特発性肺線維症(IPF)の急性増悪をはじめとして,間質性肺炎における急性呼吸不全は予後不良として知られている.間質性肺炎の呼吸管理においては気管挿管による人工呼吸が忌避される傾向があり,HFNCOTやNPPVといった非挿管による呼吸管理に注目が集まっている.
一般に,HFNCOTは最大60 L/minまでの高流量の混合酸素を十分な加湿のもとに投与できる特殊な酸素療法だが,PEEP様効果や死腔洗い出し効果など特徴的な臨床効果が期待でき,本邦においても間質性肺炎におけるHFNCOTの使用頻度は増加している.間質性肺炎におけるHFNCOTの有効性を示す報告もみられてきているが,さらなる経験の集積が必要である.また,間質性肺炎急性増悪は必ずしも救命が可能な病態とは限らない.患者個々の背景によって呼吸管理を慎重に行うことが重要である.状況に応じて各種のデバイスを使い分けることが重要であり,中でもHFNCOTは重要な位置を占めつつある.
特発性肺線維症(IPF)の急性増悪をはじめとして,間質性肺炎における急性呼吸不全は予後不良として知られている.一般に間質性肺炎は慢性経過の肺疾患であるが,なかでもIPFは慢性かつ進行性の経過をたどり,高度の線維化が進行して不可逆性の蜂巣肺形成をきたす予後不良の疾患である1).またIPFでは緩徐な病態進行のみならず,慢性経過中に新たな浸潤影の出現とともに急速な呼吸不全の進行がみられる病態があることがしられ,これを急性増悪と呼んでいる2,3).間質性肺炎急性増悪はIPF以外の間質性肺炎でも発症することがあることも報告され4,5,6),主に背景の間質性肺炎の病態に加えてARDSや急性間質性肺炎の特徴的所見であるびまん性肺胞障害(Diffuse alveolar damage)を合併した病態と考えられている.間質性肺炎急性増悪は急性呼吸不全を呈し,呼吸管理を要する病態となることが多いが,その予後は不良である.特にIPFの急性増悪では死亡率が高いとされ,一部では集中治療管理や人工呼吸管理に対しても否定的な報告もある7).Mallickは総説7)において9つの研究,135例をまとめているが,IPF患者において急性呼吸不全を呈しICUにて人工呼吸管理を行ったとしても,全体の短期死亡率は94.1%であったと報告した.本報告は2000年前後,もしくはそれ以前の検討をまとめたものであるため,現在(2020年代)とは異なっている可能性もあるが,これら過去の報告から間質性肺炎の呼吸管理においては気管挿管による人工呼吸が忌避される傾向があり,HFNCやNPPVといった非挿管による呼吸管理に注目が集まっている.
非挿管による呼吸管理=非侵襲的呼吸管理においてまず注目されたのは非侵襲的陽圧換気療法(Noninvasive positive pressure ventilation: NPPV)である.NPPVはマスクなどの非挿管インターフェイスを用いて陽圧人工呼吸を行うことができる呼吸管理であり,気管挿管を要さない呼吸管理であるため人工呼吸器関連肺炎のリスクが低く,免疫抑制状態での呼吸不全に対しての有効性が言われている8).間質性肺炎急性増悪ではステロイドを含む免疫抑制治療を行うことが一般的であり,NPPVによる管理の有効性が期待され,積極的に試みられるようになった9,10,11).Tomiiらの報告では間質性肺炎急性増悪症例を部門におけるNPPV導入前後の二つの期間でグループ分けし予後を比較したところ,NPPV使用可能となって以降において予後の改善が見られたとした9).Yokoyamaらの報告では前述のMallickによる報告では急性期死亡率が94.1%とされたIPFに対してもNPPV管理を行うことで救命できる症例もあることが指摘された10).また別の報告では38例の急性呼吸不全を呈した間質性肺炎について検討したところ,NPPVを早期に導入した症例では予後が良好であったことが言われている11).近年の総説においては間質性肺炎に対するNPPVでは過去の挿管人工呼吸の報告よりは総じて予後が良好であり,短期死亡率は42.2%であったとされている12).異なった患者群であり単純に比較することはできないが,以前の挿管人工呼吸のデータのように急性期管理を否定するほど予後が不良なものではなく,可能な施設においては積極的に試みられてもよいと考えられる.
また近年非侵襲的呼吸管理として注目されているのが高流量経鼻酸素療法(High flow nasala cannula oxygen therapy: HFNCOT)である.一般に,HFNCOTは最大60 L/minまでの高流量の混合酸素を十分な加湿のもとに投与できる特殊な酸素療法だが,PEEP様効果や死腔洗い出し効果など特徴的な臨床効果が期待できるため,様々な呼吸不全に対して使用されるようになっている.HFNCOTは2013年のFLORALI studyにおいて急性一型呼吸不全に対して酸素療法,NPPVよりも予後が良好であったことが指摘されて以降13),急性呼吸不全に対して広く使用されるようになってきた.中でもHFNCOTが注目されたのはNPPV同様に免疫不全患者においてその有効性が期待されている.前述のFLORALI studyのサブ解析においても免疫不全下の急性呼吸不全では,挿管率はHFNCOT群と比べてNPPV群で有意に高かったことが指摘されており14),より免疫不全状態においてHFNCOTの有効性が高くなる可能性が示された.また別の観察研究だが,Coudroyらの報告では免疫不全下の急性呼吸不全ではNIV群と比べてHFNC群で挿管率が低く,予後は良好だったとされている15).これらいくつかの研究において免疫抑制下のHFNCOTの有効性が示されている一方で,今のところRCTでは有効性を示す報告は見られていない.少し病態が異なる可能性はあるが悪性腫瘍を主体とした免疫不全を背景にある急性呼吸不全に対して従来の酸素療法とHFNCOTを比較した研究があるが,両群において予後の差は見られなかった16).
明確なエビデンスの構築は今後の課題となるが,理論的背景やNPPVにおける経験を根拠に間質性肺炎における急性呼吸不全病態,特に急性増悪に対してHFNCOTを試みる報告が近年相次いでいる.HorioらはHFNCOTを試みた3例の間質性肺炎急性増悪について報告した17).これら3例はPaO2/FIO2 63-88と重篤な呼吸不全を呈していたが,HFNCOT 40 L/min,FIO2 70-100%を用いて管理を行い,改善が得られている.また直接間質性肺炎を検討していないが,Nagataらの報告ではHFNCOTを施設において導入前後で急性呼吸不全症例について比較し,HFNCOT導入により院内死亡率は変わらないものの人工呼吸器使用頻度を減少させたとしている18).この急性呼吸不全症例のなかでもっともHFNCOT導入前後で大きく変化していたのが間質性肺炎と指摘されており,HFNCOT導入前の19例では14例が死亡していたのに対して,HFNC導入後は18例中死亡したのは8例のみとなっていた.統計学的有意差はないものの,HFNC導入前後で死亡率は74%から44%に低下したと報告している.また,Itoらの報告は間質性肺炎急性増悪のみを評価した検討だが,HFNCOT導入により間質性肺炎急性増悪の予後が改善したしている(ただし有意差なし)19).現在まで間質性肺炎急性増悪やそのほかの急性呼吸不全を呈する間質性肺炎に対してのHFNCOTの経験や有効性について報告した文献は図表に示す通りに少ない17,18,19,20,21,22,23)(表1).
文献No | 著者 | 年 | 方法 | 要旨 |
---|---|---|---|---|
17 | Horio, et al. | 2016 | Case series | HFNCOTを試みた3例の間質性肺炎急性増悪について報告.3例とも生存離脱. |
20 | Shoji, et al. | 2017 | Case report | HFNCOTを試みた皮膚筋炎関連間質性肺炎について報告. |
18 | Nagata, et al. | 2015 | Historical cohort study | 急性呼吸不全の予後についてHFNCOT導入前後の比較.HFNCOT導入により,人工呼吸使用頻度は低下していた.最も傾向が顕著だったのが間質性肺炎であり,死亡率は74%から44%に低下した. |
19 | Ito, et al. | 2018 | Historical cohort study | 間質性肺炎急性増悪の予後についてHFNCOT導入前後の比較.(Pre-HFNC 53例,Post-HFNC 43例)統計学的有意差はないものの死亡率は低下傾向 |
21 | Koyauchi, et al. | 2018 | Observational study | DNIオーダーのある急性呼吸不全を呈した間質性肺炎32例(NPPV使用30例,HFNCOT使用54例)についての観察研究.2群で生存率・挿管率に有意差はないが,忍容性はHFNCOT群で良好だった. |
22 | Koyauchi, et al. | 2020 | Observational study | HFNCOTを使用した間質性肺炎急性増悪66例についての観察研究.26例(39%)でHFNCOT成功.24時間後のSpO2/FIO2がHFNCOT成功の予測因子と考えられた. |
23 | Omote, et al. | 2020 | Observational study | 急性呼吸不全を呈した間質性肺炎84例(NPPV使用19例,HFNCOT使用13例)についての観察研究.2群で生存率・挿管率に有意差なし. |
DNI: Do not intubate
以上のように間質性肺炎急性増悪においてHFNCOTは明確な有効性は示していないものの,臨床現場で使用している施設からは好印象をもたれていることが示唆される.実際に2019年に報告された本邦のHFNCの実臨床における他施設合同調査では,HFNC使用症例の20%が間質性肺炎であったことが指摘され24),臨床現場では高頻度で間質性肺炎に対してHFNCOTが使用されていることが示された.
当院においては間質性肺炎急性増悪に対しては長らくNPPVを積極的に用いる試みを続けてきていたが,近年のHFNCOT導入後は症例に応じて使い分けている.当院において2014年~2017年においてHFNCOTを使用された症例は219例であったが,そのうち急性呼吸不全の初期呼吸管理としてHFNCOTを使用されていた76例から他疾患を除外し,間質性肺炎に対していHFNCOTを使用されていた48例を抽出した(図1).このうちI型呼吸不全を呈した症例は32例,II型呼吸不全を呈した症例は16例であった.I型呼吸不全におけるHFNCの成功率は71.9%であったのに対し,II型呼吸不全においては43.8%と不良であった(表2).一般に間質性肺炎急性増悪ではPaCO2上昇を伴わない,I型呼吸不全を呈することが多い.PaCO2上昇を認める場合には,肺気腫などの合併やそもそもの間質性肺炎が進行期,末期的状況である死腔換気の進んだ状態である可能性があるため,急性増悪をきたした場合には予後不良である可能性がある.このため,本結果をもって高PaCO2症例においてHFNCの有効性の有無をコメントすることはできないが,高PaCO2を認めないI型呼吸不全症例では比較的HFNCOTの成功率は高かった.
当院におけるHFNCOT使用症例
1st-lineの呼吸管理として48例の間質性肺炎急性増悪に対してHFNCOTが使用された.
I型呼吸不全 | II型呼吸不全 | p-value | |
---|---|---|---|
n | 28 | 16 | |
Age | 71.0(66-77.5) | 64.5(63.3-71.5) | 0.074* |
HFNCOT開始前 | |||
PaO2/FIO2 | 188.8(124.4-226.8) | 175.9(137.5-234.0) | 0.086* |
PaCO2 | 37.4(31-44.8) | 57.8(52-67.6) | <0.001* |
pH | 7.44(7.41-7.45) | 7.38(7.31-7.40) | <0.001* |
HFNCOT 開始時設定 | |||
FIO2 | 0.50(0.50-0.50) | 0.45(0.33-0.73) | 0.522* |
Flow(L/min) | 50(40-50) | 40(37.5-50) | 0.149* |
Outcome | |||
生存離脱 | 23 | 7 | 0.112** |
悪化/不穏離脱 | 5 | 6 | |
死亡 | 4 | 3 |
*Mann-Whitney U test, **Fisher’s exact test
I型呼吸不全,II型呼吸不全を呈した症例を比較.
近年,HFNCOTについて知見が重ねられてきている領域に安定期・慢性期間質性肺炎におけるHFNCOTがあげられる.以前より安定期間質性肺炎においてHFNCにより呼吸数の低下とPaCO2の低下が指摘されている25).生理学的には解剖学的死腔内の呼気洗い出し効果により呼吸仕事量が軽減され,PaCO2の低下とともに呼吸数が低下し,ひいては呼吸困難が緩和することも考えられている.
こういった機序から,一部では間質性肺炎により慢性呼吸不全を呈した症例の一部で安定期または在宅領域においてHFNCOTを導入されることがある.
当院において安定期間質性肺炎に対してHFNCOTを導入し有効性を得られた症例を提示する.症例は40歳代男性,小児期に悪性リンパ腫既往あり,数年前からの間質性肺炎と診断されていた.呼吸困難増悪によりX-2年12月に他院より紹介,当院にて臨床的に上葉優位型肺線維症(PPFE)を疑い,経過観察する方針となった.X-1年7月に在宅酸素療法を導入,12月脳死肺移植登録となった.低酸素血症はその後横ばいであり,緩徐にPaCO2の上昇を認めた.臨床経過,胸部画像は(図2)に示す.途中気胸・肺炎を繰り返すため頻回に入院となったため,HFNCOTを導入したところ,入院頻度は比較的少なくなり,最終的に肺移植を施行することができた.
HFNCOTを安定期間質性肺炎に対して使用した症例(40歳代男性)
いまだ有効性が確立できていない領域ではあるが,生理学的に有効であることが期待できる管理であり,知見が積み重ねられることが期待される.
間質性肺炎においては気管挿管の有効性が乏しいことが以前から言われ,NPPVをはじめ,非挿管の呼吸管理デバイスの有効性が期待される.HFNCO-OTは現時点ではその有効性を間質性肺炎に対して示した報告はまだ少ないものの,本邦において確実に使用頻度が増えてきている呼吸管理であり,臨床現場からは期待が大きくなっている.急性期・慢性期ともにさらなる知見が積み重ねられることが期待されている.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.