2022 年 31 巻 1 号 p. 122-128
【目的】慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)の併存症に高次脳機能障害があり,前頭葉機能低下が指摘されているが,その患者特性は明らかになっていない.そこで本研究では,COPD患者の前頭葉機能と運動耐容能の関連について検討を行った.
【方法】6分間歩行距離(以下6MWD)により,COPD患者を運動耐容能維持群と運動耐容能低下群の2群に分け,Mann-Whitney U検定で前頭葉機能検査(以下FAB)合計点を比較した.二次解析として重回帰分析とROC解析を行い,交絡因子の調整と前頭葉機能低下に対する6MWDのカットオフ値を算出した.
【結果】FAB合計点は,運動耐容能低下群で有意に低値を示した(p=.009).また年齢と%FEV1を共変量に加えても,FAB合計点に対し,6MWDの有意な正の回帰係数が認められた(β=0.42, p=.028).加えてROC解析から6MWD:284mが前頭葉機能低下のカットオフ値として算出された.
【結語】COPDにおいて運動耐容能低下は前頭葉機能低下と関連することが示唆された.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:以下COPD)はタバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露すること等で生ずる肺疾患であり,呼吸機能検査で気流閉塞を示す.徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳,痰を主症状とする.COPDによる全身への影響として全身性炎症,栄養障害,骨格筋機能障害,心・血管疾患,骨粗鬆症,不安・抑うつ,糖尿病等様々な併存症が存在する1)が,近年COPDでは,高次脳機能障害を併存することが報告されている.加えて,記憶・注意・遂行機能障害をきたすことが多く,高次脳機能障害に一定のパターンが存在する可能性が指摘されている2).またCOPDは軽度認知機能障害(Mild Cognitive Impairment:以下MCI),特に記銘力低下を認めない非健忘型のMCI発症リスクの増加と関連が見られ,COPD発症からの期間もMCI発症のリスクと関連することが報告されている3).本邦では前頭葉機能検査(Frontal Assessment Battery:以下FAB)を用いた検討において,COPD患者の前頭葉機能低下が報告されている4).FABは,ベッドサイドで実施できる簡便な前頭葉機能評価であり,併存妥当性と検者間信頼性が確立している.概念化,語想起,動作計画性,拮抗指示に対する反応,抑制的コントロール,把握反射の6つの下位項目で構成され,18点満点で採点される5).COPD患者の前頭葉機能については,下位項目で概念化,語想起,抑制的コントロールが有意に低下し,COPD患者が概念の転換障害,思考の柔軟性や言語理解・表出低下,ステレオタイプの行動特徴を持つことが示唆されている4).COPD患者が前頭葉機能低下のような高次脳機能障害を併存することで,適切な在宅酸素療法の管理や呼吸リハビリテーション介入,患者教育,疾患管理,適切な行動変容に影響が生じる.実際の臨床場面においても,指示理解の困難や行動変容が難しく,在宅酸素療法の導入や患者教育で難渋するケースに遭遇することがある.
しかし,COPD患者の高次脳機能障害の発生機序については,低酸素血症,高二酸化炭素血症,血管病変,喫煙,C-reactive protein(以下CRP)やInterleukin-6(以下IL-6)を始めとする全身性炎症等の関与が考えられるものの,そのメカニズムは明らかではない2).加えてどのような患者特性を持つCOPDで高次脳機能障害を併存しやすいのか,その詳細も明らかになっていない.先行研究では,COPD患者の認知機能と運動耐容能の関連が示唆されており,Montreal Cognitive Assessment(以下MoCA)と6分間歩行距離(6-Minute Walk Distance:以下6MWD)の関連が報告されている6).一方,認知機能評価のスクリーニングとして使用されることが多いMini-Mental State Examination(以下MMSE)は6MWDとの関連を認めなかったと報告されている6).MoCAは視空間・遂行機能,命名,記憶,注意力,復唱,語想起,抽象概念,遅延再生,見当識の下位項目から構成され,MCIをスクリーニングする検査であるが,FABと同内容の下位項目を含み,特に前頭葉機能を反映する注意・遂行の配点が高いことが特徴とされている7).先行研究のMoCAで評価されたCOPD患者の認知機能と運動耐容能の関連には,前頭葉機能の影響が潜在している可能性がある.
そこで本研究では,COPDに併存する高次脳機能障害の関連要因を明らかにする目的で,高次脳機能障害の中でも前頭葉機能に着目して運動耐容能との関連を調べた.対象者を運動耐容能維持群と低下群に分けて,前頭葉機能に差があるかFABを用いた検討を行った.
2012年1月1日~2020年12月31日の間に呼吸器リハビリテーション目的で大阪府枚方市のJCHO星ヶ丘医療センターに入院したCOPD患者79名を対象とした.包含基準は,入院前3か月以内に急性増悪のイベントがないこととした.除外基準は,中枢神経疾患,認知症,ペースメーカー埋め込み等重度心不全の既往,6MWDのデータが参考値または欠損とした.
2. 評価項目研究デザイン:後ろ向き横断的観察研究
電子カルテより以下の項目について情報収集を行った.なお評価項目は,リハビリテーション介入前の結果である.患者背景として,年齢,性別,Body Mass Index(以下BMI),診断名,既往歴,長期酸素療法(Long term oxygen therapy:以下LTOT)使用状況,一般肺機能検査結果[1秒率(以下FEV1/FVC),対標準肺活量(以下%VC),対標準1秒量(以下%FEV1)],生化学検査結果[動脈血二酸化炭素分圧(以下PaCO2),動脈血酸素分圧(以下PaO2)]を評価項目とした.
主要評価項目として,6MWD,FABを選定した.6分間歩行試験(6-Minute Walk Test:以下6MWT)は,American Thoracic Society(ATS)のガイドライン8)に従って担当理学療法士が実施した.
副次的評価項目として,心肺運動負荷試験(以下CPET)の最高酸素摂取量(以下Peak
本研究は,JCHO星ヶ丘医療センター倫理委員会(承認番号:HG-IRB2107),神戸大学大学院保健学研究科保健学倫理委員会(承認番号:第1006号)の承認を受けており,オプトアウトを実施して研究を行った.個人情報の管理には細心の注意を払い,倫理的配慮を行った.
3. 統計解析本研究では,6MWDのカットオフ値を 317 mと設定して群分けを実施した.先行研究より,安定期のCOPD患者が経時的に6MWDを測定し,6MWDが 317 mを下回るようになると,様々な治療介入を再検討する必要があり,維持期の呼吸リハビリテーションプログラムを行っている場合は,再度集中的なプログラムに切り替えることや薬物療法の変更,睡眠時低酸素血症の評価の再検討が必要と報告されている9).
主解析として,対象者を運動耐容能維持群(6MWD:317 m以上)と運動耐容能低下群(6MWD:317 m未満)の2群間に分けた.正規性の検定としてShapiro-Wilkの検定を行い,データが正規分布に従う場合はStudent t検定,従わない場合はMann-Whitney U検定で2群間の統計解析を行った.また二次解析として,FAB合計点と6MWDの関連を明らかにするために,年齢,COPDの重症度(%FEV1)の交絡因子を調整して重回帰分析を行った.先行研究より,加齢による6MWDと前頭葉機能の低下10),並びに%FEV1はCOPD重症度を示し11)6MWDにも関連することが報告されている.そのため,二次解析の説明変数として年齢・%FEV1を選定した.
加えて,前頭葉機能の低下を推定する6MWDのカットオフ値を算出するため,ROC(Receiver Operating Characteristic)解析を実施した.本研究では先行研究10,12)に準じ,前頭葉機能低下のカットオフ値をFAB合計点13/14点と設定して解析を実施した.本邦では健常者50~70歳ではFABの平均点は14.7点,50歳以上ではFABの得点が14点以上であれば,正常であると判断してもよいと報告されている10).
いずれの統計解析も有意水準を5%未満として,EZR(Version 1.54)を用いて統計処理を行った.
解析対象者選定のフローチャートと対象者の基本特性を図1と表1に示す.16例が除外,27例がデータ欠損となり,解析対象者は36例であった.対象者全体で,平均年齢75.4歳(SD=7.0),男性31名,GOLD分類(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)11)はI=6名 II=11名 III=15名 IV=4名,平均の6MWDは313.8 m (SD=127.6)であった.PaCO2,PaO2,Peak
解析対象者選定のフローチャート
COPD: Chronic obstructive pulmonary disease
CPET: Cardiopulmonary exercise test
全体 | 運動耐容能低下群 6MWD(317 m未満) | 運動耐容能維持群 6MWD(317 m以上) | p値 | ||
---|---|---|---|---|---|
n=36 | n=18 | n=18 | |||
性別 (男性) | 31 | 15 | 16 | ||
年齢 | [歳] | 75.4±7.0 | 78.0±6.2 | 72.9±7.0 | 0.03* |
BMI | 21.4±3.3 | 21.3±3.7 | 21.4±3.0 | 0.91 | |
LTOT導入患者 | LTOT=12 | LTOT =10 | LTOT=2 | ||
一秒率 | |||||
(FEV1/FVC) | 44.5±14.0 | 45.4±14.6 | 43.5±13.9 | 0.70 | |
%肺活量(%VC) | 90.6±24.7 | 82.0±21.2 | 99.2±25.6 | 0.04* | |
対標準一秒量 | |||||
(%FEV1) | 53.2±20.7 | 50.9±21.8 | 55.5±19.8 | 0.42 | |
GOLD分類 | I=6 II=11 III=15 IV=4 | I=2 II=7 III=6 IV=3 | I=4 II=4 III=9 IV=1 | ||
PaCO2 ※ | [mmHg] | 39.1±5.3 | 39.5±7.3 | 38.9±4.3 | 0.74 |
PaO2 ※ | [mmHg] | 74.5±15.7 | 69.4±16.7 | 77.1±15.1 | 0.15 |
LVEF | [%] | 63.97±8.7 | 62.71±7.49 | 65.24±9.82 | 0.41 |
E/e’ | 8.46±2.28 | 7.96±2.44 | 8.96±2.05 | 0.07 | |
TRPG | [mmHg] | 27.75±7.94 | 30.79±8.64 | 24.71±6.03 | 0.08 |
6分間歩行距離 | [m] | 313.8±127.6 | 210.7±76.9 | 416.8±71.6 | 0.001** |
min SpO2 | [%] | 88.91±4.2 | 88.72±4.87 | 89.11±3.53 | 0.85 |
ΔSpO2 | [%] | 7.45±3.76 | 7.94±4.17 | 6.94±3.35 | 0.60 |
修正Borg Scale | 4.3±1.8 | 4.4±1.8 | 4.1±1.7 | 0.627 | |
Peak | [ml/min/kg] | 14.47±3.35 | 10.67±1.61 | 15.9±2.62 | 0.001** |
MMSE | [点] | 27.1±2.8 | 26.2±3.1 | 28.1±2.2 | 0.074 |
FAB | [点] | 14.3±2.9 | 13.0±2.9 | 15.5±2.3 | 0.009** |
平均値±標準偏差 * p<0.05 ** p<0.01
BMI: Body mass index,LTOT: Long term oxygen therapy(長期酸素療法),GOLD分類:Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease,PaCO2: Partial pressure of arterial carbon dioxide(動脈血二酸化炭素分圧), PaO2: Partial pressure of arterial oxygen(動脈血酸素分圧),LVEF: Left ventricular ejection fraction(左室駆出率)各群1名欠損,E/e′(拡張早期波/心房収縮期波),TRPG: Trans tricuspid pressure gradient(三尖弁圧較差)各群4名欠損,SpO2: Saturation of percutaneous oxygen(経皮的動脈血酸素飽和度),Peak
主要評価項目であるFAB合計点について,前述の通りShapiro-Wilkの検定の結果,データが正規分布に従わないこと(p=.017)が確認できたため, Mann-Whitney U検定を用いて解析を実施した.FAB合計点における2群間比較を図2に示す.FAB合計点は,運動耐容能維持群(M=15.5, SD=2.3)と比較し,低下群(M=13.0,SD=2.9)で有意に低値を示した(p=.009).FAB下位項目については,抑制的コントロール,概念化,語想起の項目の順で減点が多く見られた.
FAB合計点について, Mann-Whitney U 検定を実施した運動耐容能低下群と運動耐容能維持群の2群間比較
** p<0.01
FAB: Frontal Assessment Battery
重回帰分析の結果を表2に示す.目的変数をFAB合計点,説明変数を年齢,%FEV1,6MWDとして解析を行った.その結果,年齢とCOPD重症度を表す%FEV1を共変量として加えても,FAB合計点と6MWDは有意な正の回帰係数(β=0.42 p=.028)が認められた(表2).なお調整済み決定係数はR2=.1926(p=.02)であった.
説明変数 | 偏回帰係数 (B) | 標準化偏回帰係数(β) | 有意確率 p値 | Bの95.0% 信頼区間 下限 | Bの95.0% 信頼区間 上限 |
---|---|---|---|---|---|
年齢 | -0.06 | -0.15 | 0.46 | -0.23 | 0.11 |
対標準一秒量(%FEV1) | 0.01 | 0.06 | 0.73 | -0.04 | 0.06 |
6分間歩行距離(m) | 0.01 | 0.42 | 0.028* | 0 | 0.02 |
目的変数:FAB合計点 *p<0.05
ROC解析の結果を図3に示す.説明変数を6MWD,目的変数を前頭葉機能低下のカットオフ値(FAB合計点13/14)の2分変数として解析を実施した.前頭葉機能低下のカットオフ値が6MWD:284 mと算出され,ROC曲線下面積が0.817,95%信頼区間 0.665-0.97,感度0.8,偽陽性率0.86であった(図3).
前頭葉機能低下の判定に対する6分間歩行距離によるROC曲線
ROC曲線:Receiver Operating Characteristic curve
本研究では,COPDにおいて運動耐容能低下群でFAB合計点の有意な低下を認め,年齢と%FEV1を共変量に加えてもFAB合計点に対し,6MWDの有意な正の回帰係数が認められた.また6MWD:284 mが前頭葉機能低下のカットオフ値と算出された.
本研究で示された患者特性として,表1の結果より,運動耐容能維持群と低下群で血液ガス分析,LVEF,E/e′,TRPG,6MWT中のmin及びΔSpO2,修正Borg Scale,MMSEの項目で有意な差を認めなかった.そのことから,心機能,低酸素血症,労作時の呼吸困難感,全般的な認知機能において,2群間で明らかな差がなかったことが示唆される.またLTOT実施者を除外した値だが,生理学的な運動耐容能の指標とされているPeak
上記より,本研究はCOPDにおける運動耐容能低下と前頭葉機能低下の関連を示した初めての報告である.以下に,運動耐容能と前頭葉機能が関連を示した要因を考察する.
1. 日常的な外出制限,身体活動量による影響日常生活における外出制限や身体活動量の低下が,前頭葉機能低下に関連する可能性が考えられる.先行研究では,運動習慣の有無と前頭葉機能の関連が指摘されている15).咳や痰,呼吸困難感等の疾患特性を持つCOPD患者は運動耐容能が低下しやすく,運動習慣や身体活動量を維持することが困難であったと予想され,そういった背景要因が前頭葉機能低下に繋がった可能性が考えられる.6MWDが 400 mを下回ると外出等に支障が生じる16)との報告もあり,運動耐容能低下群の多くは外出が制限されていたと予想される.なお,表1の結果より6MWD:317 mで群分けを行い,FAB合計点に有意差が認められたため,COPD患者の運動耐容能低下が明らかになった時点で前頭葉機能低下を考慮することは妥当だと考えられる.しかし,図3の結果より前頭葉機能低下に対する6MWDのカットオフ値が 284 mと算出された.そのため,6MWD:317 mまで運動耐容能が低下したCOPD患者に対して様々な治療介入の再検討を行っても運動耐容能を維持・向上できず,さらに6MWD:284 m以下へ運動耐容能が低下する場合,より前頭葉機能低下に配慮する必要性が示唆された.
2. COPDに特有の脳構造の変性がFABに反映された可能性COPD患者における脳構造の変性が,FAB合計点に反映された可能性が考えられる.先行研究では,COPD患者に特有の脳構造変性が生じ,帯状皮質並びに前帯状皮質および中脳皮質,海馬,扁桃体で局在的に灰白質の減少を認め,特に前帯状皮質の灰白質減少は,疾患期間,呼吸困難の恐れ,および身体活動の恐れと負の相関を認めたと報告されている17).前帯状皮質は前頭葉内側部にあたり,FABに関連する18)という報告もあり,本研究の結果とも合致していると考えられる.加えて本研究において,FABと6MWDは関連を認めたが,MMSEと6MWDは関連を認めなかった.また対象者全体でMMSEのカットオフ値とされる23/24点19)を上回っており,先行研究と同様の結果を認めた.COPDでは記銘力低下の伴わないMCIの発症リスクが高い3)と報告されており,MMSEでは記銘力低下・見当識に関する比重が大きく,COPDの高次脳機能障害を捉えきれない可能性が考えられる.先行研究では,COPDにおける高次脳機能障害のスクリーニングとしてMMSEよりもMoCAが優れているという報告6)があり,MMSEの天井効果の影響も指摘されている.ただし,MoCAについては,FABと重なる下位項目が含まれており前頭葉機能を反映する注意・遂行の配点が高いことが特徴とされている7).本研究においても認められた概念の転換障害,思考の柔軟性や言語理解・表出低下,ステレオタイプの行動特徴に繋がりやすい抑制低下といった前頭葉機能に関連する症状が,FAB・MoCAいずれの検査バッテリーにおいても反映される可能性が考えられる.
3. 運動耐容能維持が前頭葉機能低下の予防に繋がる可能性定期的な運動による全身の抗炎症作用が前頭葉機能低下を予防した可能性がある.運動が抗炎症に作用する機序として,収縮する骨格筋から抗炎症サイトカイン(マイオカイン)が産生されることや,単球やマクロファージにおいてトル様受容体(Toll-like receptors: TLRs)発現のダウンレギュレーションが生じることで,炎症が抑制されることが明らかになっている20).加えて運動によって神経変性が抑制されると報告されており20),身体活動による抗炎症作用がCOPD患者の中枢神経に保護的に働く可能性が考えられる.COPD患者において様々な交絡因子を調整しても,身体活動性が高いほど血漿中CRPやIL-6が低値であることが示され,身体活動性の向上が全身性炎症の抑制に有効であることが示唆されている21).COPDによる労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰による運動耐容能の低下は,そういった身体活動を行う上での制限因子になると考えられる.FAB合計点は,加齢と共に低下することが知られており10),本研究でも運動耐容能維持群と低下群で年齢に差が見られたが,重回帰分析において年齢・%FEV1を共変量に加えても6MWDはFAB合計点に対する有意な影響因子として抽出されたため,年齢差は考慮出来ていると考えた.ただし,重回帰分析における決定係数は調整済みR2=.1926であり,FAB合計点に対する6MWDの予測能は大きくないため,臨床場面では対象者を多角的に評価することが重要と考える.加齢等の複合要因により前頭葉機能は徐々に低下していくが,COPDにおいて運動耐容能の維持は,前頭葉機能低下の予防に繋がる可能性が考えられる.
4. 本研究の限界本研究の限界として,単施設で実施した後ろ向き横断的観察研究であったことが挙げられる.単施設での検討であるため,対象者の地域特性は考慮できていない.また後ろ向き研究であったため,身体活動量やActivities of Daily Living,Quality of Lifeに関する項目を測定出来ておらず,生活・運動習慣等,対象者の背景因子を考慮できていない部分が存在する.既往歴についても対象者ごとで多岐にわたるため,データ解析等において十分な考慮が出来ていない.加えて,MRI(Magnetic Resonance Imaging)等において対象者の脳画像を検討することはできていない.そのため,本研究においてFAB合計点の低下が脳の構造的変性を示しているかどうかは不明である.
本研究において,COPDにおける運動耐容能と前頭葉機能は関連を認め,運動耐容能が低下しているCOPD患者は前頭葉機能が低下していることが示唆された.
今後の展望として,本研究ではCOPD患者における運動耐容能と前頭葉機能の関連を示したが,横断的研究であるため因果関係を示すことはできていない.COPD患者における運動耐容能の維持が,前頭葉機能低下の予防に繋がるのかを明らかにするためにも,今後の縦断的研究が必要である.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.