日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
Online ISSN : 2189-4760
Print ISSN : 1881-7319
ISSN-L : 1881-7319
ワークショップ
慢性呼吸器疾患患者が体調の変化に合わせて生活を再調整するためのケア
伊藤 史
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 32 巻 2 号 p. 151-153

詳細
要旨

慢性呼吸器疾患を抱える患者は,病気と長く付き合いながら様々な生活の変化を体験している.看護外来において,その人らしさを支えるケアのプロセスの中で,患者の病気の体験,苦悩,困りごとを知り価値観を共有する技術,患者が身体の変化を理解することを助け療養法をともに検討する技術,社会資源を活用し生活を再調整する技術を用いていた.また,患者の力を高め支えるために,制御体験,言語的説得,行動に対する意味づけや必要性など自己効力感に影響を及ぼす要因に働きかけることが必要と考える.患者と継続的に意向や困りごとを相談していくことが大切である.それは,病院(外来-病棟)や地域の看護,多職種を繋いだ関わりが重要であり,保健・医療・福祉の連携がなくてはならない.

緒言

慢性呼吸器疾患を抱える患者は,病気と長く付き合う中で,様々な生活の変化を体験している.その生活を支えるケアとはどのようなものか,その人らしさを支えるケアとは何か,患者とその家族に出会うたびに看護師として,医療チームとして考えている.患者は病気と上手に付き合い,生活を調整することにより,その人らしい生活や生き方を実現していくことができる.医療者は,パートナーシップを築き,患者自身が力を発揮できる,もしくは患者が力を高めていけるような支援を行っていくことが肝要である.心身両面での予後への悲観,ストレス,葛藤,疾病逃避などの心理状況を抱える慢性呼吸器疾患患者に寄り添い,治療や療養生活への意思決定を支えていくこと等の心理社会的支援は必要不可欠である.

その人らしさを支えるケアとは

私たちが,患者の「その人らしさ」を理解するためには,患者の日々の暮らしの中で言葉,表情,しぐさ,感情,生活の様子,雰囲気,意向から,ともに考えることが大切である.そして,患者その人にとって「心地のよい」場やありかたを目指し支援することが重要である.

Yさんの事例を通して,そのケアのプロセスを紹介する.Yさんは70歳代の男性である.約10年前に慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:以下COPD)と診断され,数年前に在宅酸素療法(home oxygen therapy:以下HOT)を導入し,安静時 1 L/分,労作時 3 L/分である.mMRC: Grade 3,FEV1 0.64 L,安静時動脈血液ガス(O2 3 L/分): PaCO2 41.9 Torr,PaO2 88.6 Torr,pH 7.469,治療は吸入療法を主体とし,長時間作用性抗コリン薬(LAMA),ステロイド・β2刺激薬配合剤(ICS/LABA),短時間作用性β2刺激薬(SABA)を実施し吸入手技は適切であった.妻と2人暮らしで要支援1であった.

Yさんとは月1回の受診時に,看護外来で面談を行っていた.Yさんは,病みの軌跡の局面と定義1から,病みの行路と症状が養生法によってコントロールされている状況である安定期とコントロールされていない状況である不安定期を繰り返していた.受診時に携帯用酸素ボンベ(3 L/分)を使用しゆっくり歩行(SpO2 92%),呼吸パターンはリズム不整で口すぼめ呼吸をしていた.眉間に少し皺がより,妻が付き添っており「今までと同じように動くと,呼吸が苦しいと感じる.身体を動かすことがつらい」と話した.Yさんは心不全兆候があり,薬剤調整と労作時の酸素量が4L/分へ変更になった.

Yさんのケアのプロセスでは,病気の体験を知り価値観を共有する技術,身体の変化を理解することを助け療養法をともに検討する技術,社会資源を活用し生活を再調整する技術を用いて患者の力を高めるよう支援した.

1. 病気の体験を知り価値観を共有する技術

傾聴,問診,モニタリングより「トイレに行っても,前より動いた後に呼吸が整うまでに時間がかかる.息がうまく吸えない感じで,これは病気が進んでいると思う」「食事をとると息苦しさを感じるようになった,口から物を食べないと体力が落ちるしダメになる」「前より足が細くなって,筋力が落ちていると思う.歩くようにしないと歩けなくなっちゃうよ」「吸入も決まった時間にやっているし,酸素も動くときには3Lにしているよ,この病気は治らないってわかっているけれど」等の病気の体験,療養法,つらさ,困りごとや「息がつらくても,自分のことは自分でやりたい」等,何を大切に思い,どのように過ごしたいかを聴き価値観を共有した.

この技術は,患者を理解し関わる中で基礎となるものであり,患者への関心を示しパートナーシップを築く上で重要な第一歩となる.

2. 身体の変化を理解することを助け療養法をともに検討する技術

呼吸機能が少し悪化して労作時の酸素量が増えたこと,心不全の兆候があり薬剤が追加になったことを,Yさんが感じている労作時の息苦しさ,活動状況,病態と関連づけて確認し合った.息苦しくなる行動とその対処法や休憩のタイミングをYさんの生活より妻も含めて具体的に検討した.また,食事の工夫について相談し栄養士との面談を提案した.

患者は,息苦しさが強くなると自己のコントロール感が低下する傾向にある.自身の身体の状態に気づき療養法を検討し試みることは,自己のコントロール感を高めることに寄与する.

3. 社会資源を活用し生活を再調整する技術

現在の日常生活動作や手段的日常生活動作を振り返り,セルフケアレベルをアセスメントし今後も継続していく必要があるケアについて,いつ,誰が,どのように実行するのかを過去の生活と比較し,他者の支援,社会資源の活用を検討した.Yさんは,要支援1で介護サービスの利用はなかったため,地域包括支援センターと連携し,区分変更申請や自宅内の手すりの設置等の環境調整を相談した.今後は,過去に比し,体調の悪化が起こりやすくなることも予測できたため,体調への早期対応や困りごとを相談できる訪問看護,リハビリの継続に向けて通所リハビリの情報提供を行った.

患者は,病状の進行に伴い身体可動性が低下し,抑うつも生じやすい傾向にある.その人らしさを支えるケアを継続的に実施するうえで社会資源の活用も勧めていく.

患者の力を高め支える技

患者の力を高めるために,一貫して自己効力感2を高めるアプローチを行った.自己効力感に影響を及ぼす要因として,制御体験,代理経験,言語的説得,生理的情動的状態,行動に対する意味づけや必要性,行動の方略,原因の帰属,ソーシャルサポート,認知能力,健康状態がある3.Yさんの状況をアセスメントし,場面に合わせてHOTで上手く行動できていることや工夫できた制御体験,行動に対する意味づけや必要性,医師や看護師の励まし,称賛等の言語的説得,モニタリングを通して生理的情動的状態の認知,ソーシャルサポートなど各々の要因に働きかけていくことが必要である.

外来看護/多職種連携

その人らしさを支えるケアには,外来-病棟-地域の看護師の継続的な支援や多職種との連携が必須である.看護連携による「在宅移行支援ナビ」4では,病状の変化に伴う看護師の役割と看護連携について示している.病棟,外来,訪問,地域包括支援センターにいる看護師の役割として,患者・家族の揺れ動く気持ちを受容し寄り添う受容支援,患者の自立支援,患者の治療や療養生活への意思決定を支えていく意思決定支援とともに看護連携の必要性を述べている.外来看護では,患者や家族に関わる知り得た情報や必要なケアを病棟看護師および訪問看護師に引き継ぐ,退院前カンファレンスに参加し検討する,在宅療養を支援する多職種と情報を共有する,地域包括支援センターやケアマネジャーとの連携を図っていくことが必要である.

おわりに

日々の暮らしの中に,「その人らしさ」があると感じる.患者を最も知っているのは患者自身であり,患者の体験や価値観を聴き,体調の変化に合った生活を整えるケアを行っていきたい.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
  • 1)   Corbin  JM,  Strauss  A:軌跡理論にもとづく慢性疾患管理の看護モデル.Woog P編,黒江ゆり子,市橋恵子,宝田 穂訳,慢性疾患の病みの軌跡 コービンとストラウスによる看護モデル,医学書院,東京,1995,1-28.
  • 2)   Bandura  A: Self-efficacy: toward a unifying theory of behavioral change. Psychol Rev 84: 191-215, 1977.
  • 3)  江本リナ:自己効力感の概念分析.日看科会誌 20: 39-45, 2000.
  • 4)  北海道帯広保健所:看護連携による「在宅移行支援ナビ」~「その人らしい,その人の望む生活」を支えるために~.2016,11-36.
 
© 2024 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
feedback
Top