【目的】人工呼吸患者における退院時の普通食経口摂取自立と抜管後の経口摂取開始までの日数との関連について調査した.
【方法】対象は48時間以上人工呼吸管理となった患者で退院時の普通食経口摂取自立[functional oral intake scale(FOIS)≧6]と非自立(FOIS<6)の2つのグループに分類し,比較検討した.解析は,普通食経口摂取自立を目的変数とした多変量ロジスティック回帰分析を行った.
【結果】903例の取り込み患者のうち,136例(普通食経口摂取自立群94人,非自立群42人)を解析対象とした.多変量ロジスティック回帰分析の結果,年齢(オッズ比:0.96,95%信頼区間:0.93~0.99,p=0.028),初回経口摂取までの日数(オッズ比:0.95,95%信頼区間:0.90~0.99,p=0.009)が有意な変数であった.
【結論】年齢および抜管後経口摂取の開始までの日数は,退院時の普通食経口摂取自立と有意に関連していた.
近年,集中治療室(intensive care unit: ICU)にて人工呼吸器管理された後に出現する抜管後嚥下障害(post extubation dysphagia: PED)が注目されている1).PEDは,ICU-acquired weakness(ICU-AW)に関連する嚥下筋筋力低下または,気管チューブによる局所粘膜損傷後の粘膜刺激受容障害に起因すると考えられている2).先行研究では人工呼吸器離脱後の生存者の少なくとも20~84%でPEDが発生し3,4),抜管後24時間の時点で嚥下障害を認めた患者の35~60%は,退院時までその障害が持続すると報告されている1).
PED患者への対応として,ICU入室早期から開始する言語聴覚士(speech-language-hearing therapist: ST)を中心とした早期摂食嚥下リハビリテーションは,ICU退院後の嚥下障害の遷延を防ぐためにも推奨され,国際的な注目を集めている5,6).先行研究では,早期摂食嚥下リハビリテーションの効果として,退院時の経口摂取自立率の改善などが報告されている7).ICUで抜管後の患者への毎日のST評価に基づく経口摂取の早期開始は,抜管後の患者の経口摂取自立率と関連する可能性がある7).しかし,重症患者の早期リハビリテーションは,多くの効果が期待される一方で,実際の実施にあたっては多く障壁が存在することも報告されている8).その主な障壁は,鎮静やせん妄による意識障害に加え,チームスタッフのマンパワー不足などが主なものであり,たとえ病態が改善しても,マンパワー不足などチームの体制の欠如によって,早期の経口摂取の開始が進まないこともある.
本研究の目的は,ICUにて48時間以上の人工呼吸器管理となった患者における,退院時の経口摂取の自立とSTによる毎日の評価に基づく抜管から経口摂取の開始までの日数との関連を調査することであり,人工呼吸器抜管後のICU患者への退院時経口摂取自立を予測するための目標とする経口摂取開始までの日数を検討することである.本研究は,ICUにて人工呼吸器管理となった患者に焦点を当て,目標とする経口摂取までの日数を提示することで,抜管後の早期摂食嚥下リハビリテーションにおけるSTや看護師などの配置人数などの対応への道筋が提示できる.
本研究は,単施設による後方視観察研究であり,名古屋医療センター倫理委員会によって承認されている(承認番号:2021-059).2016年4月から2020年3月までの間にICUに新たに入室し,48時間以上の人工呼吸器管理となった連続症例が登録された.また,入院前に自力で普通食の経口摂取が困難であった患者,18歳未満の患者,神経学的合併症を伴う患者,コミュニケーション能力の欠如,気管切開,頭頸部疾患,または消化器疾患などで経腸栄養および経口摂取開始が困難であった患者,また末期状態にある患者,ICU入室中の死亡例は除外した.退院時普通食経口摂取の自立は,退院時のfunctional oral intake scale(FOIS)が6以上であることと定義し9),患者を普通食経口摂取自立群と非自立群の2つの群に分けた.FOISは,1から7までの値をとり,1が最低レベルで7が最高レベルの7段階評価となる10).最初の経口摂取までの時間は,1日1食のゼリー(約200 kcal)または1回のペースト状の食事が提供されるまでの日数として定義した11).
2. 早期摂食嚥下リハビリテーション本研究施設では2016年より,人工呼吸器離脱後患者への早期摂食嚥下リハビリテーションを集中治療医,ICU専従の理学療法士,ST,看護師を中心としたチームにて開始している.抜管後24時間以内に,ICU専従のSTが,医師の監督の下で初回嚥下評価(反復唾液嚥下テスト,改訂水飲みテスト,フードテスト)を実施し,経口摂取が可能かどうかを判断した.経口摂取または直接訓練開始が可能な判断基準として先行研究を参考に,①意識レベルが清明か覚醒している,②全身状態が安定している,③それぞれの嚥下評価で嚥下反射やむせがないことが確認できる,④嚥下後の呼吸の悪化がない,⑤口腔内環境が整っている,⑤随意的または反射的な咳ができる,⑥舌運動,喉頭運動の著しい低下がないかについて,ICU専従STが評価し,その評価結果を踏まえ主治医および集中治療医によって全部を満たしていることによって経口摂取の可否が判断された12,13).
嚥下障害を認めた場合,ICU専従STが集中治療医に報告し,ICU専従STによる個別での摂食嚥下リハビリテーションを開始して退院時まで,もしくは経口摂取が可能になるまで毎日の評価の上,経口摂取が可能かどうかについて集中治療医が判断した.また,集中治療医によって経口摂取が可能と判断された場合,ICU専従STと看護師が連携の上,持続する発熱,気道分泌物の増加,意識レベルの低下,呼吸状態の悪化がないことを確認しながら,ゼリー食,ペースト食,きざみ食,全粥食へと段階的に食事形態を調整し食事摂取を開始し,普通食が摂取可能となるまで継続した.
摂食嚥下リハビリテーションの診療について,嚥下障害診療ガイドライン201814)および早期リハビリテーションエキスパートコンセンサス15)に準じた.嚥下困難な症例に対しての嚥下訓練として,口腔内保清,排痰を実施しながら徒手的な嚥下諸器官のストレッチ,冷圧刺激法などを実施した.また,経口摂取可能な症例に対しては,理学療法士と共同に早期離床を検討しながら認知機能,嚥下機能に応じた間接的嚥下訓練,直接的嚥下訓練を実施した.
3. 調査項目ICU入室時の患者特性として,年齢,性別,体格指数(body mass index: BMI),Charlson Comorbidity Index,ICU入室ルート,入院時診断,術後患者,acute physiology and chronic health evaluation(APACHE)IIスコア,抜管時のsequential organ failure assessment(SOFA)スコア,入院前のバーセル指数(barthel index: BI)を調査した.
また,ICU入室中の治療内容および経過の因子として,持続昇圧剤投与,急性血液浄化または経腸栄養の有無,人工呼吸器期間,ICU滞在日数,在院日数,ICU退出時のICU-AWおよびせん妄発生および院内肺炎の有無,抜管から初回経口摂取までの日数,ICU入室から初回リハビリテーションまでの日数,離床までの日数,ICU入室中の最高到達ICU-mobility scale(IMS)16)をカルテの記載より抽出した.
経口摂取の開始およびリハビリテーションに関連する情報は,理学療法士またはSTによる評価後,診療録に記録された.ICU-AWは,Medical research council scoreが48点未満と定義され17),せん妄の判定は,Intensive Care Delirium Screening Checklistのスクリーニングツールを用いた18).院内肺炎は,入院後48時間以上経過して発症し,入院時に初期症状がなかった肺炎と定義した19).
4. 統計解析背景因子及び経過因子を退院時の普通食経口摂取自立群,非自立群で比較した.各項目の連続変数および順序変数の群間比較は Mann-Whitney検定を用い,名義変数の群間比較はχ2検定(期待値6以下はFisher正確検定)を用いて検討した.さらに単変量および多変量ロジスティック回帰分析にて,各因子のオッズ比を算出し,普通食経口摂取自立との関連性について検討した.交絡因子の影響を考慮し,単変量ロジスティック回帰分析でp値が0.05未満の変数を用いて多変量解析を行った.また,有意な変数が連続変数であった場合,receiver operating characteristic(ROC)より普通食経口摂取自立を予測するためのカットオフ値を算出した.すべての統計分析は,JMPソフトウェア(Version 13.0; SAS Institute Inc. Cary. NC. USA)を使用し,統計的有意水準はp<0.05とした.
本研究では,調査対象期間に適格基準に該当し,除外基準に該当しない136例が解析対象となり,普通食経口摂取自立群が94例,非自立群が42例に分類された(図1).ICU入室時の患者特性では,普通食経口摂取自立群と非自立群の間で,年齢(p=0.001),BMI(p=0.016),抜管時のSOFAスコア(p=0.021),ICU-AW発生(p<0.001),院内肺炎発生(p<0.001),抜管から初回経口摂取までの日数(p<0.001)で有意差を認めた(表1).
ICU=intensive care unit.
変数 | 全患者 n=136 | 普通食経口摂取自立 n=94 | 普通食経口摂取非自立 n=42 | p-value |
---|---|---|---|---|
年齢(歳) | 70[60-78] | 68[58-75] | 77[66-82] | 0.001 |
性別(男性),人(%) | 89(65) | 63(67) | 26(62) | 0.565 |
BMI(kg/m2) | 21[18-24] | 21[19-24] | 19[16-24] | 0.016 |
Charlson Comorbidity Index | 2[1-4] | 3[2-5] | 3[1-5] | 0.798 |
入室経路,人(%) | ||||
救急外来 | 97(71) | 71(76) | 26(62) | 0.107 |
院内急変 | 31(23) | 20(21) | 11(26) | |
転院搬送 | 8(6) | 3(3) | 5(12) | |
手術b | 94(69) | 49(52) | 23(55) | 0.853 |
ICU入室疾患,人(%) | ||||
呼吸器疾患 | 20(15) | 13(14) | 7(17) | 0.276 |
心血管疾患 | 40(30) | 27(29) | 13(31) | |
消化器疾患 | 39(29) | 28(30) | 11(26) | |
敗血症 | 20(15) | 11(12) | 9(21) | |
その他 | 17(13) | 15(16) | 2(5) | |
APACHE II score | 25[20-30] | 23[19-30] | 26[20-30] | 0.362 |
抜管時SOFA | 4[2-6] | 3[2-6] | 4[3-6] | 0.021 |
持続昇圧剤の使用,人(%) | 111(82) | 77(82) | 34(81) | 1.000 |
血液浄化の使用,人(%) | 55(40) | 38(40) | 17(40) | 1.000 |
筋弛緩薬の使用,人(%) | 14(10) | 9(10) | 5(12) | 0.762 |
経腸栄養の使用,人(%) | 93(68) | 64(68) | 29(69) | 1.000 |
人工呼吸期間(日) | 5[3-7] | 5[3-8] | 5[3-7] | 0.908 |
ICU length of stay(日) | 6[4-9] | 6[4-9] | 6[5-8] | 0.594 |
Hospital length of stay(日) | 31[21-52] | 33[23-55] | 44[28-58] | 0.186 |
ICU-AWの発生,人(%) | 60(44) | 33(35) | 27(64) | <0.001 |
せん妄の発生,人(%) | 75(55) | 50(53) | 25(60) | 0.577 |
院内肺炎発生,人(%) | 33(24) | 12(13) | 21(50) | <0.001 |
抜管から初回経口摂取までの日数(日) | 2[1-5] | 3[2-6] | 9[3-27] | <0.001 |
初回リハビリテーションまでの日数(日) | 2[1-5] | 2[1-5] | 3[1-5] | 0.269 |
初回離床までの日数(日) | 5[3-7] | 6[3-8] | 5[3-10] | 0.739 |
最高到達IMS(日) | 3[3-6] | 3[1-5] | 3[1-5] | 0.225 |
中央値[四分範囲]または人(%)
BMI=body mass index; ICU=intensive care unit; APACHE=Acute Physiology and Chronic Health Evaluation; SOFA=Sequential Organ Failure Assessment; ICU-AW=ICU-acquired weakness.
連続変数および順序変数の群間比較はMann-Whitney検定を用い,名義変数の群間比較はχ2検定(期待値6以下はFisher正確検定)を用いて検討した.
退院時の普通食経口摂取自立を目的変数とした多変量ロジスティック回帰分析では,単変量ロジスティック回帰分析で有意であった年齢,抜管時のSOFAスコア,ICU-AWおよび院内肺炎発生,抜管から経口摂取開始までの日数の計5変量を説明変数とした.多変量ロジスティック回帰分析の結果,年齢(オッズ比:0.96,95%信頼区間:0.93~0.99,p=0.028),抜管から初回経口摂取までの日数(オッズ比:0.95,95%信頼区間:0.90~0.99,p=0.009)が有意な変数として抽出された(表2).
変数 | 単変量解析 | 多変量解析 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
オッズ比 | 95%信頼区間 | p値 | オッズ比 | 95%信頼区間 | p値 | |
年齢(歳) | 0.95 | 0.92~0.98 | 0.008 | 0.96 | 0.93~0.99 | 0.028 |
性別(男性),人(%) | 1.25 | 0.58~2.66 | 0.564 | |||
BMI(kg/m2) | 1.06 | 0.97~1.15 | 0.169 | |||
Charlson Comorbidity Index | 1.03 | 0.92~1.17 | 0.605 | |||
救急外来,人(%) | 1.52 | 0.71~3.24 | 0.277 | |||
院内急変,人(%) | 0.76 | 0.33~1.82 | 0.532 | |||
転院搬送,人(%) | 0.24 | 0.05~1.01 | 0.063 | |||
手術,人(%) | 0.90 | 0.43~1.87 | 0.776 | |||
呼吸器疾患,人(%) | 0.80 | 0.30~2.29 | 0.669 | |||
心血管疾患,人(%) | 0.89 | 0.41~1.99 | 0.793 | |||
消化器疾患,人(%) | 1.20 | 0.53~2.71 | 0.669 | |||
敗血症,人(%) | 0.49 | 0.18~1.28 | 0.144 | |||
その他,人(%) | 3.79 | 0.83~17.43 | 0.086 | |||
APACHE II score | 0.98 | 0.93~1.03 | 0.521 | |||
抜管時SOFA | 0.87 | 0.75~0.99 | 0.043 | 0.97 | 0.81~1.16 | 0.746 |
持続昇圧剤の使用,人(%) | 1.07 | 0.42~2.71 | 0.893 | |||
血液浄化の使用,人(%) | 0.99 | 0.48~2.12 | 0.996 | |||
筋弛緩薬の使用,人(%) | 0.78 | 0.25~2.50 | 0.680 | |||
経腸栄養の使用,人(%) | 0.96 | 0.44~2.10 | 0.956 | |||
人工呼吸期間(日) | 0.99 | 0.91~1.09 | 0.980 | |||
ICU length of stay(日) | 1.02 | 0.91~1.14 | 0.767 | |||
Hospital length of stay(日) | 0.99 | 0.98~1.01 | 0.311 | |||
ICU-AWの発生,人(%) | 0.30 | 0.14~0.64 | 0.002 | 0.63 | 0.25~1.61 | 0.337 |
せん妄の発生,人(%) | 0.77 | 0.37~1.61 | 0.492 | |||
院内肺炎発生,人(%) | 0.15 | 0.06~0.34 | <0.001 | 0.47 | 0.16~1.36 | 0.165 |
抜管から初回経口摂取までの日数(日) | 0.92 | 0.88~0.96 | <0.001 | 0.95 | 0.90~0.99 | 0.009 |
初回リハビリテーションまでの日数(日) | 0.92 | 0.81~1.05 | 0.331 | |||
初回離床までの日数(日) | 0.97 | 0.90~1.04 | 0.405 | |||
最高到達IMS(日) | 1.12 | 0.94~1.33 | 0.192 |
ICU=intensive care unit; IMS=ICU mobility scale; BMI=body mass index; CCI=Charlson comorbidity index; BI=Barthel index; APACHE=Acute Physiology and Chronic Health Evaluation; SOFA=Sequential Organ Failure Assessment; ICU-AW=ICU-acquired weakness.
単変量および多変量ロジスティック回帰分析にて,各因子のオッズ比を算出し,普通食経口摂取自立との関連性について検討した.交絡因子の影響を考慮し,単変量ロジスティック回帰分析でp値が0.05未満の変数を用いて多変量解析を行った.
ROC解析では,抜管から経口摂取開始までの日数のカットオフ値は5日(特異度0.72,感度0.73,area under curve 0.67),年齢は75歳(特異度 0.55,感度 0.79,area under curve 0.55)であった(図2).
a 初回経口摂取までの日数のカットオフ値は5日で,特異度は0.72,感度は0.73(area under curve: 0.67)であった.
b 年齢のカットオフ値は75歳で,特異度は0.55,感度は0.79(area under curve: 0.55)であった.
ICUにおける重症患者において,先行研究では早期リハビリテーションの障壁として鎮静やせん妄などの意識要因,スタッフによるマンパワー不足などの要因が報告されている8).しかし,人工呼吸器抜管後の患者では抜管から経口摂取までの日数と退院時の普通食経口摂取自立との関連について検証した論文も少ない.今回,我々は抜管後のICU患者における早期摂食嚥下リハビリテーションによる経口摂取開始までの日数と普通食経口摂取自立について調査した.
PED患者は循環不全や呼吸不全などの複雑な疾患を抱えていることが多い.抜管後の経口摂取を遅らせる要因には,声帯の損傷,咽頭の感覚障害,意識障害,胃食道逆流,呼吸不全,嚥下筋の筋力低下,無理な仰臥位がある2,20).このうち,対処しやすい危険因子は強制仰臥位での安静である21).したがって,適切な評価を行った上で,抜管後の早い段階から経口摂取を開始し,嚥下障害のある患者では早期の嚥下リハビリテーションを行うことが望ましいと考える.前田らは,絶食群と比較して,早期経口摂取群は治療期間が短く,嚥下機能が改善され,死亡率が低かったと報告している22).抜管後の経口摂取が,早期に開始されることで退院時の普通食経口摂取自立に関連する可能性についての検証は今後の研究が必要である.
PEDの原因として,挿管チューブによる声帯などの損傷や麻痺,神経筋障害による筋力低下,咽頭・喉頭の感覚障害,せん妄・鎮静薬による意識障害などが考えられている2).先行研究では,抜管後患者と非挿管患者の嚥下反射惹起の遅延を測定し,挿管時患者では潜時の回復に7日間要したと報告している23).抜管後の摂食嚥下機能は,抜管後4時間の所見と比較し24時間以降で急速に変動することが知られている24).本研究の結果から,退院時まで遷延する嚥下障害を予測する上でも,少なくとも抜管後5日目までは,STまたは多職種による日々の嚥下機能評価または食事場面の観察を継続する必要性が示唆された.しかし,挿管による一時的な咽頭浮腫や感覚低下がPEDの原因であれば,抜管後5日以内の嚥下機能の回復は期待できるが,ICU-AWに伴う嚥下筋力の低下がPEDの原因となり,嚥下機能の再獲得に難渋し,退院時の普通食摂取とならなかった可能性も考えられる.本研究におけるICU-AW発生は,多変量解析では退院時の普通食摂取に関連する有意な変数として抽出されなかった.しかし,本研究におけるICU-AWの評価のタイミングがICU退出時のみであり,筋量や筋力の減少率との関連など詳細な検討には至らなかった.そのため,人工呼吸器管理された患者の筋力低下と退院時の普通食摂取自立についての関連性についてさらなる検討の必要性が示唆された.
本研究では,75歳以上の年齢が普通食経口摂取自立と有意に関連していた.加齢とともに摂食嚥下機能のみでなく,構音機能の低下,さらには心身の機能低下まで繫がる負の連鎖に対して警鐘を鳴らした概念としてオーラルフレイルが提唱されており,より早期から口腔機能を維持向上させることが重要とされている25).本研究では,患者の心身機能や口腔機能など評価できていないため,オーラルフレイルについて言及できないが,PEDに加齢や疾患,挿管管理に伴う嚥下筋筋力低下との関連も報告されており,同様に本研究でも退院時の経口摂取自立にオーラルフレイルが関与した可能性も考えられた7).
本研究にはいくつかの限界が含まれ,結果の解釈には注意すべき点がある.本研究は単施設による後方視研究であり,調査期間やサンプル数が限定されていることが挙げられる.本研究は,経口摂取開始までの日数を無作為に割りつけられたものではないため,本研究の結果と人工呼吸器から抜管後の患者の普通食経口摂取自立との関連性をICUにおける人工呼吸器装着患者全般に一般化するためには限界がある.さらに,本研究では経口摂取開始までの日数の評価は行っているが,舌圧や嚥下筋筋力などの機能評価および嚥下内視鏡検査,嚥下造影検査などの画像評価は行えておらず,詳細な嚥下機能について十分検証出来ていない点が挙げられる.そのため,PEDの遷延が退院時の経口摂取自立に影響した可能性も考えられる.本研究は後ろ向きコホート研究という性質上,退院時の普通食経口摂取自立と経口摂取開始までの日数の因果関係を証明することはできない.しかしながら,より高いエビデンスに基づくランダム化研究は,介入を受けない群への倫理的な側面から,実施へのハードルは非常に高いと考えられる.そのため,ランダム化研究を行うことは今回できず,コホート研究が最大限の研究デザインだと判断している.今後さらに症例数を増やし,身体機能評価,画像評価など追加した上で,検証していく必要がある.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.