2022 年 31 巻 1 号 p. 41-45
高度な呼吸管理・リハビリテーション技術の必要性が高まった現在,職場での呼吸器関連資格がどのように評価されているか把握する必要があると考えられた.第29回本学会学術集会参加者2,498人を対象に,3学会合同呼吸療法認定士(呼吸療法認定士)・呼吸ケア指導士資格・認定看護師の職場での評価状況を自記式アンケートにて調査した.有効回答は1,141人(45.7%)で,呼吸療法認定士の資格取得者は全体の44.0%(502人),理学療法士の64.7%,看護師の50.4%,臨床工学技士の64.0%であった.初級呼吸ケア指導士の取得者は全体の14.7%(168人),医師の32.7%,理学療法士の17.4%,看護師の7.1%,臨床工学技士の20.0%で,上級呼吸ケア指導士は2人であった.呼吸療法認定士の37.3%,呼吸ケア指導士の11.8%がそれぞれ資格保有を職場配属決定に際し評価されていた.取得した資格を職場に活かすことが可能な制度・体制を作る継続性をもった努力が資格認定側にも必要である.
呼吸器関連資格として,3学会(日本胸部外科学会,日本呼吸器学会,日本麻酔科学会)合同呼吸療法認定士は創設後25年,呼吸ケア指導士は創設後7年,専門看護師制度は創設後26年,認定看護師制度は創設後25年,慢性呼吸器疾患(2020年~呼吸器看護)認定看護師は創設後8年が経過した.高度な呼吸管理・リハビリテーション技術の必要性が高まっている現在,資格創設の意義,資格取得者に対しての職場での評価状況の把握が必要と考えられ,今回,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会(以下,本学会)学術集会参加者を対象に,3学会合同呼吸療法認定士・呼吸ケア指導士・認定看護師の各資格について,職場での評価状況に関する調査を行った.
本学会第29回学術集会(2019年11月12~13日,名古屋)において,参加者2,498人全員に学術集会参加受付時に自記式アンケートを配付し,会場で回収箱による回収,またはWeb入力による回答を得た.研究参加同意はアンケートへの回答をもって得られたとし,回答は無記名で行われ回答者のプライバシーに配慮して実施した.資格保有が有益か否かについては有資格者以外の回答は,他者からの評価として別個に解析を行った.
本結果は第30回学術集会ワークショップにて,筆頭著者により発表された.
アンケート回収総数1,147例(無回答6例)で,1,141例を分析対象とした(有効回答率45.7%).有効回答者1,141人の職種別内訳は理学療法士が最も多く425人(37%),次いで看護師395人(35%),医師171人(15%),作業療法士35人(3.1%),臨床工学技士25人(2.2%),その他職種90人(7.9%)であった.
参加者の背景を表1に示す.半数が本学会の会員であり,男女比に偏りは認められなかった.年代は30代以上が大半を占めており,関東地域の勤務者が多かった.医師の専門分野は呼吸器内科が89%を占め,呼吸器学会専門医だけではなく,指導医資格を有する医師が半数を占めた.
全体 (n=1,141) | 医師 (n=151) | 看護師 (n=395) | 理学療法士 (n=425) | 作業療法士 (n=35) | 臨床工学技士 (n=25) | その他職種 (n=90) | ||
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日本呼吸ケア・リハビリテーション学会員 | 会員 | 51.2 | 88.3 | 36.5 | 56.0 | 31.4 | 52.0 | 30.0 |
非会員 | 48.7 | 11.7 | 63.3 | 44.0 | 68.6 | 48.0 | 70.0 | |
未回答 | 0.1 | 0.0 | 0.3 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | |
性別 | 男性 | 51.9 | 84.2 | 18.0 | 67.3 | 37.1 | 88.0 | 62.2 |
女性 | 48.0 | 15.8 | 81.8 | 32.7 | 62.9 | 12.0 | 37.8 | |
未回答 | 0.1 | 0.0 | 0.3 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | |
年代 | 20代 | 23.3 | 1.8 | 26.6 | 30.1 | 40.0 | 8.0 | 15.6 |
30代 | 31.1 | 10.5 | 30.4 | 39.5 | 31.4 | 44.0 | 30.0 | |
40代 | 25.9 | 26.3 | 29.6 | 22.8 | 20.0 | 40.0 | 22.2 | |
50代 | 16.0 | 45.6 | 12.4 | 6.6 | 5.7 | 8.0 | 25.6 | |
60代 | 3.2 | 14.6 | 0.8 | 0.7 | 2.9 | 0.0 | 5.6 | |
70代以上 | 0.3 | 1.2 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 1.1 | |
未回答 | 0.2 | 0.0 | 0.3 | 0.2 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | |
勤務地域 | 北海道 | 2.1 | 2.9 | 1.3 | 3.1 | 0.0 | 4.0 | 0.0 |
東北 | 6.0 | 5.3 | 4.1 | 6.8 | 20.0 | 8.0 | 5.6 | |
関東 | 24.6 | 29.2 | 23.3 | 22.1 | 20.0 | 28.0 | 34.4 | |
甲信越 | 7.1 | 6.4 | 7.8 | 8.2 | 0.0 | 8.0 | 2.2 | |
北陸 | 4.0 | 2.9 | 4.3 | 3.5 | 8.6 | 8.0 | 4.4 | |
東海 | 18.8 | 11.7 | 24.1 | 16.7 | 14.3 | 24.0 | 18.9 | |
近畿 | 18.5 | 21.1 | 17.5 | 17.6 | 25.7 | 16.0 | 20.0 | |
中国・四国 | 9.6 | 10.5 | 9.6 | 10.1 | 5.7 | 4.0 | 8.9 | |
九州・沖縄 | 8.9 | 9.9 | 7.8 | 11.5 | 5.7 | 0.0 | 3.3 | |
未回答 | 0.4 | 0.0 | 0.3 | 0.2 | 0.0 | 0.0 | 2.2 |
3学会合同呼吸療法認定士資格を有するとした回答者は502人で有効回答全体の44.0%を占めており,職種別では理学療法士の64.7%,看護師の50.4%,臨床工学技士の64.0%が資格を有していた.図1に同認定士資格が現在の職場で有益かどうかについての回答を示す.認定士資格が現在の職場で有益としたのは30.9%で,職種別では理学療法士が42.4%,看護師が33.9%であり,有資格者のみではそれぞれ55.6%,55.8%が有益としていた.また有資格者のうち「現在の職場の配属決定に際し同認定士資格の保有は評価された」とした人は37.3%であった.
3学会合同呼吸療法認定士資格が現在の職場で有益か(%)
本学会の呼吸ケア指導士の資格を有するとした回答者は,初級呼吸ケア指導士168人で回答者全体の14.7%,職種別では医師の32.7%,理学療法士の17.4%,看護師の7.1%,臨床工学技士の20.0%であった.上級呼吸ケア指導士は医師2人のみであった.図2に呼吸ケア指導士資格が現在の職場で有益かどうかについての回答を示す.同資格が現在の職場で有益とした人の割合は16.4%だった.有資格者のみでみると,現在の職場で有益とした人の割合は全体で31.8%であり,臨床工学技士は有資格者5名中3名(60%)が有益と回答した.また,現在の職場の配属決定に際し,同資格の保有は評価されたとした人は11.8%だった.
呼吸ケア指導士資格が現在の職場で有益か(%)
3学会合同呼吸療法認定士・初級呼吸ケア指導士資格の両方を有するとした回答者は90人,その内訳は理学療法士60人,看護師22人,臨床工学技士4人,医師2人,作業療法士2人であった.
認定看護師に関しては,看護師395名中99名が認定看護師資格を有しており,慢性呼吸器疾患看護認定看護師が最多で,認定看護師の79.8%を占めていた.また,認定看護師であり且つ3学会合同呼吸療法認定士資格保有者は70人,初級呼吸ケア指導士は8人で,両資格保有者は6人であった.認定看護師資格が現在の職場で有益とした人の割合は34.9%であった.有資格者のみでみると,認定看護師資格は現在の職場で有益とした人は全体で79.8%であった.
調査を行った本学術集会の参加の目的として,資格認定更新単位取得が重要な要素だったと回答したのは全体の5割以上を占めており,医師は日本呼吸器学会呼吸専門医,理学療法士,看護師では3学会合同呼吸療法認定士の認定更新目的が最も多かった.
今回,本学会学術集会参加者全員を対象にアンケート調査を行った.学会参加受付時の手渡しで配布し,配付総数は学術集会参加者数と同数と推定した.アンケート有効回答の51.2%が学会員で,学会員以外の割合とほぼ半々であった.このことから日本呼吸ケア・リハビリテーション学会所属以外の呼吸器関連資格を持つ人も含んでおり,有資格者の全体像をある一定程度反映できる調査と考えられた.
回答者の半数以上が自身の医療系資格に加えて専門分野に関する認定を受けていたことは,本調査対象は自身のスキルアップに取り組む人が多い,向上心の高い集団であったと推定されたが,そのなかでも3学会合同呼吸療法認定士が回答者全体の44.0%,資格別にみても理学療法士・看護師・臨床工学技士のそれぞれ半数以上を占めていたことは,3学会合同呼吸療法認定士資格取得の有用性が期待されていることが伺われる.反面,初級呼吸ケア指導士は全体の14.7%,医師の32.7%,理学療法士の17.4%,看護師の7.1%,臨床工学技士の20.0%,上級呼吸ケア指導士はわずか2人であったが,本資格が3学会合同呼吸療法認定士資格よりも創設後日が浅いことが影響したと考えられた.また,これらの資格を持っている人のみでみると3学会合同呼吸療法認定士資格が現在の職場で有益とした人の割合は55.2%であったのに対し,呼吸ケア指導士資格は現在の職場で有益とした人の割合は31.8%であった.創設後日が浅いことは,評価する側の認知度にも影響が推定されるが,実際,資格の保有が職場配属決定に際し評価されていたと回答したのは3学会合同呼吸療法認定士の37.3%,上・初級呼吸ケア指導士の11.8%であり評価についても創設後の期間が影響した可能性がある.3学会合同呼吸療法認定士・初級呼吸ケア指導士資格の両方を持っている人は90人で3学会合同呼吸療法認定士資格を持つ人の17.9%にすぎないことも,上・初級呼吸ケア指導士資格創設後の期間が影響した根拠となり得る.鵜澤らによる2007年に実施された3学会合同呼吸療法認定士に関するアンケート調査では,呼吸療法チームを有する施設が少なく,また,資格取得にもかかわらずその後他業務の配属となり,調査時点で呼吸療法の業務から離れていたという現状が示されていることから資格創設から相当の年数が必要と推察される1).同報告では,呼吸療法は各職種の業務との兼務で行っている現状,資格の特殊性や役割の明確さがなく習得した知識や技術が日常業務へ反映されにくい,さらには自身の臨床的な知識や経験が不十分,という意見も多かった1).その後の2014年の一和多の報告でも同様に3学会合同呼吸療法認定士の約半数が呼吸療法に携わっておらず,資格が活かされていない勤務状況が報告されている2).そんな中,呼吸ケア指導士制度は新たに創設されたが3),資格創設後2年目でなされた桂の報告では,資格取得の公表は67%,給与加算はわずか1%,呼吸ケア指導士として独自の業務を行っていたのは22%に過ぎなかったと示されている4).今回の我々の報告はこれらの過去の報告とある程度合致するが,それ以後5年以上経過してから実施された調査であることを考えると,著しい改善が得られたとは言えず,3学会合同呼吸療法認定士制度,呼吸ケア指導士資格共に,呼吸器関連資格の有効活用に関する課題改善の困難さが伺える.
3学会合同呼吸療法認定士制度は,呼吸療法チームの構成要員とされる看護師,理学療法士,臨床工学技士を養成し,そのレベルの向上を図る目的に設置されており1),呼吸ケア指導士は,呼吸障害をもつ人々の継続的ケアをチーム医療のなかで実践するべく,呼吸ケアに関する最新の基礎的知識と臨床的技術を取得して,地域において指導的な役割を担っていける人材を育成し,支援していくことを目的に創設されている3).これらの資格は,呼吸器疾患分野に携わるメディカルスタッフにとって知識も技術もより向上するために有益な資格であることに異論は無いが,十分な評価を受けるにはまだ課題が山積していると言わざるを得ない.
なお,呼吸ケア指導士は他の呼吸器関連資格に応募できない職種にも門戸を広げられている貴重な制度であるため,十分な周知と認識を得ることで,社会において活躍の場はあると考えられる.特に,2020年からの新型コロナウイルス感染症の蔓延が続いている社会情勢において,呼吸器関連資格を有するメディカルスタッフの存在意義は極めて重要と考えられる.また,厚生労働省の国民健康づくり運動プラン(健康日本21)にCOPD が取り上げられ,健康寿命の延伸が謳われている昨今,国民への呼吸器疾患に関する啓発活動が求められていることからもこれらの資格について注目されることが期待される.
看護師資格に関し認定看護師については,本学会参加者のうち1/3を看護師が占めることから重要な資格であると考えられる.この専門資格の重要性についてTanakaらは,呼吸器病棟看護師の慢性閉塞性肺疾患患者への看護能力を検討しており,「疾患を理解すること」,「患者を理解すること」,「呼吸器リハビリテーション」,「患者と家族への援助」,「役割モデル」の因子が専門資格と関連し,専門資格を有することが看護能力の自己評価を向上させると結論している5).同様のことは他の職種にも適応されうると考えられ,職種を問わず,メディカルスタッフが自身の基礎的な医療資格に追加して何からの専門資格を取得することの有益性は確かなものと言え,本人だけではなく職場,ひいては患者にとってよい影響をもたらすことが期待される.
現状の課題として,3学会合同呼吸療法認定士も呼吸ケア指導士も団体による認定資格であるため業務拡大は得られず,その業務内容は各国家資格の領域内にとどまる.しかし明文化されていない他職種との連携,近年重視されているチーム医療など,既存の資格では規定されていないスキル・業務達成能力を向上させる有用な手段として,これら呼吸器関連資格の意義はあると推察される.米国などで実践されている呼吸療法士制度では,各専門職種と業務分担して,専任業務を行っている.このために必要な知識と技術は卒前教育として大学や専門学校で得ており,卒後各施設や学術団体により卒後教育が行われている1,2).このように自己研鑽の結果であっても努力して取得した資格を職場に活かすことが一般的となる制度作り,体制作りを続ける努力が,資格制度を創設した側にも必要であるとも言える.資格取得者の受け入れ体制,継続学習,呼吸療法や本制度の認識を広げるための啓発活動を,本学会だけではなく,関連学会,各種団体を交えて進めていくことが求められている.
本アンケート実施にあたり,お力添えを頂きました日本呼吸ケア・リハビリテーション学会関係者の皆さま,アンケートにご協力頂きました日本呼吸ケア・リハビリテーション学会員の皆さまと日本呼吸ケア・リハビリテーション学会第29回学術集会にご参加の皆さまに,心より感謝申し上げます.
高橋順美,佐藤 晋;寄付講座(フィリップス・ジャパン,レスメド株式会社,フクダ電子株式会社,フクダライフテック京滋株式会社),陳 和夫;寄付講座(フィリップス・ジャパン,レスメド株式会社,フクダ電子株式会社,フクダライフテック京滋株式会社,フクダライフテック東京株式会社)