日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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研究報告
亜急性期病院における呼吸リハビリテーションの継続状況についての調査
山本 紗矢香永谷 元基 井上 貴行小原 雄斗鬼頭 正信麻生 裕紀大島 英揮
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2024 年 32 巻 3 号 p. 358-363

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要旨

【背景と目的】呼吸器疾患患者には急性期から維持期まで継続的な呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)が必要であるが,その普及は未だ不十分であると報告されている.本研究の目的は,呼吸器疾患にて入院した患者の退院後の呼吸リハの継続状況を調査し,継続に関わる要因を分析することである.

【対象と方法】呼吸器疾患が原因で亜急性期病院に入院し,呼吸リハを実施した65歳以上の患者87例のうち退院が可能であった65例を対象とした.呼吸リハ継続の有無を従属変数とし,呼吸リハ継続に関わる要因について多変量解析を用いて検討した.

【結果】呼吸リハ継続群は14例,非継続群は51例であった.多変量解析の結果,要介護度が高く,認知機能が低下していないことが呼吸リハ継続の要因であった.

【結語】呼吸器疾患患者が亜急性期病院を退院,転院する際には,要介護度と認知機能を踏まえて退院後の呼吸リハを検討する必要があると考えられた.

緒言

呼吸器疾患患者には,急性期から維持期まで継続的な呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)が必要である.高齢化社会を迎え,慢性呼吸器疾患患者はさらに増加し,急性期から亜急性期,維持期までトータルでサポートする地域密着型医療が求められ,高齢者が安心して暮らせる地域社会を構築するために,包括的呼吸リハ,チーム医療の質を高めることが必要である1.在宅呼吸ケア白書でも,呼吸リハのニーズが高いことが報告されており,また,呼吸リハが必要な患者に対して十分普及していないという実態も示されている2,3

今回,亜急性期病院としての位置づけである名古屋逓信病院(現:AOI名古屋病院)に入院していた呼吸器疾患患者の呼吸リハの継続状況を調査し,呼吸リハの継続に関わる要因を後方視的に分析したので報告する.

対象と方法

2016年4月から2019年3月までの間に呼吸器疾患が原因で名古屋逓信病院に入院あるいは他院から転院し,運動療法,呼吸練習や日常生活活動練習などの呼吸リハを実施した患者の中で介護保険によるサービスの提供対象となる65歳以上の高齢者87例のうち,入院中に状態が悪化し転院となった11例と,死亡11例を除外した65例を対象とした.

調査項目は,年齢,性別,疾患名,入院時の認知機能,入院時及び退院時の日常生活自立度,退院時要介護度,退院先,在院日数,退院後の呼吸リハ継続の有無を診療録より後方視的に抽出した.

認知機能は「認知症高齢者の日常生活自立度」(以下,認知機能)に基づき,入院時に看護師が評価した.群間比較をするため,認知症なし,ランクI,IIa,IIb,IIIa,IIIb,IV,Mの順に7点から0点に数値化した(表1).日常生活自立度は「障害高齢者の日常生活自立度」(以下,日常生活自立度)4を用いて入院時,退院時に理学療法士が評価し,生活自立(J1,J2),準寝たきり(A1,A2),寝たきり(B1,B2,C1,C2)の順に8点から1点に数値化し(表2),入院時と退院時における日常生活自立度の差として評価した.要介護度は介護保険被保険者証の「要介護区分」を用いた.要介護なしを「0点」要支援1を「1点」要支援2を「2点」要介護1を「3点」要介護2を「4点」要介護3を「5点」要介護4を「6点」要介護5を「7点」と定義し,認知機能同様,群間比較するために数値化した.

表1 認知症高齢者の日常生活自立度

ランク判断基準数値化
I何らかの認知症を有するが日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している.6点
II日常生活に支障を来すような症状・行動や意思の疎通の困難さが多少見られても,誰かが注意していれば自立できる.
 IIa 家庭外で上記IIの状態がみられる.5点
 IIb 家庭内でも上記IIの状態がみられる.4点
III日常生活に支障を来すような症状・行動や意思の疎通の困難さが多少見られ,介護を必要とする.
 IIIa 日中を中心として上記IIIのような状態がみられる.3点
 IIIb 夜間を中心として上記IIIのような状態がみられる.2点
IV日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ,常に介護を必要とする.1点
M著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ,専門医療を必要とする.0点

※認知症がなく,自立している症例を7点と数値化.

表2 障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)

ランク判断基準数値化
生活自立ランクJ何らかの障害などを有するが,日常生活はほぼ自立しており独力で外出する.
 1.交通機関等を利用して外出する.8点
 2.隣近所へなら外出する.7点
準寝たきりランクA屋内での生活は概ね自立しているが,介助なしには外出しない.
 1.介助により外出し,日中もほとんどベッドから離れて生活する.6点
 2.外出の頻度が少なく,日中も寝たり起きたりの生活をしている.5点
寝たきりランクB屋内での生活は何らかの介助を要し日中もベッド上での生活が主体であるが,座位を保つ.
 1.車いすに移乗し,食事,排泄はベッドから離れて行う.4点
 2.介助により車いすに移乗する.3点
ランクC一日中ベッド上で過ごし,排泄,食事,着替えにおいて介助を要する.
 1.自力で寝返りをうつ.2点
 2.自力では寝返りもうてない.1点

自宅又は有料老人ホームへ退院した患者を「在宅復帰」とし,介護老人保健施設へ退院した患者を「非在宅復帰」と区別し,「退院先」として分類した.

呼吸リハ継続の判別については,通所リハビリテーションもしくは訪問リハビリテーションでの呼吸リハ,または呼吸リハ外来に移行した症例を「継続できた症例」(以下,継続群)と判断し,それ以外を「継続できなかった症例」(以下,非継続群)とした.

また,退院後の呼吸リハの継続を医療者が勧めていたかどうかを,診療録から後方視的に調査した.医療者が患者又は家族に対し,退院後の呼吸リハを継続することを入院中に提案した記録があれば「継続の勧めあり」とし,記録がないものを「継続の勧めなし」とした.なお,退院後の呼吸リハの継続方法として,当院のサービスを利用できる環境であれば,外来での呼吸リハを勧めている.

統計学的手法は,年齢,在院日数については対応のないt検定を,数値化した認知機能,要介護度,入院時日常生活自立度,退院時日常生活自立度,日常生活自立度の改善度についてはマン・ホイットニーのU検定を用いて群間比較した.また,性別,入院病名,退院先における継続の有無についてはクロス集計を実施した.呼吸リハ継続の有無を従属変数とし,年齢,性別,要介護度,認知機能,入院時日常生活自立度,退院時日常生活自立度,日常生活自立度の改善度,退院先,在院日数を独立変数としたロジスティック回帰分析を実施した.単変量解析を行い,p<0.1であった要因については多変量解析を行った.統計解析はp<0.05を統計学的有意差ありとして判定した.統計解析ソフトはIBM SPSS Statistics version 25を使用した.

本研究の実施に当たり,研究対象者には研究の目的と方法,匿名性の保持について説明し書面にて同意を得た.本研究はAOI名古屋病院の倫理審査委員会の承認を得た上で行った(承認番号202001,承認日2020/02/10).

結果

対象者は男性39名,女性26名,平均年齢82.4±7.1歳(以下,平均値±標準偏差),在院日数 43.0±24.3日,入院疾患は肺炎42例,慢性閉塞性肺疾患11例,間質性肺炎10例,その他(肺がん術後2例)であった.対象である65例において,入院中に呼吸リハビリテーション料の算定上限日数を超えている症例はいなかった.呼吸リハ継続群は14例,非継続群は51例であった.両群における認知機能の割合と要介護度の割合を図12に示した.両群間における年齢,性別,入院時日常生活自立度,退院時日常生活自立度,在院日数については両群間に差を認めなかった.認知機能は継続 7(7-7)(以下,中央値(四分位範囲25%-75%)),非継続 5(3-7)(p<0.01)と継続群の方が有意に高かった.要介護度は継続 5(4-6),非継続 4(1-5)(p=0.03)と継続群で有意に介護度が高かった(表3).また,退院先については継続(在宅14例,非在宅0例),非継続(在宅37例,非在宅14例)(p=0.02)と有意差を認め,継続群は全例在宅復帰症例であった.2群における入院時と退院時の日常生活自立度を比較すると,継続,非継続ともに退院時に有意に高値であり,改善を認めたが,その改善度は継続 1(0.25-2),非継続 1(0-1)と両群において差を認めなかった(図3).

図1 2群における認知症高齢者の日常生活自立度の割合

認知症高齢者の日常生活自立度に基づき,認知症なし,ランクI,IIa,IIb,IIIa,IIIb,IV,Mの順に7点から0点に数値化し,その割合を群間で比較した.

図2 2群における要介護度の割合

介護保険被保険者証の「要介護区分」の要介護なしを「0点」,要支援1を「1点」,要支援2を「2点」,要介護1を「3点」,要介護2を「4点」,要介護3を「5点」,要介護4を「6点」,要介護5を「7点」と定義し,その割合を群間で比較した.

表3 患者背景

継続(n=14)非継続(n=51)p値
年齢(歳)79.9±5.983.1±7.30.15
男性(人)10290.25
疾患名(人)0.89
 肺炎1032
 COPD29
 IP28
 その他02
認知機能7(7-7)5(3-7)<0.01
日常生活自立度
 入院時4(3-4)3(1.5-4)0.25
 退院時5(3.25-6)4(2.5-5)0.08
 改善度(退院時-入院時)1(0.25-2)1(0-1)0.06
要介護度5(4-6)4(1-5)0.03
在宅復帰(人)14370.02
在院日数(日)40.6±22.843.5±24.80.69

平均値±標準偏差,中央値(25%-75%)

認知機能:認知症高齢者の日常生活自立度

日常生活自立度:障害高齢者の日常生活自立度

図3 2群における障害高齢者の日常生活自立度の比較

継続群,非継続群における,入院時,退院時の障害高齢者の日常生活自立度,ならびにその変化について比較した.

ロジスティック回帰分析による単変量解析では認知機能(p=0.023),退院時日常生活自立度(p=0.067),日常生活自立度の改善度(p=0.048),要介護度(p=0.034)であった.これらについて多変量解析を行った結果,認知機能(p=0.027),要介護度(p=0.003)と有意差を認めた(表4).

表4 ロジスティック回帰分析結果

単変量解析多変量解析
オッズ比p値オッズ比p値
認知機能0.4900.0250.3950.026
退院時日常生活自立度1.3690.065
日常生活自立度の改善度1.9240.041
要介護度1.4070.0312.6760.002

オッズ比:95%信頼区間

認知機能:認知症高齢者の日常生活自立度

日常生活自立度:障害高齢者の日常生活自立度

継続群14例は,全例が医療者から継続の勧めを受けていた.呼吸リハが継続できなかった51例の原因については,医療者から呼吸リハ継続の勧めを受けていなかった症例が42例,継続の勧めを受けていたが本人または家族の理解が得られなかった症例が4例,アクセスの問題による通院困難が2例,原因不明なものが3例であった(表5).

表5 入院患者の退院先と非継続となった理由

在宅復帰非在宅復帰
継続継続の勧めあり140
非継続継続の勧めなし2814
継続の勧めあり受け入れ不良40
通院困難20
不明30
合計5114

考察

今回の解析の結果から,呼吸器疾患患者が亜急性期病院を退院した後,呼吸リハを継続していたのは14例(21.5%)であり,不十分であると言わざるを得ない結果であった.また,呼吸リハの継続に関連する要因として,認知機能と要介護度が影響することが推察された.

今回の研究では,要介護度が高い症例ほど呼吸リハを継続できることが示唆された.榊原らは,介護保険サービスの支給限度額に対するサービス利用の実態を調査した研究において,要介護度が高くなるのに伴い,サービス利用の割合が増加することを報告している5.その中で,要介護度が高くなるに伴い,サービス利用の割合が増加するのは,「自分のことは自分でできる」と回答する割合の減少から理解されるように,ADL の低下に伴い自分で行えなくなった日常生活動作をサービスによって補うためとしており,要介護度の高さは介護保険を利用したリハビリテーション(以下,リハ)の導入に影響する一因であると推察される.

退院時に居宅サービスを導入する際,要介護度が低い場合には,食事や排せつの介助を行う訪問介護や,医療処置や医療機器の管理を行う訪問看護が優先されてしまい,リハの導入が後回しになってしまうことを実際に経験する.加藤ら6は,ケアマネジャー(以下,ケアマネ)を対象に実施した調査において,実際に呼吸リハをケアプランに組み入れていたケアマネはそのうちの約半数のみであったと報告している.その理由として,呼吸リハの認知率・普及率,また,ケアマネの呼吸リハに対する知識の不足が考えられると述べている.継続的な呼吸リハを行うためには,在宅支援を行う様々な職種に対して呼吸リハの必要性について啓蒙することが極めて重要であると考えられる.

また,本研究では認知機能が低い症例ほど呼吸リハを継続できないということが明らかとなった.呼吸リハに関わらず,認知機能障害がリハ介入の障壁となることは,これまでも数多く報告されてきた7,8,9.理解力の低下した高齢者は患者教育やセルフマネジメント全般に問題が生じるため,介護者の協力と支援が不可欠である10.とくに,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)患者の軽度認知障害は患者教育における理解力や自己管理能力を低下させるため,一定の支援が必要である11.事実,Bairdら12はCOPD患者の認知機能障害は日常生活や治療順守,自己管理など多くの場面において支援の必要性が増すと報告している.これらより,認知機能の低下がみられる呼吸器疾患患者の支援者となる家族や医療・介護職にも,呼吸リハを継続することの必要性について理解してもらえるよう,はたらきかけることが重要だと考える.

先行研究では,退院後の呼吸リハへの参加を促進させる因子として専門家のサポートや社会的支援などが挙げられており13,14,アクセスやコストの問題についても十分な支援が不可欠である15

本研究の限界として,以下の4点があげられる.まず,一施設による調査で症例数が少ないことが挙げられる.2点目として,対象とした呼吸器疾患が多岐にわたり,その重症度や併存症による影響が考慮されていない点である.今後の研究では,さらに症例数を増やし,疾患別,重症度別に解析する必要があると考えられる.3点目として,退院時における呼吸リハビリテーション料の算定上限までの残日数が考慮されていない点である.今回,呼吸リハビリテーション料の算定上限日数を超えている症例はいなかったものの,呼吸リハビリテーション料での継続に影響する可能性がある.しかし,急性期から在宅までの呼吸ケアの連続性を保つために,デイケアや訪問看護,訪問介護等の活用も含めて呼吸リハの継続が望まれる.4点目に,医療者側が継続を勧める基準が整っていなかったことは結果に影響すると考える.また,今回は後方視的研究であったため,日常生活自立度を用いた検討を行ったが,長崎大学呼吸日常生活活動息切れスケールなどの呼吸器疾患特異的評価を用いることで対象症例の障害像をより明確に把握できる可能性が考えられる.

今回,亜急性期病院としての位置づけである名古屋逓信病院に入院していた呼吸器疾患患者の退院後の呼吸リハの継続状況を調査した.呼吸器疾患患者が亜急性期病院を退院する際,認知機能が低下していない症例ほど呼吸リハの継続ができ,要介護度が高い症例ほど呼吸リハを継続できることが判明した.

亜急性期病院として医療スタッフは,患者やそれを取り巻くスタッフと情報伝達・共有の労をいとわずに取り組めることがより良い呼吸リハのマネジメントにつながると考える.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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