日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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学会奨励賞受賞報告
COPD患者におけるメンテナンスを含む呼吸リハビリテーションの長期効果
―メタ解析を用いた検討―
今村 創
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2022 年 31 巻 1 号 p. 8-14

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要旨

COPD患者における呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)の効果を維持するために継続したフォローアップ(メンテナンス)は重要とされているが,その長期効果に関しては明らかになっていない.我々は,メンテナンスを含む呼吸リハがCOPD患者の運動耐容能,健康関連Quality of Life(HRQOL)に及ぼす影響を,メタ解析を用いて検討した.メンテナンスの有無で呼吸リハの長期効果を検討している無作為比較試験を検索し,7本の論文が採用され,492名のCOPD患者が取り込まれた.介入群はメンテナンスを含む呼吸リハを実施している患者,対照群は呼吸リハの有無に関わらずメンテナンスを実施していない患者とした.メンテナンスを含む呼吸リハにより,運動耐容能は有意な長期効果を認めた.しかしながら,HRQOLについては長期効果が確認されなかった.運動耐容能とHRQOLの改善効果を長期的に維持するためには,メンテナンスの内容や頻度を再考する必要性が示唆された.

はじめに

COPDは不可逆的な疾患であり,患者は労作時呼吸困難によって身体活動量が減少し,更に身体機能が低下していくという,悪循環に陥りやすい.呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)はCOPD患者におけるこの悪循環を止め,身体機能の低下を防ぐための戦略として推奨されている1.外来患者における呼吸リハは,呼吸法練習,筋力トレーニング,有酸素運動,セルフマネジメント教育,栄養・心理社会的サポートを含み,少なくとも週2回以上の運動療法を6~12週間継続する必要がある2.COPD患者に対する呼吸リハは呼吸困難の軽減,運動耐容能,健康関連Quality of Life(HRQOL),不安・抑うつの改善,入院回数および入院日数の減少効果があり,エビデンスが確立されている1,3.しかしながら,呼吸リハで得られた短期効果は12ヶ月から24ヶ月かけて呼吸リハ前と同程度まで減衰することが報告されている4,5,6.効果を維持するためには,呼吸リハで実施していた運動療法を継続するなど,定期的なフォローアップ(メンテナンス)が重要であるが7,メンテナンス期間及び内容はプログラムによって異なる8,9,10.呼吸リハ後に監視下運動療法の継続による長期効果を検討したメタ解析では,運動耐容能は6ヶ月間維持されたことを報告している11.しかし,監視下運動療法を長期間継続することは,人員不足やアクセスなどの問題から困難であり,自宅で実施可能もしくは低頻度でのフォローアップで実施されるメンテナンスプログラムが必要である.

そこで我々は,COPD患者におけるメンテナンスを伴う呼吸リハが運動耐容能,HRQOLに及ぼす長期的な影響を,メタ解析を用いて検討した.

メタ解析の実施

1. メタ解析に採用する論文の抽出

論文検索にはPubMed,Cochrane Libraryの2つのデータベースを使用し,検索式は疾患(“COPD OR obstructive OR lung disease”)と介入(“rehabilitation OR physiotherapy OR physical therapy OR exercise OR training”)を組み合わせ,1995年1月から2017年12月までの期間の無作為化比較試験のみを検索した.検索した論文11,059件のうち,最終的に7本の論文がメタ解析に採用された.

2. 選択基準および評価項目

母集団はCOPDと診断された患者とした.介入群はメンテナンスを伴う呼吸リハを実施した患者とした.呼吸リハは,教育や社会心理的サポートの有無に関わらず,運動療法を週2回以上,6~12週間実施していることと定義した.メンテナンスは,呼吸リハの効果を維持するために電話,訪問,通院のいずれかで一定期間フォローアップし,12ヶ月間追跡調査していることと定義した.対照群は呼吸リハ実施の有無に関わらず,メンテナンスを実施していない患者とした.運動耐容能の評価には6分間歩行距離(six minutes walking distance: 6MWD)12と漸増負荷シャトルウォーキングテスト(incremental shuttle walking test: ISWT)13を用いた.HRQOLの評価にはSt. George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)14を使用した.

3. データ抽出およびバイアスリスク評価

データ抽出の結果を表1に示す.495名の患者がメタ解析に取り込まれ,介入群は259名であった.COPDの重症度は軽症~最重症まで,全てのステージの患者が含まれていた.呼吸リハの期間は6~12週間であり,頻度は週2回~週7回であった.内容は,週2回以上の監視下運動療法に加えて,ほとんど全ての参加者が自宅での運動も指導されていた.メンテナンスは,12週間のメンテナンスプログラムを実施後,12ヶ月間追跡調査していたSteeleらの論文10を除いて,12ヶ月~36ヶ月間実施されていた.メンテナンスは電話,通院,訪問で実施されており,週1回~月1回の頻度で実施されていた.バイアスリスクに関しては,独立した二人の著者がCochrane risk of bias tool15を用いて評価した(図1).

表1 抽出した論文の特性
著者(国)患者情報呼吸リハプログラムメンテナンスプログラム評価項目
Wootton 20178
(オーストラリア)
71名(男性:57%,
平均%一秒量:43%,
平均年齢:70歳)
介入群:38名
対照群:33名
設定:外来
内容:AT(ウォーキング)
期間:2ヶ月間
頻度:週2–3回
設定:在宅,電話
内容:AT(ウォーキング),歩数計のフィードバック
頻度(在宅):週3回
頻度(電話):2週間に1回(最初の3ヶ月間),その後は月1回
フォローアップ:8ヶ月目,14ヶ月目
運動耐容能:
6MWD,ISWT
HRQOL: SGRQ
Bestall 20039
(イギリス)
47名(男性:記載なし,
平均%一秒量:37%,
平均年齢:69歳)
介入群:26名
対照群:21名
設定:外来
内容:セルフマネジメント教育,AT(ウォーキング or サイクリング),MST(上下肢)
期間:8週間
頻度:週2回
設定:外来
内容:運動療法,面談
頻度:月1回
フォローアップ:6ヶ月目,12ヶ月目
運動耐容能:
ISWT
HRQOL:
SGRQ
Steele 200810
(アメリカ)
89名(男性:記載なし,
平均%一秒量:40%,
平均年齢:記載なし)
介入群:47名
対照群:42名
設定:外来
内容:セルフマネジメント教育,AT(トレッドミル,エルゴメータ,上肢エルゴメータ,NuStep),MST
期間:8週間
頻度:週2回
設定:在宅 or 地域,電話
内容:AT(ウォーキング),運動療法の激励,自己管理,在宅訪問(1回のみ)
頻度(在宅 or 地域):週4回
頻度(電話):月1回
フォローアップ:20週目,52週目
運動耐容能:
6MWD
Engstrom 199918
(スウェーデン)
50名(男性:52%,
平均%一秒量:32%,
平均年齢:66歳)
介入群:26名
対照群:24名
設定:外来
内容:セルフマネジメント教育,AT(自転車),呼吸理学療法,MST(上肢)
期間:6週間
頻度:週2回
設定:在宅,外来
内容:MST and AT(ウォーキング)
頻度(在宅):毎日
頻度(外来):[1~6週間]週1回,[7~12週間]2週間に1回,[13週目以降]月1回
フォローアップ:12ヶ月目
運動耐容能:
6MWD
HRQOL:
SGRQ
Guel 201719
(スペイン)
103名(男性:89%,
平均%一秒量:39%,
平均年齢:64歳)
介入群:53名
対照群:50名
設定:外来
内容:セルフマネジメント教育,AT(エルゴメータ),呼吸理学療法,MST
期間:8週間
頻度:週3回
設定:在宅,外来,電話
内容:呼吸理学療法,MST,AT(エルゴメータ)
頻度(在宅):週3回
頻度(外来):2週間に1回
頻度(電話):15日ごと
フォローアップ:12ヶ月目,24ヶ月目,36ヶ月目
運動耐容能:
6MWD
Linneberg 201120
(デンマーク)
99名(男性:38%,
平均%一秒量:42.2%,
平均年齢:記載なし)
介入群:49名
対照群:50名
設定:外来
内容:セルフマネジメント教育,AT(ウォーキング or サイクリング),MST(上下肢,胸腹部)
期間:7週間
頻度:週2回
設定:在宅,外来
内容:監視下運動療法,日誌
頻度(在宅):毎日
頻度(外来):9週目,11週目,13週目,18週目,26週目,52週目
フォローアップ:13週目,26週目,52週目
HRQOL:
SGRQ
(total score
のみ)
Roman 201321
(スペイン)
36名(男性:81%,
平均%一秒量:記載なし,
平均年齢:64歳)
介入群:20名
対照群:16名
設定:外来
内容:セルフマネジメント教育,呼吸理学療法,MST(上下肢)
期間:3ヶ月
頻度:毎日
設定:外来
内容:MST,呼吸理学療法
頻度:週1回
フォローアップ:12ヶ月
運動耐容能:
6MWD

略語:6MWD, 6 minutes walking distance; ISWT, incremental shuttle walking test; SGRQ, St. George’s Respiratory Questionnaire; AT, aerobic training; MST, muscle strength training.

図1

バイアスリスクの評価

4. データ解析

メタ解析には,Review Manager version 5.3を使用した.解析には平均値差(mean difference: MD)が用いられ,DerSimonian-Laird法を使用したランダム効果モデルにしたがって統合された.平均値差と標準誤差は,逆分散法を用いて解析された.

運動耐容能に対する呼吸リハの長期効果

運動耐容能は6論文で評価されており,6MWDは5論文,ISWTは2論文で評価されていた.メンテナンスを実施したことにより,6MWD(MD 27.00, 95% CI 1.04–52.96, P<0.05, I2=78%),ISWT(MD 44.48, 95% CI 30.70–58.25, P<0.01, I2=0%)ともに12ヶ月時点で長期効果を認めた(図216

図2

運動耐容能の長期効果

略語:PR, pulmonary rehabilitation; 6MWD, 6-minute walking distance; ISWT, incremental shuttle walking test; SE, standard error; IV, inverse variance; CI, confidence interval.

継続した運動療法は呼吸リハの効果を維持するために最も重要な因子の一つであることが報告されている17.今回のメタ解析では,メンテナンス時期に全ての研究において運動療法が継続されており,採用した7論文のうち6論文で有酸素運動が実施されていた8,9,10,18,19,20.対照的に,残りの1論文では筋力トレーニングのみが継続されており,運動耐容能の長期効果を認めていなかった21.メンテナンスプログラムの設定として,3論文は監視下運動療法が組み込まれており,週2回から月1回の頻度で実施されていた.メンテナンスプログラムとして監視下運動療法を実施した先行研究では,週3回,12週間の運動療法を継続したところ,運動耐容能の改善効果が維持されたと報告しており13,運動療法の頻度が低い場合,呼吸リハの効果は維持されないとの報告もある4,22.一方,Wijkstraら23は,監視下運動療法を週1回実施した群と月1回実施した群を比較したところ,月1回実施した群の方が,運動耐容能が維持されたと報告している.その理由として,週1回の群は病院で行う監視下運動療法に依存してしまっていたが,月1回の群は頻度が少ない分,自宅でのトレーニングを実施していたと考察している.したがって,呼吸リハの効果を維持するためには,頻度の低い監視下運動療法を実施するより,自宅での非監視下運動療法がより重要であることが示唆される.本研究においても,4論文8,10,18,19でメンテナンス時期に非監視下での有酸素運動が週3回から7回の頻度で実施されており,効果の維持に寄与していた可能性が考えられる.Beauchampら11のレビューでは,監視下運動療法が運動耐容能の改善効果を維持すると示されたが,本研究に採用した論文のうち,長期効果を認めた5論文8,9,10,18,19では,ほとんど全てにおいて自主練習として運動療法が自宅で実施されていた.自宅での運動療法による長期効果を検討した先行研究では,呼吸リハ後も運動療法を継続することで改善効果が維持されたと報告されている24.したがって,運動耐容能を長期的に維持するためには,呼吸リハ開始時点から長期的に自宅で継続可能な運動療法を計画していくことが更に重要である可能性が示唆された.

HRQOLに対する呼吸リハの長期効果

HRQOLの評価にはSGRQを用い,SGRQのトータルスコアは4論文,サブスコアは2論文で評価されていた.トータルスコア(MD -1.32, 95% CI-7.71–5.08, P=0.69, I2=64%),サブスコア(symptoms: MD 3.70, 95% CI -9.05–16.46, P=0.57, I2=81%; activity: MD -1.04, 95% CI -6.79–4.72, P=0.72, I2=48%; and impact: MD -2.62, 95% CI -13.71–8.47, P=0.64, I2=86%)ともにメンテナンスによる長期効果を認めなかった(図316

図3

HRQOLの長期効果

略語:PR, pulmonary rehabilitation; SGRQ, St George’s Respiratory Questionnaire; SE, standard error; IV, inverse variance; CI, confidence interval.

HRQOLを改善させるためには疾患教育やアクションプランの作成,栄養サポート,吸入療法などのセルフマネジメント教育が重要である25.本研究で採用された6論文9,10,18,19,20,21は,初期の呼吸リハではセルフマネジメント教育を実施し,HRQOLの改善を認めていたが,メンテナンス時期にはセルフマネジメント教育は継続されていなかった.セルフマネジメント教育を含む呼吸リハを繰り返し実施すると,初回の呼吸リハから1年後のHRQOL改善に効果があったことが報告されている26.これは,メンテナンス時期に継続したセルフマネジメント教育を行うことが,HRQOLにおける呼吸リハの効果を維持するために重要であることを示唆している.一方,行動変容もまた,HRQOL維持のために重要な要素である17.呼吸リハの構成要素(運動療法,呼吸法練習,運動のペース・エネルギー節約の方法など)を患者のライフスタイルに組み込み,メンテナンスを通じてライフスタイル改善への指導を継続することで,呼吸リハの効果を維持できる可能性が考えられる.加えて,自己効力感は多くの健康行動に重要な役割を果たしており,呼吸リハの計画を立てる上で不可欠な要素である27.さらに,高い自己効力感は呼吸困難・不安・抑うつの軽減と関連していることが報告されている28.自己効力感と行動変容に介入するには,日誌29や日々の歩数をフィードバックすること30などが有効であるとされている.更に,地域での呼吸リハ31,電話でのリハビリテーション32やコーチング33などのアプローチにより,効果の維持に寄与できる可能性が考えられる.

受賞にあたっての感想とこれからの抱負

この度は第10回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会奨励賞という大変栄誉ある賞をいただきまして,誠にありがとうございました。入職以来,桂秀樹先生ご指導のもと,呼吸リハビリテーションに携わらせていただきました.受賞にあたり,研究計画の立案や進め方等の指導をしてくださいました千葉大学医学部附属病院リハビリテーション部の稲垣武先生をはじめ,千葉大学大学院医学研究院の寺田二郎先生,巽浩一郎先生,東京女子医科大学内科学講座呼吸器内科部門の桂秀樹先生,統計の指導をしてくださいました慶應義塾大学臨床研究推進センターの長島健悟先生に深謝申し上げます。

今後もCOPD患者をはじめ呼吸器疾患に対する呼吸ケア・リハビリテーションおよび本学会のさらなる発展に少しでも寄与できるよう,精進してまいります.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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