日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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Pros and Cons
呼吸リハビリテーション 身体活動性:Conの立場から
宮崎 慎二郎
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2022 年 31 巻 1 号 p. 99-101

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要旨

COPD患者において身体活動性の低下は,生活の質の低下,入院率および死亡率の増加を招く.身体活動性と様々な因子の関連や改善に向けた取り組みが報告されているが,結論から言えば,現在のところ身体活動性に強く影響する因子は明らかになっておらず,運動療法,薬物療法,カウンセリングなどを含め身体活動性を改善させるための手段についても一定の見解は得られていない.さらに,身体活動性が低下している原因を評価する方法も確立されておらず,介入をより困難にさせている.身体活動性に対しては,多職種による視点とアプローチが必要であり,まさに患者を中心としたチーム医療による呼吸ケア・リハビリテーションによって取り組んでいくべき課題といえる.

身体活動性と予後

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)患者においては,軽症の時から健常人に比べ日常生活における身体活動性(physical activity: PA)が低下しており,生活の質の低下,入院率および死亡率の増加を招く1.COPD患者をPAレベルによって不活動群,活動不足(低)群,活動不足(高)群,高活動群に分類した場合,不活動群に比べ高活動群では,全死亡,心疾患死亡,呼吸器疾患死亡のリスクが減少する2.特発性肺線維症患者においても一日あたりの歩数の低下は,努力性肺活量,DLco,6分間歩行距離と同様に死亡予測因子であり,生存患者であってもベースラインからの歩数の低下率は,同期間における努力性肺活量,DLco,6分間歩行距離の低下率に比べて大きかった3

PAの変化と予後に関する報告では,経時的にPAが低下することで有意に生存率が悪化するが,低PAから中等度あるいは高PAに変化しても生存率に有意な改善は認められていない4.また,COPD増悪歴のある患者を対象に,PAへの長期介入を行った無作為化臨床試験では,救急外来受診,入院,死亡の複合アウトカムに有意な改善は示されなかった5.一方で,COPD患者を対象に,歩数計やフィードバック付きのウェブサイト併用によるPAへの介入を行った場合,対照群に比べ増悪リスクが有意に低下した6.このように,PAは予後に影響を与える因子ではあるが,PAへの介入による予後改善効果については十分に明らかにされていない.

身体活動性と運動耐容能・身体機能

PAは運動耐容能と正の相関関係を認めるが,その関係性は強くない7,8.6分間歩行距離が 300~350 m以下の運動耐容能低下群では,一日あたりの歩数が低い傾向にあるが,運動耐容能が維持されている場合には,歩数のばらつきが非常に大きく,運動耐容能が高くてもPAが低い患者が相当数いることが示されている7.Koolenら8は,PAを低PA(don’t do)と高PA(do do),運動耐容能を低運動耐容能(can’t do)と高運動耐容能(can do)に層別化し,COPD患者を「Can’t do, don’t do」「Can do, don’t do」「Can’t do, do do」「Can do, do do」の4つのドメインに分類した.「Can’t do, don’t do」の患者群で増悪頻度が最も高かったが,その他の臨床的特性において4群に有意な差は認められなかった.

COPD患者における大腿四頭筋力とPAに関するメタ解析では,大腿四頭筋力と一日あたりの歩数の相関係数は0.26と非常に弱い9.また,PAと身体機能の4年間の経時的変化の調査では,6分間歩行距離は維持されているにも関わらず一日当たりの歩数は大幅に減少しており,長期の経時的なPA低下は身体機能の低下と同時に起こるものではないことが示されている10.以上より,PAの低下は運動耐容能や身体機能の低下で十分に説明できる関係ではないといえる.

身体活動性への介入効果

PAを向上させる介入として,現時点で確立された方法はない.COPD患者のPAに対する運動療法効果についてのメタ解析では,監視型運動療法では最低で週3回,8週間以上の実施が必要とされているが,効果量は0.12と非常に小さい11.また,間質性肺炎患者を対象とした在宅運動療法,行動変化と自己管理を促進するための指導,治療の遵守,栄養指導などの個別教育プログラムを行った8週間の呼吸リハビリテーション介入においても,運動耐容能,不安・抑うつ,生活の質は有意に改善したにも関わらず,1日あたりの歩数や 2.5 METs以上の活動時間に変化は示されなかった12.患者自身による管理や意欲の向上,継続的な支援を目的とした,歩数計を用いた管理やカウンセリング,テレヘルスなどの介入によってPAが改善したとの報告がいくつかあるが,いずれも短期的な改善効果であり,長期にわたる効果は認めない.COPD患者における歩数計の効果に関するメタ解析では,歩数計を使用することで短期(6か月未満)のPAと運動耐容能は有意に改善したが,重症COPD例や長期(6か月以上)では効果は認められなかった13.運動療法を中心とした呼吸リハビリテーションを実施後に,PAに関するカウンセリングを実施した場合,3か月後の一日あたりの歩数は有意に改善したが,15か月後では有意差は認めなかった.ベースラインで一日あたり10,000歩以上の高PA例を除外すると,15か月後でも有意な改善を認めており,低PA例においては,運動療法とカウンセリングを併用することがPA向上に有用である可能性がある14.PAに対する運動療法とカウンセリング併用と,運動療法単独の比較に関するメタ解析では,運動療法とカウンセリング併用において,PAは短期的には向上するが6か月後には低下することが示されている15.COPD患者のPAに対する多面的かつ長期的な介入効果についてランダム化比較試験が行われている16.介入群には,PAについての動機づけ面接,患者個々に応じた具体的な地域での歩行経路の提示,歩数計と記録用カレンダーの提供,パンフレットやウェブサイトでのメッセージ,月1回の集団歩行運動,電話での相談窓口の設置といった多彩なサポートが行われたが,12か月後においてPAに有意差は示されなかった.しかし,プログラム遵守群においては一日あたりの歩数の有意な増加が認められた.

上述のように,COPD患者を中心としたPAへの介入効果は十分に示されていない.最近報告されたメタ解析では,運動トレーニング,カウンセリング,および薬物療法を含む戦略によってPAが改善することを示す根拠は限られており,介入の終了後に効果が継続することを示す根拠は乏しいとされている17.GOLDでも,PAの促進と維持に関しては,現在までに発表されたほとんどの研究は,ほぼ指針を提供しておらず,技術に一貫性がなく,研究を再現するため,または臨床ケアに介入を適応させるために必要なデータ(伝達のための種類・量・時期・方法など;使用するツール;質が保証された方法)が不足していると記載されている1.Conの立場として,長期にPAを維持・向上させる方法やPA向上によって得られる効果が明らかになっていない中,PA向上を呼吸リハビリテーションの第一のアウトカムに設定してしまうことが適切か再考の必要があると考える.現状の実臨床では,有効な方法が明らかとなっている運動療法を中心に,運動耐容能の改善を図ることを改めて重要視すべきである.

身体活動性の今後に向けて

1. 評価

運動耐容能は,6分間歩行試験,シャトルウォーキング試験,心肺運動負荷試験などで測定でき,病態生理や運動生理に基づいた評価や原因検索が可能である.PAの測定は,質問票,歩数計,身体活動計などで行えるが,その評価や低下の原因検索を行うことは非常に難しい.前述したように,「動かない」理由や原因が「動けない」からとは限らない.また,PAが低下している場合,動かないのか動けないのかを正確には判断できない.現時点において,PA低下の複雑な原因を探索する方法は確立されておらず,評価自体が困難であることが,介入も難しくしている理由の一つであると思われる.今後,なぜPAが低下しているのかを評価できる指針が作成されることで,PAへの介入の進歩につながることが期待される.

2. チーム医療

今回,PAに対するConの立場ということで否定的な視点から述べた.しかし,PAが特にCOPD患者の生活の質や予後に影響する重大な要因であることは明らかである.PAが低下する原因は,呼吸困難,運動耐容能,身体機能,心理,生活状況や社会的環境など非常に多岐にわたるため個別化対応が求められる.その評価および維持・向上させるための介入手段に関するエビデンスが十分とは言えないからこそ,多職種による創意工夫が必要である.まさにPAは患者を中心としたチーム医療による呼吸ケア・リハビリテーションによって取り組んでいくべき課題といえる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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