日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
Online ISSN : 2189-4760
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ISSN-L : 1881-7319
32 巻, 2 号
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教育講演
  • 猪飼 やす子
    原稿種別: 教育講演
    2024 年 32 巻 2 号 p. 105-110
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    アドバンス・ケア・プランニング(ACP; Advance Care Planning)は,医療に価値観を反映させるプロセスであり,「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(2018年改訂)」に概念が盛り込まれている.死は自ら体験し得ない現象であり,ACPは死にゆく過程への緩和ケアといえる.

    急性増悪により間質性肺炎療養者の命にかかわる時,事前に意思表示の機会がなければ,医療に価値観を反映させることの保障ができず,その判断は家族に委ねられる.意思決定は,欧米では本人の自律が主流であるが,わが国では療養者と家族,医療者との関係性の中で意思決定を行う自律(relational autonomy)が一般的である.価値観を医療に反映させることは自律の原則への支援であり,ACPは重要である.

    看護師は生活援助の際,療養者の生活習慣を確認し価値観をケアに反映させており,日頃からACPを実践している.Kalluri et al(2021)は,早期からACPの介入を提示しており,ACPは,Good deathへの援助といえる.

  • 中山 秀章
    原稿種別: 教育講演
    2024 年 32 巻 2 号 p. 111-115
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    SAS診療における最近の話題として1.Comorbid insomnia and sleep apnea(COMISA),2. 上気道刺激療法(UAS),3.オンライン診療を解説する.COMISAは,閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と不眠の合併で,OSA患者の30%程度に不眠症状を呈し,予後が悪い傾向がある.中等症以上のOSA治療の第一選択は,持続陽圧呼吸(CPAP)療法であるが,COMISAではアドヒアランスが不良であることが多い.アドヒアランス不十分な場合,欧米では,10年程前よりCPAP不忍容の患者に対し,代替治療として睡眠中,吸気時に舌下神経を刺激するUASが行われている.2021年より本邦でも実施可能となり,その適応,効果等について述べる.さらにSAS患者においては2018年より遠隔モニタリング加算が新設され,診療支援的位置づけの対面診療を補完する遠隔医療の1つとなっているが,オンライン診療は十分には確立していない.睡眠医療の分野は,遠隔医療に適した領域でもあり,オンライン診療もSAS診療での有用性が高く,現状と課題について解説する.

シンポジウム
  • 小林 千穂
    原稿種別: シンポジウム
    2024 年 32 巻 2 号 p. 116-120
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    慢性呼吸器疾患患者の呼吸困難は,運動耐容能や身体活動性の低下に影響を及ぼすことから,呼吸困難への対処と身体活動性を低下させることなく療養生活を送るために必要なセルフマネジメント支援が求められる.また,セルフモニタリングはセルフマネジメントに不可欠な要素であり,看護師は患者とともに症状の程度や体調の変化を確認すると同時に,情緒面への関わりを行いながら,より良いセルフマネジメントに繋げていくことが重要である.さらに,看護師は患者がどの程度の運動能力をもち活動をしているかを把握する必要性があり,運動能力及び身体活動度が低下している患者に対しては,呼吸困難等の症状に対する支援を優先的に行い,個別の症状や身体機能に応じた介入が求められる.

  • 佐野 裕子
    原稿種別: シンポジウム
    2024 年 32 巻 2 号 p. 121-124
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    外来呼吸リハビリテーションの役割は,呼吸器疾患患者の機能の回復・維持にとどまらず行動変容や健康増進への介入など,増悪を繰り返さずに安定した状態を維持することである.身体活動性(daily physical activity; DPA)の低下は全身状態の悪化をもたらし増悪回数が多いほど慢性呼吸器疾患患者の生存率を低下させる.DPAを良好に維持し入院しない生活を継続することは在宅患者の最重要課題である.DPAの維持・改善には生活活動を見直し,教材や療養日誌を用いながらセルフマネジメント教育を重視する.筋肉量を減少させないために栄養摂取と併せて筋力トレーニングを行うことは重要であり,医療スタッフ不在で非監視下で行われる在宅での運動療法は安全に行うことが肝要である.増悪入院しない・させない外来におけるリハビリテーション早期介入のために,医師には予防的観点から積極的に処方して頂きたい.

  • 吉井 千春
    原稿種別: シンポジウム
    2024 年 32 巻 2 号 p. 125-129
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    【背景と目的】喫煙率は低下傾向にあるが,未だに喫煙を擁護する人達がおり,社会の禁煙推進の障害となっている.喫煙擁護側と禁煙推進側のタバコに対する認識のギャップを検証する目的で,加濃式社会的ニコチン依存度調査票(KTSND)による研究をレビューした.

    【結果】KTSNDは10問30点満点で社会的ニコチン依存が高いほど高得点になる.喫煙状況別の得点は,非喫煙者<前喫煙者<喫煙者であった.敷地内禁煙に反対する人や,喫煙者に対して禁煙の指導や助言を行わない人では高得点を示した.受動喫煙を気にしない非喫煙者も高得点になった.一方喫煙しにくい職場では得点が低い傾向を示した.未成年者に対する防煙・禁煙教育は直後にはKTSNDが低下したが,長期的効果は不明であった.

    【結語】このギャップを埋めるためには,吸いにくい環境を広げるなど社会的ニコチン依存を凌駕する対策を継続的に行う必要がある.

  • 森田 純二
    原稿種別: シンポジウム
    2024 年 32 巻 2 号 p. 130-132
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    半世紀前の日本ではタバコはどこででも吸う事が出来,男性の喫煙率は80%を超えていた.受動喫煙の害が明らかとなり禁煙支援活動も活発化し病院や学校での分煙や敷地内禁煙が進んだ.2006年4月からは「ニコチン依存症管理料」が算定され,喫煙習慣が依存症と診断され治療することが開始された.その結果男性の喫煙率は85%から最近では30%を切り,男女全体では20%を切った.しかしタバコ産業は近年新たに電子タバコや加熱式タバコを開発して,低タール,低ニコチンをあたかも害の少ないものとして新たな市場を開発しようとしている.そこで時代にあった情報を社会や喫煙者に伝え,新たな喫煙者を出さない事を目指す必要がある.さらに2019年から世界的に蔓延しているCOVID-19に関してもいろいろな情報が錯綜しているが,喫煙者が重症化しやすいことや死亡しやすいことは明らかで,これらの対策も急務である.時代の変化が多様化する中,我々の禁煙支援もそれに対応する必要があると考える.

  • 阿河 光治, 佐竹 晃太
    原稿種別: シンポジウム
    2024 年 32 巻 2 号 p. 133-137
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    外来の時間的制約や外来通院の間に生じる指導の空白期間が禁煙治療の課題であった.それらを解決するために「CureApp SC® ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」が開発され,2020年に治療アプリとして日本で初めて保険適用となった.治療アプリを利用することで,外来通院の間でも個別化された行動療法ガイダンスを配信し,知識やセルフ・コントロールの手段を提供することができるようになった.また,コロナ禍で臨時特例措置として解禁された初診患者からのオンライン診療が恒久化され,2022年度診療報酬改定では情報通信機器を用いた場合の初診料と再診料が新設された.そのようにして新たな診療形態の1つとなった治療アプリ併用のオンライン禁煙外来に関するエビデンスに加え,治療アプリの普及に関する展望も本稿では概説する.

  • 田淵 貴大
    原稿種別: シンポジウム
    2024 年 32 巻 2 号 p. 138-142
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    日本では,加熱式タバコが急速に普及し,成人の10%以上が使うようになっています.現在得られる情報から,加熱式タバコのリスクは紙巻タバコよりも低いとは言えません.加熱式タバコを例外扱いするのではなく,タバコ規制・禁煙支援を推進していくことが求められます.

  • 山本 晃義
    原稿種別: シンポジウム
    2024 年 32 巻 2 号 p. 143-146
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy; HOT)患者は,ほとんどが酸素濃縮器を使用しており,大規模災害による長期停電は患者の生命に危険が及ぶ.当院におけるHOT患者に対する大規模災害への備えは以下の通りである.

    (1)HOT患者のリストを定期的に作成し保管

    (2)HOT患者会において災害をテーマにした講演を行う

    (3)避難先を明示した「緊急時カード」の利用

    (4)各自の疾患名や酸素吸入量を記載した「患者カード」の常時携帯

    (5)慢性呼吸不全患者への対応を念頭においた災害訓練

    (6)4台の酸素濃縮器を院内に常備

    (7)大規模災害時,入院不要のHOT患者を収容するためのHOTセンターを開設

    (8)酸素供給業者と大規模災害時の業務提携を締結

    以上のような当院の取り組みが,いつ発生するかもしれない大規模災害における慢性呼吸不全患者への各施設の対応の参考になれば幸いである.

  • 田神 由香
    原稿種別: シンポジウム
    2024 年 32 巻 2 号 p. 147-150
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー HTML

    南海トラフ巨大地震は,今後30年以内にマグニチュード8~9の巨大地震が70~80%の確立で発生すると予測されている.大規模災害に備え,避難行動要支援者である在宅酸素療法患者の避難行動と思いに着目し,避難行動を妨げる要因を抽出することでより実行可能な避難行動について方策を見出すことができるのではないかと考えた.避難行動に影響する因子を身体面,環境面,心理社会面の3つのカテゴリーに分けアンケート調査を実施した.大規模災害が起きた場合,避難行動を起こすと答えたのは2人,起こさないと答えたのは7人,わからないと答えたのは5人だった.互助と避難行動の関係では,67%の方が近隣との交流があるものの避難しないと答え,同居家族が居る方では50%の方が避難しないと答えた.近隣との交流があっても,病状は知られたくない,他者に迷惑をかけたくないという思いが避難行動を妨げる要因となっていることも示された.

ワークショップ
  • 伊藤 史
    原稿種別: ワークショップ
    2024 年 32 巻 2 号 p. 151-153
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー HTML

    慢性呼吸器疾患を抱える患者は,病気と長く付き合いながら様々な生活の変化を体験している.看護外来において,その人らしさを支えるケアのプロセスの中で,患者の病気の体験,苦悩,困りごとを知り価値観を共有する技術,患者が身体の変化を理解することを助け療養法をともに検討する技術,社会資源を活用し生活を再調整する技術を用いていた.また,患者の力を高め支えるために,制御体験,言語的説得,行動に対する意味づけや必要性など自己効力感に影響を及ぼす要因に働きかけることが必要と考える.患者と継続的に意向や困りごとを相談していくことが大切である.それは,病院(外来-病棟)や地域の看護,多職種を繋いだ関わりが重要であり,保健・医療・福祉の連携がなくてはならない.

  • 河田 照絵
    原稿種別: ワークショップ
    2024 年 32 巻 2 号 p. 154-158
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    人にとって食べることは生きることであり,その意味は多岐にわたる.慢性呼吸器疾患患者のみならず,加齢や慢性疾患に伴う嚥下機能の低下によって誤嚥リスクは高まり,高齢者の肺炎の多くは誤嚥に関連した肺炎である.誤嚥性肺炎を繰り返し,嚥下能力の回復が見込めない終末期にある患者に対し,できる限り口から食べ続けていくことを願う一方で,口から食べることをやめれば肺炎を繰り返すことを防げると判断し,本人,家族への口以外から栄養を摂る方法を選択することも少なくない.本人,家族から口から食べ続けたいと希望されたとき,医療者はどのように対応することができるのだろうか.ここでは,限られた時間が迫っている時に「良い日々を,最期を過ごせた」とお互いに思える支援のあり方について検討する.

共同企画
  • 陳 和夫, 長谷川 久弥
    原稿種別: 共同企画
    2024 年 32 巻 2 号 p. 159-161
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー HTML
  • 長谷川 久弥
    原稿種別: 共同企画
    2024 年 32 巻 2 号 p. 162-164
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    先天性中枢性低換気症候群(CCHS)は,呼吸中枢の先天的な障害により,典型例では新生児期に発症し主に睡眠時に,重症例では覚醒時にも低換気をきたす疾患である.発生率は欧米の報告では,5-20万人に1人とされている.日本では少なくとも15万人に1人以上はいるものと推察され,百数十名の存在が確認されている.CCHSは1970年に初めて報告された比較的新しい疾患である.2003年にはCCHSの病因遺伝子として,自律神経の分化・誘導に重要な役割を果たしているPHOX2B遺伝子が特定された.治療は人工呼吸を中心とした呼吸管理が主体となる.CCHSの低換気は生涯にわたり続くため,患者の成長に合わせ,気管切開管理,マスクによる呼吸管理などを選択していく.最近では横隔膜ペーシングが保険適応となり,呼吸管理の選択肢が拡がっている.CCHSの自律神経障害に伴う様々な合併症の管理も重要で,複数科によるサポートが必要となる.また,成人に達する患者も増えてきており,成人診療科への移行も新たな問題として起こってきている.

  • 佐々木 綾子
    原稿種別: 共同企画
    2024 年 32 巻 2 号 p. 165-167
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    先天性中枢性低換気症候群(Congenital central hypoventilation syndrome: CCHS)は,呼吸調節と自律神経系が障害される疾患で,PHOX2B遺伝子バリアントが病因である.これまで山形大学で検査を施行しバリアントを認めた症例での遺伝型と臨床型の比較,さらに呼吸管理法と発達予後の関連について発表してきた.ポリアラニン伸長バリアント(PARM)では伸長数が大きいほど合併症も多く,覚醒時にも人工呼吸が必要な症例も認められた.非ポリアラニン伸長バリアント(NPARM)では人工呼吸器の装着を要しない軽症例から覚醒時にも人工呼吸を必要とする重症例まで存在し,症状の多様性を認めた.日本では精神発達遅滞の合併が欧米と比べると多く認められた.遺伝子診断は早期介入が可能となり,適切な呼吸管理と合併症管理を行う上で有用である.

  • 山田 洋輔, 長谷川 久弥
    原稿種別: 共同企画
    2024 年 32 巻 2 号 p. 168-173
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー HTML

    先天性中枢性低換気症候群(congenital central hypoventilation syndrome: CCHS)は,呼吸中枢の先天的な障害により呼吸困難のない低換気を呈する症候群である.10-20万出生に1人の希少疾患であることや,自覚症状がない低換気という非典型的症状のため,呼吸状態の評価方法や呼吸管理について定まったものがない.このことは,小児期診療はもちろん,成人診療科への移行期医療でも大きな障壁となる.我々は,CCHSに対して呼吸中枢,気道/呼吸機能,換気状態を評価する包括的呼吸評価法を呼吸ドックと名付けて作成した.全国の患者に実施しCCHSの病態の理解や適切な呼吸管理の調整などを行っている.呼吸ドックにより覚醒時低換気が少なくないことが判明したが,従来の人工呼吸器では治療困難であった.そこで我々は,覚醒時低換気に対する新しい治療として横隔膜ペーシングの国内導入を主導している.まだ道半ばであるが,歩みは着実に進んでおり,引き続きデータを集積しCCHS診療の標準化を目指す.

  • ―先天性中枢性低換気症候群の移行期医療を含めて―
    寺田 二郎
    原稿種別: 共同企画
    2024 年 32 巻 2 号 p. 174-179
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー HTML

    指定難病「肺胞低換気症候群」は,明らかな器質的疾患を認めない中枢性呼吸調節障害/睡眠関連低換気障害を病態とする難治性稀少性疾患であり,睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)「睡眠関連低換気障害」における(1)肥満低換気症候群の一部(覚醒時の肺胞低換気が夜間のCPAP療法でも改善しない場合),(2)先天性中枢性低換気症候群(CCHS),(3)特発性中枢性肺胞低換気の3病態が想定されている.肺胞低換気の発症メカニズムの詳細に関しては,病因遺伝子PHOX2Bが同定されているCCHS以外ほとんど不明である.

    本稿では,厚生労働省指定難病としての肺胞低換気症候群の診療について解説する.中でも,CCHSは呼吸管理の進歩に伴い成人に至る患者が増えつつあり,また近年は成人期発症例やPHOX2B遺伝子変異キャリアで未診断成人例の報告もあり,移行期医療の観点も含めて紹介する.

ランチョンセミナー
  • ―2022 ESC/ERSガイドラインをふまえて―
    西山 理
    原稿種別: ランチョンセミナー
    2024 年 32 巻 2 号 p. 180-184
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    肺高血圧症(pulmonary hypertension: PH)は何らかの原因で肺動脈圧が上昇する疾患であるが,なかでも肺動脈性肺高血圧症(pulmonary artery hypertension; PAH)が中心的な病態である.2022年に肺高血圧の診断と治療に関するEuropean Society of Cardiology/European Respiratory Society(ESC/ERS)ガイドラインが出され,新たな診断基準,リスク分類に基づいた初期併用療法の重要性,併存症を有するPAH(フェノタイプ分類)などが提唱された.リハビリテーションについては,「薬物療法下のPAH患者に対し監視下でのリハビリテーションは推奨される」とされ推奨度が高くなった.本項では,肺高血圧症について診断,薬物治療,リハビリテーションについて,新たなガイドラインを踏まえて概説したい.

  • ―理学療法士の立場から考える―
    稲垣 武
    原稿種別: ランチョンセミナー
    2024 年 32 巻 2 号 p. 185-190
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    近年,肺高血圧症患者に対する呼吸リハビリテーションの報告が散見され,運動耐容能や健康関連QOL(quality of life)改善の短期的な効果や安全性が示されている.2022年の欧州心臓病学会/欧州呼吸器学会のガイドラインでも,「薬物療法を行っている患者に対する監視下の運動療法」はクラスIと推奨されるようになった.呼吸リハビリテーションの内容は,COPDに対するものと大きく変わりなく,低強度運動療法,ADLトレーニング,患者教育等から構成されるが,開始時期は疾患に対する治療により肺動脈圧が低下し,その状態が安定してから考慮されるべきであり,診療科医師と密な連携を行った上での症例選択とリスク管理が重要である.ただ,適切に実施すれば,運動耐容能や健康関連QOLを改善できる安全で有効なadd-on therapyになりうると考えられる.

原著
  • 萩森 康孝, 沖田 将斗, 石丸 悠花, 箭代 理沙
    原稿種別: 原著
    2024 年 32 巻 2 号 p. 191-198
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    【目的】本研究の目的は,肺炎で一般病棟に入院した症例に対して,多職種連携を行いやすい環境を作るための取り組みを行い,実施前後の比較をして,その効果を検証する事である.

    【対象と方法】対象は,2014年と2018年に肺炎で一般病棟に入院し,呼吸リハを実施した患者である.方法は,2年間の患者の属性,併存疾患,入院時状態,経過や転帰に関して2群間比較をした.次に,各アウトカムに対して,取り組みがどの程度の影響を及ぼしたかを重回帰分析を用いて解析した.

    【結果】2014年は137例,2018年は137例が解析対象となった.2群間比較では,属性比較,併存疾患等に有意差を認めなかった.治療経過で,2018年では呼吸リハ(p<0.01)や経腸栄養(p<0.01)開始に有意差を認めた.重回帰分析においても,年度別は呼吸リハや栄養療法の早期開始,入院期間に影響を与えていた.

    【結論】肺炎患者に対して,一般病棟においても多職種連携による介入の重要性が示唆された.

  • 服部 暁穗, 東 正徳, 田中 翔太郎, 半崎 隼人, 三角 舞, 武井 紀代美, 井角 勇貴, 島 玲, 福島 有星, 上田 哲也
    原稿種別: 原著
    2024 年 32 巻 2 号 p. 199-204
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    【背景】COVID-19患者に対する非挿管下腹臥位療法による酸素化の改善は報告されているが,患者の協力が必要であり実施率は高くない.

    【対象と方法】集中治療室に入室した重症COVID-19患者9名を対象とし,理学療法士が介入して腹臥位療法を導入した.評価項目は導入後72時間の実施率および有害事象の頻度,初回腹臥位療法時の酸素投与量,経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2),呼吸数の変化とした.

    【結果】腹臥位療法導入後72時間の実施率は81.4%であり,有害事象は2例にのみ疼痛を認めた.腹臥位実施前から実施中にかけてSpO2,呼吸数は有意な改善を認めた(SpO2:92.9±3.3%,97.4±1.7%,p=0.014,呼吸数:29.8±7.7回/分,24.1±4.5回/分,p=0.040).

    【結語】理学療法士による腹臥位療法の実施率は良好で有害事象は少なく,呼吸状態に対する効果も良好であった.

  • 霜山 真, 三塚 由佳, 高橋 識至, 小川 浩正, 佐藤 冨美子
    原稿種別: 原著
    2024 年 32 巻 2 号 p. 205-211
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    【目的】非侵襲的陽圧換気(NPPV)を受けている慢性呼吸不全患者に対する遠隔看護プログラムの効果を,介入前後のセルフケア能力の比較で検討した.

    【方法】総合病院呼吸器内科外来のNPPV患者を対象に,遠隔看護プログラムを3カ月間実施した.低セルフケア能力群と非低セルフケア能力群に分けて,介入前後のSelf-Care Agency Questionnaire(SCAQ)得点を比較した.また,介入前後の変化量を計算して群間比較を行った.

    【結果】対象は15名(男性9名,女性6名)であった.低セルフケア能力群7名のSCAQ総得点(中央値)は,介入前117.0,介入後123.0,非低セルフケア能力群8名の総得点は介入前136.0,介入後134.5で有意差がなかった.変化量の群間比較の結果,低セルフケア能力群は非低セルフケア能力群と比較して総得点および下位尺度得点が有意に高かった(p<0.05).

    【結論】NPPV慢性呼吸不全患者に対する遠隔看護プログラムを,介入前のセルフケア能力が低い者に対して実施することにより,セルフケア能力を向上させる可能性が示唆された.

  • 森 輝樹, 石原 敦司, 佐々木 優依, 細川 貴弘, 増田 篤紀, 吉眞 孝, 都竹 晃文
    原稿種別: 原著
    2024 年 32 巻 2 号 p. 212-217
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    【背景】挿管人工呼吸器管理されたCOVID-19患者に対する腹臥位により,酸素化の改善を認める症例を多数経験した.

    【目的】挿管人工呼吸器管理されたCOVID-19患者に対する腹臥位の効果と有害事象について検討することを目的とした.

    【対象と方法】重症COVID-19で人工呼吸器を装着した成人17例を対象とし,1回あたり16時間以上腹臥位を行い,腹臥位前,腹臥位8時間後,腹臥位終了4時間後のP/F ratioを測定した.

    【結果】腹臥位実施前と実施8時間後のP/F ratioの最高値との比較で158.3±46.4から291.0±88.8へと有意差(P<0.01)をもって増加し,実施前と終了4時間後の比較でも272.7±76.7へと有意差(P<0.01)をもって増加した.腹臥位に直接的に関わる有害事象の発生は認めなかったが,集中治療を行う中で腹臥位に関連する可能性のある,気胸や口腔内在菌菌血症などの有害事象は41%に認めた.

    【結論】挿管人工呼吸器管理されたCOVID-19患者における腹臥位は人工呼吸器の貴重な補助手段となり得る.

  • 渡辺 伸一, 金谷 貴洋, 岩崎 拓海, 渡辺 静香, 小久保 晃, 森田 恭成
    原稿種別: 原著
    2024 年 32 巻 2 号 p. 218-224
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー HTML

    【目的】人工呼吸患者における退院時の普通食経口摂取自立と抜管後の経口摂取開始までの日数との関連について調査した.

    【方法】対象は48時間以上人工呼吸管理となった患者で退院時の普通食経口摂取自立[functional oral intake scale(FOIS)≧6]と非自立(FOIS<6)の2つのグループに分類し,比較検討した.解析は,普通食経口摂取自立を目的変数とした多変量ロジスティック回帰分析を行った.

    【結果】903例の取り込み患者のうち,136例(普通食経口摂取自立群94人,非自立群42人)を解析対象とした.多変量ロジスティック回帰分析の結果,年齢(オッズ比:0.96,95%信頼区間:0.93~0.99,p=0.028),初回経口摂取までの日数(オッズ比:0.95,95%信頼区間:0.90~0.99,p=0.009)が有意な変数であった.

    【結論】年齢および抜管後経口摂取の開始までの日数は,退院時の普通食経口摂取自立と有意に関連していた.

  • 野田 直孝, 出水 みいる, 若松 謙太郎, 川崎 雅之
    原稿種別: 原著
    2024 年 32 巻 2 号 p. 225-231
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    【背景】慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者における経時的な筋肉量低下は身体活動性低下や生命予後悪化に繋がる可能性がある.

    【目的】COPD患者の筋肉量関連因子を解析し,筋肉量の経時的な変化を評価する.

    【方法】当院に通院したCOPD患者の総筋肉量を登録時,6ヶ月後,12ヶ月後に体成分分析装置を用いて測定し,血液検査(アルブミン,中性脂肪,総コレステロール,クレアチンキナーゼ),COPD Assessment Test(CAT),Baseline Dyspnea Index(BDI),TDI(Transition Dyspnea Index),%1秒量,食事摂取量を評価した.

    【結果】26例中,登録時の筋肉量低下は14例あり,増悪歴とBDIが関連していた.登録後に増悪があった症例は観察期間内で呼吸困難症状の悪化と経時的な筋肉量低下がみられたが,登録後に増悪がなかった症例は観察期間内で経時的に筋肉量が増加した.

    【結論】COPD患者の観察開始時における筋肉量低下を予測する際に増悪歴とBDIが有用であり,増悪を抑制しながら自覚症状をコントロールすると経時的な筋肉量増加が期待される.

  • 大嶋 佑紀, 松嶋 真哉, 相川 駿, 小林 孝至, 駒瀬 裕子, 粒来 崇博, 吉田 美紀, 清水 朋子
    原稿種別: 原著
    2024 年 32 巻 2 号 p. 232-238
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2023/08/08
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    【緒言】COPD患者への栄養食事指導(以下,栄養指導)は,個別化した食事療法の提案が可能で外来患者に適応しやすい反面,効果を検証した報告は少なく,特に病期が軽度な患者への介入効果は明らかでない.今回病期I~II期の安定期外来COPD患者へ栄養指導を実施し,効果を検討した.

    【方法】対象は当院の外来COPD病診連携クリニカルパスを利用し,栄養指導を実施した患者98例.摂取栄養量,体重,体組成を評価し,初回栄養指導時(以下,介入時)と介入時から1年後の栄養指導時(以下,介入後)で比較した.

    【結果】1日の摂取エネルギー量は介入時 1,667±322 kcal/day,介入後 1,795±394 kcal/dayと有意に増加.体重は介入時 59.0±11.2 kg,介入後 58.7±11.2 kgと有意な変化を認めなかった.除脂肪体重指標は介入時 16.3±2.2 kg/m2,介入後 17.1±2.6 kg/m2と有意に増加した.

    【考察】病期I~II期の安定期外来患者への栄養指導は,摂取エネルギー量の増加,体重の維持及び除脂肪体重指標の増加に寄与することが示唆された.

  • 浦上 勇也, 原田 亜記, 守谷 縁, 久家 哲也, 山本 和幸, 馬場 香菜子, 飯原 なおみ
    原稿種別: 原著
    2024 年 32 巻 2 号 p. 239-244
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
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    【背景】吸入療法は気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患治療において重要であるが,保険薬局における吸入指導を拒否する患者は少なくない.

    【目的】薬剤師による吸入指導の提案をどの程度承諾するかの実態,及び吸入手技不良の因子を検討した.

    【方法】薬剤師がデモ器を用いた吸入指導の提案を行った者を対象に,各種因子を後方視的に調査した.吸入指導の承諾者においては吸入手技不良の因子について解析した.

    【結果】解析対象283名において,吸入指導の承諾群155名(54.8%)と非承諾群128名(45.2%)となった.承諾群は非承諾群と比べ,吸入アドヒアランス良好者,女性,及びかかりつけ薬剤師制度の利用者が多かった.吸入手技不良の因子は,75歳以上,及び使用期間4年以上であった.

    【考察】潜在的吸入手技不良者が多数存在するため,医師と薬剤師が連携すること,及びかかりつけ薬剤師制度の活用が重要となる可能性がある.

  • 豊田 裕規, 髻谷 満, 松村 佑介, 森 広輔, 大野 一樹, 川原 一馬, 大松 峻也, 千住 秀明, 神津 玲
    原稿種別: 原著
    2024 年 32 巻 2 号 p. 245-250
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー HTML

    【目的】肺非結核性抗酸菌(non-tuberculous mycobacterium:以下NTM)症患者の主観的な睡眠の質を評価し,睡眠障害の有訴者率と臨床的特徴を明らかにすること.

    【対象と方法】対象は肺NTM症の内科的治療を目的に入院中に理学療法が施行された患者とした.主観的な睡眠の質の評価には,ピッツバーグ睡眠質問票を用い6点以上を睡眠障害とした.対象者の基本情報に加えて呼吸機能,呼吸困難,運動耐容能,不安・抑うつ,健康関連QOLを評価し,睡眠障害の有訴群と非有訴群の比較を行った.

    【結果】137例が解析対象者となり,72例(52.6%)に睡眠障害を認めた.また,睡眠障害は無職,拘束性換気障害,呼吸困難,不安を有する者に多く,健康関連QOLが低値であった.

    【結語】肺NTM症患者における睡眠障害の有訴者率は52.6%と高く,同患者においては他の慢性呼吸器疾患以上に,睡眠障害の併存を考慮する必要があり,そのための定期的な評価が必要である.

症例報告
  • 岩﨑 円, 韮澤 紀文, 穂苅 諭, 大嶋 康義, 髙橋 敦宣, 永井 明日香, 上路 拓美, 菊地 利明, 木村 慎二
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 32 巻 2 号 p. 251-256
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー HTML

    Platypnea-orthodeoxia症候群(POS)は,起座位で低酸素血症を来たして呼吸困難が増悪し,臥位では改善するという特徴を持つ稀な症候群である.本邦においてPOS症例の報告は少なく,かつ周術期呼吸リハビリテーション(周術期呼吸リハ)を実施した報告はほとんどない.今回,卵円孔開存による右→左シャントによりPOSを有する食道胃接合部癌患者に対し周術期呼吸リハを実施した.術前は仰臥位での理学療法を中心に行い,術後は仰臥位での理学療法に加え経皮的動脈血酸素飽和度に注意し離床を進めた.術後酸素療法期間は延長したが呼吸器合併症を予防することができ,歩行獲得に至った.POS症例に対しても,仰臥位での理学療法を中心に行い経皮的動脈血酸素飽和度に注意しながら離床を行うことで,術後呼吸器合併症を予防しactivities of daily livingの再獲得を図ることが可能であると考えられた.

研究報告
  • 上原 直子, 駒瀬 裕子, 國島 広之, 奥田 知明
    原稿種別: 研究報告
    2024 年 32 巻 2 号 p. 257-261
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2023/09/26
    ジャーナル フリー HTML

    【背景と目的】吸入指導や肺機能検査におけるCOVID-19の感染リスクを推定するために微粒子可視化装置を用いて飛沫を測定した.

    【対象と方法】呼吸器の基礎疾患がない非喫煙者の男性・女性1名.ピークフロー値の測定,エアロチャンバーを用いたpMDIの吸入,DPIの吸入,呼吸機能の測定での飛沫数を測定し,マスクなしの会話と比較した.

    【結果】1)飛沫の数には個人差があった.2)ピークフロー値の測定では口元での飛沫はほとんどなく口元から30 cmで見られた.3)pMDI+エアロチャンバーでは口元での飛沫はやや多かったが口元から30 cmではほとんど見られなかった.4)エリプタトレーナーでは飛沫は少なかった.5)肺機能の測定では飛沫は少なかった.

    【考察】いずれもマスク無しの会話に比べて飛沫は少なく,適切な感染対策を行えば吸入指導及び肺機能検査は可能と考えられる.

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