日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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重症喘息における呼吸機能維持の重要性と治療選択肢
大西 広志
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2023 年 31 巻 2 号 p. 220-223

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要旨

喘息の増悪は,好酸球性気道炎症の存在と密接に関係しており,末梢血好酸球数が多いほど増悪頻度が多い.また,喘息の増悪は呼吸機能の低下を引き起し,呼吸機能低下は増悪のリスク因子でもあるため両者も密接に関係している.重症喘息において,増悪抑制と呼吸機能の改善・維持は重要な治療目標である.獲得免疫系の2型ヘルパーT(Th2)細胞や自然免疫系の2型自然リンパ球(ILC2)から産生される2型サイトカインのインターロイキン(IL)-4,IL-5,IL-13による2型炎症が,喘息増悪と呼吸機能低下に関連している.本稿では,これらの2型サイトカインを標的とした生物学的製剤の特徴と使い分けについて概説すると共に,抗IL-4受容体α抗体デュピルマブの基礎研究および臨床試験の結果を中心に,重症喘息における呼吸機能管理の重要性について解説する.

喘息の病態と気流制限

喘息は,気道の慢性炎症を本態とし,変動性を持った気道狭窄による喘鳴,呼吸困難,胸苦しさや咳などの臨床症状で特徴付けられ疾患であり,多様な表現型を有する.気道炎症には,好酸球,リンパ球,マスト細胞,好中球などの炎症細胞に加えて,気道上皮細胞,線維芽細胞,気道平滑筋細胞などの気道構成細胞,および2型サイトカインなどの種々の液性因子が関与する.通常,気道狭窄や咳は自然にあるいは治療により可逆性を示すが,気道炎症が持続すると気道構造の変化(リモデリング)が生じ非可逆性の気流制限をもたらす1

喘息の長期管理と全身性ステロイド薬の弊害

喘息の長期管理薬として,気道の抗炎症作用を目的に吸入ステロイド薬(ICS)が用いられる.喘息症状が頻回に生じる場合には,ICSの増量に加えて,気管支拡張作用を有する長時間作用型β2刺激薬(LABA)や長時間作用型抗コリン薬(LAMA),更には抗炎症と気管支拡張の両方の作用を持つロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)やテオフィリン徐放製剤(SRT)が追加投与される.喘息のコントロールに,高用量ICSおよびLABA,加えてLAMA,LTRA,SRTや経口ステロイド薬(OCS),生物学的製剤の投与を要する喘息,またはこれらの治療でもコントロール不良な喘息は難治性喘息と呼ばれ,成人喘息の5~10%を占める.難治性喘息は重症喘息とも呼ばれるが,服薬アドヒアランス,吸入手技,増悪因子や併存症などで治療への反応が不十分な治療困難な喘息が含まれており,これらの問題点を改善することは重要である1

発作時に短時間作用型β2刺激薬(SABA)の頓用吸入で改善が乏しい場合は全身性ステロイド薬(SCS)が用いられるが,年数回のSCSの短期使用でも,骨粗鬆症,骨折,高血圧,肥満,糖尿病,白内障,胃腸障害などの有害事象を来し2,SCSの継続使用で死亡率が増加する3.従って,SCSは短期間の間欠投与に止め,年2回以上の増悪がある場合には生物学的製剤を導入することが推奨される.

喘息予防・管理ガイドライン2021における呼吸機能管理の位置づけ

喘息の管理目標として,症状コントロールのために①気道炎症を制御し,②正常な呼吸機能を保つこと,また,将来のリスク回避のために③呼吸機能の経年低下を抑制し,④急性増悪を予防し,⑤喘息死を回避し,⑥治療薬の副作用発現を回避し,⑦健康寿命と生命予後を良好に保つことが挙げられている.喘息コントロール状態の評価として,喘息症状,発作治療薬の使用,活動制限,増悪の有無をチェックして全てが無いことと共に,1秒量あるいはピークフロー値が予測値あるいは自己最良値の80%以上,ピークフロー値の日(週)内変動が20%未満と呼吸機能が正常に維持されていることが喘息コントロール良好とされ1,症状のみならず呼吸機能にも注目する必要がある.

喘息増悪と呼吸機能低下

喘息増悪の予測因子として,末梢血好酸球増多,過去の増悪,呼吸機能低下(%1秒量<80%)が挙げられるが4,5,6,血清免疫グロブリンE(IgE)高値は増悪予測因子とはならない4.呼気一酸化窒素濃度(FeNO)高値は,末梢血好酸球数が多い場合には増悪予測因子となるが,FeNO単独高値では増悪予測因子にはならない6.また,急性増悪が多いほど1秒量の経年低下が大きく,不可逆的気道閉塞を来しやすく7,呼吸機能低下は増悪の結果であると共に増悪のリスク因子でもある.その他の呼吸機能低下のリスク因子として,最近の喘息発症,長期罹病,気道過敏性亢進,粘液栓,重度の増悪,喫煙,好酸球性炎症,FeNO,CD8陽性T細胞,POSTNADAM33など遺伝的背景などがある8,9,10.喘息増悪は,生活の質の低下,喘息死,ステロイド副作用増加,医療費増加につながるため,増悪抑制と呼吸機能を正常に保つことは極めて重要である.

2型炎症と生物学的製剤

アトピー型喘息ではIgE依存性のマスト細胞の活性化が重要である.抗IgE抗体オマリズマブは,遊離IgEの高親和性受容体(FcεRI)への結合を阻害しマスト細胞や好塩基球の活性化を抑制する.獲得免疫系の2型ヘルパーT(Th2)細胞や自然免疫系の2型自然リンパ球(ILC2)が活性化されると,2型サイトカインであるIL-4,IL-5,IL-13が産生される.IL-5はIL-5受容体を介して好酸球の分化,成熟,遊走,活性化に関係するが,抗IL-5抗体メポリズマブもしくは抗IL-5受容体α抗体ベンラリズマブは好酸球性炎症を抑制する.また,ベンラリズマブは抗体依存性細胞障害によりIL-5受容体αを発現する好酸球および好塩基球のアポトーシスを誘導する.IL-4とIL-13は,気道の好酸球浸潤,IgEクラススイッチの促進などの全身性免疫反応と,気道上皮のNO産生亢進,杯細胞過形成,粘液産生亢進,気道平滑筋増殖,気道過敏性亢進,コラーゲン沈着などの気道局所反応の両方に対して幅広い作用を有する11.IL-4受容体には,主に免疫・炎症細胞に発現するI型受容体(IL-4受容体α鎖と共通γ鎖から成る)と,免疫炎症細胞以外に気道上皮細胞,線維芽細胞,気道平滑筋細胞などの気道構成細胞にも発現するII型受容体(IL-4受容体α鎖とIL-13受容体α1鎖から成る)の2種類が存在し,IL-4は両方の受容体に結合する.一方で,IL-13はII型受容体のIL-13受容体α1鎖に結合するが親和性は低く,IL-4とIL-4受容体α鎖との結合親和性の方が高い.したがって,IL-4受容体α抗体デュピルマブはIL-4とIL-13の両方のシグナルを抑制し,全身性免疫反応と気道局所反応の両方を抑制することができる12

IL-4とIL-4受容体α鎖をヒト化したマウスを用いた喘息モデルでは,デュピルマブによりIgE産生と肺への好酸球浸潤が抑制され,末梢血好酸球数は一過性に増加する13.ヒトにおいてもデュピルマブ投与後に一過性末梢血好酸球増多が見られることがあるが,1年以上長期投与すると投与前よりも末梢血好酸球数が低下することが報告されている14.ILC2は気道上皮から遊離するIL-25やIL-33などのアラーミンの刺激によりIL-4,IL-5,IL-13を産生するが,デュピルマブ投与によりIL-5とIL-13の産生が抑制される.デュピルマブを投与された喘息患者では末梢血ILC2数が減少し,IL-5とIL-13のmRNA発現が低下していた15.またデュピルマブは,IL-4またはIL-13によるステロイド抵抗性の気道過敏性亢進を抑制し16,粘液栓改善により呼吸機能や換気不均等を改善する17

デュピルマブの臨床試験

コントロール不良の中等症から重症喘息を対象としたQUEST試験では,デュピルマブ300 mg 2週毎投与群で偽薬群と比較して1年間の重度の喘息増悪が46%抑制された18.特に末梢血好酸球数≧150/μLもしくはFeNO≧25 ppbで抑制効果が見られたが,末梢血好酸球数<150/μLもしくはFeNO<25 ppbの2型炎症が低い症例では抑制効果は見られなかった.主な有害事象は偽薬群と同様にウイルス性上気道炎と注射部位反応であった.1秒量の改善効果は12週で偽薬群が210 mLに対して,デュピルマブ群では340 mLの有意な改善が見られた.デュピルマブ投与によりFeNOや血清IgEは低下するが,肺への好酸球浸潤が抑制され末梢血中に好酸球が止まるため,一過性に末梢血好酸球数が増加することがある.

OCS依存性の重症喘息を対象としたVENTURE試験では,偽薬群でOCSを半分以上減量できた患者が50%,中止出来た患者が25%であったのに対し,デュピルマブ投与群では80%の患者でOCSを半分以上減量でき,48%の患者でOCSを中止することが出来た.更に,OCS減量にも関わらず,重度の増悪を59%減少させ,220 mlの1秒量の改善効果も認められた19.更に長期安全性と有効性を検討したTRAVERSE試験において,有害事象は上気道炎や注射部位反応が主であり,96週までの増悪抑制効果と1秒量の改善効果の維持が認められた.末梢血好酸球数は投与後4週目をピークとして一過性に上昇するが48週目で投与前値に戻り,その後は更に末梢血好酸球数が低下していた14.デュピルマブ投与中に少数例ではあるが好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の発症例も報告されているため,しびれ,発熱などの血管炎症状の発現には注意が必要である.

重症喘息における生物学的製剤使用

重症喘息の主な治療目標は,増悪の抑制,SCSの減量・中止,呼吸機能の改善・維持である.末梢血好酸球数,FeNO,血清特異的IgEのいずれかのバイオマーカーまたは複数が高値である2型炎症を伴う重症喘息に対して,抗IgE抗体オマリズマブ,抗IL-5抗体メポリズマブ,抗IL-5受容体α抗体ベンラリズマブ,抗IL-4受容体α抗体デュピルマブの4つの生物学的製剤の保険適用がある.それぞれの生物学的製剤の特徴を表1に記載する.生物学的製剤は,薬剤の作用機序,併存症に対する適用,患者の社会経済的背景などから総合的に判断して選択する.何れの生物学的製剤も2型炎症のバイオマーカー高値例で有用性が高いが,特に,通年性吸入抗原に対する特異的IgEが陽性で,IgEと体重から判断される投与基準を満たすアトピー型重症喘息や,特発性慢性蕁麻疹や季節性アレルギー性鼻炎を伴う重症喘息では,オマリズマブの有効性が期待できる.好酸球は増悪に強く関連しており,重症喘息で末梢血好酸球数≧150/μLの患者では,メポリズマブやベンラリズマブによる好酸球性気道炎症の抑制が有効である.また,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症では,メポリズマブが3倍量の300 mgで保険適用がある.デュピルマブは,FeNO≧25 ppbや末梢血好酸球数≧150/μLの2型炎症を伴う重症喘息,あるいはアトピー性皮膚炎,鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を伴う重症喘息で増悪抑制に有効であり,更には1秒量改善効果も期待できる.また,オマリズマブ,メポリズマブ,デュピルマブでは在宅自己注射が可能である.

表1 重症喘息における生物学的製剤の比較
一般名オマリズマブメポリズマブベンラリズマブデュピルマブ
商品名ゾレア®ヌーカラ®ファセンラ®デュピクセント®
標的分子IgEIL-5IL-5受容体αIL-4受容体α
作用機序遊離IgEに結合し,FcεRIへの結合を阻害することにより,マスト細胞と好塩基球の活性化を抑制する.IL-5に拮抗して,好酸球の分化,成熟,遊走,活性化を抑制する.IL-5受容体αに結合して,抗体依存性細胞障害により,IL-5受容体αを発現する好酸球および好塩基球のアポトーシスを誘導する.IL-4受容体αに結合して,IL-とIL-13 の方のシグナル伝達を抑制し,気道への好球浸潤,IgE産生,気道過敏性亢進,粘液生などを抑制する.
保険適用アトピー型重症喘息(通年性吸入抗原に陽性)重症喘息(好酸球性喘息で有効性が高い)重症喘息(FeNO高値や好酸球性喘息=2型症で有効性が高い)
喘息以外での保険適用特発性の慢性蕁麻疹
季節性アレルギー性鼻炎
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症アトピー性皮膚炎
鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎
効果予測バイオマーカー末梢血好酸球数>260/μL
呼気NO>20 ppb
末梢血好酸球数>150/μL(300/μL)末梢血好酸球数>150/μL
呼気NO>25 ppb
増悪抑制,QOL改善改善
効果経口ステロイド薬減量#(アレルギー性気管支肺真菌症の症例*)減量効果あり
1秒量改善#少ない改善改善効果が強い
呼気NO#低下低下作用は基本的にはない低下効果が強い
末梢血好酸球数#低下低下効果が強い増加例有(組織への遊走阻害)
血中IgE#総IgE増加(遊離IgE低下)不変データなし低下
投与量初回投与前血清IgEと体重により75-600 mg
(0.5-4 ml)2週毎または4週毎皮下注
100 mg(1 ml)皮下注4週毎
(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症300 mg)
30 mg(1 ml)皮下注4週毎3回
以後8週毎皮下注
初回600 mg皮下注
以後2週毎300 mg(2 ml)皮下注
器材バイアル
プレフィルドシリンジ(注射針カバーがラテックス由来で注意,在宅自己注射可能(季節性アレルギー性鼻炎以外)
バイアル
プレフィルドシリンジ(自己注可能)
ペン(在宅自己注射可能)
プレフィルドシリンジプレフィルドシリンジ(自己注可能)
ペン(在宅自己注射可能)

表は筆者が作成.* 保険適用外,# 各生物学的製剤の効果を直接比較したものではない.

まとめ

重症喘息では,増悪の抑制,SCSの減量・中止,呼吸機能の改善・維持が重要な治療目標である.IL-4/IL-13は,IL-5による好酸球性炎症と共に2型炎症および気道リモデリングに幅広く関与する.IL-4/IL-13の作用を幅広く阻害する抗IL-4受容体α抗体デュピルマブは,これらの喘息治療目標を達成するための重要な治療選択肢の一つである.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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