日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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教育講演
COPDに対する呼吸リハビリテーションの最近の動向
―メタアナリシスの結果を中心に―
東本 有司
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2023 年 31 巻 3 号 p. 299-304

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要旨

COPD患者に対する呼吸リハビリテーション(以下呼吸リハ)の効果は確立されており,国内外のガイドラインで推奨されている.これは,メタ解析で,運動耐容能,QOLなどの改善効果証明されており,呼吸リハの効果は疑いようのないものと考えられる.しかし,これまでのメタ解析では標準的でない呼吸リハプロブラムで実施した臨床試験やCOPD以外の慢性呼吸器疾患を含んだ試験も集計に含まれている.また,呼吸リハの効果で最も重要な目的の一つである呼吸困難に対する効果について,解析されていない.そこで,我々は,COPD患者に対する標準的な呼吸リハの効果を検証するために,MINDSガイドラインに沿ってメタ解析及びシステマティックレビューを実施した.このシステマティックレビューの解析過程,結果とその解釈について解説する.

緒言

GOLDなど国際的なガイドラインや日本のCOPDガイドラインをみると,COPDに対する,包括的な呼吸リハビリテーション(以下呼吸リハ)の有効性は確立していると記載されている.特に,イギリスのガイドラインをみると,呼吸リハはCOPDの1つの治療オプションというよりも必須の治療項目であると記載されている1.つまり,COPD患者に対しては,気管支拡張薬の吸入などの薬物治療と同様に呼吸リハを第一選択の治療法として考慮しなければならないということである.また,その対象は軽症から最重症まで全ての重症度において呼吸リハの導入を考慮すべきであるとしている.これだけ強い表現をしているのは,呼吸リハの効果に関する強いエビデンスが根拠となっている.

呼吸リハに関するほとんどのガイドラインでは,4週間以上の監視下における運動プログラムが含まれるべきであるとしている.ここでいう監視下というのは,専門のリハスタッフ(理学療法士),看護師,あるいは医師の監視のもとで行うということである.ただ,12週間を超えるリハプログラムには追加効果が見られないとされている.つまり標準的な呼吸リハプログラムとは,監視下の運動トレーニングを含む4~12週間のプログラムである.ガイドラインなどで,COPDに対する呼吸リハの効果の主な根拠となっているのは,コクランレビューに掲載された,McCarthyらのメタ解析とシステマティックレビューの結果である2.この論文では,65のランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT試験)と合計で3,822名の患者を対象として,解析している.これだけの症例を集積したメタ解析であるため,エビデンスレベルとしては高いものと考えられる.そのため,これ以上COPD患者に対する呼吸リハの効果を検証するためのRCT試験は不要であるとコメントしている.呼吸リハは,COPD患者の運動耐容能,QOLを改善する上に,呼吸困難や疲労感を軽減するとしている.

今回のCOPDガイドライン2022では,呼吸リハの効果について,独自にメタ解析とシステマティックレビューを実施することになり,私を含め5名のシステマティックレビューチームが文献検索とデータ解析を行った.その解析過程について解説していく

システマティックレビューの過程

McCarthyらのメタ解析に含まれたRCT試験の中には,標準的な呼吸リハでないものや,COPD以外も対象に含む臨床試験も含まれている2.つまり,監視下でない運動トレーニング,短すぎるリハプログラム(4週間未満)や長すぎるリハプログラム(12週間以上)も含まれている.そこで,今回COPDガイドラインにおける「安定期COPDに対して,運動療法を含む呼吸リハビリテーションプログラムを推奨するか?」というCQに対するシステマティックレビューとメタ解析を実施するにあたり,解析対象とする試験は①対象者が安定期のCOPD患者である②呼吸リハプログラムに監視下の運動トレーニングを含む③研究デザインがRCT試験であること④介入期間が4~12週であることを条件とした3.つまり,安定期COPD患者に対する,標準的な呼吸リハプログラムの効果を検証することとした.また,アウトカムは,運動耐容能,QOL,呼吸困難,ADL(Activity of daily living),身体活動性とした.同時に呼吸リハに伴う有害事象についても質的検証を行った.

今回の文献検索は5つのデータベース(Pubmed,Web of Science,PEDro,OTseaker,医中誌)で実施した.COPDを対象とした呼吸リハに関する論文は1,584件あり,COPDに対する呼吸リハのエビデンスが多いことが分かった.さらに,タイトルと抄録から上記アウトカムに沿った論文を110件にまで選別した(図1).文献検索から文献の絞り込みについては,システマティックレビューチームで少なくとも2名の委員が同じ操作をして結果に相違がないかを確認した.本文を検証して試験デザインがRCT試験でないもの,アウトカムが異なるもの,監視下の呼吸リハでないもの,安定期COPDが対象でないもの(増悪時など),呼吸リハプログラム期間が標準的でないもの(長すぎるものや短すぎるもの)などのため68文献が削除され,最終的に42文献が解析対象となった.メタアナリシスでは,これらの文献からアウトカム毎にデータを抽出し,解析ソフトReview Manager ver 5.3(RevMan)にてコントロール群と介入群を比較した.また,アウトカム毎にバイアスリスクなどで,エビデンスのレベルを評価した.

図1

PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)ダイアグラム:呼吸リハビリテーションに関する論文の検索結果とスクリーニングと採択過程

各アウトカムに対する呼吸リハの効果

呼吸困難に対する呼吸リハの効果

いままで,呼吸困難に対する呼吸リハの効果について系統的なシステマティックレビューが実施されていなかった.McCarthyらのメタ解析では,chronic respiratory questionnaire(CRQ)のdyspnea componentに関して呼吸リハに効果あることを報告している.今回,我々は,mMRCスケール,運動時mBorgスケール,TDI(transitional dyspnea index),CRQ dyspnea componentと4つの呼吸困難の指標に対する呼吸リハの効果に関するメタ解析を実施した.その結果,いずれの指標においても,標準的な呼吸リハはCOPD患者の呼吸困難を軽減することが分かった(図2表1).ただし,mMRCスケールについては,改変があっため,6段階スケールから5段階スケールの両方の報告があることや,データのばらつきを示すI2値が40~68%と高く非一貫性と非直線性が認められるためエビデンスの確実性はB~Cと評価した.TDIとmBorg scaleについては,MCIを超える効果であり呼吸リハの効果は臨床的に有意なものであると考えられる.つまり,TDI,mMRC,CRQ dyspnea,mBorg scaleという4つの指標いずれをとっても標準的な呼吸リハに改善効果があることがわかる.

図2

COPD患者の呼吸困難に対する呼吸リハビリテーションの効果

(A)TDI(transitional dyspnea index)に対する効果(B)mMRCに対する効果

コントロール:非リハビリテーション群,PR:呼吸リハビリテーション群

表1 各アウトカムに対する呼吸リハビリテーションの効果(メタ解析結果)3
アウトカム指標平均値の差
(mean difference)
MCIDエビデンスの確実性
呼吸困難TDI1.951.0 B 中等度
mMRC-0.64NA C 低い
CRQ dyspnea0.910.5 C 低い
mBorg scale-0.441.0 B 中等度
運動耐容能6分間歩行距離(m)41.130 B 中等度
最大負荷量(watt)14.44 A 高い
最大酸素摂取量0.63NA C 低い
QOLSGRQ-6.064 C 低い
CRQ5.130.5 C 低い

MCID: minimal clinically important difference, TDI: transitional dyspnea index, CRQ: chronic respiratory questionnaire, SGRQ: St. George’s Respiratory Questionnaire, NA: not available

エビデンスの確実性:A(高い),B(中程度),C(低い),D(とても低い)

呼吸リハによる運動耐容能の改善効果

運動耐容能の指標として,6分間歩行距離(6MWD),最大酸素摂取量( V ˙ O2max),最大負荷量を指標として解析した.6MWDに関しては,22編(1,029例)のRCTによるメタアナリシスを行った.MD 41.35と呼吸リハにより6MWDはMCID 30 mを超えて有意に改善している(図3). V ˙ O2maxも有意に増加させたが,文献数が少なかった.最大負荷量はMCID(4 watt)を超えて有意に改善していた(表1).以上のことから,いずれの指標においても呼吸リハは運動耐容能を改善することが分かった.エビデンスの確実性はA~Cであった.

図3

COPD患者の6分間歩行距離に対する呼吸リハビリテーションの効果

呼吸リハによるQOLの改善効果

QOLの指標として,SGRQスコア,CRQスコアを解析した.SGRQ totalスコアについては,16編(851例)のRCTによるメタアナリシスを行った.MD -6.06と呼吸リハによりSGRQ totalスコアはMCID(4ポイント)を超えて有意に改善している(P<0.00001)(図4).出版バイアスはみられず,不正確性はないが,高度の非一貫性があるため(I2=87%),エビデンスの確実性はCとした.CRQ totalスコアについては,10編(820例)のRCTによるメタアナリシスを行った.MD 5.13とPRによりCRQ totalスコアはMCID(0.5ポイント)を超えて有意に改善している(P=0.0004).出版バイアスはみられず,不正確性はないが,高度の非一貫性があるため(I2=93%),エビデンスの確実性はCとした.以上ように,2つのスコアいずれにおいても標準的な呼吸リハプログラムによってCOPDのQOLスコアがMCIDを超えて改善している(表1).

図4

COPD患者のSGRQスコアに対する呼吸リハビリテーションの効果

呼吸リハによる日常生活動作(ADL)の改善効果

採用したRCT試験のうちで,ADLをアウトカムとした研究は3編あったが4,5,6,いずれも異なるスコアを使用していたため,メタ解析は実施できなかった.いずれの報告でも呼吸リハによってADLが有意に改善したと結果を報告しているが,これ以上の解析はできなかった.したがって,呼吸リハによってADLが改善するものと考えられるが,エビデンスレベルとしては,単一の報告レベルということになる.ADL指標の標準化が望まれる.

呼吸リハによる身体活動性の改善効果

今回解析した42文献の中で,身体活動性をアウトカムに含むRCTは4編あったが7,8,9,10,1編は介入後の数値のみの記載で効果量の記載がなかったため解析には使用できなかった8.したがって,3編(134例)のRCTによるメタアナリシスを行った.1日あたりの歩数に関してはMD 1,553歩であったが,呼吸リハの有意な効果はなかった(p=0.3)9,10.報告数が少なく,症例数が少なく不精確があり,高度の非一貫性(I2=90%)があることからエビデンスの確実性はDとした.中等度の活動量の1日あたりの時間 moderate activity time(min/day)に対しても呼吸リハによる有意な効果がなかった7,10 MD 4.66(P=0.11).中等度の非一貫性があり(I2=40%),症例数が少なく不精確があり,エビデンスの確実性はCとした.以上のように,身体活動性に対して呼吸リハは有意な効果はみられなかった.これまでのメタ解析報告をみると,万歩計を使うことで,身体活動性を促進する効果があることや11,運動トレーニングのみではなくカウンセリングを加えることで活動性が上がるという報告がある12.ただ,いずれの報告でもエビデンスレベルが低く,さらに症例数を増やす必要があるとしている.

呼吸リハによる有害事象の報告があるか

呼吸リハに伴う有害事象について,43編のRCT試験の質的検証を行った.呼吸リハに起因する重篤な有害事象を記載した論文はなかった.観察期間中に死亡した患者は呼吸リハ群1,540名のうち5名(0.32%),コントロール群1,180名のうち7名(0.59%)であった.また,観察期間中にCOPD増悪がみられた症例はPR群では1,540名のうち18名(1.17%)で,コントロール群1,180名のうち15名(1.27%)であった.しかし,いずれも呼吸リハとの因果関係を記載しておらず,有害事象をアウトカムとした試験はなく,脱落の詳細な原因を記載していない文献が7編あるため,有害事象の発現頻度として解析することはできなかった.ただ,呼吸リハにより重篤な有害事象があったと記載した報告はなく,呼吸リハは安全な治療法であると考えられる.

呼吸リハは軽症や最重症のCOPD患者にも効果があるのか

これまでの呼吸リハに関するRCT試験やメタ解析の主な対象患者は中等症~重症患者が多い.呼吸リハは軽症患者や最重症のCOPD患者にも有効であるか検証された報告は少ない.Paneroniらは,GOLD stage IV(最重症患者)のみを対象としたRCT研究10論文に対するメタ解析を実施している13.対象は合計で458名で,4-52週間(週1-5回のセッション)の呼吸リハの効果を集計している.呼吸リハ群はコントロール群に比して6分間歩行距離及びSGRQが有意に改善していた.一方で,Jacomeらは軽症COPD患者(GOLD stage I)のみを対象としたRCT研究3論文のメタ解析を実施している14.対象患者は合計100名で,6-8週間(週2-3セッション)の呼吸リハの効果を集計している.ここでも,呼吸リハにより6分間歩行距離とSGRQが有意に改善していることを報告している.つまり,軽症から最重症まであらゆる病期のCOPDに対して,呼吸リハが有効であることが示されている.

まとめ

GOLDガイドラインや,本邦のCOPDガイドラインでは,安定期のCOPDの管理目標は,現状の改善と将来の病状進行のリスクの低減現状の改善であるとしている.現状の改善のため,具体的な目標として,症状及びQOLの改善,運動耐容能と身体活性の向上および維持があげられている.また,将来リスクの低減のため,増悪の予防,疾患進行の抑制および健康寿命の延長があげられている.GOLDガイドラインにも同様の管理目標が記載されている.このうちで,症状及びQOLの改善,運動耐容能の改善,増悪の予防という項目については,呼吸リハビリテーションプログラムによって改善することが報告されている.今回のメタ解析でも症状(呼吸困難),QOL,運動耐容能があらゆる指標において有意に改善することが分かった.さらに,他のメタ解析をみると,あらゆる病期のCOPDに対して呼吸リハが有効であることが報告されている.以上のことから,安定期のCOPD患者に対して,標準的な呼吸リハプログラムは考慮されるべき必須の治療法の一つであると考えられる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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