2023 年 31 巻 2 号 p. 203-207
本邦のガイドラインではCOPDの薬物療法は長時間作用性気管支拡張薬[抗コリン薬(LAMA)とβ刺激薬(LABA)]を主軸に構築することを推奨し,初期導入はLAMA単剤を用い,効果不十分の場合はLAMA/LABA併用薬を用いるエスカレーション方式を採用している.一方で喘息合併病態には吸入ステロイド(ICS)を追加することを提案している.大規模国際共同試験結果から増悪頻回例,重度の有症状例および末梢血好酸球数増多例にICS/LAMA/LABAのトリプル療法がLAMA/LABAあるいはICS/LABA併用療法に比較して肺機能の改善,症状軽減やQOL改善および増悪抑制効果が示されている.ただしICSを含む治療法では肺炎発症リスクの懸念がある.本稿では第31回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会のランチョンセミナー9「COPDにおけるトリプル療法の意義」で講演した内容に加え,大規模国際共同試験の結果をもとに安定期COPD管理におけるトリプル療法の立ち位置について解説する.
本邦のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2018[第5版](COPDガイドライン第5版)では,安定期COPD管理において薬物療法は長時間作用性気管支拡張薬[抗コリン薬(LAMA)とβ2刺激薬(LABA)]を主軸に構築することを推奨している1).ただし喘息合併病態例には長時間作用性気管支拡張薬に吸入ステロイド(ICS)を追加・併用するとしている.しかしCOPDガイドライン第5版発刊以降に公表された大規模国際共同試験の結果からICSを含むトリプル(ICS/LAMA/LABA)療法やICS/LABA併用療法がICSを含まないLAMA/LABA併用療法より,肺機能の改善,症状・生活の質(QOL)の改善あるいは増悪の抑制効果が高い可能性が報告された2,3).国際的なCOPD管理の指針であるGlobal Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)においても増悪頻回例や重度の増悪経験例においてトリプル療法へのアルゴリズムが示されている4).本稿では国際共同試験の結果を踏まえながら,トリプル療法の適正使用について言及したいと考えている.
大規模国際共同試験であるKRONOS試験2)およびETHOS試験3)を解説する.両試験はともに40歳以上80歳以下の10 pack-years以上の喫煙歴のある患者で,気管支拡張薬投与後1秒率<0.70かつCOPDアセスメントテスト(CAT)≥10点を満たしている.さらに研究登録時に喘息と診断されなければ研究対象者として選択されるため,過去に喘息と診断された研究対象者が含まれている可能性がある.ただし前者は気管支拡張薬投与後における%1秒量対標準予測値は25%以上80%未満で増悪歴は不問である.また日本人が約20%含まれている点が興味深い.一方後者は%1秒量対予測値の25%以上65%未満かつ2種類のCOPD治療薬を使用しているにもかかわらず%1秒量対予測値<50%であれば過去1年間の中等度または重度増悪が1回以上,あるいは%1秒量対予測値≥50%であれば過去1年間の中等度増悪が2回以上または重度増悪が1回以上と増悪歴の規定がある.つまりKRONOS試験2)よりETHOS試験3)の研究対象者の方が重症度は高いと言える.
またKRONOS試験2)のサブ解析で,血中好酸球数が300/mm3未満かつ気道可逆性なし(サルブタモール投与後の1秒量の変化が12%未満または 200 mL未満)の気流閉塞度が中等症から最重症のCOPD患者948例におけるトリプル療法の有用性とICS/LABAまたはLAMA/LABA併用療法で比較した試験5)も対象とした.
トリプル療法の立ち位置を明らかにするためにLAMA/LABA併用療法との比較について述べる.ただし本項ではICS/LABA併用療法は非盲検での比較または日本で保険収載されてない薬剤が用いられている試験結果には言及しない.
1. KRONOS試験2)主要評価項目は治療後から24週にわたっての吸入後(0時間)から4時間まで1秒量の変化量(曲線下面積,AUC)である(1秒量AUC0-4).ただし1秒量AUC0-4の各治療群間差は,反復測定線形混合モデルを用いた最小二乗平均値(95%CI)で表され,ベースラインの1秒量,サルブタモールに対する気道可逆性の変化率,ベースラインの好酸球数,各来院,治療群,治療群と各来院の交互作用,スクリーニング時のICS使用の有無で補正されている.トリプル療法はLAMA/LABA併用療法に比較して1秒量 AUC0-4の差は104 mL(77~131 mL)であった(P<0.0001).またトラフ1秒量では トリプル療法はLAMA/LABA併用療法に比較して22 mL(4~39 mL)の差を認めた(P=0.0139).副次項目ではトリプル療法はLAMA/LABA併用療法に比較して中等度から重度の増悪率を52%(36~63%)抑制している(P<0.0001)(図1A).トリプル療法はLAMA/LABA併用療法に比較してQOL(St. George’s Respiratory Questionnaire[SGRQ]総スコア)で-1.22(-2.30~-0.15)の差を認めたが(P=0.0259),息切れ(Transitional Dyspnea Index [TDI] スコア)では差が無かった.ただし副次項目の結果はサンプルサイズの問題で解釈は慎重を期するべきである.また全および重篤な有害事象発症率では両群に差は無く,トリプル療法の安全性は担保された結果になっている.
LAMA/LABA併用療法と比較したトリプル療法の増悪抑制効果
中等症増悪は全身性ステロイドまたは抗菌薬を要した増悪で,重症増悪は入院または死亡に関連した増悪で,年間の平均増悪回数を増悪率(±標準誤差)として表示している.トリプル療法とLAMA/LABA併用療法の2群間の比較には負の二項回帰モデルを用いている.ただしベースラインの気管支拡張薬投与後の1秒量対予測値,ベースラインの好酸球数,ベースラインのCOPD増悪歴,国およびスクリーニング時のICS使用の有無の因子を共変量として補正している.
A)KRONOS研究結果,B)KRONOS研究のサブ解析結果
P<0.05を有意差有りと判定している.
主要評価項目は52週間の中等度および重度の増悪回数である.ただし中等度とは全身性ステロイド,抗菌薬またはその両方を使用した増悪で,重度は入院または死亡した増悪を指す.トリプル療法はLAMA/LABA併用療法に比較して中等度および重度の増悪回数を24%(95%CI 17~31%)抑制している(P<0.0001).また初回増悪においてもトリプル療法はLAMA/LABA併用療法に比較して遅延させている.全体の死亡者割合は2%程度と低いもののトリプル療法はLAMA/LABA併用療法に比較して49%の死亡者割合を減少させている.しかし肺炎発症率はトリプル療法で4.6%,LAMA/LABA併用療法で2.9%とトリプル療法が1.59倍と高くなっている.
3. KRONOS試験のサブ解析(血中好酸球数が300/mm3未満かつ気道可逆性なし)5)主要評価項目はKRONOS試験2)に準じている.したがって本サブ解析では12から24週にわたってのトラフ1秒量の変化量および中等度と重度の増悪回数についてトリプル療法とLAMA/LABA併用療法との比較をしている.トリプル療法とLAMA/LABA併用療法とにトラフ1秒量の変化量に差(両群の差は 5 mL)は無かったが(P=0.7041),トリプル療法はLAMA/LABA併用療法に比較して47%(95%CI 24~63%)の抑制効果を認めている(P=0.0005)(図1B).ただし評価にはサンプルサイズを考慮する必要があると思われる.
KRONOS試験2)やETHOS試験3)の研究対象者はそれぞれGOLD ABCD分類4)のカテゴリーBやDのCOPD患者が大部分を占めていた(表1).それらの患者集団においてトリプル療法はLAMA/LABA併用療法に比較して,有意な肺機能やQOLの改善および増悪の抑制効果を示した.GOLD ABCD分類4)のカテゴリーBとDとの差は過去の増悪回数の差のみで,症状の強さは同等である.GOLDはABCD分類4)において症状をCATおよび修正MRC呼吸困難(mMRC)スケールを用いることを推奨している.これらの結果を踏まえると,LAMA/LABA併用療法で管理しているにもかかわらずCOPDアセスメントテストが10点以上またはmMRCスケールのグレード2以上のいずれかを満たせばトリプル療法に変更してよいことを示している.さらにETHOS試験3)ではトリプル療法がLAMA/LABA併用療法に比較して生命予後を改善する可能性を示した.薬物療法の選択如何でCOPD患者の生命予後を延長できることを示した.
試験 | KRONOS試験 | ETHOS試験 | ||
---|---|---|---|---|
治療 | トリプル 療法 n=639 | LAMA/LABA 併用療法 n=623 | トリプル 療法 n=2,137 | LAMA/LABA 併用療法 n=2,120 |
平均年齢,歳(SD) | 64.9(7.8) | 65.1(7.7) | 64.6(7.6) | 64.8(7.6) |
男性,n(%) | 460(72.0) | 430(68.8) | 1260(59.0) | 1244(58.7) |
平均BMI,kg/m2(SD) | 26.1(6.7) | 26.3(6.4) | 27.6(6.2) | 27.6(6.2) |
平均COPD罹病期間,年(SD) | 7.1(6.0) | 6.5(5.4) | 8.4(6.5) | 8.2(6.1) |
現喫煙者,n(%) | 256(40.1) | 257(41.1) | 910(42.6) | 856(40.4) |
平均喫煙指数,pack-years(SD) | 52.1(30.0) | 49.8(25.9) | 47.0(25.1) | 48.4(26.5) |
平均総CATスコア,点(SD) | 18.7(6.4) | 18.1(6.1) | 19.7(6.5) | 19.5(6.6) |
平均末梢血好酸球数,/mm3(SD) | 179(158) | 190(179) | 165(N/A) | 170(N/A) |
過去1年間の中等度または重度増悪経験患者数,n(%) | ||||
0回 | 469(73.4) | 473(75.7) | 0 | 0 |
1回 | 125(19.6) | 108(17.3) | 940(44.0) | 907(42.8) |
2回以上 | 45(7.0) | 44(7.0) | 1195(55.9) | 1211(57.1) |
前治療でのICS使用患者数,n(%) | 464(72.6) | 447(71.5) | 1706(79.8) | 1707(80.5) |
気管支拡張薬前 | ||||
1秒量,L(SD) | 1.21(0.46) | 1.20(0.44) | N/A | N/A |
%1秒量対予測値,%(SD) | 43.2(14.1) | 43.3(13.3) | N/A | N/A |
気管支拡張薬後 | ||||
1秒量,L(SD) | 1.41(0.49) | 1.39(0.47) | N/A | N/A |
%1秒量対予測値,%(SD) | 50.2(14.3 | 50.2(13.8) | 43.6(10.3) | 43.5(10.2) |
気道可逆性有の患者数,n(%) | 286(44.8) | 266(42.6) | 657(30.7) | 669(31.6) |
GOLD ABCD分類別患者数,n(%) | ||||
B | 557(87.2) | 553(88.5) | N/A | N/A |
D | 76(11.9) | 63(10.1) | N/A | N/A |
本表では日本の保険適用が無い薬剤は記載していない(文献2および3より引用し,著者が表を作成).
略語:BMI=body mass index,CAT=COPDアセスメントテスト,COPD=慢性閉塞性肺疾患,GOLD=Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease,ICS=吸入ステロイド,N/A=記載なし,SD=標準偏差,n=研究対象者数
ETHOS試験3)における死因および有害事象の検討では,トリプル療法における心血管疾患死と主要心血管系有害事象(MACE=major adverse cardiac event は心血管死,非致死性心筋梗塞や非致死性脳卒中を含む)発症患者割合はLAMA/LABA併用療法に比較してそれぞれ約40%と70%であった.この現象はICSを含むICS/LABA併用療法においても同様な結果が得られている3).ICSは抗炎症作用を有する.COPDは全身性炎症をしばしば併存している1).ICSがCOPDの全身炎症を抑制し,MACE発症を抑制し,心血管疾患死を抑制しているのであれば,COPDにおける心血管異常は全身炎症に起因している可能性がある6).ただし本試験におけるICSがMACE発症を抑制しているのは単なる現象を捉えたにすぎず,前述の仮説の検証は今後の科学的な証明を待つしかない.
一方ETHOS試験3)においてトリプル療法では肺炎発症率が4.6%で,LAMA/LABA併用療法の2.9%を上回っていた.その一方でKRONOS試験2)では肺炎発症率はトリプル療法が1.9%とLAMA/LABA併用療法が1.6%で両群に差が無く,いずれもETHOS試験3)の研究対象者よりその頻度が高かった.肺炎発症率の差はETHOS試験3)の研究対象者はKRONOS試験2)より増悪歴が多く,肺機能が低いことが影響していると考えられ,重症度の高いCOPD患者に対するICSの追加はさらに肺炎発症リスクを高めることを示唆していた.日本人を対象にしたCOPDに対するトリプル療法の有用性を検討したメタ解析結果7)では,トリプル療法はLAMA/LABA併用療法に比較して3.38倍の肺炎発症リスクを高めるとしている.直接比較はできないがグローバルのメタ解析結果8)ではトリプル療法の肺炎発症リスクはLAMA/LABA併用療法より1.52倍とされる.日本人患者は,海外に比較して,高齢,男性が多く,やせている,さらには肺気腫型が多く,もともと肺炎発症リスクが高いことを反映していると思われ,日本人患者へのトリプル療法はより慎重に導入すべきかもしれない9).
末梢血好酸球数がしばしばICS追加の有用性を予測するバイオマーカーとして用いられ,好酸球が高ければ高いほどICS追加意義が高いとされる10).しかしながらGOLD4)や米国胸部学会(ATS)の実践的ガイドライン11)ではトリプル療法は単に末梢血好酸球増多例にトリプル療法を選択せず,あくまでも増悪頻回例に選択すべきとしている.つまりLAMA/LABA併用療法でコントロール不良あるいは増悪を来す患者において末梢血好酸球数を参照することを推奨している4,10,11).ICSを追加すべき末梢血好酸球数のカットオフ値には300/mm3以上8),150/mm3以上10)や100/mm3以上4,12)とするとの報告があり未だ議論の余地はある.ただし今まで報告から4,10,11,12),増悪歴があったとしても末梢血好酸球数<100/mm3の時には肺炎発症リスクを高めるとされ,ICSの追加は推奨しないことで一致しているようである.
本邦のCOPDガイドライン第6版13)のシステマティックレビューの結果において,喘息を有さないCOPD患者に対するトリプル療法の立ち位置は「弱い推奨」としている.あくまでもトリプル療法はLAMA/LABA併用療法で効果が不十分の患者に限定され,ICSが不要である患者の存在や肺炎発症リスクを有する点を鑑みての結果と思われる.また同ガイドライン13)ではICS/LABA併用とLAMA/LABA併用療法との比較ではリスク・ベネフィットの観点からLAMA/LABA併用療法の先行を推奨している.またICS追加後の肺炎や急性気道感染などの有害事象に対してはICSを中断するようにと警鐘をならしている13).トリプル療法の立ち位置として,喘息合併COPD例に対して早期からの投与が許容されるが,喘息非合併COPD例に関してはLAMA/LABA併用療法でコントロール不良かつ増悪を経験する患者の中で末梢血好酸球増多例に限定すべきと言わざるを得ない(図2)13).ただしトリプル療法を選択することで生命予後が改善できる患者を見逃すことは避けるべきであろう.
COPDの診断と治療のためのガイドライン第6版[2022]の治療アルゴリズム
(文献13より引用)
本稿の内容の一部は2021年11月13日第31回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(高松)で発表した.学術集会で発表の機会を与えていただきました学会長の森由弘先生(KKR高松病院)に感謝申し上げるとともに,ランチョンセミナー9の協賛していただきましたアストラゼネカ社に御礼を申し上げます.
第31回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(高松)で発表においてアストラゼネカ社から講演資料および講演料の提供を受けた.
川山智隆;講演料(グラクソスミスクライン株式会社,アストラゼネカ株式会社,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社,ノバルティスファーマ株式会社,サノフィ株式会社),研究費・助成金など(株式会社ヘリオス)