日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
吸気筋力低下を有する心疾患患者の臨床的特徴
田村 陽 牛島 明子小林 真菜濵﨑 麻佑宮古 裕樹長松 裕史濵 知明南谷 晶古川 俊明小林 義典
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2023 年 32 巻 1 号 p. 58-66

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要旨

【目的】吸気筋力低下(IMW)を有する心疾患患者の特徴を明らかにすること.

【方法】対象は外来心臓リハビリテーション開始時に呼吸機能検査と心肺運動負荷試験を行った99例.最大吸気圧が予測値の70%未満をIMWと定義し,全症例および心不全(HF)合併別に比較した.

【結果】全症例では,IMW群でHF合併率が高く,左室駆出率(LVEF)と最高酸素摂取量が低値,左室拡張末期径(LVDd)が高値であった.HF合併症例では,IMW群でLVEF低値,LVDd高値,controlling nutritional status(CONUT)scoreで中等度障害の割合が高く,HF非合併症例では,IMW群で身体活動量(PA)が低値であった.

【結論】IMWを有する心疾患患者はHFを高率に合併し運動耐容能が低かった.また,HF合併症例におけるIMWの特徴は左室機能低下と栄養状態不良,HF非合併症例におけるIMWの特徴はPA低下であった.

緒言

吸気筋力低下(inspiratory muscle weakness, IMW)は,心疾患患者の主要な身体症状である活動時の息切れや運動耐容能の低下に関連する1.また,心不全において吸気筋力は生命予後の独立した予測因子であり,吸気筋力が低値であるものは予後不良であることが示されている2,3,4.これらから,吸気筋力は心疾患患者において重要な身体機能のひとつであると考えられる.従来,心疾患患者の骨格筋では呼吸循環障害に伴う筋組織への酸素供給不足,酸化ストレス,身体活動低下に伴う筋の不使用,薬物療法,栄養障害,全身炎症など複数の機序を背景とした筋線維の変性や萎縮,筋代謝の変化が生じることが報告されている5,6.しかし,心疾患患者におけるIMWのリスク因子やその影響について臨床指標を用いて検討した報告はない.そこで本研究では,IMWを有する心疾患患者の臨床指標を探索的に調査し,その特徴を明らかにすることを第1の目的とした.

また,心疾患患者の吸気筋力に関する先行研究は心不全を対象としたものが多く,心不全の吸気筋力はニューヨーク心臓協会(New York Heart Association; NYHA)の心機能分類が重度であるほど低値であることが示されている7.しかし,臨床では心不全の有無によらずIMWを有する症例を経験する.そこで本研究では,心不全の有無別にIMWを有する心疾患患者の特徴を明らかにすることを第2の目的とした.

対象と方法

1. 対象

2019年1月から2021年6月までに当院の外来心臓リハビリテーション(cardiac rehabilitation; CR)に参加した20歳以上の心疾患患者のうち,CR開始時に呼吸機能検査を実施し,以下の除外基準のいずれにも該当しないものを対象とした.本研究の除外基準は,(i)CR開始時に心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise testing; CPX)を実施していないもの,(ii)既往に呼吸器疾患,脳血管疾患,ならびに開胸術があるもの,(iii)データに欠損があるものとした.本研究は,東海大学医学部臨床研究審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:21R116).

2. 調査項目

外来CR開始時における以下の項目を診療録から後方視的に調査した.

1) 基本情報

年齢,性別,身長,体格指数(body mass index; BMI),CR対象疾患,併存疾患,喫煙歴を収集した.また,心不全(heart failure; HF)合併の有無を判定した.HFの判定基準は,(i)Framingham studyのクライテリア8に基づき診断された心不全に対して入院もしくは外来加療歴がある,(ii)左室駆出率(left ventricular ejection fraction; LVEF)が40%未満,(iii)脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; BNP)が200 pg/mL以上,のいずれか1つ以上を満たすものとした.

2) 検査指標

心臓超音波検査の結果からLVEF,左室拡張末期径(left ventricular end-diastolic diameter; LVDd),左室拡張能の指標であるE/e’,右室に対する圧負荷の指標である三尖弁逆流圧較差(tricuspid regurgitation pressure gradient, TRPG)を収集した.血液生化学検査の結果からヘモグロビン(hemoglobin; Hb),アルブミン(albumin; Alb),推定糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate; eGFR),C反応性蛋白(C-reactive protein; CRP),BNPを収集した.

3) 栄養状態

血液生化学検査の結果からAlb,総リンパ球数,総コレステロールを収集し,controlling nutritional status (CONUT) scoreを求め,栄養障害の重症度9を評価した.

4) 呼吸機能

呼吸機能検査の結果から肺活量(vital capacity; VC)を収集し,予測値10に対する割合として%肺活量(%VC)を算出した.また,1秒率(forced expiratory volume % in one second; FEV1/FVC)を収集した.さらに,最大吸気圧(maximal inspiratory pressure; PImax)と最大呼気圧(maximal expiratory pressure; PEmax)それぞれの実測値と予測値11に対する割合を収集した.

5) 身体機能および身体活動量

ハンドヘルドダイナモメーター(μTas F-1,アニマ株式会社,東京)を用いて測定した膝伸展筋力を収集し,体重比を算出した.また,10 m快適歩行速度を収集した.身体活動量(physical activity; PA)は,国際標準身体活動質問票(international physical activity questioner; IPAQ)による1週間あたりの消費エネルギー量として求めた12

6) CPXデータ

症候限界性CPXの結果から最高酸素摂取量(peak oxygen uptake; V ˙ O2 peak),最高負荷時のガス交換比(respiratory gas exchange ratio; R)を収集した.また,分時換気量(minute ventilation; V ˙ E)と二酸化炭素排出量(carbon dioxide output; V ˙ CO2)の比を呼吸性代償開始点(respiratory compensation point; RCP)まで一次回帰し, V ˙ E vs. V ˙ CO2 slopeを求めた.さらに,RCPまで到達した症例に限り,RCPにおける呼気終末二酸化炭素分圧(partial pressure of end-tidal carbon dioxide; PETCO2),および V ˙ CO2に対する V ˙ Eの割合の最低値であるminimum V ˙ E/ V ˙ CO2を収集した.

3. 分析方法

本研究では,PImaxが予測値の70%未満であるものをIMWと定義した13

1) IMWの有無による比較(全症例)

対象をIMWの有無でIMW群と非IMW群に分類し,全ての調査項目について群間比較を行った.

2) IMWの有無による比較(HF合併別)

対象をHFの有無でHF合併症例とHF非合併症例に分類した.HFの合併別に,全ての調査項目についてIMWの有無による群間比較を行った.

3) 統計解析

連続変数についてShapiro-Wilk検定を用いて正規性を確認し,パラメトリックな変数は対応のないt検定,ノンパラメトリックな変数はMann-WhitneyのU検定を用いて群間比較を行った.また,カテゴリー変数はχ2 検定またはFisherの正確確率検定を用いて群間比較を行った.統計処理にはSPSS Statistics version 29.0(IBM Corporation, Armonk, NY, USA)およびR version 4.2.2(The R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria)を使用し,有意水準は危険率5%とした.

結果

対象は,2019年1月から2021年6月までに当院の外来CRに参加した心疾患患者460例のうち,呼吸機能検査を実施した196例から,除外基準に該当する97例を除いた99例である(図1).

図1 Study flow chart

CR, cardiac rehabilitation(心臓リハビリテーション);CPX, cardiopulmonary exercise testing(心肺運動負荷試験).

1) IMWの有無による比較(全症例)

対象99例のうち,IMW群は19例,非IMW群は80例であった(図2(A)).IMWの有無による比較(全症例)の結果を表1に示す.IMW群は非IMW群と比較して心不全合併率が有意に高かった.また,CONUT scoreに有意差を認め,正常から軽度の栄養障害までを合わせた割合は非IMW群で高く,中等度の栄養障害の割合はIMW群で高かった.さらに,IMW群はLVEF,膝伸展筋力,10 m快適歩行速度,および V ˙ O2 peakが有意に低値,LVDdが有意に高値であった.CRPには有意差を認めなかった.

図2 対象の群分け

(A)IMWの有無による比較(全症例),(B)IMWの有無による比較(HF合併別).IMW, inspiratory muscle weakness(吸気筋力低下); HF, heart failure(心不全).

表1 IMWの有無による比較(全症例)

IMW群(19例)非IMW群(80例)p-value
年齢,歳70.1±10.067.8±9.70.36
男性,n(%)15(79.0)54(67.5)0.33
身長,cm164.3±9.0162.6±8.40.43
BMI, kg/m224.0±5.024.6±3.60.58
CR対象疾患,n(%)0.087
 狭心症11(57.9)34(42.5)
 急性心筋梗塞3(15.8)34(42.5)
 慢性心不全5(26.3)12(15.0)
併存疾患,n(%)
 高血圧12(63.2)61(76.3)0.26
 脂質異常症10(52.6)56(70.0)0.15
 糖尿病8(42.1)31(38.8)0.79
喫煙歴,n(%)15(79.0)48(60.0)0.12
心不全合併,n(%)10(52.6)21(26.3)0.026*
心臓超音波検査
 LVEF, %55.0[35.0-60.0]59.0[53.0-62.0]0.037*
 LVDd, mm52.0[47.0-56.0]47.0[44.0-51.8]0.009**
 E/e’9.7[7.6-12.7]9.2[7.4-11.3]0.53
 TRPG, mmHg25.0[22.0-29.8]20.0[17.0-24.5]0.051
血液生化学検査
 Hb, g/dL13.1±1.713.7±1.80.17
 Alb, g/dL3.84±0.484.06±0.350.023*
 eGFR, mL/min/1.73m253.2±22.455.9±18.40.58
 CRP, mg/dL0.16[0.04-0.65]0.08[0.02-0.21]0.077
 BNP, pg/mL89.7[23.2-348.6]49.2[20.1-107.4]0.095
CONUT score,n(%)0.004**
 正常[0~1]9(47.4)26(32.5)
 軽度[2~4]6(31.6)52(65.0)
 中等度[5~8]4(21.0)2(2.5)
 高度[9~12]0(0.0)0(0.0)
呼吸機能
 %VC, %77.0±17.585.5±11.70.012*
 FEV1/FVC, %80.8±6.678.2±7.20.15
 PImax, cmH2O41.3±16.380.6±24.7<0.001***
 PImax, % predict53.8±10.5113.1±26.5<0.001***
 PEmax, cmH2O83.8±28.9119.8±42.1<0.001***
 PEmax, % predict79.9±23.5120.9±36.9<0.001***
身体機能
 膝伸展筋力,kgf/kg0.44±0.130.55±0.170.016*
 10 m快適歩行速度,m/sec1.14±0.171.27±0.240.038*
PA, kcal/week499.9[155.6-876.3]748.9[164.0-1330.8]0.20
CPXデータ
V ˙ O2 peak, mL/min/kg14.7±4.617.2±4.30.031*
 R1.11±0.111.15±0.120.17
V ˙ E vs. V ˙ CO2 slope31.5[24.7-43.0]30.5[25.7-35.6]0.54
 PETCO2, mmHg40.4±5.141.6±4.50.42
 minimum V ˙ E/ V ˙ CO235.3±6.332.9±4.90.14

連続変数はmean±standard deviationまたはmedian [interquartile range] で表記.IMW, inspiratory muscle weakness(吸気筋力低下);BMI, body mass index(体格指数);CR, cardiac rehabilitation(心臓リハビリテーション);LVEF, left ventricular ejection fraction(左室駆出率);LVDd, left ventricular end-diastolic diameter(左室拡張末期径);TRPG, tricuspid regurgitation pressure gradient(三尖弁逆流圧較差);Hb, hemoglobin(ヘモグロビン);Alb, albumin(アルブミン);eGFR, estimated glomerular filtration rate(推定糸球体濾過量);CRP, C-reactive protein(C反応性蛋白);BNP, brain natriuretic peptide(脳性ナトリウム利尿ペプチド);CONUT, controlling nutritional status;%VC, % vital capacity(%肺活量);FEV1/FVC, forced expiratory volume % in 1 second(1秒率);PImax, maximal inspiratory pressure(最大吸気圧);PEmax, maximal expiratory pressure(最大呼気圧);PA, physical activity(身体活動量);CPX, cardiopulmonary exercise testing(心肺運動負荷試験); V ˙ O2 peak, peak oxygen uptake(最高酸素摂取量);R, respiratory gas exchange ratio(ガス交換比); V ˙ E, minute ventilation(分時換気量); V ˙ CO2, carbon dioxide output(二酸化炭素排出量);PETCO2, partial pressure of end-tidal carbon dioxide(呼気終末二酸化炭素分圧).E/e’(n=90);TRPG(n=65);PETCO2(n=73);minimum V ˙ E/ V ˙ CO2(n=73).*, p<0.05;**, p<0.01;***, p<0.001.

2) IMWの有無による比較(HF合併別)

対象99例のうち,HF合併症例は31例,HF非合併症例は68例であった.さらに,HF合併症例31例のうちIMWありは10例,IMWなしは21例,HF非合併症例68例のうちIMWありは9例,IMWなしは59例であった(図2(B)).HF合併症例において,IMWありはIMWなしと比較してLVEFが有意に低値,LVDdが有意に高値であった(表2).また,CONUT scoreに有意差を認め,正常から軽度の栄養障害までを合わせた割合はIMWなしで高く,中等度の栄養障害の割合はIMWありで高かった.膝伸展筋力,10 m快適歩行速度,およびPAには有意差を認めなかった.一方,HF非合併症例において,IMWありはIMWなしと比較してPAが有意に低値であった(表3).LVEF,LVDd,膝伸展筋力,および10 m快適歩行速度には有意差を認めず,CONUT scoreで中等度以上の栄養障害を有する症例はいなかった.

表2 IMWの有無による比較(HF合併症例)

IMWあり(10例)IMWなし(21例)p-value
年齢,歳70.2±9.167.9±9.80.54
男性,n(%)7(70.0)13(61.9)1.00
身長,cm163.4±10.5161.5±7.90.58
BMI, kg/m224.4±5.724.0±3.40.84
CR対象疾患,n(%)0.003**
 狭心症5(50.0)1(4.8)
 急性心筋梗塞0(0.0)8(38.1)
 慢性心不全5(50.0)12(57.1)
併存疾患,n(%)
 高血圧7(70.0)16(76.2)1.00
 脂質異常症4(40.0)9(42.9)1.00
 糖尿病5(50.0)9(42.9)1.00
喫煙歴,n(%)9(90.0)12(57.1)0.11
心臓超音波検査
 LVEF, %35.0[27.5-47.5]50.0[36.5-59.0]0.028*
 LVDd, mm55.5[52.0-58.0]50.0[45.5-56.0]0.036*
 E/e’11.0[7.4-13.0]11.5[8.3-14.3]0.60
 TRPG, mmHg27.0[15.8–42.5]30.0[21.3–39.5]0.85
血液生化学検査
 Hb, g/dL13.0±2.013.4±2.50.61
 Alb, g/dL3.7[3.4-4.1]3.9[3.6-4.1]0.54
 eGFR, mL/min/1.73m245.9[22.9-55.9]51.3[33.4-61.2]0.49
 CRP, mg/dL0.43[0.09-1.23]0.12[0.07-0.45]0.25
 BNP, pg/mL346.0[117.3-446.4]219.1[63.2-397.9]0.25
CONUT score,n(%)0.028*
 正常[0~1]6(60.0)11(52.4)
 軽度[2~4]0(0.0)8(38.1)
 中等度[5~8]4(40.0)2(9.5)
 高度[9~12]0(0.0)0(0.0)
呼吸機能
 %VC, %77.6±19.377.4±10.20.98
 FEV1/FVC, %79.9[73.8-83.1]80.5[73.6-82.4]0.98
 PImax, cmH2O41.8±18.773.4±18.1<0.001***
 PImax, % predict56.0[48.5-68.0]115.0[89.5-123.0]<0.001***
 PEmax, cmH2O78.0±26.4114.4±38.70.012*
 PEmax, % predict87.0[54.8-100.8]116.0[90.0-153.5]0.004**
身体機能
 膝伸展筋力,kgf/kg0.44[0.32-0.53]0.51[0.39-0.59]0.23
 10 m快適歩行速度,m/sec1.14[1.04-1.21]1.17[1.09-1.47]0.22
PA, kcal/week633.0[116.7-1446.5]320.9[16.4-937.3]0.37
CPXデータ
V ˙ O2 peak, mL/min/kg12.7[8.8-15.7]14.5[12.2-18.3]0.11
 R1.08[1.04-1.15]1.16[1.06-1.21]0.16
V ˙ E vs. V ˙ CO2 slope31.7[24.4-49.8]34.2[29.5-43.0]0.98
 PETCO2, mmHg38.7±4.939.5±5.50.76
 minimum V ˙ E/ V ˙ CO237.0±7.335.8±6.00.68

連続変数はmean±standard deviationまたはmedian [interquartile range] で表記.IMW, inspiratory muscle weakness(吸気筋力低下);BMI, body mass index(体格指数);CR, cardiac rehabilitation(心臓リハビリテーション);LVEF, left ventricular ejection fraction(左室駆出率);LVDd, left ventricular end-diastolic diameter(左室拡張末期径);TRPG, tricuspid regurgitation pressure gradient(三尖弁逆流圧較差);Hb, hemoglobin(ヘモグロビン);Alb, albumin(アルブミン);eGFR, estimated glomerular filtration rate(推定糸球体濾過量);CRP, C-reactive protein(C反応性蛋白);BNP, brain natriuretic peptide(脳性ナトリウム利尿ペプチド);CONUT, controlling nutritional status;%VC, % vital capacity(%肺活量);FEV1/FVC, forced expiratory volume % in 1 second(1秒率);PImax, maximal inspiratory pressure(最大吸気圧);PEmax, maximal expiratory pressure(最大呼気圧);PA, physical activity(身体活動量);CPX, cardiopulmonary exercise testing(心肺運動負荷試験); V ˙ O2 peak, peak oxygen uptake(最高酸素摂取量);R, respiratory gas exchange ratio(ガス交換比); V ˙ E, minute ventilation(分時換気量); V ˙ CO2, carbon dioxide output(二酸化炭素排出量);PETCO2, partial pressure of end-tidal carbon dioxide(呼気終末二酸化炭素分圧).E/e’(n=27);TRPG(n=22);PETCO2(n=22);minimum V ˙ E/ V ˙ CO2(n=22). *, p<0.05;**, p<0.01;***, p<0.001.

表3 IMWの有無による比較(HF非合併症例)

IMWあり(9例)IMWなし(59例)p-value
年齢,歳69.9±11.467.7±9.70.54
男性,n(%)8(88.9)41(69.5)0.43
身長,cm165.3±7.4163.0±8.60.44
BMI, kg/m223.6±4.424.8±3.70.39
CR対象疾患,n(%)0.72
 狭心症6(66.7)33(55.9)
 急性心筋梗塞3(33.3)26(44.1)
 慢性心不全0(0.0)0(0.0)
併存疾患,n(%)
 高血圧5(55.6)45(76.3)0.23
 脂質異常症6(66.7)47(79.7)0.40
 糖尿病3(33.3)22(37.3)1.00
喫煙歴,n(%)6(66.7)36(61.0)1.00
心臓超音波検査
 LVEF, %60.0[56.5-63.5]60.0[55.0-63.0]0.73
 LVDd, mm47.0[43.5-51.0]46.0[43.0-51.0]0.66
 E/e’8.5[7.4-12.5]8.7[7.3-10.7]0.78
 TRPG, mmHg24.5[22.0-28.5]19.0[15.5-22.0]0.005**
血液生化学検査
 Hb, g/dL13.2±1.413.8±1.50.26
 Alb, g/dL4.1[3.9–4.3]4.2[3.9-4.4]0.52
 eGFR, mL/min/1.73m258.5[54.5-80.1]59.7[51.5-70.3]0.46
 CRP, mg/dL0.08[0.03-0.21]0.06[0.02-0.15]0.48
 BNP, pg/mL23.2[21.4-61.6]35.2[15.7-76.6]0.74
CONUT score,n(%)0.69
 正常[0~1]3(33.3)15(25.4)
 軽度[2~4]6(66.7)44(74.6)
 中等度[5~8]0(0.0)0(0.0)
 高度[9~12]0(0.0)0(0.0)
呼吸機能
 %VC, %76.4±16.388.4±10.80.006**
 FEV1/FVC, %80.7[79.0-88.2]79.6[74.6-83.7]0.22
 PImax, cmH2O40.8±14.283.1±26.3<0.001***
 PImax, % predict53.0[41.5-59.5]107.0[95.0-140.0]<0.001***
 PEmax, cmH2O90.2±31.8121.7±43.40.041*
 PEmax, % predict65.0[59.0-97.0]113.0[91.0-140.0]0.003**
身体機能
 膝伸展筋力,kgf/kg0.53[0.31-0.56]0.54[0.42-0.66]0.20
 10 m快適歩行速度,m/sec1.20[1.07-1.28]1.31[1.13-1.46]0.16
PA, kcal/week422.3[126.4-575.8]837.5[449.1-1380.5]0.023*
CPXデータ
V ˙ O2 peak, mL/min/kg16.0[12.8-20.1]17.8[14.3-20.2]0.69
 R1.15[1.06-1.21]1.14[1.08-1.20]0.87
V ˙ E vs. V ˙ CO2 slope30.9[26.0-34.1]28.7[25.0-34.5]0.57
 PETCO2, mmHg42.4±5.042.3±4.00.94
 minimum V ˙ E/ V ˙ CO233.3±4.831.9±4.10.47

連続変数はmean±standard deviationまたはmedian [interquartile range] で表記.IMW, inspiratory muscle weakness(吸気筋力低下);BMI, body mass index(体格指数);CR, cardiac rehabilitation(心臓リハビリテーション);LVEF, left ventricular ejection fraction(左室駆出率);LVDd, left ventricular end-diastolic diameter(左室拡張末期径);TRPG, tricuspid regurgitation pressure gradient(三尖弁逆流圧較差);Hb, hemoglobin(ヘモグロビン);Alb, albumin(アルブミン);eGFR, estimated glomerular filtration rate(推定糸球体濾過量);CRP, C-reactive protein(C反応性蛋白);BNP, brain natriuretic peptide(脳性ナトリウム利尿ペプチド);CONUT, controlling nutritional status;%VC, % vital capacity(%肺活量);FEV1/FVC, forced expiratory volume % in 1 second(1秒率);PImax, maximal inspiratory pressure(最大吸気圧);PEmax, maximal expiratory pressure(最大呼気圧);PA, physical activity(身体活動量);CPX, cardiopulmonary exercise testing(心肺運動負荷試験); V ˙ O2 peak, peak oxygen uptake(最高酸素摂取量);R, respiratory gas exchange ratio(ガス交換比); V ˙ E, minute ventilation(分時換気量); V ˙ CO2, carbon dioxide output(二酸化炭素排出量);PETCO2, partial pressure of end-tidal carbon dioxide(呼気終末二酸化炭素分圧).E/e’(n=63);TRPG(n=43);PETCO2(n=51);minimum V ˙ E/ V ˙ CO2(n=51).*, p<0.05;**, p<0.01;***, p<0.001.

考察

本研究ではIMWを有する心疾患患者の特徴を明らかにすることを目的として,外来CR開始時の臨床指標を探索的に分析した.その結果,IMW群は非IMW群と比較して心不全を高率に合併し,身体機能および運動耐容能が低下していた.また,HF合併症例におけるIMWの特徴は左室収縮能低下と左室拡大,ならびに栄養状態が不良であること,HF非合併症例におけるIMWの特徴は身体活動量の低下であった.

一般的に心不全症例では,左室機能障害によって慢性的に肺静脈圧が上昇し,組織学的変化を伴う肺の線維化や肺動脈楔入圧の上昇をきたすことで肺コンプライアンスは低下し,同時に心拍出量は減少する.これらによって活動時に換気血流比不均衡や低酸素血症をきたすことで換気量は増加し,呼吸仕事量が増大する14.日常的に呼吸仕事量が増加すると,吸気の主動筋である横隔膜では持久力トレーニングでみられるような筋の適応,すなわち速筋線維(TypeIIb/x)から遅筋線維(TypeI)への筋線維シフトが生じるため15,疲労耐性が向上する一方,筋力の適性が低下する5.これらから,心疾患患者のIMWには心不全や左室機能障害に起因する横隔膜の筋線維シフトが関連する可能性が考えられる(図3).

図3 心不全および左室機能障害に起因する横隔膜の筋線維シフト

また,心不全では肝うっ血や腸管浮腫によってアルブミンの生成低下,栄養素の吸収障害,食欲不振を引き起こすとともに,交感神経活動の亢進,炎症性サイトカインの増加,インスリン抵抗性の増大などを背景として同化よりも異化が亢進し,栄養障害に陥りやすいとされている16,17,18.さらに近年,全身の骨格筋とともに呼吸筋の筋量が減少し筋力低下をきたした状態を呼吸サルコペニアとよび,栄養障害や身体活動量の低下は,加齢,低酸素ストレス,疾患への罹患,カヘキシアと並んで呼吸サルコペニアの原因の1つであるとされている19.本研究では,HF合併症例のうちIMWを有するものは栄養状態が不良であり,また,HF非合併症例のうちIMWを有するものは身体活動量が低下していたことから,栄養障害や身体活動量の低下が呼吸サルコペニア,さらにはIMWに関連した可能性もある.

IMWと運動耐容能との関係について,本研究のIMW群では V ˙ O2 peakの低下と併せて膝伸展筋力および10 m快適歩行速度が低下していたことから,IMWを有する心疾患患者の運動耐容能低下には下肢骨格筋の機能低下が関与したと考えられた.さらに,近年注目されているメカニズムにrespiratory muscle metaboreflexがある20.これによると,運動中の呼吸筋疲労は求心性の神経線維によって上位中枢に伝達され,遠心性の交感神経活性を介して骨格筋の血管収縮を引き起こす.すなわち呼吸筋と運動筋への血流が競合し,運動筋への血流が減少することで酸素運搬能が低下するため,運動筋では筋疲労が増強し運動耐容能が低下するとされている20,21

心不全におけるIMWの有病率は30~50%とされる一方1,心不全がない虚血性心疾患を含む本研究のIMW有病率は約20%であった.本研究の結果から,IMWを有する心疾患患者の特徴は,心不全を合併しており,左室収縮能低下と左室拡大がみられ栄養状態が不良であること,また,心不全がなくIMWを有する心疾患患者の特徴は身体活動量の低下であったことから,多くの心疾患患者の中でも,これらの特徴を有する症例に対して吸気筋力の評価を考慮してよいと考える.

IMWに対する治療介入の1つである吸気筋トレーニング(inspiratory muscle training; IMT)は,吸気筋力の向上,運動耐容能の改善,息切れの軽減,および生活の質の向上に有効であるとされ22,23,24,特にIMWを有する症例において吸気筋力向上および運動耐容能改善の効果が大きいことが知られている25,26.今後はIMTの導入効果について,心不全の有無による特徴の検討が必要である.

本研究の限界は,単施設での検討であり症例数が少なく,CR開始時に呼吸機能検査およびCPXを実施できなかったものを対象から除外しているため,選択バイアスの影響を受けている可能性は否定できないことである.また,本研究では心不全の罹患期間,ならびに肺循環における慢性的なストレスや日常的な呼吸仕事量の増加を示すデータがなく,横隔膜をはじめ呼吸筋の組織学的な評価や筋量の測定を行っていないため,IMW症例における呼吸筋変性の実際を証明することは困難である.さらに,本研究は横断研究であるため,IMWと今回見られた特徴との因果関係を明らかにすることは難しい.

本研究において,IMWを有する心疾患患者は心不全を高率で合併し,身体機能および運動耐容能が低下していた.また,HF合併症例におけるIMWの特徴は左室収縮能低下と左室拡大,ならびに栄養状態が不良であること,HF非合併症例におけるIMWの特徴は身体活動量が低下していることであった.多くの心疾患患者の中でも,特にこれらの特徴を有する症例では,治療の適応となり得るIMWの有無を判定するため吸気筋力の評価を考慮してよいと考える.

備考

本論文の要旨は,第30回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2021年3月,京都)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

小林義典;報酬額(興和製薬,フクダ電子),講演料(第一三共,ベーリンガーインゲルハイム),奨学(奨励)寄付(アボット(セント・ジュード・メディカル))

文献
 
© 2023 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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