2024 年 32 巻 2 号 p. 111-115
SAS診療における最近の話題として1.Comorbid insomnia and sleep apnea(COMISA),2. 上気道刺激療法(UAS),3.オンライン診療を解説する.COMISAは,閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と不眠の合併で,OSA患者の30%程度に不眠症状を呈し,予後が悪い傾向がある.中等症以上のOSA治療の第一選択は,持続陽圧呼吸(CPAP)療法であるが,COMISAではアドヒアランスが不良であることが多い.アドヒアランス不十分な場合,欧米では,10年程前よりCPAP不忍容の患者に対し,代替治療として睡眠中,吸気時に舌下神経を刺激するUASが行われている.2021年より本邦でも実施可能となり,その適応,効果等について述べる.さらにSAS患者においては2018年より遠隔モニタリング加算が新設され,診療支援的位置づけの対面診療を補完する遠隔医療の1つとなっているが,オンライン診療は十分には確立していない.睡眠医療の分野は,遠隔医療に適した領域でもあり,オンライン診療もSAS診療での有用性が高く,現状と課題について解説する.
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は,頻度の多い疾患であり,心血管系の合併症を生じやすい.日中の眠気の原因となることはよく知られているが,不眠との関連についてはあまり注目されていなかった.また,治療の第一選択は,持続陽圧呼吸(CPAP)療法であるが,合併症の予防のためには,アドヒアランスが重要であるが,教育や種々の介入を行なっても改善できない場合や,むしろ睡眠障害の原因となる場合がある.このようなCPAP不忍容である場合の代替療法が求められていた.そして,IoT技術の進歩と,新型コロナ感染症の蔓延もあり,オンライン診療が,急速に普及し,SAS診療における現状と課題を考える必要がある.OSAの最近の話題であるこれらについて解説する.
1. COMISA-不眠症と閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の合併OSA患者は,一般の23-50%に,不眠症は,6%に見られると推定され,睡眠障害で頻度の多い2つの疾患である.両者のステレオタイプは,前者は,中高年の男性,肥満であり,眠気があり,後者は,中高年の女性,心配性などの神経質であり,不眠症状を呈するという正反対のイメージを持たれている場合が多い.しかし,無呼吸が疑われ,検査を行った患者では,日中過眠群,睡眠障害群,症状軽度群の3つの症状グループに分類された1).日中過眠群では,眠気の合併が高頻度に見られ,睡眠障害群では,このような過眠症状が乏しくなり,中途覚醒,早朝覚醒の不眠症状が主体となっていた.症状軽度群では,不眠や過眠症状の訴えが少なく,高血圧や心血管疾患の合併が多くみられていた.
これらのグループ間では,性別・BMI・OSAの重症度に差がなく,症状の組み合わせによりこれらの違いを生じていた.
OSAと不眠症の合併は,COMISA(Comorbid Insomnia and Sleep Apnea)と呼ばれ,頻度は不眠症の約30%にOSAを,OSAの約30%程度の不眠症がみられると報告されている2,3).不眠症状を認めると,OSA単独の場合より,日常機能や生活の質への障害が大きい4).また,疫学研究においてもOSAの心血管疾患の合併には,不眠症が影響し, COMISAでは,心血管疾患の合併が75%多く,発症は2倍程度になる5).そして予後もコントロールに比べ,47%リスクが増大すると報告されている6).COMISAでは,不眠症状が強くなればなるほど,CPAPアドヒアランスが悪くなる7).不眠症状には,1時間以上寝付けない入眠障害,2回以上目が醒める中途覚醒(睡眠維持困難),2時間以上早く目がさめる早朝覚醒の3つがある.ある報告では,全OSA患者のうち,不眠症状は,68%に認め,図1に示すように入眠障害15%,中途覚醒59%,早朝覚醒28%に認め,これらは混在する8).
COMISAでの不眠症とOSAの関連性は,前述したように共に頻度の多い睡眠障害であるため,たまたまの併存と,病態生理的に相互に原因と結果となる可能性がある.後者としてはOSAでは無呼吸などの呼吸イベントの終了に覚醒を伴う場合があり,OSAが中途覚醒の原因となりうる.実際,OSAでのCPAP治療にて不眠症状は20%減少し,その大部分は,中途覚醒の改善による8).現在OSAの病態生理において,肥満,小顎症などの解剖学的因子,呼吸の不安定性,上気道開大筋の反応性低下に加え,睡眠の安定性の欠如(覚醒しやすさ)が重要な因子とされている.不眠症,つまり目が覚めやすい(過覚醒状態)が,覚醒に伴い呼吸の揺らぎが顕在化することでOSAの発症につながる可能性も考えられている.実際,覚醒しやすいOSA患者に睡眠薬の投与により,AHIが改善する報告がある9).
COMISAの診断,治療の確立したガイドラインはまだ存在していない.表1に示すように不眠症とOSAには,共通症状があり,どちらかの特有症状に注目しすぎると一方の診断だけになってしまう可能性がある.したがって,診断においては,併存の可能性を疑うことが重要である.そのため,OSAを疑われる患者では,不眠症状もルーチンに評価することが重要であろう.また,不眠症状を主体とする場合には,不眠症治療がうまくいかない場合などは,OSAのスクリーニング検査を行うことが重要である.女性OSA患者では,入眠障害や早朝覚醒障害を呈する場合が多く,典型的なOSAパターンを取らないことに留意すべきであろう.治療においては,COMISAでは,CPAPアドヒアランス不良や反応が不十分となりやすく,不眠症治療を行うことでCPAP治療の改善が期待しうるし,不眠症にOSAの併存が判明すれば,OSA治療が不眠症状の改善が期待できる10).
不眠症特有症状 | 共通症状 | OSA特有症状 |
---|---|---|
入眠障害 | 頻回の覚醒 | 無呼吸・低呼吸 |
長時間夜間党醒 | 睡眠維持障害 | いびき |
睡眠への不安 | 熟眠感の欠如 | 窒息感 |
過度の睡眠への関心 | 疲労感 | あえぎ |
睡眠妨害習慣の体得 | 注意・記憶・集中力の障害 | 多発覚醒反応 |
睡眠への思い込み・態度 | 社会・職業上の障害 | 口渇 |
体温や代謝の24時間以上化 | 気分障害 | 早朝時頭痛 |
QOLの低下 | 日中の眠気 |
上気道刺激療法あるいは,舌下神経電気刺激療法(hypoglossal nerve stimulation; HNS)は,2014年欧米で実用化され,2022年4月時点で欧米中心に24,000人に植え込みが行われている.日本では,2018年6月に医薬品医療機器総合機構(PMDA)に承認を受け,2021年6月に保険収載された.2022年2月に日本で第一症例が実施され,2022年11月時点で6例実施されている.心臓ペースメーカーのような本体を右胸壁に,肋間筋に吸気を感知するセンサーを,右下顎の舌下神経に刺激端子を植え込むもので,睡眠前にリモコン装置にて操作し,睡眠中に舌下筋を刺激し,呼吸イベントの発生を生じにくくするものである11).UASの総説で,直接比較ではないが,CPAPと同様程度のAHI低下(平均-23.6/時間)が見られ,眠気については,ESS -4.8点の低下し,CPAPの眠気のある患者での報告(-2.7)より大きい可能性がある12).UAS関連の重篤な副作用の報告はなく,手術関連として術後の違和感等が30%程度に見られ,1年以内に消失し,治療関連として電気刺激の不快感(76%)や舌擦傷(34%)が比較的長期間見られることが報告されている13).実施患者の自覚改善度は,非常に改善およびかなり改善が75%強で,満足度は,90%以上が,CPAPよりよく,治療を比べるとUASを希望し,他人にも勧め,満足すると述べている14).
日本におけるUASの適応は,表2に示すように保険診療上の適応は,7つの条件が挙げられている.容易に判断がつく項目もあれば,ウのように口腔内所見を観察することで,ある程度判断できるものもある.ただ,問題は,イのCPAP療法が不適又は不忍容であることと,カの薬物睡眠下内視鏡検査(DISE)で軟口蓋の同心性虚脱を認めないことの評価が重要である.
K190-8舌下神経電気刺激装置植込術 |
保険点数28,030点 |
ア AHIが20以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群であること |
イ CPAP療法が不適又は不忍容であること |
ウ 扁桃肥大等の重度の解剖学的異常がないこと |
エ 18歳以上であること |
オ BMIが30未満であること |
カ 薬物睡眠下内視鏡検査で軟口蓋の同心性虚脱を認めないこと |
キ 中枢性無呼吸の割合が25%以下であること |
DISEは薬物(主にPropofol)による睡眠下での内視鏡検査で,閉塞部位及び閉塞パターンの同定に利用するもので,その検査手技は手間と時間がかかり,リスク管理の上からは,麻酔科医の協力と実施場所(手術場)の確保が必要である.
CPAP療法の不適または不忍容も単純にCPAPアドヒアランスが不十分であるだけでよいのかは問題である.UASの効果判定は,50%のAHI低下かつAHI 20/時間未満にて有効と報告されることが多いが,この基準でも有効性は,70%前後とされ,30%程度は無効例である15).したがって,CPAPの使用のためのアプローチを十分に行わず,UASを試みることは治療を受ける患者にとってもメリットがない可能性がある上,医療費の浪費の恐れがあり,症例選択が重要であることを強調しておく.
現在(2022年11月時点),UASの実施可能な施設は,獨協医科大学,順天堂大学,太田睡眠学センター,藤田医科大学ばんたね病院,奈良医科大学,川崎医科大学,久留米大学で,加えて旭川医科大学,東京医科大学,関西医科大学で準備予定となっている.
3. SAS診療におけるオンライン診療の現状と課題遠隔医療とは,情報通信機器を活用した健康増進,医療に関する行為であり,遠方や通院機会のためのアクセス改善と必要時に医療提供するものである.厚生労働省より発表されているオンライン診療の適切な実施に関する指針(令和4年1月一部改訂)があり,遠隔医療は,診療行為であるオンライン診療と診療支援である遠隔モニタリングとデジタル療法からなる.SAS診療での遠隔モニタリングは,CPAP内部データである使用頻度,使用時間,残存AHI,リークの情報を自動的にクラウド上に収集し,外来にて確認できるものである.厚労科研研究にて3ヶ月間隔の遠隔モニタリングでのCPAPアドヒアランスは,毎月受診のそれに対して非劣勢であり,患者の満足度は高かったことが示された16).それを踏まえ,2018年より保険診療での加算(150点)が認められているが,2020年時点では,CPAP全体の管理の5%程度であり,まだ,普及は進んでいない.
もう一つの診療支援としてデジタル療法があるが,CPAPの自己管理用アプリ(フィリップスのDreamMapperTMなど)であり,患者自身がCPAPアドヒアランスを把握でき,また自己学習のための教材,リマインド,注意喚起の機能を有し,自己管理のため活用が期待される.
他方,オンライン診療は,医師-患者間において,情報通信機器を通して,リアルタイムに患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為である.2022年の日本医学会連合の診療ガイドライン検討会においてオンライン診療による継続診療可能な疾患/病態(1.2版)で,I 内科系(7)睡眠障害に病状が安定している「睡眠時無呼吸症候群」があげられ,身体合併症のモニタリングに留意することとされている.SAS診療におけるオンライン診療は,患者サイドの利点として,時間・距離的制約が少なく,また,専門的診療の機会が確保されることである.2022年時点で,睡眠学会認定施設は,9県において1施設もない状況であり,診療体制に地域差が存在する.それを補完する上でも,オンライン診療は有効な手段である.また,ケア・オーケストレーター(フィリップス社)という呼吸装置治療支援プログラムがあり,技術的には,距離,時間に関係なく,CPAP圧の処方変更等が可能である.初診患者においては,いびき,無呼吸は,緊急性や情報量,対応手段の問題で初診からのオンライン診療に適さない状態には含まれていない.在宅睡眠時無呼吸検査(HSAT)で,診断・スクリーニングは可能であり,心疾患,神経疾患などの基礎疾患がある場合には,注意すれば,初診のオンライン診療も可能である.
現状では,新型コロナ感染症蔓延下で時限的処置としてSAS診療のオンライン診療が可能となっていたが,ある企業からの情報では睡眠障害の診療を標榜している医療機関15施設/全オンライン医療機関750施設(2%)程度であった(2022年10月時点).CPAP管理料は,2022年4月改定ではオンライン診療で認められておらず,新型コロナ感染症での時限処置の対応で実施していた.したがって,時限処置終了後では診療報酬の裏付けがない.
したがって,重篤な合併症を有する場合での診断や治療での対応やCPAP導入する場合での患者指導,操作チェック体制,診療報酬面での裏付けなど解決すべき課題も多い.
SAS診療における最近のトピックスを3つの点から解説した.不眠症とOSAの合併であるCOMISAは,QoL,予後を悪化させ,CPAPアドヒアランス低下に繋がる.CPAP不適,不忍容の患者にUASが本邦でも実施可能となり,代替治療としての選択肢の1つであろう.オンライン診療は,SAS診療で有望な医療提供手段であるが,課題も多い.
中山秀章;研究費・助成金(帝人ファーマ),寄付講座(フィリップス・ジャパン,小池メディカル)