日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
タバコの健康被害をどのように伝えるか?
森田 純二
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2024 年 32 巻 2 号 p. 130-132

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要旨

半世紀前の日本ではタバコはどこででも吸う事が出来,男性の喫煙率は80%を超えていた.受動喫煙の害が明らかとなり禁煙支援活動も活発化し病院や学校での分煙や敷地内禁煙が進んだ.2006年4月からは「ニコチン依存症管理料」が算定され,喫煙習慣が依存症と診断され治療することが開始された.その結果男性の喫煙率は85%から最近では30%を切り,男女全体では20%を切った.しかしタバコ産業は近年新たに電子タバコや加熱式タバコを開発して,低タール,低ニコチンをあたかも害の少ないものとして新たな市場を開発しようとしている.そこで時代にあった情報を社会や喫煙者に伝え,新たな喫煙者を出さない事を目指す必要がある.さらに2019年から世界的に蔓延しているCOVID-19に関してもいろいろな情報が錯綜しているが,喫煙者が重症化しやすいことや死亡しやすいことは明らかで,これらの対策も急務である.時代の変化が多様化する中,我々の禁煙支援もそれに対応する必要があると考える.

緒言

平成の始め頃の男性の喫煙率は60%を超えていたが,最近では27%まで減少している.この減少は禁煙支援活動が各地で盛んになったことが,功を奏したものと思われる.ところがタバコ産業の紙巻きタバコからより害の少ないと言う触れ込みで加熱式タバコなどに力を入れていることが,喫煙率低下の下げ止まりになっている.また近年のCOVID-19の蔓延による生活パターンの変化が喫煙の動態にも変化していると思われる.このように我々の禁煙支援も社会の多様な変化に合わせた戦略を臨機応変に進めていく必要があると考え,いくつか工夫をしているので報告する.

対象と方法

香川県では2003年に「香川タバコの害から健康を守る会」を医療従事者が中心となり立ち上げ,今日まで禁煙支援活動を続けている.主な活動としては小中学校や地元の企業に出向いての防煙や禁煙支援講演活動を高松市や香川県と共に継続して行っている.さらに毎年5月31日の世界禁煙デーに合わせたイベント(講演会や禁煙ウォーク)などを行ってきた.またタクシーの禁煙化やレストランの禁煙化にも取り組んだ.

2014年から発売され出した加熱式タバコに関してはharm reductionという言葉で紙巻きタバコより害が少ないことを強調して若者を取り込もうとしているがニコチンはそれほど少なくなくエアロゾルの中に含まれるポリエチレングリコールが気管支粘膜や肺胞に害を与えることなど次々と健康被害が明らかとなっておりその事実を講演でわかりやすく説明している.

またここ数年来世界中でパンデミックとなっているCOVID-19に対しても今や喫煙が重症化に関与することは明らかと成っている.そこでWHOが強烈なポスターを世界に向け広報したが我々もコロナと喫煙者を対比したポスターを作成して香川県はもとより日本の各地に配布し,予想以上に評価をいただいた.今後も時代の多様な変化に即した喫煙対策を講じていきたい.

結果

禁煙支援活動開始当初は高松市内の繁華街でも多くの吸殻が捨てられており,吸殻を集めていたが,2018年に公布された改正健康増進法1で望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならないと,より厳しい法律が後押ししたこともあってか,高松においては歩きタバコが激減して特に商店街などの中心部での吸殻はあまりみなくなった.

またタクシーの禁煙化は香川県タクシー組合と話し合いを重ね2008年3月に全国では17番目にまた中四国では初となる全面的な禁煙化に成功した2.またレストランの禁煙化にも力を入れ市内の多くのレストランの禁煙化を実現した.そうこうするうちに健康増進法が改正されレストランの全面禁煙化は全国的に加速した.

2019年から世界中に拡大したCOVID-19のパンデミックに関しては一部の論文で喫煙が感染の重症化を防いでいるとのデータも出されて混乱を招いた経過があったが3,これはデータの取り方に問題ありとして今は否定されている.

WHOは2020年に早速図1の様なポスターを作成して世界に配布した.我々も新型コロナ感染症のため活動が難しくなっていたので図2の様なポスターを作成して香川県はもとより日本の禁煙支援活動を頑張っている部署に配布した.このポスターは予想以上に評判が良く各地で医師会や企業でもいろいろな形で利用してもらっている.

図1 WHOのポスター

図2 我々が作成したポスター

しかしながらCOVID-19のパンデミックが長期化したこともあり対面での講演やイベントの開催が困難となり全国的にも禁煙支援活動はオンラインもしくは対面とのハイブリッドに移行せざるを得なくなっている.

そこで小学校や中学校ではそれらの活動を学校内で解決してもらう様に「タバコについて学ぼう」と題した教材をパワーポイントなどで作成して県下の小中学校に配布した.この教材を利用して学校の先生方が防煙指導をしやすくなることを期待している.

県内の企業に対しての禁煙支援もコロナ禍の影響もあり,オンラインでの講演や小グループでの対面講演が中心となっている.新たな試みとしては比較的喫煙者の多い大企業で産業保健師が喫煙者の中で禁煙を希望する人と禁煙に成功した人を少人数で集めて私も参加したオンライン対談を実験的に開催している.すでに数回開催し禁煙希望者が増えたり禁煙を開始した人も確実に増えており,今後の動向を楽しみにしている.

考察

1960年代は男性の喫煙率は実に80%を超えていた.1970年代に入りタバコの害が少しずつ明らかとなり,1978年,東京で「嫌煙権確立をめざす会」が発足した.このころから禁煙支援の活動は少しずつその輪を広げていき2000年には男性の喫煙率は53.5まで低下した.2006年に日本禁煙学会が発会し禁煙支援が全国的に組織化されたこともあり喫煙率の低下が加速した.そして2016年にはついに男性の喫煙率は27.8%と初めて30%を切った.残念ながらそのころから世界的にタバコ産業は紙巻きタバコ離れを危惧して電子タバコや加熱式タバコを次々と開発して若者の喫煙率上昇を狙っている.その結果男性の喫煙率はこの数年低下率が止まっている.我々の禁煙支援の活動もこのようなタバコの多様性に対する対策も急務である.言うまでもなく電子タバコや加熱式タバコの健康被害も次々と明らかとなっており禁煙支援の中にこれら新型タバコ対策も盛り込まなければならない.

さらに近年の新型コロナウイルスのパンデミックにより在宅での仕事が増えたため喫煙本数が増加してことも考えられ禁煙支援対策はますます多様化しており,私たちもいろいろな面で新たな対応が求められると考えている.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
  • 1)  厚生労働省:職場における受動喫煙防止のためのガイドライン(令和元年7月1日基発0701第1号).https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf. Accessed: 3 March 2021.
  • 2)  禁煙タクシー応援ホームページ:都道府県タクシー全面禁煙化 実施順一覧表.http://web.nosmokeworld.com/taxi/taxi_todoufuken.shtml. Accessed: 3 March 2021.
  • 3)   Farsalinos  K,  Barbouni  A,  Poulas  K, et al.: Current smoking, former smoking, and adverse outcome among hospitalized COVID-19 patients: a systematic review and meta-analysis. Ther Adv Chronic Dis 11: 2040622320935765, 2020.
  • 4)  JTグループ:サステナビリティ.https://www.jti.co.jp/sustainability/index.html. Accessed: 3 March 2021.
 
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