日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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研究報告
非がん性呼吸器疾患患者のアドバンス・ケア・プランニング
~看護師による支援の特徴~
嶋田 知恵 小野 聡子加藤 真帆石川 佳子伊東 美佐江
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2024 年 32 巻 3 号 p. 364-370

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要旨

【背景と目的】非がん性呼吸器疾患は予後予測が困難でACPのタイミングを困難にさせ,支援が進んでいない.そこで,先行研究から非がん性呼吸器疾患患者と家族への看護師のACP支援の特徴を明らかにし,課題を検討した.

【対象と方法】医中誌Web版で2011年~2021年,「呼吸器疾患 NOT (COVID OR がん)」AND「アドバンスケア計画」で検索し,14論文を分析した.看護師のACP支援に関する内容からコードを抽出し,Text Mining Studio Ver 7.1を用いて分析した.

【結果】「患者」「家族」「伝える」が高頻度に抽出された.係り受け頻度解析で「家族-伝える」「患者-介入」等があり,ことばネットワーク分析で「患者」「家族」「伝える」を中心としたまとまりがあった.「患者」との共起関係で「人工呼吸器」「価値観シート」「ライフヒストリー」「傾聴」「対話」がみられた.

【結語】患者中心のACP支援であるが,患者のみならず家族を交えた支援も不十分で,今後の支援の重要性が改めて示唆された.

緒言

近年では患者が自ら希望する医療やケアを受けるために大切にしていることや望んでいること,どこでどのような医療やケアを望むかを自分自身で前もって考え,周囲の信頼する人たちと話し合うアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning: ACP)の必要性が唱えられている.非がん性呼吸器疾患は病状の悪化に伴い,患者や家族は在宅酸素療法や人工呼吸療法などの選択に迫られることもあり,ACPを行う必要性は高い.がんでは比較的予後予測が可能ではあるが,心不全,呼吸不全をはじめとした臓器不全では,増悪を繰り返し徐々に身体機能が低下するという疾患軌道を辿るため,非がん性呼吸器疾患では,予後予測が困難となっている1.予後の不明確さはACPといった話し合いのタイミングを計ることを困難にさせ,非がん性呼吸器疾患患者・家族へのACPは進んでいないのが現状である.また,わが国におけるACPの認知度は低いというのが現状である2ことから,臨床の現場におけるACPの取り組みも低いと予想される.しかし,看護師は患者へのスピリチュアルケアに対する認識は高いとされており,ACPに関わる支援(以下ACP支援)に必要な正しい病状理解や家族支援を行っている3.そこで,先行研究からわが国の非がん性呼吸器疾患患者と家族への看護師の行うACP支援の特徴を明らかにし,今後のACP支援へ課題を明らかにする.

対象と方法

1. 研究デザイン

文献研究

2. 方法

医中誌Web版を用い,2011年~2021年で,検索ワードを「呼吸器疾患 NOT(COVID OR がん)」AND「アドバンスケア計画」で,会議録を除外した138件の論文からスクリーニングした.選択基準をACPに関する内容を含むこと,論文内での対象は誤嚥性肺炎を除いた非がん性呼吸器疾患患者,対象は意思決定能力のある患者,事例を含む解説論文とした.一次スクリーニングでは,タイトル,抄録から選択基準を満たしていない論文を除外し,二次スクリーニングでは,2名以上の研究者が独立して論文を精読し,選択基準を満たしていない論文を協議の下除外した.最終的に研究者間で合意を得た14論文を分析対象とした(表1).

表1 分析対象論文一覧

タイトル発行年雑誌名,刊(号),ページ対象者研究デザイン
急性期病院における高齢者の最期の迎え方の意思決定に関する調査1例 慢性呼吸不全の高齢者患者に焦点を当てて2021板橋区医師会医学会誌
Vol. 24, 111-115
COPD,慢性呼吸不全の70歳男性後ろ向き
実態調査
みんなでアドバンス・ケア・プランニング(ACP) 呼吸器疾患患者さんの終末期を考える(第4回)呼吸器看護専門外来におけるACP2020みんなの呼吸器 Respica
Vol. 18(4), 554-557
過敏性肺炎で在宅酸素療法中の70歳男性解説
みんなでアドバンス・ケア・プランニング(ACP) 呼吸器疾患患者さんの終末期を考える(第5回)在宅で行われているACP2020みんなの呼吸器 Respica
Vol. 18(5), 692-695
COPD,喘息で在宅酸素療法中の90歳女性解説
さらに究める!実践力 これならできる!毎日の実践で活かすACP(Volume 05)本人の揺れ動く気持ちに添うACPの実践2020ケアマネジャー
Vol. 22(8), 64-67
COPDの70歳代女性解説
さらに究める!実践力 これならできる!毎日の実践で活かすACP(Volume 04)ACP開始のタイミング2020ケアマネジャー
Vol. 22(7), 64-67
COPDで在宅酸素療法中の75歳男性解説
みんなでアドバンス・ケア・プランニング(ACP) 呼吸器疾患患者さんの終末期を考える(第3回) 病棟で行われるACP2020みんなの呼吸器 Respica
Vol. 18(3), 406-409
COPDで在宅酸素療法中の70歳女性解説
間質性肺炎におけるアドバンスケアプランニング2020沖縄医報
Vol. 56(5), 327-332
間質性肺炎の患者4名解説
【間質性肺炎の呼吸管理とケア コンプリートガイド】症例展開 急性増悪入院~退院後の看護 安定期~再増悪~終末期 在宅生活から再入院,急性増悪を繰り返し,最終末期にはHFNCを使用した症例2019みんなの呼吸器 Respica
Vol. 17(4), 611-620
特発性肺線維症の69歳男性解説
【ゆらぐ意思決定を支える 慢性呼吸器疾患 患者へのエンド・オブ・ライフケア】(Part 3)事例にみる 慢性呼吸器疾患患者へのエンド・オブ・ライフケア ICUにおける意思決定支援2019看護技術
Vol. 65(8), 843-847
非結核性抗酸菌症の70歳代女性解説
【ゆらぐ意思決定を支える 慢性呼吸器疾患 患者へのエンド・オブ・ライフケア】(Part 3)事例にみる 慢性呼吸器疾患患者へのエンド・オブ・ライフケア 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者2019看護技術
Vol. 65(8), 827-834
COPDの患者2名解説
【急性期・回復期・生活期 みんながつながる呼吸管理のフロントライン】アドバンス・ケア・プランニング(ACP)2019みんなの呼吸器 Respica
Vol. 17(1), 66-73
肺結核後遺症,気管支拡張症の70歳女性解説
思い出のポートフォリオを紹介します(第24回)高齢者のケア shared decision makingを用いてACPを自然に進める2018Gノート
Vol. 5(4), 628-632
非結核性抗酸菌症の80歳代女性解説
【救急・クリティカルケア領域における家族の特徴と家族ケア】(Part 3)事例にみる家族ケアの実際 代理意思決定が困難な事例 患者の事前指示と異なる意向を示す家族 家族間で意向が異なるケース2017看護技術
Vol. 63(11), 1049-1052
特発性肺線維症の73歳男性解説
【呼吸器疾患(COPDなど)終末期の緩和ケア・意思決定支援】事例で学ぶ!終末期の緩和ケアと意思決定支援2017急変ABCD+呼吸・循環ケア
Vol. 38(5), 36-41
COPDの79歳男性・間質性肺炎の83歳女性解説

分析に使用した対象論文を一覧に示す.

3. 分析方法

対象論文を繰り返し精読し,看護師が実施した患者,家族へのACP支援について,意味内容を整理してコードを抽出した.これらのコード化の過程において,研究者間で協議を重ねながら合意を得た.抽出した163コードはテキストデータとして分析した.分析にはText Mining Studio Ver 7.1を用い,単語頻度解析,係り受け頻度解析,注目語分析,ことばネットワーク分析を行った.

結果

2017年2件,2018年1件,2019年4件,2020年6件,2021年1件であった.実態調査研究1件,解説13件であった.分析対象論文から抽出したテキストデータ163コードを用いて分析した結果を以下に述べる.

1. テキストの基本情報

基本情報は,対象論文の意味内容を整理して抽出したコードをテキスト化したデータの基本的な情報である.データの形式として1コードを1行とし,163コードを分析対象とした.平均行長(文字数)は1コードあたりの文字数の平均で,32.7であった.総文章数はコードと同数の163であり,延べ単語数は1,239単語,単語種別数は479であった(表2).

表2 テキストの基本情報

項目
総行数163
平均行長(文字数)32.7
総文章数163
延べ単語数1,239
単語種別数479

対象論文から抽出したコードをテキストデータとして,その総行数や延べ単語数などの基本情報を集計した.

2. 単語頻度解析

単語頻度解析では,163コードの中に高頻度で出現した上位20の単語を示す.延べ単語数1,239の中で,看護師が実施した患者,家族へのACPに関する支援における各単語の出現頻度は,「患者」が134,「家族」が64,「伝える」が36と高頻度であった(表3).

表3 単語頻度解析

単語品詞頻度
患者名詞134
家族名詞64
伝える動詞36
主治医名詞21
思い名詞20
説明名詞17
確認名詞15
価値観名詞12
病状名詞12
希望名詞11
行う動詞10
不安名詞9
話す動詞9
意向名詞8
意思名詞8
考える動詞8
意思決定名詞7
一緒名詞7
状況名詞7
促す動詞7

テキストデータの中に出現する単語を頻度の高い順に頻度数,品詞を表した.

3. 係り受け頻度分析

係り受けは,コード内の単語と単語のつながりの関係のことを指す.本研究で分析している係り受けの関係は,イメージや行動に関わるもので,主語と述語,修飾語と被修飾語,補助,並立の関係によって示される.それらの関係が表れている組合せを抽出された頻度順に示す(図1).係り受け頻度分析の結果,「家族」と「伝える」の組合せが6,次いで「患者」と「介入」の組合せが5,「患者」と「不安」,「思い」と「共感」の組合せが4であった.

図1 係り受け頻度解析

テキストデータの中で主語と述語の関係,修飾と被修飾の関係,補助の関係,並立の関係を示す単語と単語を出現頻度の高い順に示す.

4. ことばネットワーク

ことばネットワークは,コード内である単語の出現と共に別の単語も出現するという共起関係を有向グラフで示す.出現頻度の高い単語の丸印は大きく表され,共起関係の頻度が高い程太い線で表示される.結果を図2に示す.単語頻度解析で高頻度にみられた「患者」「家族」「伝える」という3つの単語を中心としたまとまりがあった.「患者」との共起関係では,「終末期医療」,「人工呼吸器」,「価値観シート」,「ライフヒストリー」,「傾聴」,「対話」といった単語がみられた.「家族」とは,「時間」,「状況」,「場」といった単語が共起していた.「伝える」との共起関係では,「思い」,「共感」,「尊重」があり,これらの単語は,「患者」,「家族」とも共起していた.

図2 ことばネットワーク

テキストデータにある言葉と言葉の関連(共起関係)を有向グラフで示す.出現頻度の高い単語の丸印は大きく表され,共起関係の頻度が高い程太い線で表示する.

5. 注目語分析

注目語分析は,単語頻度解析の上位3単語に注目し,それらがコード内でどのように使われているかを他の単語との共起関係から明らかにする.

単語頻度解析で最も高頻度だった「患者」の注目語分析結果を図3に示す.「患者-家族」「患者-思い」「患者-価値観」といった単語が高頻度に抽出された.コードでは,『患者と家族に社会資源の導入によって介護負担が軽減できることを説明する』『患者の思いに共感しながら,悪化予防のためにできることを一緒に考えていきたいことを伝える』『患者と家族に治療選択のイメージがもてるようにリーフレットを作成し説明する』『患者の価値観について語りを促す』などがあった.

図3 注目語「患者」の分析

単語頻度解析で上位にある「患者」という単語に注目し,テキストデータの中でどのような単語と共起しているかを頻度の高い順に示す.

「家族」の注目語分析結果(図4)では,「患者-家族」「家族-伝える」「家族-意向」等が高頻度に見られた.コードでは,『家族には,患者の大切なものを理解して尊重することが家族の役割であると伝える』,『各々の家族の意向の背景にある思いを把握するために,家族それぞれと別に話をする時間を設ける』『患者の意向として,家族が把握していることがあれば教えてくださいと伝える』『退院時,患者の家族に対する気持ちや家族の役に立てないという思いを家族に伝える』などがあった.

図4 注目語「家族」の分析

単語頻度解析で上位にある「家族」という単語に注目し,テキストデータの中でどのような単語と共起しているかを頻度の高い順に示す.

「伝える」の注目語分析結果(図5)では,「家族-伝える」「共感-伝える」「考える+したい-伝える」「思い-伝える」「良い-伝える」が高頻度に見られた.コードでは『患者の思いを家族と一緒に支えたいことを患者と家族に伝える』『患者と家族の意向が異なる時に,それぞれの思いに共感しながら,患者にとって何が良いのか一緒に考えていきたいと伝える』,『家族の思いに共感しながら患者の意思の優先理由を伝える』『患者が自分の思いを伝えることができることを,家族に伝える』などがみられた.

図5 注目語「伝える」の分析

単語頻度解析で上位にある「伝える」という単語に注目し,テキストデータの中でどのような単語と共起しているかを頻度の高い順に示す.

考察

1. 非がん性呼吸器疾患患者と家族への看護師のACPに関わる支援の特徴

非がん性呼吸器疾患患者と家族へ看護師が行うACP支援の特徴としては,患者への支援,家族への支援,伝えるという役割が示唆された.なかでも「患者」を中心としたことばネットワークが多く見られた.ACPにおける看護師の役割には患者が主体的にACPに取り組むことができるよう,そして望む医療・ケアを受けその人らしく生き抜くことができる支援が重要である4.本文献検討からも,看護師は患者を中心に支援しているという特徴が示唆された.

患者への支援では,「終末期医療」「治療」「人工呼吸器」「自宅」に関わる選択すべきこと,「価値観シート」「ライフヒストリー」というACPにおける話し合いのためのツール,「傾聴」「対話」という介入時に必要な姿勢が抽出された.特に「人工呼吸器」は,非がん性呼吸器疾患患者へのACP支援において特徴的であった.田中らは,呼吸器疾患患者の人工呼吸器に関する情報提供は,人工呼吸器による期待される効果とリスク,人工呼吸器を選択しない場合の経過,サポーティブケアに関する情報を推奨しており5,非がん性呼吸器疾患患者において「人工呼吸器」は患者の今後の人生を考えるうえで欠かせないキーワードであった.

「家族」に着目すると,「時間」「状況」「場」といった話し合いの調整に必要な単語が抽出された.これらの単語は,「患者」とも共起していたが,患者との共起の頻度よりも家族との共起の頻度が多く,家族への支援としては非がん性呼吸器疾患に限らず他の疾患と同様なACP支援における話し合いの調整が行われていた.

「伝える」という単語との共起関係からは,患者や家族を尊重し,共感しながら思いを伝えるといった支援をしていることが示唆された.「伝える」という役割の中で,患者や家族を尊重し,共感しながら支援していた.しかし,家族を交え小さな希望など身近な目標を決めることなどの支援は抽出されず,不十分であることが窺える.

2. ACPに関する支援への示唆と今後の課題

本文献検討から呼吸器疾患患者のACP支援の介入研究は少なく,世界的にも少ないことから5今後もさらなる非がん性呼吸器疾患患者へのACP支援の探求が求められる.

また,ACPを行うタイミングを表す単語は見受けられず,予後予測が困難な非がん性呼吸器疾患患者へのACPに関する支援の介入時期の示唆は得られなかった.意思決定の支援において選択肢の利点とリスクを評価しうる情報の共有は重要な支援に位置づけられるが6,人工呼吸管理に関する質問に対して「今は考えたくない」と意思表示する人は多く7,診断後早期や慢性安定期におけるACPの確認は回避される傾向にある8.患者の主体性は日本において境界が曖昧で相互協調的であると指摘されており9,患者は自分が決めるより,家族の選択や意思決定に従う可能性が考えられる7.ACPは医療の根底である患者中心に他ならず,患者の意向,ニーズ,価値を重視した支援であり,患者の意思把握がACPをすすめる上での課題である.また,ACPの介入に適する対象の特性はACPに興味をもつ者が示されており5,ACPを行う専門職と患者とともに考えていく姿勢が患者の主体性を促すことになる7.ACPを始める前に対象者の特性や病態を理解した上で支援方法を具体的に考える必要がある.

本文献研究での看護師が行うACP支援を検討する中で,ACPにおいて患者と家族への調整に関する実態があった.呼吸器疾患患者へのACP支援は患者のみならず家族を交えたACP支援も不十分で,今後の支援の重要性が改めて示唆された.看護師は,パートナーシップの関係を早期に構築する能力,心理状況をアセスメントし情緒的サポートを行う能力,多職種や家族をコーディネートする能力が求められる4.また,牧野らは呼吸器看護の経験を積むことでACPを実際に起こそうとする行動意欲につながるが,ACPに対して看護師への周囲の期待があり,看護師のコミュニケーションがうまく図れていない認識や死に対する話し合いの難しさはACPを阻む要因として指摘している10.家族や他職種のチームワークをコーディネートし,患者や家族等と最も多くかかわる看護師がACPの内容やその実施による患者や家族への影響などACPに関する正しい知識や情報を持ち,身体的苦痛の緩和や症状マネジメントのケアスキル,患者や家族などへの援助的コミュニケーションスキルをさらに高めることで信頼関係が深まり,患者や家族などからより多くの本音の情報を収集しやすくなる3.そのため,ACPをすすめる看護師の教育も必要である.

最後に本研究は公表されている文献からの示唆であり,ACP支援の実践をすべて表しているものではない.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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