PSQI≧6)
睡眠良好群
(PSQI<6)
p値
歩数(歩)5,156±2,7656,218±2,5830.043
6MWD(m)465.9±94.3496.1±75.90.044
CAT(点)9.0±5.05.6±3.5<0.001
息切れ問診票(点)10.9±6.46.3±4.3<0.001

睡眠障害群,睡眠良好群の各群における歩数,6MWDはt検定を用い,CAT,息切れ問診票はマン・ホイットニーのU検定を用いて両群間で比較検討.

平均±標準偏差

PSQI: Pittsburgh Sleep Quality Index,6MWD: 6-minute walk distance,

CAT: COPD Assessment Test

考察

本研究より,外来COPD患者においても睡眠障害を認める患者が多く存在し,睡眠障害は疾患重症度やうつとの関係性を認め,様々な臨床指標に影響を及ぼすことが明らかになった.

本研究で睡眠障害と判定された患者は全体の35.7%であった.これは,本邦の同年代の一般高齢者よりも高い有病率となった.今回の対象者らは全例とも日常生活が自立しており,自らで外来通院ができるレベルであることから,地域在住の一般高齢者と同様の生活を送っていることが予想されるが,そういった状況においても外来COPD患者においては睡眠障害を認める症例が多くみられた.

一方,海外におけるCOPD患者の睡眠障害の有病率は50%以上と様々な報告3,4,5,6があるが,本研究ではこれよりも遥かに低い結果となった.この理由として,本研究の対象者らの多くはステージI,IIの疾患重症度が早い段階の症例が多く含まれていたことが考えられる.それでも,疾患重症度の早い段階から睡眠障害を認めたことから,こうした症例には早い段階から睡眠障害にも何らかの対策を講じる必要があると思われる.また,本研究においてもステージIII以降の症例では睡眠障害を半数以上に認め,睡眠障害の有無と疾患重症度との関係性が認められたことからも,さらに重症患者を多く対象とすれば睡眠障害の有病率はより高率になるのではないかと思われた.

睡眠障害の有無とGDS-15-Jによるうつ傾向の有無との関係性に関して,睡眠障害とうつとの関係性が認められた.高齢者において,うつ病の発症リスク要因として不眠が挙げられ15,睡眠障害とうつとの関係性は従来から報告されている.加えて,COPD患者においては,健常者と比較してうつと睡眠障害が高率に生じることが報告されている16.ただし,睡眠障害によってうつになるのか,あるいは,うつがあることで睡眠障害を認めたのかという両者の因果関係の方向性は本研究からは明らかにできなかった.

睡眠障害の有無は臨床指標にも影響を及ぼし,睡眠障害を有する群は睡眠良好群と比較して,身体活動性,運動耐容能,HRQOLが低下し,呼吸困難感が強いことが明らかになった.高齢者における不活発や閉じこもりは日中のうたた寝や昼寝に繋がり概日リズム障害が起こる17とされている.加えて,COPD患者では一般高齢者よりも身体活動性が低下することが報告され18,COPD患者の身体活動性の低下は高齢者の不活動や閉じこもりをさらに助長するのではないかと思われる.また,身体活動性の低下は疾患重症度の早い段階から生じ19,運動耐容能や呼吸困難感,HRQOLに関連20,21することから,こうした要因が複合的に関与することで睡眠障害が引き起こされることが示唆される.

しかし,本研究の結果からは身体活動性,運動耐容能,HRQOL,呼吸困難感,精神症状が睡眠障害に影響と及ぼすことが明らかになったが,睡眠障害と臨床指標との関係は両者が双方向性に作用するため,明確な因果関係は明らかにできなかった.さらに,疾患重症度と睡眠障害との関係性も認められたことから,疾患の進行に伴う身体活動性の低下や身体機能,呼吸困難感の増強も睡眠障害が臨床指標に影響を及ぼす要因ではないかと考えられた.

本研究の限界としては,睡眠障害の評価が問診票に留まり,ポリソムノグラフィーなどの生理学的検査を実施していないため睡眠時の低酸素血症の影響を考慮できていないこと,単施設での調査であったことで疾患重症度が比較的早い段階の患者が多く,対象者の疾患重症度に偏りがあったこと,が挙げられる.

結論として,外来COPD患者において睡眠障害は疾患重症度の早い段階から存在し,疾患重症度とうつとの関係性を認め,身体活動性や運動耐容能,精神面にも影響を及ぼすことが明らかになった.今後は睡眠障害が臨床指標に影響を及ぼす機序を明らかにして,睡眠障害に対する呼吸リハの有効性を検討していく必要がある.

備考

本論文の要旨は,第29回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2019年11月,愛知)で発表し,学会長より優秀演題として表彰された.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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