2024 年 32 巻 2 号 p. 121-124
外来呼吸リハビリテーションの役割は,呼吸器疾患患者の機能の回復・維持にとどまらず行動変容や健康増進への介入など,増悪を繰り返さずに安定した状態を維持することである.身体活動性(daily physical activity; DPA)の低下は全身状態の悪化をもたらし増悪回数が多いほど慢性呼吸器疾患患者の生存率を低下させる.DPAを良好に維持し入院しない生活を継続することは在宅患者の最重要課題である.DPAの維持・改善には生活活動を見直し,教材や療養日誌を用いながらセルフマネジメント教育を重視する.筋肉量を減少させないために栄養摂取と併せて筋力トレーニングを行うことは重要であり,医療スタッフ不在で非監視下で行われる在宅での運動療法は安全に行うことが肝要である.増悪入院しない・させない外来におけるリハビリテーション早期介入のために,医師には予防的観点から積極的に処方して頂きたい.
WHO(世界保健機関)が「健康寿命」という概念を2000年に提唱して以来,人間の寿命の長さだけではなく,「健康に生活できる期間」をいかにして延長するかが重要視されている1).慢性呼吸器疾患患者の増悪は,健康関連QOLや予後を左右する因子であり,近年の呼吸リハビリテーションは予防としての介入が肝要であり,機能の改善や維持にとどまらない2).COPD(慢性閉塞性肺疾患)診療と治療のためのガイドライン第6版では,安定期COPDに対して運動療法を含む呼吸リハビリテーションプログラムを行うことを強く推奨しており,不可欠の非薬物療法として位置づけられている3).呼吸リハビリテーションはライフスタイルを改善するプロセス(行動変容)であり2),「人生100年時代」を生きるために健康寿命を意識することは,慢性呼吸器疾患患者においても大きな課題である.入院せずに在宅で健康を維持・増進し,増悪予防のためのセルフマネジメント行動を,いかに患者自身で継続できるかが鍵となる.外来における安定期慢性呼吸器疾患患者の運動と身体活動に対するアプローチについて,自験例を含めて解説する.
リハビリテーション施設を持たない呼吸器クリニックにおいて,実践している呼吸リハビリテーション専門外来を紹介する.広いリハビリテーション室やトレーニング機器を持たず,2012年4月より週1回半日,完全予約制で実施している.チームメンバーは,医師1名と看護師2名,非常勤臨床検査技師1名,非常勤理学療法士1名の少人数の編成である.外来受診のインターバルは最短で2週間後,最も長いインターバルは6か月後である.初診時は1時間,2回目以降は30分間,教材や療養日誌を用いてセルフマネジメント教育を重視するプログラムを行っている.在宅患者が疾患を自身でセルフマネジメントし,増悪回数の減少を目標としている.呼吸器疾患患者のセルフマネジメント支援マニュアル(JSRCR, 32, 特別増刊号, 2022)が刊行され,セルフマネジメント教育は,セルフマネジメント行動の実践・継続への個別化された介入を行う上でコアとなる介入であることが示された4).我々は最終目標を「卒業」とし,患者自身が自分の病態を理解し,増悪入院をせず活動的に過ごし,我々の定期介入がなくてもセルフマネジメントが可能となったら卒業としている.
身体活動性(daily physical activity; DPA)はCOPD患者のもっとも重要な生命予後規定因子であるが5),DPAの維持・向上のためにはフィードバックをすることが重要であり,いろいろなツールの活用が推奨されている4).当外来においても療養日誌に運動内容や歩数,その日の息切れの状態などを記録し,患者自身が自分を知るセルフモニタリングとして活用している.さらに,患者,家族と医療スタッフ,または訪問看護・訪問リハビリテーションスタッフなどの他施設と情報共有のツールとしても活用している.
我々の呼吸リハビリテーション専門外来は,短時間,低頻度介入だが,安定期COPD患者が外来リハビリテーション開始時と比較して,3か月後,1年後ともに有意にDPAは増加し,良好に維持されたことを報告している6).長期間,DPAを良好に維持している患者を個々で検証すると,ウォーキングをしているだけではないことがわかる.趣味や社会参加など日常生活そのものを活動的に過ごしている(図1).本来DPAは,日常生活における労働,買い物や掃除などの家事,通勤・通学,子育てに関連する動作なども含めた「生活活動」,つまりライフスタイルそのものと,体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施し,継続性のある活動を「運動」とし,これらを合わせて「身体活動」の概念としている4,7)(表1).生活活動とは,ひとりの人間が独立して生活するために行う基本的な毎日繰り返される日常生活活動(activities of daily living; ADL)だけでなく,家事動作や服薬管理など応用動作を含めた手段的ADL(instrumental activities of daily living; IADL)と,交通機関の利用や庭仕事など職業的活動との間に存在するAPDL(activities parallel to daily living)も含まれる.ADLだけでなくIADL,APDLも含めた評価も考慮する.
右側変形性膝関節症にて保存療法(物理療法・労作時膝サポーター装着)
平均歩数;20XX年10月23~29日;5,973 steps/day,10月30日~11月5日;6,685 steps/day
生活活動 | 運 動 |
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日常生活における労働,家事,通勤・通学など | 体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施し,継続性のある活動 |
買い物・掃除・洗濯物を干すなどの家事動作 子供と屋外で遊ぶなどの子育てに関連する動作 通勤・営業の外回り・荷物運搬・階段昇降 農作業・漁業活動などの仕事上の活動など 犬の散歩などペットの世話 | ジムやフィットネスクラブで行うトレーニング ヨガ・エアロビクス・太極拳など テニス・ゴルフなどのスポーツ 余暇時間の散歩や活発な趣味など |
身体活動性の主な要素
文献7より著者作成
慢性呼吸器疾患外来患者のDPA向上を目的にプログラムを検討する場合,歩数や身体活動量を評価するだけでなく,患者のライフスタイル及び,運動習慣について聴取する必要がある.起床から就寝までの1日をどのように過ごしているのかタイムテーブルを聴取する.外出は週に何回,どれぐらいの時間出かけるのか,負荷のかかる動作・活動は,いつ,何をしているのか.就寝後のトイレ移動の回数も聴取する.歩行が自立していない場合は,起居動作や屋内生活におけるDPAの状況を把握する.併せて各動作における息切れの程度をBorg CR-10スケールを用いて評価する(表2).日常生活でもっとも強く息切れを自覚している動作は何か,息切れを自覚していなくても低酸素血症を呈する動作があるのかなどをできるだけ詳細に評価し,DPA低下の原因となり得る動作の改善を図る.
2. 呼吸法の習得息切れや低酸素血症を予防し,安全に日常生活・運動療法を遂行するために呼吸法の習得は必須である.COPD では口すぼめ呼吸を安静時に練習し,次に歩行時に行い,呼吸と歩行のリズムを合わせる呼吸同調歩行の習得を目指す.間質性肺疾患患者の場合も,呼吸法を実施して労作時の息切れと低酸素血症を軽減させるように練習する.いずれの場合もパニックコントロールを習得し,ADL動作時,運動療法実施中の呼吸同調,休憩のタイミングや動作スピードの調整を行う.
3. セデンタリー行動と端座位保持近年,座位や臥位など覚醒時の1.0~l.5 METsの行動をセデンタリー行動と呼び,DPAとは独立したCOPD予後因子として注目されている3).セデンタリー行動の短縮を目指すことは,COPD患者の健康寿命を延長していくための指標として重要である.脊柱起立筋群の断面積とCOPD患者の予後との関連性が報告されたが8),体幹を支える脊柱起立筋群の断面積の狭小化は座位保持時間の短縮や,座位姿勢の不良を引き起こしかねない.背もたれに寄りかからない端座位姿勢をどれぐらい保持することができるか,上肢で支持せず体幹を起こして端座位を保つことは可能か,端座位保持が限界に近づくことで努力性呼吸となっていないか,などを注意深く観察する.端座位保持が数分と短く,すぐに疲労感が出現するような患者の脊柱起立筋群の断面積が狭小化していることを筆者らは経験している.在宅生活において中心となる生活の場が自室で,ベッドに座ってテレビを見ているような生活をしていると,いつでもすぐに臥床できるためセデンタリー行動が長くなる環境と言える.体幹筋群の筋力強化を図るために,労作時の息切れが強い高齢患者がひとりで筋力トレーニングを継続するのは困難であり,自然に座位保持時間が長くなるように環境整備を含めたアプローチが必要である.
4. 運動は継続できるか厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」によると,2019年で,1回30分以上の運動を週2回以上実施し1年以上継続している運動習慣のある人(20歳以上)の割合は,男性が33.4%,女性が25.1%となっており,2009年では男性が30.0%,女性が24.5%と10年間で有意な増加は認められない9).息切れのある呼吸器疾患患者が運動を習慣化するのは容易ではない.在宅患者の場合,非監視下での運動となるため,息切れの程度や酸素飽和度,呼吸数,脈拍や咳嗽の状況などをセルフモニタリングし,運動の開始や休憩(中断)するめやすを明らかにする4).筋力トレーニングは運動の速度を自由にコントロールできるため,患者自身に合った速度を指導する.数回の反復でも低酸素血症が生じる場合があり,設定強度・回数は息切れや酸素飽和度,脈拍などを評価し決定する.持久力トレーニングの場合は,筆者はインターバルトレーニングを推奨する.持続的なトレーニングとインターバルトレーニングの効果は同等であり10),苦しくても続けると効果がある,肺が鍛えられる,といった誤った見解から低酸素血症を来したまま運動を継続しているようなことがないように,繰り返しセルフマネジメント教育を行いながら実施する.
筋肉量を減少させないために栄養摂取と併せて筋力トレーニングを行うことは重要であり,フレイルや要介護の予防的な介入として安全に実施することが肝要である.呼吸器疾患患者が運動を習慣として取り入れ継続するには,達成可能な目標を設定し,FITTを明らかにして10),モバイルヘルスや行動科学を活用するなど多くの工夫とフォローアップが必要である.
本シンポジウムでは「運動能力 or 身体活動度?各々の立ち位置を理解する」というテーマでディスカッションがなされたが,外来における呼吸リハビリテーションにおいて,予防的介入の意義から,運動能力,身体活動度,それぞれに対するアプローチが必要であることは間違いない.しかしながら継続することが重要である.少人数のチームであっても可能な限り介入し,多様化した形態でのリハビリテーション医療の提供が望まれる.医師には予防的観点から躊躇せず積極的に処方して頂きたい.まだ先が見えないコロナ禍において,対面での実施に替わるべくICTの活用や,遠隔呼吸リハビリテーションなど,継続の工夫が求められていると考える.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.