2023 年 31 巻 2 号 p. 252-255
当院入院中の非侵襲的陽圧換気療法および持続性陽圧気道圧療法を施行している3名の患者について,それぞれが抱えるインターフェイスの問題点に対する改良を試みた.その結果,治療効果の向上,医療関連機器圧迫創傷の防止,生活の質の向上が得られたと考えられる.
また,医療者によるマスクリークを解消するための工夫と努力は,患者との信頼関係を深め,心理的な苦痛を和らげる上でも重要と考えられた.
呼吸器疾患患者に対する非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation:以下NPPV)や持続性陽圧気道圧療法(continuous positive airway pressure:以下CPAP)では,マスクリークによる不快感,マスクに接触する皮膚の疼痛や創傷によって患者に苦痛を与えるといったインターフェイスの問題点が観察される.また,NPPV・CPAPマスクは医療関連機器圧迫創傷(medical device related pressure ulcer:以下MDRPU)の原因となる代表的なデバイスであり,一般社団法人日本褥瘡学会はMDRPUの発生防止に向けて,①医療関連機器圧迫創傷の予防・管理のコアとなるベストプラクティスの策定,②医療安全に関する部門,関連学会との連携,③企業との連携による医療関連機器圧迫創傷の発生予防を目指した機器の開発,④患者,家族への教育が急務と言えると提言している1).
今回,当院でNPPVおよびCPAPを行っている患者の身体的・心理的苦痛を最小限に抑える目的でインターフェイスの改良を試みたので報告する.
なお,患者本人と家族に本研究の趣旨を口頭で説明し,論文や供覧する写真から個人が特定できないようにすることを伝え,口頭で承諾を得た.また,研究に使用したインターフェイスを取り扱っている医療機器の各メーカーからは,医療機関の責任の下で行う製品の改良であるため,製造物責任法の及ぶところではないとの回答をメールや口頭で得た.本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2021-D001).
70歳代女性.シェーグレン症候群による10数年前から湿性咳嗽,喀痰,労作時呼吸困難が増強し,前医で肺結核後遺症,COPD,気管支喘息,気管支拡張症と診断されていたが,病状が次第に悪化し,当院を紹介された.精査の結果,シェーグレン症候群による細気管支炎,肺動脈性肺高血圧症,慢性1型呼吸不全と診断し,在宅酸素療法を導入した.しかし,徐々に2型呼吸不全へと移行し,4年後には動脈血pH 7.203,動脈血酸素分圧 63.0 Torr,動脈血炭酸ガス分圧 102.2 Torrとなったため,夜間睡眠時のNPPVを導入した.その2年後には昼夜を問わずNPPVが必要になり,飲食中だけはNPPVを休止して高濃度酸素投与を行った.NPPVには帝人ファーマ製NIP-V汎用人工呼吸器II相式気道陽圧ユニットを使用し,IPAP 14~20 cmH2O,EPAP 4 cmH2Oに設定した.また,NPPV施行中・休止中ともに酸素投与量 7~15 L/minを必要とした.NPPV導入前,マスクを見た患者が動揺したため,できるだけ顔面との接触面積の小さいものを選定しようと考え,鼻マスク(ミラージュ®FXマスク)のサイズMを試した.覚醒中に座位,仰臥位,側臥位にて装着したところ,いずれもスムーズな換気が行え,患者の受け入れも良好であった.しかし,一晩装着してみると,息を鼻から吸って鼻から吐かなければならないことが呼吸困難を招き,予想外の苦痛を与えてしまった.翌日,鼻口マスク(Air Fit®F10)のサイズMに変更したところ,側臥位時に頬からのリークが増加し,患者自身または看護師によってベルクロストラップをきつく締める対応がとられた.その結果,鼻根部に発赤(DESING-R 1点)の発赤が生じ,ドレッシング材(GeckoTM鼻パッド)を使用したが,次は頬にも発赤が出現し,患者は女性が顔に傷を作ることの悲しさを訴えた.
頬からのリークを減らすため,マスクのサイズをMからSに変更したが,今度は就寝中に下口唇がマスクの外に出てしまい,かえってリークが増加した.
リークの原因をあらためて観察すると,頭部の形状にヘッドギアが合っておらず,就寝中の体位変換によって頭頂部のストラップが前方にずれることが判った.
そこで,マスクのサイズをMに戻し,次に頭頂部と後頭部のストラップをつなぐベルトを作製し,さらに長さを調節できるようにした(図1).調節ベルト使用後,マスクリークは14.5 L/分から4 L/分へと減少し,トリガー自発呼吸は34%から65%へと上昇し,動脈血酸素飽和度が85~94%から96~98%に改善した.また,鼻根部の発赤も消失した.
症例1 頭頂部と後頭部のストラップをつなぐ調節ベルト
80歳代女性.びまん性汎細気管支炎による慢性II型呼吸不全に対して在宅酸素療法が行われていたが,動脈血炭酸ガス分圧が在宅酸素療法を導入した1年前の60.8 Torrから85.2 Torrに上昇したため,NPPVを導入した.NPPVはフィリップス・レスピロニクス社製BIPAPA 40を使用し,S/Tモード,IPAP圧:10 cmH2O,EPAP:4 cmH2O,酸素投与量 3 L/分に設定した.初めに鼻口マスク(Air FitTMF20)のSサイズを装着したが,マスクが視界を遮り,患者の楽しみであるテレビ鑑賞や新聞購読に支障を来たした.また,マスクが下方にずれ,鼻根部に発赤が出現した.そこで,鼻口マスクをドリームウェアフルフェイスマスク®のSサイズに変更したところ,視界が確保でき,鼻根部の発赤は消失したが,マスクが下方にずれ,リークが増加した.ドリームウェアフルフェイスマスク®では,ストラップに相当する部分が回路の一部(マスクフレーム)になっているため,長さの調節ができない事が難点であった.このため,マスクを持ち上げるために頭頂部のマスクフレームの下にタオルやガーゼを挟んでみたが,改善しなかった.
あらためて観察すると,頭頂部のマスクフレームが前方にずれることがリークの原因であることが判った.そこで,頭頂部のマスクフレームと後頭部のヘッドギアを連結する調節ベルトを作製した.また,マスクフレームに調節ベルトを縫い付けられないため,バックルを取り付けて対処した(図2).調節ベルト使用後,マスクリークは31.4 L/分から20.5 L/分に減少し,動脈血酸素分圧は68.3 Torrから74.4 Torr,動脈血炭酸ガス分圧は82.4 Torrから65.3 Torrに改善し,pHは7.392から7.380,HCO3-は49.1から37.8 mmol/Lへと変化を認めた.その間,NPPVの設定や酸素投与量の変更は行っておらず,マスクの改良の効果と考えられた.
症例2 頭頂部のマスクフレームと後頭部のヘッドギアを連結する調節ベルト
70歳代女性.関節リウマチ,細気管支炎,慢性心不全を基礎疾患に持ち,睡眠時無呼吸症候群(無呼吸低呼吸指数 48.5回/時)に対してCPAPを導入することになった.CPAPには帝人ファーマ社製スリープメイト10を使用し,Auto CPAP 4~8 mmHgに設定した.
独居のため,マスクの着脱を自力で行う必要があったが,関節リウマチによる両手指の著しい変形,両上肢の可動域制限のため,ベルクロストラップをつまむことも,後頭部まで引っ張ることもできなかった(図4).
症例3患者の関節リウマチによる手指の変形
そこで,左右のベルクロストラップの先端にリングを取り付け,指に引っ掛けて操作ができるようにした.また,ベルクロストラップを反転させ,前方に引っ張って着脱ができるよう細工を施し,後頭部まで手を回さなくても済むようにした.次に,ヘッドギアの後頭部にあたる部分にメッシュ加工されたシートを取り付け,帽子をかぶる要領で簡単に装着できるようにした.さらに,非装着時にヘッドギアがマスクから外れてしまわないよう,ベルト通しを取り付ける工夫を行った(図3).それらの結果,マスクを自力で着脱できるようになり,退院後も患者から問題点を聞きながら微調整を行っている.
自力での装着を可能にしたヘッドギア
NPPVやCPAPにおけるマスクの役割は大きく,リークの増加,皮膚の圧迫,マスクの着脱が困難などの不具合は,治療効果の減少,MDRPUの発生,アドヒアランスの低下を招き,結果として患者の生活の質(quality of life:以下QOL)が障害される.これらを解決するには,マスクによる苦痛を患者と共有し,日常生活動作(activities of daily living:以下ADL)や装着中の体位,皮膚状態を良く観察するだけでなく,患者の生活様式の変化について,患者の思いに寄り添って考慮する必要がある.
下田らは,リークの減少と確実な換気のためには,個人に合わせたインターフェイスの選択と装着の技術が必要であり,回路の固定方法やベルトの装着方法,マスクの種類,皮膚障害とリークを許容した場合の治療効果などを総合的に考える事が重要であると述べている2).また,日本褥瘡学会のガイドラインでは,MDRPUを予防するドレッシング材として,ポリウレタンフィルム,ハイドロコロイドを推奨度C1としている3).
当院では,NPPV・CPAP導入時には可能な限り患者にマスクを触れさせ,装着後は患者からの聞き取りを行いながらフィッティングの調節やマスクの種類の検討を行い,患者の不快感を軽減するよう工夫している.また,使用機器ごとの許容リーク量を理解し,MDRPUの防止に努め,鼻根部の疼痛や軽度の発赤に対しては非粘着性のポリマーゲルドレッシング材(GeckoTM鼻パッド)を使用している.
今回,NPPV・CPAP患者3例に対するインターフェイス改良の取り組みを行った.フィッティングに問題のある患者,マスクの装着自体が困難な患者,それぞれ個別の工夫が必要であり,既製のヘッドギアでは対応できない場合は,必要な改良を加えた.呼吸器疾患を抱える患者のより良いQOLを実現するための一つの手段として,インターフェイスの問題点を追及し,改良することが,我々にとっての責務と考える.また,今回の症例報告ではNPPVやCPAPの患者に特化したQOL尺度はなく,マスクの改良の前後でスコア化する事ができておらず,個人的見解となったため,今後の自己の課題であると考える.
本論文の要旨は,第29回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2019年11月,愛知)で発表し,座長推薦を受けた.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.