COPD治療では長時間作用型抗コリン薬/長時間作用型β2刺激薬の配合剤が主役になっている.咳嗽,喀痰,息切れ症状の改善や身体活動性の向上および維持と,全身性ステロイド投与や入院を要する増悪の回避など将来のリスク軽減が管理目標とされている.チオトロピウム/オロダテロール配合剤は各単剤を上回る呼吸機能,QOL,息切れの改善をもたらす.また肺過膨張を軽減することにより運動耐容能や身体活動性の改善効果が期待できる.一方,吸入療法では患者が正しくデバイスを扱い,適切に吸入することで効果が発揮される.高齢者が多いCOPD患者では,医療者による繰り返しの指導や支援による吸入手技獲得およびフォローが求められる.吸入支援を通じて,疾患理解,副作用回避,アクションプランの理解など,包括的なサポートを行う.
本稿ではチオトロピウム/オロダテロール配合剤(レスピマット製剤)が患者にどのような生活を届けられるのかを考えてみたい.
COPDはタバコ煙によって引き起こされる慢性肺疾患であり,喀痰,咳嗽や気流制限による息切れにより日常生活動作を障害する疾患である.
しかし適切な診断や治療導入という観点からは十分な成果が得られていない.そのため一般内科診療などの現場での早期診断,早期治療を行うことが求められている.近年は吸入気管支拡張薬による治療が進歩し,症状の改善や増悪の予防が達成されるに至っている.さらには症状軽減による身体活動性向上効果も示されてきている.
本稿では吸入気管支拡張薬であるチオトロピム/オロダテロール配合薬の効果を中心にその治療効果を中心に解説する.併せて臨床現場での吸入支援や患者とのコミュニケーションツールの活用について紹介する.
2020年初頭より本邦において流行を繰り返している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクとしてCOPDが知られている.しかし,COPDそのものは従来から認知率が低く,早期診断,介入に至っていないことが指摘されてきた.さらにコロナ禍においては,感染伝播のリスクを懸念し呼吸機能検査が忌避される傾向が顕著になった.そのような状況を踏まえ日本呼吸器学会は2021年1月に学会から「COVID-19流行期日常診療におけるCOPD作業診断と管理手順」1)を提言した.この提言の大きな特徴は,やむを得ず呼吸機能検査が実施できない場合においても問診や画像検査を参考にCOPDの早期診断や早期治療を行うことを目指している点にある.この提言は発表される以前に行われた,プライマリケアの現場でのスクリーニング調査結果2)でもその有用性が示されている.
診断後にどのような点に留意して診療を展開していくべきかについては,北海道COPDコホート研究で得られた知見が参考になると思われる.北海道COPDコホート研究は10年間の前向き観察研究である.治療については主治医の判断に委ねられた.この研究成果の一部を紹介する.まず呼吸機能の経年変化は様々であり診断時の重症度のみならず経過中の呼吸機能の推移にも留意する必要がある(図1)3).さらに最初の1年間に1秒量が 200 ml以上低下,SGRQスコアが8点以上悪化,中等症もしくは重症の増悪のいずれかが1つでもあった症例では全死亡や呼吸器疾患死亡が有意に多いことが示されている4).つまり臨床現場では呼吸機能の急速な低下,症状の明らかな悪化,全身ステロイド投与や入院を要する増悪を来す患者においてはより積極的な介入が必要と考えられる.肺合併症による死亡という観点からは,74歳以下では肺癌,それ以上では肺炎や呼吸不全に留意すべきであることも示されている5).
北海道COPDコホート研究における10年間の呼吸機能(1秒量)の経過
日常臨床における治療は「COPD診断と治療のためのガイドライン2018」に準拠して進めていく(講演時,2021年11月時点).管理目標として,症状及びQOLの改善,運動耐容能と身体活動性の向上および維持,増悪の予防,全身併存症および肺合併症の予防と治療が示されている.これらを達成するために薬物治療として吸入気管支拡張薬を用いるが,近年ではとくに長時間作用型抗コリン薬/長時間作用型β2刺激薬(LAMA/LABA)配合薬について多くの知見が得られている.その中でソフトミスト製剤であるチオトロピウム/オロダテロール配合薬は,24時間にわたり各単剤に対して呼吸機能の有意な改善効果を示し6),24週間後の有意なQOLの改善効果を認め,特に日本人集団ではその差は顕著であった(図2)7).さらに中等症から重症COPD増悪の年間発現率低減効果をp<0.01を有意水準として評価したDYNAGITO試験においては,全身性ステロイド薬投与,抗菌薬との併用投与のいすれにおいてもLAMA単剤との有意差は示されなかったが,とくに日本人集団においてはp<0.05を示す差を認めた.全身性ステロイドを要するCOPD増悪を回避できる可能性はあると思われる8).
日本人におけるチオトロピウム/オロダテロール配合薬の症状に与える影響
チオトロピウム/オロダテロール配合薬は,ソフトミスト製剤といわれる微細な粒子と吸入抵抗の低さが知られており,シミュレーション評価法ではあるものの,ゆっくりとした吸入速度で末梢まで薬剤が到達することが示されている9).異なる吸気能力を示す中等症から重症COPD患者において,チオトロピウム/オロダテロール配合薬の呼吸機能に対する有効性を評価した第IV相試験であるTRONARTO試験では,最大吸気量が 60 L/min以上,それ未満に関わらず呼吸機能(FEV1 AUC0-3h,トラフFEV1)の有意な改善が認められた(図3).すなわち吸気力の弱い患者が多いCOPDにおいても有用な吸入デバイスであることが示されている.サブ解析では 45-60 L/minの吸気流速でも同様の結果であった10).
吸入流速ごとのチオトロピウム/オロダテロール配合薬の呼吸機能(FEV1 AUC0-3h,トラフFEV1)に与える影響
最後にCOPD薬物治療において重要なポイントの一つである吸入支援や患者とのコミュニケーションについて触れたい.
2020年4月より薬剤服用歴管理指導料吸入薬指導加算30点(3ヵ月に1回まで)を算定できるようになった11).これは喘息又は慢性閉塞性肺疾患の患者であって吸入薬の投薬が行われている患者に対して,当該患者等の求めに応じて,①文書及び練習用吸入器等を用いて吸入手技の指導を行い,患者が正しい手順で吸入薬が使用されているか否かの確認,②保険医療機関に必要な情報を文書により提供等した場合に算定することができる.この加算が新設されたことで吸入指導が改めて注目されている.しかし,コロナ禍では対面での指導や支援を躊躇する医療従事者も多い.その場合には各製薬メーカーで作成しているパンフレットとくにQRコードにより動画へアクセスできる資材を活用すると短時間でまた自宅での確認も可能となる(図4).
吸入支援時に用いるチオトロピウム/オロダテロール配合薬の説明書
吸入薬は毎日正しい吸入方法で使用し,症状軽減や活動性向上に結びつくことが目標である.多くの症例は自宅で治療を継続していくため,日常生活での様子を医療者と共有しながら治療に対するモチベーションを維持していく必要がある.この情報共有を行うために図5a,bのような資材も用意されている.「吸入ダイアリー」は活動性に影響する天候,吸入の有無,活動性の簡便な指標として歩数の記録,息切れの有無,次回の診療時に医師や薬剤師に確認したいことや素直な気持ちを記載できるようになっている.診察室の中だけで把握できない患者の日常生活の様子や問題点を医療者と共有することで,相互のコミュニケーションや信頼関係構築に資するものと考えられる.実臨床での使用においても,患者の日常におけるささやかな目標やイベントへの参加が,歩数の増加や活動へのモチベーションになっていることが垣間見られる.「吸入ダイアリー」を医療者と患者の間において治療効果の確認や日常の目標を確認することに役立っている.またこの「吸入ダイアリー」にはQRコードが掲載されており,吸入デバイスの使用方法をいつでも確認できるようにも工夫されている.
吸入療法を行っている患者とのコミュニケーションツールとしての吸入ダイアリー(右:表紙,左:裏面)
吸入療法を行っている患者とのコミュニケーションツールとしての吸入ダイアリー(説明文と記入例)
COPD治療においては,薬物療法としての吸入気管支拡張薬とくにLAMA/LABA配合薬が中心的な役割を果たしている.臨床ではさらに患者の吸入力に合わせたデバイスや薬剤選択,デバイス操作の指導,吸入支援が重要である.そのために病薬連携やコロナ禍での短い対面時間を補完する各種資材を活用することを考慮すべきである.そして最も重要なことは,診察室の中だけでは見えてこない自宅での症状や活動性の把握などを含めた相互コミュニケーションを行うことである.そのことがCOPD診療をより良いものにしていくと考える.
福家聡;講演料(2019 アストラゼネカ,ベーリンガー,ノバルティス,ファイザー.2020 アストラゼネカ,ベーリンガー.2021 アストラゼネカ,ベーリンガー,グラクソ・スミスクライン)