日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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学会奨励賞受賞報告
急性期市中病院における高齢肺炎患者のADL能力に影響する因子の検討
―早期からの栄養療法と呼吸リハビリテーションの重要性―
村川 勇一
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2022 年 31 巻 1 号 p. 21-26

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要旨

近年,本邦において急速に高齢化が進行しており,高齢肺炎患者も増加している.高齢者における肺炎の多くは誤嚥性肺炎であり,誤嚥性肺炎は死亡率や身体機能低下と関連し,在宅復帰や機能回復に難渋することが諸家の報告で示されている.地域包括ケアシステムの導入により,高齢肺炎患者の入院に伴う日常生活動作(activities of daily living,ADL)能力の低下を抑制し,如何に高い水準に保つかは重要な課題である.我々は,高齢肺炎患者の退院時ADL能力にどのような因子が影響するのかに着目し,検討してきた.

本研究の結果,高齢肺炎患者の退院時ADL能力には経口・経腸栄養開始日数や歩行開始日数,呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)開始時のBarthel indexが関連することが明らかとなり,入院後早期から栄養療法や離床を含めた呼吸リハによる非薬物療法を積極的に推進していく必要性が示唆された.

はじめに

当院である「さぬき市民病院」は,香川県さぬき市に位置する病床数179床(一般病床175床,感染症病床4床)を有する急性期市中病院である.当院の役割としては,地域における二次機能基幹病院として活動し,急性期から生活期までシームレスな医療を提供している.当地域である「さぬき市」の高齢化率は高く,2015年時点で34.0%と高い水準で位置し,2040年には44.1%とさらに増加することが予測されている.その為,「肺炎」または「誤嚥性肺炎」にて入院となる患者が多く,主治医から呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)の依頼があり,担当となる場合も多い.

2020年度における当院リハビリテーション技術科に依頼のあった患者の内訳を図1に示す.2020年度にリハビリテーション依頼のあった総処方件数は994件であった.その内,内科より依頼のあった件数が559件(56%)と半数以上を占めた.さらに内科患者559件の内,呼吸器内科からの依頼が234件と多く,呼吸器疾患患者の中でも肺炎(誤嚥性肺炎を含む)が184件(79%)と非常に多い状況であった.

図1

当院におけるリハビリテーション処方件数の内訳

実際の臨床場面において高齢肺炎患者に対して呼吸リハを開始しようとすると,まだ経口摂取や経腸栄養などの栄養療法が開始されていない,さらには入院後数週間経過してからの呼吸リハ開始になるといった場面に遭遇することも少なくない.そのような症例においては,呼吸リハを開始した時点ですでに高度な身体機能低下から日常生活動作(activities of daily living,ADL)能力の低下を呈していることが多く,その改善に非常に難渋する.その為,退院時には肺炎発症前と同様のADL能力に回復することができず,退院先の変更を余儀なくされる.

そのような状況の中で,高齢肺炎患者における入院後のADL能力の低下を抑制し,如何に高い水準に保つかは重要な課題である.そこで我々は,高齢肺炎患者の退院時ADL能力にどのような因子が影響するのか検討を行った.

高齢肺炎患者に生じる諸問題

本邦における死亡順位において肺炎が第5位,誤嚥性肺炎が第6位と高い水準に位置しており,肺炎による死亡率は高齢になるほど増加する傾向にある1.高齢者肺炎,特に70歳以上のほとんどが誤嚥性肺炎2であり,誤嚥性肺炎は30日死亡率を増加させる因子である3と報告されている.さらに高齢者肺炎,特に医療・介護関連肺炎における入院後の身体機能変化を調査した報告によると,市中肺炎と比較して医療・介護関連肺炎において有意に身体機能低下率が高かった.また医療・介護関連肺炎においては,リハビリテーション目的などで転院となる症例が多く,6ヶ月後の経過観察時においても入院前の居住先に復帰できていた割合が低かった4と報告されている.そのような背景からも高齢肺炎患者では,生命・機能予後ともに悪化しやすいことが予測される.

本邦において肺炎診療の指針として日本呼吸器学会より,2007年に成人市中肺炎診療ガイドライン5,2008年に成人院内肺炎診療ガイドライン6,2011年に医療・介護関連肺炎診療ガイドライン7,2017年に成人肺炎診療ガイドライン8が発刊されている.しかしながら,その内容を確認すると抗菌薬などの薬物療法に関する記載がほとんどであり,非薬物療法としての栄養療法や呼吸リハに関する記載は非常に限定的である.このことからも高齢肺炎患者において栄養療法や呼吸リハの介入開始が遅延してしまう要因であると考える.結果として,薬物療法が奏功し炎症反応や胸部画像所見などが改善したとしても治療期間中の安静臥床などから身体機能低下を来し,ADLのほとんどに介助を要する状態となることで肺炎治療は終了できたが退院できないといった状況が生まれてしまう.

高齢肺炎患者における治療戦略として抗菌薬を中心とした薬物療法が重要であることは間違いないが,栄養療法や呼吸リハといった非薬物療法も薬物療法と併用して実施されるべきであり,その為には,高齢肺炎患者に対する栄養療法や呼吸リハの有効性を示すようなエビデンスの集積が必要である.

高齢肺炎患者の退院時ADL能力と栄養状態について

日本呼吸器学会による成人市中肺炎診療ガイドラインにおいて低栄養は,細胞性免疫・好中球・マクロファージの機能などの種々の感染防御能低下の原因となり,肺炎の難治化を引き起こすとされている5.しかしながら,低栄養状態が肺炎診療において重要であることは理解できるが,低栄養状態がADL能力と関連するかという点についてはほとんど記されていなかった.実際の臨床現場において高齢肺炎患者を診療していく際に低栄養状態である場合は少なくない.低栄養状態にある高齢肺炎患者においてどのような栄養関連指標を確認するべきか,またADL能力と関連性があるのかを明らかにし,介入すべき視点を多職種で共有する必要性が考えられた.

そこで我々は,肺炎患者における入院時栄養状態がADL能力に及ぼす影響について検討を行った9.対象は,2013年1月から2014年9月までに当院へ市中肺炎の診断にて入院及び呼吸リハ介入となり,データ欠損がなく生存退院された41名とした.栄養関連指標として総蛋白(Total protein, TP),アルブミン(Albumin, Alb),ヘモグロビン(Hemoglobin, Hb),Geriatric Nutritional Risk Index(GNRI),Controlling Nutritional Status(CONUT),経口・経腸栄養開始日数,ADL指標として退院時のBarthel index(BI)を調査し,栄養状態とADL能力の関連性を検討した.結果,退院時BIとTP(rs=0.336, p<0.05),Alb(rs=0.429, p<0.01),GNRI(rs=0.370, p<0.05),CONUT(rs=-0.350, p<0.05),経口・経腸栄養開始日数(rs=-0.610, p<0.01)と有意な相関関係を認めた(図2).さらに,退院時BIに影響を及ぼす因子として重回帰分析を実施した結果,経口・経腸栄養開始日数が有意な独立変数として抽出された(表1).本研究より,市中肺炎患者における入院時の栄養状態,特に経口摂取や経腸栄養といった栄養療法を開始するまでの期間がADL能力に影響する可能性が示唆された.そのような背景として,高齢肺炎患者が入院時からの絶食期間の延長により腸管刺激が消失すると腸管粘膜の萎縮に伴って透過性が亢進する.その結果,腸管の免疫能・防御能が低下するだけでなく腸内細菌叢の変化(菌交代現象)などのbacterial translocationから全身性炎症反応症候群やsepsis,臓器不全などが生じる10.これらの要因が肺炎の重症化に影響し,ADL能力の低下を助長することが考えられ,早期より栄養療法を開始することが重要である.また誤嚥性肺炎患者に早期より経口摂取を開始することの有効性を示す報告11,12もあり,早期からの栄養療法開始は高齢肺炎患者のアウトカムを改善させる可能性がある.

図2

退院時BIと栄養関連項目の相関関係

BI: Barthel index, TP: total protein, Alb: albumin, GNRI: geriatric nutritional risk index, CONUT: controlling nutritional status(文献9より引用)

表1 退院時BIを従属変数とした重回帰分析
項 目βtP-value
経口・経腸栄養開始日数-0.6425.231<0.001
Alb0.3570.7870.436
TP-0.064-0.2530.802
GNRI-0.004-0.0110.991
CONUT-0.096-0.3870.701

R2=0.397,p<0.001.(文献9より引用)

しかしながら,肺炎の急性期には異化亢進に伴う内因性エネルギー量の増加などからoverfeedingの危険性もあり,高齢肺炎患者に対して早期に栄養療法を開始するとしてもどのぐらいの栄養投与量で開始するのか,どの時期から増量させていくのかなど今後の検討が必要である.

高齢肺炎患者の退院時ADL能力と早期呼吸リハビリテーションについて

高齢肺炎患者は,入院に伴いADL能力の低下が顕著である4と報告されていることからも如何に入院中のADL能力低下を抑制し,円滑な回復を促していくかが重要である.前述した通り,我々の先行研究において入院時の栄養状態及び経口・経腸栄養開始日数が退院時のADL能力に影響する可能性がある9ことが示されたが,その時点では栄養状態以外の因子を考慮した検討が行えていなかったのが課題であった.

その為,我々は高齢肺炎患者の退院時ADL能力にどのような因子が影響するか,またカットオフ値を算出し,入院後早期より介入すべき視点を明らかにすることを目的に検討を行った13.対象は,2013年4月から2016年3月において当院へ肺炎・誤嚥性肺炎にて入院および呼吸リハ介入となった557名の内,包含基準を満たした108名とした.患者背景因子,疾患関連因子,呼吸リハ関連因子を調査し,退院時ADL能力との関連性を調査した.結果として,ADL自立群は,ADL介助群と比べて年齢が有意に低く,誤嚥性肺炎の割合が少なかった.栄養状態においてはADL自立群が体重・BMIが高く,経口摂取または経腸栄養が有意に早く開始可能であった.呼吸リハに関する項目においても,ADL自立群では,立位・歩行練習の開始が早く,呼吸リハ開始時BIが高いことで入院に伴うADL能力の低下が少なかった(表2).さらに退院時BIを従属変数とした重回帰分析を実施した結果,経口・経腸栄養開始日数(β: -0.225, t: -2.496, p: 0.014),歩行開始日数(β: -0.404, t: -2.852, p: 0.005),呼吸リハ開始時BI(β: 0.197, t: 2.061, p: 0.042)が有意な独立変数として抽出された(表3).重回帰分析で抽出された独立変数のカットオフ値を検討した結果,経口・経腸栄養開始日数が1.0日,歩行開始日数が5.0日,呼吸リハ開始時BIが50.0点であった(図3).早期栄養療法の視点として,退院時ADL能力に経口・経腸栄養開始日数が関連する可能性に関しては我々が行った先行研究9と同様の結果であった.カットオフ値に関しても各ガイドラインにて治療開始後24~48時間以内の早期に経腸栄養を開始することが推奨14,15されていることからも本研究も同様の結果であり,ガイドラインを支持するものとなった.早期呼吸リハの視点として,本研究の結果から退院時ADL能力に影響する因子として歩行開始日数及び呼吸リハ開始時BIが関連している可能性が考えられ,入院後可能な限り早期に呼吸リハ介入を行い,ADL能力低下を最小限にする必要性が考えられた.先行研究では,早期リハビリテーションとは,疾患の新規発症から48時間以内の開始と定義されている16.また,「離床」の定義をベッドから離れて車椅子などに移ることとしている16.本研究においてもADL自立群と介助群において呼吸リハ開始日数に有意差はなかった点からも早期に介入することも重要であるが,如何に早期に立位や歩行といった離床を進めていくかが退院時ADL能力を高める為の鍵となると考える.

表2 ADL自立群と介助群における患者特性の比較
VariablesADL-independent group
(n=80)
ADL-dependent group
(n=28)
p-valueES(r)
Age(years)81.5(77.0-88.0)88.0(83.5-90.0)0.001**0.306
Gender(male/female)52/2818/101.000
Height(cm)157.0(149.8-163.0)154.5(142.3-165.0)0.1840.127
Body weight(kg)52.9(46.1-60.0)44.5(39.8-50.3)0.001**0.332
BMI(kg/m221.7(19.0-24.0)19.4(16.9-20.9)0.007**0.257
Rate of aspiration pneumonia(%)31.253.60.043*
A-DROP severity0.024*
 Mild(%)7(8.8)0(0.0)
 Moderate(%)65(81.2)19(67.9)
 Severe(%)6(7.5)7(25.0)
 Very severe(%)2(2.5)2(7.1)
CRP(g/dL)7.40(4.00-13.92)6.82(3.40-17.13)0.6790.039
Alb(g/dL)3.33(3.00-3.78)3.37(3.00-3.65)0.9390.007
GNRI88.77(83.05-95.73)86.73(80.64-92.81)0.1790.128
Days from hospitalization to the start of oral and enteral feeding0.0(0.0-1.0)3.0(1.0-5.0)<0.001**0.477
PMI(cm2/m25.65(4.45-6.94)5.71(4.71-6.38)0.8880.013
CT values of the psoas major muscle(HU)32.8(26.7-36.1)30.7(28.2-36.1)0.6790.039
Days from hospitalization to the start of PR3.0(2.0-4.0)3.5(1.8-5.0)0.4610.067
Days from hospitalization to the start of sitting3.0(2.0-5.0)4.0(2.0-5.0)0.1790.128
Days from hospitalization to the start of standing3.0(2.0-5.0)5.0(3.8-7.5)0.001**0.311
Days from hospitalization to the start of walking4.0(2.0-6.0)8.0(5.8-11.0)<0.001**0.433
BI at the start of PR(points)65.0(43.8-80.0)32.5(15.0-45.0)<0.001**0.443

Data are presented as Median(25th and 75th paercentiles)or the numbers. Statistical analysis was performed using the Mann-Whitney U test or χ2 test with significance level set at p<0.05. ADL: activities of daily living, ES: effect size, BMI: body mass index, CRP: C-reactive protein, Alb: albumin, GNRI: geriatric nutrition risk index, PMI: psoas muscle mass index, CT: computed tomography, HU: Hounsfield unit, PR: pulmonary rehabilitation, BI: Barthel index. *: p<0.05 , **: p<0.01.(文献13より引用)

表3 退院時ADL能力における重回帰分析の結果
Variablesβtp-value
Age-0.159-1.7470.083
Body weight0.1981.5720.119
BMI-0.013-0.1140.909
Aspiration pneumonia-0.058-0.7250.470
A-DROP-0.074-0.8690.386
Days from hospitalization to the start of oral and enteral feeding-0.225-2.4960.014*
Days from hospitalization to the start of standing0.2471.9110.059
Days from hospitalization to the start of walking-0.404-2.8520.005**
BI at the start of PR0.1972.0610.042*

*: p<0.05, **: p<0.01.

Adjusted R-squared: 0.425. p-value<0.0001.

ADL: activities of daily living, BMI: body mass index, BI: Barthel index, PR: pulmonary rehabilitation.(文献13より引用)

図3

退院時BIを決定する各因子のROC曲線

ROC: receiver operating characteristic, BI: Barthel index, PR: pulmonary rehabilitation, AUC: area under the curve.(文献13より引用)

しかしながら,すべての高齢肺炎患者に早期からの経口摂取や経腸栄養療法といった早期栄養療法,歩行訓練などの早期離床を中心とした早期呼吸リハが可能である訳ではない.どのような患者であれば早期介入が可能であるのか,また早期介入による安全性,さらにADL能力だけでなく他のアウトカムへの影響度など明らかにしなければならない点が多く,今後,prospectiveに検討していく必要性がある.

本研究の限界点と今後の展望

本研究の限界として,いずれにおいても単施設研究でありサンプルサイズが小さく,本研究で得られたデータやカットオフ値が他施設での診療の参考となるかは不明である.また,前述したようにどのような患者であれば栄養療法や呼吸リハの早期介入が可能かなどの検討だけでなく,早期から栄養療法や呼吸リハ介入が難しい場合にはどのような対応が必要かなどを検討していく必要がある.

今後,多施設共同によるprospectiveな研究を進めていき高齢肺炎患者に対する早期からの栄養療法や呼吸リハの介入,またはその併用に関する有効性や安全性についても検討していきたいと考える.

受賞にあたっての感想とこれからの抱負

この度は,2021年度(第10回)日本呼吸ケア・リハビリテーション学会奨励賞という大変栄誉ある賞をいただきまして,誠にありがとうございました.このような賞を頂けましたのも,私の研究に対して日頃より多くの御指導を頂いております,高松赤十字病院呼吸器内科の南木伸基先生,香川大学医学部血液・免疫・呼吸器内科学の金地伸拓先生,KKR高松病院リハビリテーションセンターの宮崎慎二郎先生,さぬき市民病院内科・リハビリテーション技術科の皆様,香川県CHEST研究会の皆様,研究に御協力いただきました患者様,いつも私を支えてくれている家族のおかげであると存じております.この場をお借りして,深く感謝申し上げます.

今後も,高齢肺炎患者に対する非薬物療法としての栄養療法や呼吸リハの有効性に関するエビデンス蓄積のため研究活動を継続していくとともに,本学会の更なる発展に少しでも寄与できるよう精進して参ります.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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