日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
在宅呼吸リハビリテーション
玉木 彰沖 侑大郎
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2022 年 31 巻 1 号 p. 54-57

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要旨

COPD患者に対する呼吸リハビリテーションは,入院期間の短縮や退院後の外来リハビリテーションを行っている施設が少ないことから,在宅における継続的な実施が重要な役割を担っている.しかし在宅では病院のリハビリテーション施設とは設備や環境が異なることや,フレイルやサルコペニアを合併している高齢COPD患者が多い本邦の現状を考慮すると,在宅呼吸リハビリテーションの効果を出すためには施設における監視型リハビリテーションとは異なった工夫が必要となる.

緒言

2001年に本邦で実施された慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease; COPD)の疫学調査であるNippon COPD Epidemiology study(NICE study)1によって,国内にはおよそ530万人のCOPD患者がいると推定された.この報告から20年以上経過していため,現在のCOPD患者数の正確な予測は難しいが,e-Startの政府統計2によるとCOPD患者数は年々増加しており,特に男性患者が増加していること,さらに75歳以上の割合の増加が顕著であることが示されている.このように本邦におけるCOPD患者は増加傾向を示しており,75歳以上の後期高齢者の割合が高いことが特徴であることから,呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)の対象となるCOPD患者には高齢患者が圧倒的に多いと考えられる.また呼吸リハの患者選択基準3の1つに,「実施を妨げる因子や不安定な合併症・併存症がない患者であり,年齢制限や肺機能の数値による基準は定めない」とされていることからも,呼吸リハ対象者における高齢COPD患者が多くなることは明らかである.したがってこれらの対象者への在宅呼吸リハビリテーション(以下,在宅リハ)では,入院や外来リハビリテーションとは環境が異なることや,高齢COPD患者であるが故の介入の難しさが想定されるため,様々な工夫が必要であると思われる.

ここでは,高齢COPD患者に対する在宅リハの現状と問題点について,症例を提示しながら考えてみたい.

COPD患者に対する呼吸リハビリの現状

本邦におけるCOPD患者に対する呼吸リハの現状では,以下のような特徴が挙げられる.①75歳以上の後期高齢者が圧倒的に多い.②後期高齢者であることで,認知機能の問題も含め呼吸リハ実施する際の難しさがある.③一般的に自己管理(セルフマネジメント)能力が低い患者が多い.④現行の診療報酬では,呼吸リハ料は治療開始後90日を限度として算定できる(ただし治療継続により改善が期待できる場合は90日を超えて算定可能な場合がある).⑤特に酸素吸入が必要な患者の場合は,回復期病院への転院の受け入れが難しい.このように本邦におけるCOPD患者に対する呼吸リハについては,入院期間の短縮によって入院による一定期間の集中的な呼吸リハ実施が難しいこと,また外来呼吸リハを行っている施設が極めて少ないことなどもあり,在宅における呼吸リハの果たす役割は非常に大きいと考えられる.

高齢COPD患者の問題点

近年,COPD患者においてもフレイル(Frailty)が注目されている.フレイルとは,「加齢に伴いさまざまな臓器機能の変化や予備能力の低下が起こり,外的ストレスに対する脆弱性が亢進した状態で,種々の障害(日常生活自立度低下,転倒,独居困難,合併症増悪,入院,死亡など)に陥りやすくなった状態4」である.そして通常フレイルの診断では,体重減少,疲労,身体活動性低下,歩行速度低下,筋力低下のうち,3つ以上の症状を有する場合にフレイルと判定5している.高齢COPD患者が多い本邦では,この診断基準に該当するCOPD患者は少なくないと考えられるが,COPD患者のフレイル有病率に関する本邦での大規模調査の結果は今のところ報告されていないため,欧米からの報告を供覧する.Maddocksら6は,平均年齢70歳の外来COPD患者816名におけるフレイルの有病率を調査した結果,25.6%とCOPDの約1/4がフレイルを有していたことを示し,フレイルの有病率は年齢,Global initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)によるCOPDの重症度,Medical Research Council(MRC)による呼吸困難の程度,年齢を調節したcomorbidity burdenにしたがって増加していたことなどを報告している.このようにCOPD患者におけるフレイルは年齢や重症度とともに増加していることから,高齢COPD患者が多い本邦ではさらに有病率は高いものと予想される.

一方,フレイルとともに注目されているものが,サルコペニア(Sarcopenia)である.サルコペニアとは,「加齢に伴い,骨格筋量が減少し,身体機能が低下することにより,転倒,骨折,身体機能低下,死亡などの負のアウトカムの危険が高まった進行性かつ全身性の骨格筋疾患」と定義7されており,高齢者が多い本邦のCOPDでサルコペニアを合併している患者はフレイルと同様に多いと考えられる.Jones ら8は外来COPD患者622名についてInternational European Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)のクライテリアを用いて診断したところ,サルコペニアの割合は14.5%であり,年齢が高くなるほど,重症度が高くなるほど合併する割合が高かったと報告している.また高齢COPD患者では下肢筋力の低下が認められる9ことは以前から知られているが,これは単なる筋力低下だけでなく,フレイルを合併している症例,サルコペニアを合併している症例,さらに筋力低下,フレイル,サルコペニア全てを重複(overlap)している症例がそれぞれいることも指摘10されている.したがって高齢COPD患者に対する呼吸リハでは,通常のプログラムに対してフレイルやサルコペニアを考慮した工夫が必要であると考えられ,特に在宅リハにおいては病院や施設等とは異なった環境の中で,どのように身体機能を維持・改善するか,また生命予後に影響するとされている身体活動性をどのように担保するかなど,様々な課題にも直面している.

高齢COPD患者に対する在宅リハにおける問題点

高齢COPD患者に対して在宅リハを導入する場合,様々な障壁(問題点)が存在する.一般的にリハビリテーションの対象が高齢者の場合,高齢だからどうせやっても良くならないという固定観念を持っている患者が多く,この影響によって行動変容までに時間を要することが多い.また介護保険下で在宅リハ導入の際,ケアプランを立てるケアマネジャー自身が呼吸リハの重要性や呼吸リハそのものを理解していない(知らない)ことが少なくない.さらにこれらの影響もあって在宅リハの依頼がきた時点においてCOPDとしての罹患期間が長く,その間に重症化している患者が多い.これらに加え高齢COPD患者は先に述べたようにフレイル・サルコペニアを合併している割合が高く,これらが介入効果に影響を与える可能性があることなどが考えられる.このように在宅において高齢COPD患者に対する呼吸リハを導入する場合は,多くの問題点を考慮した介入が必要となる.

在宅呼吸リハの効果に関する報告

在宅呼吸リハと外来呼吸リハの効果について,年齢等をマッチングさせたCOPD患者において検討した研究11では,在宅呼吸リハでは8週間の個別による最低週3回の特別の機器を使用しない運動療法(有酸素運動とレジスタンストレーニングなどで構成)および電話によるフォローによる介入と,外来呼吸リハでは8週間の監視型のBritish Thoracic Societyの標準メニューと非監視型の在宅プログラムで構成されたものをそれぞれ実施した.Primary outcomeはincremental shuttle walk(ISW)による運動耐容能,secondary outcomeはChronic Respiratory Questionnaire(CRQ)による呼吸困難のドメインとプログラム完遂率とした.その結果,外来リハ群の54%がISWの改善においてMCID(臨床的に意味のある最小差)を達成できたが,在宅リハ群は30%と有意な差が認められた.呼吸困難については両群とも改善し,差は認められなかった.さらにプログラム完遂率は外来リハ群が64%,在宅リハ群が56%と差は認められなかったが,介入効果の意識に差が認められた.以上のことから安定期COPD患者に対しては外来による監視型の呼吸リハが標準であり,在宅リハはやや効果が劣ることが示されている.

一方,本邦で実施された在宅酸素療法中の高齢COPD患者に対する在宅運動療法を検討した3年間の前向きコホート研究12では,在宅において下肢エルゴメーターを用いて酸素吸入下で運動療法を1日1回20分実施する群(以下,E群)と,在宅での1日20分の酸素吸入下における運動指導を行った群(以下,U群)について,セルフマネジメント能力,6分間歩行距離,呼吸機能検査,Body Mass Index(BMI),呼吸困難(mMRC),健康関連QoLなどを評価し,比較検討を行っている.その結果,セルフマネジメント能力はE群で有意に改善し,6分間歩行距離はE群では良好に維持できていたが,U群では有意に減少した.また呼吸機能はE群では維持できていたがU群では有意に低下した.さらにBMIやmMRCは両群とも3年で有意に減少したが,E群では増悪の回数が減少したと報告しており,在宅における下肢エルゴメーターを用いた呼吸リハの有用性を示している.

以上のように,在宅における呼吸リハは通常の外来での監視型呼吸リハと比べるとその効果はやや劣るものの,実施内容や方法を工夫することで同等に近い効果を得ることが可能になるものと考えられる.

症例紹介

70歳代 男性,診断名はCOPD,気管支拡張症.主訴は労作時の呼吸困難であった.在宅リハ導入前の状況は,肺炎のため入退院を繰り返していた(多い時は4~5回/年).介護保険は申請するも認定されず,医療保険を利用していた.そのためこれまで入院中の呼吸リハは実施されていたが,介護サービスを利用したことはなかった.定年退職後,趣味である畑作業を生きがいとしていたが,入退院を繰り返していることや,労作時呼吸困難によって制限され,抑うつ傾向を認めていた.在宅リハ導入時の評価では,COPDの重症度はGOLDII(中等症),呼吸困難はmMRCで2,身体機能ではフレイルの前段階であるプレフレイル状態であり,サルコペニアについては入院中に改善していた.COPD Assessment Test(CAT)は15点であり,食事は1日3回摂取していたが,BMIは14.2と重度の痩せがあり,Mini Nutritional Assessment Short-Form(MNA-SF)は8点とat riskの状態であった.そのため入院中より栄養補助食品が導入されていた.在宅リハでは,コンディショニング,下肢を中心としたレジスタンストレーニング,吸気筋トレーニング(最大吸気圧の50-60%),歩行練習や臥位・座位で行えるエルゴメーターによる持久力トレーニング,自己排痰に向けた練習などを実施した.

本症例に対する介入のポイントとして,入院中に実際されていたプログラム内容を基本に継続しやすいよう工夫し,徐々に在宅で実施可能な非監視型のトレーニング内容に変更したこと,また気管支拡張症を合併していたため,自己排痰を指導し,セルフマネジメント能力の改善に取り組んだこと,さらに身体活動性増大に向け,趣味である畑作業の再開を目標にしたことである.これらの介入を継続した結果,1か月後には週4~5日で畑作業を行うようになるなど身体活動性が増大し,その結果,様々な行動変容起こり,表情も明るくなって抑うつ状態の改善が認められた.本症例は入院中の呼吸リハによって効果を実感していたことから,在宅リハの導入もスムーズに行えたと考えられる.今後は栄養状態改善の指導とともに筋肉量を維持しながら活動性を維持・向上させることで身体機能を高め,肺炎による増悪予防を目標に介入を継続していく予定である.

おわりに

高齢COPD患者に対する在宅リハは,高齢者であることの特徴を十分に考慮した介入を考えなければならない.また在宅という病院とは異なった環境でどのように身体活動性を維持し,行動変容につなげていくかが効果を高める鍵となる.

著者の COI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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