日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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難治性肺Mycobacterium avium complex症におけるALIS治療導入のポイント
佐々木 結花
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2023 年 31 巻 2 号 p. 215-219

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要旨

肺非結核性抗酸菌症の治療は容易ではない.本邦で最も患者数の多い肺Mycobacterium avium complex症:Mycobacterium aviumM.avium)/Mycobacterium intracellulareM.intracellulare)症(MAC pulmonary disease: MAC-PD)では標準治療が定められているが,長期の治療にかかわらず菌陰性化が得られない場合や,いったん菌陰性化しても,増悪,再燃,再感染によって再び菌陽性となる場合がある.6ヵ月を超える標準治療に準じた多剤併用療法が行われたもかかわらず菌陰性化が得られない場合,難治性MAC-PD(refractory MAC-PD)と称されている.

MAC-PDに対し,有効性のある抗結核薬,一般抗菌薬を組み合わせて用いることで治療を行ってきた.アミカシン・リポゾーム懸濁液吸入(Amikacin liposomal inhalation suspicion: ALIS)は,refractory MAC-PD症に特化して開発がなされ,CONVERT試験でその成績が示された.本邦においても2022年7月から処方可能となり,本稿が報告される時期はすでに発売から1年異常経過している.

今回,refractory MAC-PD治療におけるALIS投与について報告する.

緒言

肺非結核性抗酸菌症(Nontuberculous Mycobacterial Infectious pulmonary disease: NTM-PD)の患者数の増加は世界的に問題となっており,本邦でも南宮らの調査1で,2014年,NTM患者の罹患率は菌陽性肺結核患者を凌駕したことが報告された.1997年以来,本邦,海外では多くのガイドラインが作成され,参照されながら診断,治療が行われてきた.昨年,ATS/ERS/ESCMID/IDSAからガイドライン2が示され,本邦でも,以後このガイドラインを中心に,NTMの診断・治療について解釈と考え方が示されるようになった.

NTM-PDの治療において,非結核性抗酸菌(Non-tuberculous mycobacteria: NTM)用に開発された薬剤は今までなく,抗結核薬,一般抗菌薬のNTMへの有効性が検討され,組み合わせて用いられてきた.アミカシン・リポゾーム懸濁液吸入(Amikacin liposomal inhalation suspicion: ALIS)は,難治性肺Mycobacterium aviumM.avium)/Mycobacterium intracellulareM.intracellulare)症(refractory MAC-PD)に特化して開発がなされた3.本邦においても2022年7月から処方可能となり,本稿が報告される時期はすでに発売から1年以上経過となっている.

今回,refractory MAC-PD治療におけるALISについて報告する.

MAC-PD標準治療

1) MAC-PD

MACと従来呼称されてきたが,Mycobacterium avium菌(4亜種),Mycobacterium intracellulare菌等によるグループ名であり,菌同定法の進歩や菌種間の相違が検討されてきたことによりグループ名で呼ぶことは困難な場合もあるが,本稿では便宜上従来と同様MACと呼称する.

NTM-PDの中で臨床上最も高率に遭遇し,NTM-PDの80~90%がMAC-PDである.病型は大きく結節気管支拡張型(nodular-bronchiectatic type),線維空洞型(fibro-cavitary type)に分類され,気管支拡張型において空洞の有無を併記する場合がある.それ以外の病型としては,腫瘤形成型(nodular type),播種型(disseminated type),過敏性肺臓炎型(Hot Tub Lung)がある.

2) MAC-PDの治療開始時期

MAC-PDの治療の開始時期について述べる.MAC-PDでは診断した時点が治療開始時ではなく,いつから治療を開始すべきなのか,頭を悩ます場合は少なくない.Hawangら4は,488名のMAC患者のうち,診断後3年以内に進行し治療した305例と臨床的にも画像的にも安定し診断後3年以上治療しなかった115例を比較した.全対象中の23.6%の患者が治療を急いで必要としない安定した病状を示した.3年以内に進行し治療した進行群の患者の特徴を検討した結果,体格がやせ型であり,発熱や易疲労感などの全身症状を訴え,喀痰検査で塗抹陽性,画像で線維空洞型,3葉以上の肺葉に病変がある,一秒率が低い,などの特徴を有する患者が,安定し治療しなかった群と比較し有意に高率であったと報告した.安定群のうちさらに治療せず喀痰菌陰性化(negative conversion)した93例について検討した結果,それらの患者の特徴は,若年,BMIが高い,喀痰検査で塗抹陰性,診断当初一過性に1ヵ月以上抗結核薬を内服した患者,であった.

臨床的に治療開始を決めかねる理由は,このような喀痰から菌が自然に陰性化する症例が存在することである.しかし,画像で空洞所見があり,喀痰塗抹陽性で,全身的な症状があれば,治療を開始することを考慮すべきではないかと考えられる.

日本結核・非結核性抗酸菌症学会は,NTM-PD治療開始の時期について見解をしめしている5,6.診断後速やかに治療開始となる場合は,血痰・喀血がある,空洞がある,高度な気管支拡張がある,病変範囲が一側肺の1/3を超える,喀痰塗抹菌量が2+以上という場合である.経過観察可能例は,自覚症状がほとんどなく,画像で空洞病変を認めず,気管支拡張病変が軽度で,病変範囲が一側肺の1/3以内の喀痰塗抹陰性例か,75歳以上の高齢者症例とある.この2群の間の症例は基本的には早期治療とすべきであるとされている.しかし,治療開始は診断直後には決めがたい場合があり,特に,周囲に相談する時間を含め,患者が治療について考え納得する時間が必要な場合が多々ある.いったん決めた方向を翻す場合もあり,結論を急がせてはならない.

3) MAC-PD標準治療

MAC症に対して行われる標準治療は,リファンピシン(rifampicin: RFP),エタンブトール(ethambutol: EB),クラリスロマイシン(clarithromycin: CAM)の併用,そして重症例や空洞例にはアミノグリコシド薬を追加する,と示されている7.現在RFPはリファブチン(rifabutin: RBT)への置き換えが可能である.アミノグリコシド薬については,日本結核・非結核性抗酸菌症学会のガイドラインにはストレプトマイシン(streptomycin: SM),カナマイシン(kanamycin: KM)が選択可能とされているが,KMは保険適用でない.

日本結核・非結核性抗酸菌症学会社会保険委員会は,欧米のガイドラインと本邦の医療水準を合致させdrug lagを短縮する目的で,審査事例として2019年にアミカシン(amikacin:AMK)8を,2020年にアジスロマイシン(azithromycin:AZM)9を申請し,両薬剤とも承認された.審査事例とは,『保険診療における医薬品の取扱いについて』10により手続きが認められた薬剤である.有効性及び安全性の確認された医薬品(副作用報告義務期間又は再審査の終了した医薬品をいう)が薬理作用に基づき当該効能効果等の適応外投与について申請がなされ,社会保険診療報酬支払基金が設置している『審査情報提供検討委員会』が承認した薬剤である.「審査事例」として認められた場合,健康保険の範囲で適応外使用が可能となりレセプト審査で査定とはならない.適用拡大ではないため,添付文書やインタビューフォーム上の記載はされない.投与の注意点は,支払基金がネット上に公開しておりご参照願いたい.

4) 薬剤感受性検査

MAC-PD治療における薬剤感受性検査は非常に重要であり,初診時から定期的に行われるべきである.菌種毎に薬剤感受性検査を確認すべき薬剤があり,MAC-PDの場合,耐性を確認する薬剤は現在CAM(AZMはCAMに準じる),AMKである.CAMはMIC 16 μg/ml でIntermittent,32 μg/mlでResistantであり,AMKは 64 μg/ml,ALISは 128 μg/mlと示されている11.本邦は薬剤感受性測定用のブロズミックNTMキットにおいてAMKは 32 μg/ml以上のMIC を測定できないため,正確な耐性見極めが現在はできかねる状況である.

Refractory MAC-PD

Refractory MAC-PDは,6ヵ月以上標準治療を行って菌陰性化にいたらないMAC-PDをいう.長谷川らの検討12では,MAC-PDでは,標準治療を開始した患者の90%は6ヵ月以内にいったん菌陰性に至るが,10%が菌陰性化に至らない.また,治療中に増悪したり,治療終了後に再燃が生じたりするため,治療成績は芳しくない.

ALIS

1) CONVERT試験

ALISの効能は,国際共同第III相無作為化オープンラベル並行群間比較試験 CONVERT試験において検証された13.ガイドラインに基づく多剤併用療法(guideline-based therapy: GBT)にALISを追加投与した群と,GBT単独群を比較した.CONVERT試験には本邦の症例も参加した.主要評価項目は,投与開始6ヵ月時の喀痰培養陰性化率で,副次評価項目は,培養陰性化までの期間,培養陰性12ヵ月の治療期間を通じた培養陰性持続率,治療成功後3ヵ月時点での培養陰性持続率,投与6ヵ月目の6分間歩行試験のベースラインからの変化量,投与6ヵ月時点でのSt. George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)スコアのベースラインからの変化であった.

CONVERT試験の主要評価項目である投与6ヵ月時の喀痰培養陰性化率では,ALIS+GBT併用群29.0%,GBT単独群では8.9%と,ALIS併用の有効性が示された.次に,ALIS+GBT群で菌陰性化した65例とGBT単独群で菌陰性化した10例について,同様の治療を12ヵ月継続し終了した時点における菌陰性化が検討された.ALIS+GBT群では18.3%の患者で菌陰性化が継続しており,GBT単独群では2.7%の患者で菌陰性化が継続していたが,治療終了後3ヵ月後には,ALIS+GBT群では16.1%で菌陰性化が継続し,GBT単独群では菌陰性が継続した患者は認められなかった.

2) CONVERT試験におけるCAM耐性例の菌陰性化

CONVERT試験では,ALIS+GBT 224例中CAMのMICが 32 μg/ml以上と耐性であったのは51例(22.8%)で,51例中7例(13.7%)が6ヵ月時菌陰性化した.GBT単独群112例中CAM耐性例は27例(24.1%)で,うち1例(4.5%)のみが菌陰性化に至った.

3) 副作用

インタビューフォーム3上,重大な副作用としては,過敏性肺臓炎(2.7%),気管支痙攣(21.5%),第8脳神経障害(15.1%),急性腎障害(3.2%),ショック/アレルギー(頻度不明)であった.呼吸器系副作用において5%以上頻度で発症した副作用は,咳嗽,発声困難,呼吸困難,喀血,口腔咽頭痛があげられ,1%以上5%未満として喀痰を伴う咳嗽,鼻漏,唾液増加,喉の炎症,喘鳴,慢性閉塞性肺疾患,1%未満の発症として,咽頭紅斑,ラ音,鼻詰まり,声帯炎症が挙げられている.

2021年7月19日から2022年1月18日まで行われた市販直後調査14では,262施設,304例652件が収拾された.このうち重篤な副作用は43例65件であった.重篤な副作用は呼吸器,胸郭及び縦隔障害が23例30件と最も多く中でも過敏性肺臓炎は6例と多数であった.呼吸器系における重篤な副作用は,その他にも肺毒性4例,間質性肺疾患3例,医学的確認が取れていないが器質化肺炎1例,と,肺へのALISの影響が疑われる症例が認められた.気管支痙攣は1例であった.第8脳神経障害は2例であった.重篤ではないが,咳嗽,発声障害は非常に多くみとめ,吸入薬という用法上の特性と思われた.

4) 吸入時の発声障害への対策

欧米からの報告15では,鎮咳剤,トローチ,温湯またはグリセリンによるうがい,口をすすぐなどの対処や,ALISの投与を夜間投与への変更,または投与回数の一時的な減少を行うなどの対応が勧められている.

ALISの投与上の問題

1) 薬価

本邦での承認販売は2021年3月に承認され,販売は7月19日となった.吸入1回あたりの薬価は42,408.4円,初回指導料はラミラネブライザシステムを含み8,780点であり,2回以降の指導加算はラミラハンドセットを含むため2,600点と,非常に高額である.患者のほぼ全員が高額療養費制度16を利用している.この制度は保険者ごとに多少違いがあるが,医療費の自己負担額に上限を設け,その差額は患者負担となるが高額治療費を要する患者にとっては非常に有利となる.しかし自己負担額はどの患者でも月に数万円となり,最短でも6ヵ月の治療を行うために数十万円の医療費増額が生じる場合があり,安易に勧められない.

当初DPC病院では包括評価の対象外で出来高払い扱いの処遇となり,患者教育の点から入院にて吸入指導を行う医療機関も数多くあった.新規に薬価収載された医薬品等については,DPC/PDPSにおける診療報酬点数表に反映されないことから,一定の基準に該当する医薬品等を使用した患者については,次期診療報酬改定までの期間包括評価の対象外とする17という取り扱いによるものであった.しかし,2022年4月よりALISはDPC病院では合算となったため,現在のDPC制度のもと,この薬価は病院の持ち出しとなる額であり,外来での指導を選択せざるを得ない状況となった.そのため,患者の吸入指導に苦慮している病院も多いと推測され,各病院ごとの状況に合わせた取り組みが数多く行われている.

2) ラミラネブライザシステム

ALIS吸入には専属のラミラ(LAMIRA®)ネブライザシステムが必要である.LAMIRA®ネブライザシステムはフランスのPari社の製品で,エアロゾルヘッドと呼ばれるステンレス製の膜にレーザで無数の穴を開けて穿孔した微小穿孔式振動膜技術を用いて薬液をエアロゾル化している18.ハンドセットの交換は月に1回の目途で行わねばならない.2022年6月以降処方数上限がはずれたが,ハンドセットを交換し,患者の使用状況を確認し,副作用を早期に発見する目的から,通院間隔をみだりに長くすることは好ましくない.

3) 洗浄

ハンドネブライザの洗浄は毎日行う.ハンドネブライザ部品を分解し,内部に残った薬液をふき取り,流水で流し,中性洗剤入りの水に浸し,その後専用の蒸気消毒器を用い蒸気消毒するか,精製水を用いた鍋での煮沸消毒を行う.週1回は,ネブライザヘッドを専用の超音波洗浄機で洗浄する必要がある.毎日,部品を洗浄し,乾燥させ,再び組み立てを行うことが,患者にとって苦痛となる場合がある.筆者が患者とともに行ってみると,当初は説明資料を見ながら1時間弱かかる場合もある.また,洗浄機二つは患者のイメージよりは大きく,乾燥を行うなど作業スペースが必要であることから,ALIS導入前に十分な説明が必要と思われる.しかし,指導の中で何回か一緒に組み立て練習を行うと,分解と組み立てはそう問題ではなく実施できる.

4) 吸入指導

ALISの吸入指導は,医師にとって負担である.ALISの効果以外に,大きく分けて,1)費用,2)洗浄機購入の手順と費用,3)ラミラハンドネブライザの取り扱い,4)吸入薬液の取り扱いと保存,6)吸入中の注意,7)副作用対策を説明しなくてはならない.先に触れたようにDPC病院では包括対象薬剤となったため,入院指導はしがたく,外来時にあらかじめ指導時間を分担して多職種で指導を行うにしろ,コストが請求できるのは受診し医師の指導を受けた場合である.また,医師のみが指導を行う場合は,時間が限られており,医師の負担となる場合がある.

筆者は当初入院にて指導を行う予定であったが,COVID-19蔓延にて呼吸器病棟が100床転用され,外来での指導を10人以上に行ってきた.情報としてALISの存在を真に必要な患者に行い,考える時間を持ってもらい,可能と意思表示した患者にだけ2回以上30分1マスの外来を設け,吸入指導を行っている.一人で指導を行っての利点は,患者の指導内容に差がないことであるが,多職種で行うことで患者の特性が早く読み取れる可能性もある.

服薬指導等について,医師の指示のもと,慢性呼吸器疾患看護の資格を有する認定看護師,本学会で認定された呼吸ケア指導士,理学療法士,薬剤師により行われた場合,妥当な診療報酬を得られることが,ALISの導入率や効果を増し,安全な医療に直結すると考えられ,診療報酬で評価される外来慢性呼吸器疾患患者に対する呼吸サポートチームが新設されることを,筆者は強く希望する.

おわりに

ALISは完全無欠な薬剤ではなく,多剤併用療法に併用し,効果を発揮する薬剤である.効果を過信せず,必要な患者を見極め導入することが,refractory MAC-PD治療に欠かすことができない技術の一つとなろう.今後,本邦の知見が集積されrefractory MAC-PDの予後を改善することが期待される.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

佐々木結花;講演料(Insmed合同会社)

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