日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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ISSN-L : 1881-7319
原著
運動に伴う声門閉塞がCOPDの運動耐容能および換気制限に影響する
三木 啓資 辻野 和之福井 基成北島 尚昌宮本 哲志三橋 靖大長田 由佳新居 卓朗松木 隆典橋本 尚子三木 真理木田 博
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2024 年 32 巻 3 号 p. 313-318

詳細
要旨

背景:これ迄,COPDは末梢気道閉塞によるとされ,須らく吸入薬中心に治療がなされるも十分な運動耐容能獲得には至っていない.我々は,COPDに対する呼気圧負荷トレーニング(EPT)効果を多施設無作為化コントロール比較試験で検証し,全病期のCOPDで,EPT後の運動耐容能改善を報告した.

方法:今回,そのサブ解析として,EPTによる運動耐容能向上が声門閉塞変化および換気能変化に依存するかどうか喉頭鏡下漸増負荷検査による声門開大比(最大開大面積に対する比)と換気指標を用い検討した.

結果:ステップワイズ法により最高酸素摂取量向上により関連する指標を検討すると,平均呼気1回換気流量の変化量(p<0.0001)および声門最大閉塞時の声門開大比変化量(p<0.0001)が選択された.

結論:EPTによる上気道の声門開大化と換気量向上が下気道疾患であるCOPDの運動耐容能改善に繋がった可能性が示唆された.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)の息切れは日常生活の質を低下させ,解決には至っていない最大の治療標的である.速い呼息はべヌルーイの法則によれば気道内圧を低下させ気道閉塞を来すことが予想されるためかこれ迄推奨されなかった呼吸様式であった.しかしながら,我々は運動中に呼息不十分となり呼気延長を来す進行したCOPDでは,呼気圧負荷トレーニング(expiratory pressure load training: EPT)により喉頭筋群を鍛えることで気道閉塞を回避しながらも強く速い呼息が獲得できれば息切れや運動耐容能の改善に繋がるというこれまでの医学的通説とは異なる仮説を報告した1.その仮説検証のため,先ず予備的研究として呼気延長パターンを呈する11例のCOPDを対象に口すぼめ呼吸とは真逆となる強く速い呼気を目指し3ヵ月間のEPTを行った結果,EPT後,最高酸素摂取量は 0.9 ml/min/Kg(群内比較:p=0.0028)増加し,運動持続時間は5.7分(群内比較:p<0.0001)延長した2.特に,対象患者が重症・最重症COPD患者(平均%FEV1は 33%)で,約8割が気管支拡張薬,吸入ステロイドによる3剤吸入治療が導入され呼吸リハビリテーションも既に行われ,これ以上推挙できる治療がないにも拘わらず,EPT後全員の運動持続時間が延長した.しかしながら,これらの改善はコントロール群を含まない単施設群内比較の結果に過ぎなかった.そこで,我々は更に全ての病期(軽症~最重症)のCOPDに対して,定常負荷による持続運動時間,漸増負荷試験による最高酸素摂取量,漸増負荷試験中の声門閉塞の程度などを評価項目とする多施設無作為化コントロール比較試験で前述の予備的研究結果を検証し,EPT後,全病期のCOPDで運動中の声門開大化と伴に最高酸素摂取量の改善を確認した3.今回,そのサブ解析として,EPTによる最高酸素摂取量向上が声門閉塞や換気制限の改善に影響されたかどうか,喉頭鏡下漸増負荷試験により測定された声門開大比(最大声門開大面積に対する比)と運動中の換気指標を用い検討した.

対象と方法

研究デザイン:多施設無作為化コントロール比較試験(前向き介入研究)のサブ解析.

実施施設:独立行政法人国立病院機構大阪刀根山医療センター及び公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院.

研究対象者:適格基準を1.COPDと診断されたGOLD気流制限分類で軽症~最重症の患者,2.医師が安定していると判断し,心肺運動負荷検査で十分評価可能な患者,3.患者自身による文書で同意を得られた患者,4.40歳以上,80歳以下の患者とし,除外基準を1.悪性腫瘍を有する患者,2.活動性の感染症を有する患者,3.重篤な心疾患を有する患者,4.気管支喘息を有する患者,5.臨床試験中に薬剤の変更が行われた患者,6.呼吸リハビリテーションを受けている患者,7.労作時に酸素療法が必要な患者,8.気胸歴のある患者もしくは巨大ブラを有し気胸のリスクが高い患者,9.その他,担当医師が不適当と判断した患者とした.予定症例数は 先行研究の治療開始12週後の運動持続時間変化率(=変化量/治療前測定値)の結果:81.46%±52.14%を参考に算出した.有意水準両側5%の2標本t検定を用いた場合に80%以上の検出力を達成するため全COPD病期から40例とし,最重症・重症COPD 20例(EPT群:10例,対照群 10例)および中等症・軽症 20例(EPT群:10例,対照群 10例)とした.本研究は大阪刀根山医療センター(TNH-R-2020018)及び北野病院(P201200601)で承認を受けた.University Hospital Medical Information Network-Clinical Trials Registry(UMIN000041250)の登録後,2020年8月から開始され2022年3月まで47名のCOPD患者が組み込まれた.

治療介入:EPT群では,これ迄の通常治療に加えEPTを1日2セット(朝夕)1セットあたり30回のトレーニングを行い,2)トレーニング後,毎回,リラックスして素早く息を吐き,大きく息を吸えているかを安静時のみならず,労作時にも確認する.コントロール群ではEPTを行わずこれ迄の通常治療のみとした.設定圧として,介入前に測定した最大呼気筋力の20%から開始し,可能なら5%/2週ずつ上げ,50%を目標とした.介入中,呼吸教室にて最適の呼吸パターンとなるよう特に労作中の呼吸を調節した.

サブ解析における評価項目:軽症~最重症のCOPD患者に自転車エルゴメータ(CV-1000SS; Lode,フローニンゲン,オランダ)を用いた漸増負荷(10 W/分もしくは10 W/2分)による心肺運動負荷試験(CPET: エアロモニタ AE-310S,ミナト医科学,大阪,日本)を行い,呼気ガス分析にて最高酸素摂取量( V ˙ O2 peak)および換気指標[呼気1回換気量(VTex),吸気1回換気量(VTin),平均呼気1回換気流量(VTex/Te),吸気時間率(Ti/Ttot)],吸気酸素濃度と呼気酸素濃度の差(ΔFO2)を測定した.漸増負荷中, V ˙ E-VTexグラフでVTexの傾きが変わる点でのVTexをVTex屈曲点とした.前評価の漸増負荷試験で確認された最大運動時心拍数の90%の心拍数(iso-心拍数と定義:準最大運動時)に到達するまで喉頭鏡検査下(PENTAX, FNL-10RP3, HOYA Corporation,東京,日本)に上気道観察を行う漸増負荷試験を介入前後で行った.声門が最大開大化したときの声門面積を1とし声門最大面積に対する運動中の声門面積比を声門開大比(glottic dilatation ratio: GDR)として算出し,声門最大閉塞時のGDRをGDR最大閉塞時とした.肺機能検査および最大呼気筋力 (maximum expiratory pressure: MEP) (CHEST,VITAROPOWER KH-101)も測定した.

統計解析:連続変数は,正規分布(Shapiro-Wilk検定)に応じて,平均値(標準偏差)または中央値(四分位範囲)で表記した.群内比較の検定では群内変化量の正規分布性に応じて対応のあるt検定もしくはWilcoxonの符号順位検定が用いられた.群間比較には以下の通りに検定を行った.群内変化量が両群で正規分布している場合:1)等分散性を仮定する場合は,対応のないt検定を用い,2)等分散性を仮定しない場合,Welchのt検定を用いた.3ヵ月間で得られたEPTと対照群での平均群内変化量の両群間差を治療効果として表記した.その他の群内変化量の正規分布パターンについては,Hodges-Lehmann推定値を治療効果として,Wilcoxon順位和検定を用いた.カテゴリー変数には,χ2検定またはフィッシャーの正確検定を用いた.2つのデータが共に正規分布の場合,ピアソンの相関係数を用い,そうでない場合はスピアマンの相関係数を用いた.多重共線性を踏まえ分散拡大係数(variance inflation factor: VIF)が3未満の呼気気流制限に関わる運動変数のうち,EPTによって得られた運動耐容能変化と相関するより影響力のある変数を決定するために,ステップワイズ変数選択を行った.p<0.05を有意とした(JMP 11, SAS Institute Inc.).

結果

表1に患者背景を示す.重症・最重症群の対照群で女性の比率が,軽症・中等症群でpack-yearが高い傾向が認められたが,その外の因子比較で有意差は認められなかった.

表1 患者背景(n=40)

 全患者(n=40) 軽症・中等症(n=20)重症・最重症(n=20)
 EPT 群(n=10)  対照群(n=10) p 値EPT 群(n=10)対照群(n=10)p 値
年齢,歳73(68;77)74(5)77(70;78)0.517770(9)70(6)1.0000
性別,男/女35/59/19/11.000010/07/30.0603
BMI,kg・m-222.7(2.7)22.6(2.3)22.7(2.9)0.923822.8(2.3)22.4(3.4)0.7455
喫煙歴,pack-year53.4(25.6)43.9(21.1)63.1(20.1)0.051858.1(23.7)48.5(34.3)0.4758
肺機能
FEV1, L1.26(0.92;1.90)1.85(0.54)1.89(1.72;2.08)0.96981.03(0.28)0.89(0.11)0.1534
%FEV1, %52.9(19.7)69.4(15.0)70.2(7.6)0.885336.0(10.1)35.8(4.4)0.9418
FEV1/FVC, %42.4(12.1)49.3(46.4;63.9)49.3(7.4)0.364234.1(8.8)32.2(4.9)0.5596
心肺機能検査
V ˙ O2 peak, mL・min-1・kg-112.6(10.0;17.0)15.7(3.9)17.3(3.7)0.347010.6(1.7)10.6(2.2)0.9371
呼吸筋力
MEP, cmH2O121.7(46.9)113.5(61.2)124.7(34.9)0.6068129.7(39.5)118.5(54.2)0.6049
MIP, cmH2O75.2(54.6;97.6)74.0(42.6;103.6)78.5(20.6)0.549572.4(26.4)78.7(32.9)0.6446
治療
LAMA/LABA/ICS, n34/28/227/3/48/9/60.50729/9/410/7/80.4842

BMI: body mass index; FEV1:1秒量;FVC:努力性肺活量; V ˙ O2 peak:最高酸素摂取量;MEP:最大呼気筋力;MIP:最大吸気筋力;LAMA:長時間作用性抗コリン薬;LABA:長時間作用性β2刺激薬;ICS:吸入ステロイド.(文献3より引用改定)

EPTによる換気運動指標変化

EPT後, V ˙ O2 peakは軽症-中等症群(群間比較 p=0.0086)および重症-最重症群(群間比較 p=0.0004)共に増加し,その治療効果量は 2.1 ml/min/Kgと著明な運動耐容能改善が得られた(表2).特にEPT後,重症-最重症群全員の V ˙ O2 peakが改善し,その最小変化量は+0.2 ml/min/Kgであった.EPT後,最大運動時において,i)VTexは軽症-中等症群(群間比較 p=0.0231)および重症-最重症群 (群間比較 p=0.0120) 共に増加し,ii)VTex/Teも軽症-中等症群(群間比較 p=0.0350)および重症-最重症群(群間比較 p=0.0073)共に増加した.EPT後,最大運動時において,ΔFO2 の治療効果量は両群共に有意なものではなかった.EPT後,VTex屈曲点は軽症-中等症群(群間比較 p=0.0015)および重症-最重症群(群間比較 p=0.0075)共に増加した.

表2 漸増負荷試験における最大運動時の運動指標変化(軽症・中等症COPD)

EPT 群対照群治療効果
前値(n=10)  Δ3ヵ月:群内(n=10)  前値(n=10)  Δ3ヵ月:群内(n=10)  Δ3ヵ月:群間[95% CI]p 値
Dyspnoea, Borg scale4.7(1.3)+0.9(1.7)[-0.3 to 2.1]5.7(2.1)+1.1(2.0)[-0.3 to 2.5]-0.2[-1.9 to 1.5]0.8090
V ˙ O2 peak, mL・min-1・kg-115.7(3.9)+1.2*(1.6)[0.1 to 2.4]17.3(3.7)-0.9(1.6)[-2.0 to 0.3]+2.1[0.6 to 3.6]0.0086
V ˙ E, L・min-148.0(14.8)+3.1(6.6)[-1.7 to 7.8]52.6(9.3)-2.1(5.4)[-6.0 to 1.7]+5.2[-0.5 to 10.9]0.0705
VTex, mL1,470(400)+137*(189)[2 to 272]1,491(319)-43(130)[-137 to 50]+180[28 to 333]0.0231
VTin/TI, mL・sec-11,976(450)+27(312)[-197 to 251]2,184(409)-92(189)[-227 to 43]+119[-124 to 361]0.3178
VTex/TE, mL・sec-11,359(496)+135(220)[-22 to 293]1,479(275)-75(191)[-211 to 62]+210[17 to 403]0.0350
VTin-VTex, mL-8(27)-4(42)[-33 to 26]-5(27)+2(51)[-35 to 38]-5[-49 to 38]0.8053
TI/Ttot(peak-rest)0.01(0.04)+0.06**(0.04)[0.03 to 0.09]0.03(0.03)-0.02(0.03)[-0.04 to 0.01]+0.08[0.04 to 0.12]0.0005
fR, breaths・min-133(7)0(3)[-3 to 2]36(5)-1(5)[-5 to 3]0[-4 to 5]0.8083
ΔFO2, %2.60(0.67)-0.05(0.35)[-0.31 to 0.20]2.49(0.22)+0.03(0.20)[-0.11 to 0.17]-0.09[-0.35 to 0.18]0.5101

平均値(標準偏差)または中央値(四分位範囲). 群内Δ3ヵ月:平均値[95% CI]または中央値. 群間Δ3ヵ月(EPT-対照):平均値[95% CI]またはホッジス・レーマン推定量[95% CI]. EPT:呼気圧負荷トレーニング; V ˙ O2 peak:最高酸素摂取量; V ˙ E:分時換気量;VTex:呼気1回換気量;VTin:吸気1回換気量;TI:吸気時間;TE:呼気時間;TI/Ttot,吸気時間率;fR:呼吸数.*p<0.05,**p<0.01,前値との比較.(文献3より引用改定)

表3 漸増負荷試験における最大運動時の運動指標変化(重症・最重症COPD)

EPT 群対照群治療効果
前値(n=10)  Δ3ヵ月:群内(n=10)   前値(n=10)   Δ3ヵ月:群内(n=10)  Δ3ヵ月:群間[95% CI]p 値
Dyspnoea, Borg scale6.8(1.9)-1.0*(-2.0;0)6.3(1.4)0(1.1)[-0.8 to 0.8]-1.0[-2.0 to 0]0.0341
V ˙ O2 peak, mL・min-1・kg-110.6(1.7)+1.2**(0.9)[0.6 to 1.9]10.6(2.2)-0.9(1.2)[-1.7 to 0]+2.1[1.1 to 3.1]0.0004
V ˙ E, L・min-131.5(6.0)+0.7*(0.1;2.8)27.7(5.2)-3.4*(3.7)[-6.1 to -0.8]+4.5[1.1 to 8.2]0.0017
VTex, mL1,155(267)+46(113)[-35 to 128]1,093(284)-119*(148)[-225 to -13]+165[41 to 289]0.0120
VTin/TI, mL・sec-11,661(310)+134(54;183)1,298(269)-105(162)[-222 to 11]+211[64 to 357]0.0113
VTex/TE, mL・sec-1796(195)+27(87)[-35 to 89]657(582 to 865)-65**(-144;-14)+91[20 to 218]0.0073
VTin-VTex, mL27(15)-24*(28)[-44 to -4]8(30)+4(20)[-10 to 18]-28[-51 to -5]0.0194
TI/Ttot(peak-rest)-0.03(0.07)+0.02*(0.02;0.03)0.03(0.04)0(0.02)[-0.02 to 0.01]+0.02[0 to 0.05]0.0462
fR, breaths・min-128(4)0(4)[-2 to 3]26(5)-1(4)[-4 to 2]+1[-3 to 4]0.7218
ΔFO2, %2.61(0.24)+0.11(0.22)[-0.04 to 0.27]2.67(0.29)+0.10(0.27)[-0.09 to 0.29]+0.01[-0.22 to 0.24]0.8994

平均値(標準偏差)または中央値(四分位範囲). 群内Δ3ヵ月:平均値[95% CI]または中央値. 群間Δ3ヵ月(EPT-対照):平均値[95% CI]またはホッジス・レーマン推定量[95% CI]. EPT:呼気圧負荷トレーニング; V ˙ O2 peak:最高酸素摂取量; V ˙ E:分時換気量;VTex:呼気1回換気量;VTin:吸気1回換気量;TI:吸気時間;TE:呼気時間;TI/Ttot,吸気時間率;fR:呼吸数.*p<0.05,**p<0.01,前値との比較.(文献3より引用改定)

EPTによる声門開大化

図1は重症COPD患者に3ヵ月間のEPTを行いその前後でiso-心拍数時の声門変化を漸増負荷中に行った喉頭鏡検査で観察したものである.EPT前では,呼気は延長し声門最大閉塞時のGDRは6%であったが,EPT後,呼気延長は改善しGDRは43%と声門開大化が得られた.EPT後,軽症-中等症群で声門最大閉塞時におけるGDRの治療変化は19% 増加し(群間比較 p=0.0062),重症-最重症群で声門最大閉塞時におけるGDRの治療変化は28%増加し(群間比較 p=0.0001),両群で声門開大化が得られた.EPT後,重症-最重症群におけるGDR最大閉塞時は全ての患者で増加した.なお,軽症~最重症のEPT群で,3ヵ月間MEP変化は GDR最大閉塞時変化と負の相関を示した(r=-0.49, p=0.0413, n=18).

図1 呼気圧負荷トレーニング(EPT)による声門開大化(重症COPD患者)

iso-心拍数:評価前で最大運動時に到達した心拍数の90%(準最大運動時);GER:声門が最大開大化したときの声門面積を1とし声門最大面積に対する声門面積比.文献3より引用改定.

最高酸素摂取量改善とより関連する因子

表4はEPT後の V ˙ O2 peak 向上に関わる換気指標を単変量解析により全病期で検討した結果である.年齢,性別で補正し,ステップワイズ法により V ˙ O2 peak 向上により関連する指標を検討した結果,VTin-VTex変化量(p=0.1124), VTex/TE 変化量(p<0.0001)および 声門最大閉塞時GDR変化(p<0.0001)が選択された(R2=0.73, AICc=102.8).

表4 3ヵ月間のEPTによる最高酸素摂取量向上と関連する換気関連指標変化

Δ V ˙ O2 peak
rp 値
漸増負荷試験 最大運動時の換気関連指標(n=40)
ΔVTex0.400.0097
ΔVTin/TI, mL・sec-10.340.0316
ΔVTex/TE, mL・sec-10.51*0.0009
ΔVTin-VTex, mL-0.390.0124
ΔTI/Ttot(peak-rest)0.290.0729
漸増負荷試験VTex 屈曲点(n=40)
ΔVTex屈曲点0.560.0002
喉頭鏡下漸増負荷試験(n=36)
ΔGDR最大閉塞時,%0.70<0.0001

V ˙ O2 peak:最高酸素摂取量;VTex:呼気1回換気量;VTin:吸気1回換気量;TI:吸気時間;TE:呼気時間;TI/Ttot:吸気時間率;VTex屈曲点:漸増負荷試験中で得られた呼気1回換気量の屈曲点;GDR最大閉塞時:漸増負荷中,準最大運動時における声門最大閉塞時の声門開大率,*スピアマンの順位相関係数;その外,ピアソンの積率相関係数.(文献3より引用改定)

考察

本研究は,全病期のCOPDを対象に3ヵ月間のEPT効果を検討した前向き,多施設無作為化コントロール比較試験のサブ解析として行われ,運動耐容能向上により寄与した運動中の換気関連指標を探索することを目的とした.ステップワイズ法による変数選択の結果,最高酸素摂取量向上により関連した運動中の換気指標はGDR最大閉塞時変化とVTex/Te変化であった.

我々は,COPD患者が息切れなく動くには3つの因子から成る呼吸システムによる至適な調節を想定しており,即ち縦隔外中枢気道である声門を含む気道閉塞,呼気気流制限,内因性PEEPを含む気道内圧の各因子が個々の病態に応じて楽に動くために至適レベルになるよう調節されていると考えている.今回のサブ研究は,気道内圧の評価を施行できておらず,声門を含む気道閉塞と呼気気流制限による2つの関連に絞った解析となった.

19世紀,肺気腫の末梢気道病変が報告され4これ迄,COPDは末梢気道の閉塞によるとされてきた.須らく末梢気道拡張を目的とした吸入薬中心の治療が展開され,確かにquality of life: QOLに関わるような機能的な活動レベルは改善した.しかしながら,特に進行したCOPD患者の最高酸素摂取量が向上する程の運動耐容能改善には至っていないのが現状で,その機序は依然として不明であった.進行したCOPDでは運動耐容能低下は換気能力低下に依存することが多い.酸素摂取量は分時換気量と酸素消費量であるΔFO2 の積を用いて算出されており5,6,本サブ解析ではEPT後に有意な最大運動時のΔFO2 増加が得られなかったことから,今回の最高酸素摂取量向上は増加した換気に依存していると言える.進行したCOPD患者では頭位前方姿勢をとりながら呼息したり,指導せずとも口すぼめ呼吸を行ったりと自ら気道内圧を高め末梢気道閉塞を回避し息切れ軽減を図ろうとすることはこれ迄の通説とされてきた.特に欧米では陽圧換気療法の圧設定は高めにされてきた経緯があり,進行したCOPD患者が十分に動くためには内因性positive end-expiratory pressure: PEEPも含め十分な気道内圧が必要と考えられてきた7.末梢気道の閉塞を免れるため気道内圧を高める手段の一つに声門を閉塞させることは既に知られており8,9,10図1の如く進行したCOPDの声門は準最大運動時の呼気終末でほぼ閉塞していた.しかしながら,過剰な声門閉塞が気道内圧を高めることに役立ったとしても酸素摂取量を高めるには不十分な換気に陥ることは容易に想定できる.EPTは恐らく喉頭筋群をトレーニングすることで 声門が高い気流量を要しても閉塞せずとも呼息できる頑丈なステント様の中枢気道に変わったのではと考えている.特筆すべきこととして,EPT後,全ての重症・最重症患者で声門開大化と運動耐容能改善が共に得られており,そのことは下気道疾患であるCOPDの換気制限が上気道の声門閉塞に影響しているという疾患概念,更には上気道の調節がQOLレベルの機能的な活動レベル以上の運動耐容能向上に繋がるという新たな治療概念に結び付くかもしれず,今後の大規模研究による検証が待たれる.更に,興味深いことにEPT後のGDR最大閉塞時変化と最大呼気筋力変化とは正の相関ではなく負の相関が得られた.動くには高い気道内圧が必要であるという仮説からすれば意外な結果であったが,十分高い呼気流量が得られるようになると,呼息にかかる負担が少なくなり最大呼気筋力を高める必要性が少なくなった可能性がある.

研究限界:先ず,本研究でのEPT期間は3ヵ月間と比較的短期間であった.長期トレーニング効果を確認する目的で6ヵ月間のEPTトレーニング効果,更には,EPT後,運動制限因子が息切れから下肢疲労に変わったことから運動療法併用効果についても多施設無作為化試験にて現在検証中である.次に,本研究では気道内圧の評価を施行できていない.特に,声門がかなり閉塞する呼気時,縦隔内気道はほぼ閉鎖空間と考えられ,その気道内圧を正確に且つ侵襲なく測定することは難しいが代替指標も含めた検討が必要である.

結論:下気道疾患であるCOPDを対象に3ヵ月間EPTを行い,著明な運動耐容能改善が得られた.運動中,呼気終末での声門開大化が十分な換気に繋がるというEPTによる上気道の気道調節が運動耐容能向上に寄与した可能性が高い.気道閉塞,気道内圧,呼気気流制限からなる呼吸システムの至適な調節機構を明らかにするために今後,気道内圧も評価しCOPDのみならず異なる臨床シナリオにおいても検討することが望まれる.本サブ解析は事後解析であるが,その為の新たな仮説を提唱したことにもなった.

備考

本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業,基盤研究C2021-2023年度(課題番号21K11307)および公益財団法人杉浦記念財団第10回杉浦地域医療振興助成 2021年度を受け実施された.

本論文の要旨は,第32回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2022年11月,千葉)で発表し,学会長より優秀演題として表彰された.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

呼気圧負荷トレーニング管理装置およびシステム,特許第6798747号(日本).国際特許出願中,国際出願番号PCT/JP2019/037405.

文献
 
© 2024 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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