日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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慢性閉塞性肺疾患患者2症例への病期に合わせた呼吸リハビリテーション
竹内 万里子今村 創
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2024 年 32 巻 3 号 p. 301-305

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要旨

呼吸器疾患評価の基本であるフィジカルアセスメントを含めた理学療法評価から,コンディショニングや運動療法プログラムを立案した.病期に合わせたプログラム構成やチーム医療を行い,自己管理能力が向上した症例を報告する.症例1は急性期であり,非侵襲的陽圧換気療法にて換気補助されていた.最重症の慢性閉塞性肺疾患であり,コンディショニング中心に病棟と連携して日常生活活動を拡大した.症例2は回復~維持期であり,繰り返す急性増悪と疾患に対する不安に対して呼吸リハビリテーションおよびセルフマネジメント教育を実施した.患者と問題点の共有や目標設定をし,多職種で包括的にアプローチした結果,セルフマネジメント行動へとつながった症例である.

緒言

呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)では,フィジカルアセスメント(視診,触診,打診,聴診)および患者の希望,ニーズ,背景,環境など個別性を考慮し,患者自身が実践へ結びつけて継続することが重要である.そのために,目標を明確にしてプログラムを設定し,包括的にアプローチする必要がある.今回,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)の患者を2症例紹介する.1例は最重症でコンディショニング中心に介入した症例,もう1例は運動療法・患者教育を重点的に実施した症例である.なお,本症例報告にあたっては,2症例とも口頭・書面にて説明の上,同意を得ている.

症例1

1. 症例紹介

【症例情報】 在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)を使用している80歳代の男性,診断名はCOPD急性増悪,CO2 ナルコーシス,右気胸.既往歴はCOPD(IV期),心筋梗塞,腹部大動脈瘤術後,右気胸である.妻,娘と戸建てに同居しており,主な生活スペースは1階.屋内の移動は歩行器を使用していた.デイサービスに週2回通っており,入浴の介助を受けていた.更衣やトイレは妻や娘に手伝ってもらうこともあった.

【現病歴】デイサービスにてトイレに入っている際にうつむきながら肩呼吸になり,その際の経皮的動脈血酸素飽和度(saturation of percutaneous oxygen: SpO2)84%.酸素流量を増量したが改善なく,意識レベルが低下してきたため救急要請された.入院時現症は身長 169.1 cm,体重 49.7 kg,body mass index(BMI)17.4,Japan Coma Scale III-300,心拍数117拍/分,呼吸数36回/分,SpO2 100%(bag valve mask 10 L).胸部レントゲンおよびcomputed tomography(CT)では右気胸,両肺の著明な気腫性変化,横隔膜平底化,肺過膨張を認めた(図1).血液ガス検査ではpH: 7.083,PaO2: 170.0 Torr,PaCO2: 88.3 Torrであり,COPD急性増悪,CO2 ナルコーシス,右気胸と診断された.

図1 症例1の第1病日の胸部レントゲン及びCT画像

2. リハビリテーション

1) 評価

問診では「動くと苦しい」「トイレが間に合わない」「疲れるから動きたくない」といった,労作に対するネガティブな発言が多く聞かれた.視診・触診では安静呼吸時に胸鎖乳突筋,斜角筋群の肥厚および筋緊張亢進,鎖骨上窩の陥没,Hoover徴候,胸郭の拡張差(右<左)を認めた(図2).聴診では両肺著明に呼吸音が減弱していたが明らかな喘鳴は聴取しなかった.関節可動域は明らかな制限なく,下肢の粗大な筋力は徒手筋力検査にて2-3であった.起居動作~移乗は軽介助で可能であったが日常生活動作(activities of daily living: ADL)は全介助であった.

図2 症例1の呼吸補助筋の筋緊張

2) 経過(図3

集中治療室に入院後,非侵襲的陽圧換気呼吸(non-invasive positive pressure ventilation: NPPV)および抗生剤加療開始された.NPPV装着後より意識レベルは速やかに改善し,第6病日にNPPV離脱した.気胸に関しては,胸腔ドレナージは実施せず経過観察としており,第4病日のCTにて改善を認めた.

図3 症例1の入院経過

リハビリテーション(リハ)は第4病日から開始した.吸気時に呼吸補助筋の筋緊張亢進を認めていたためリラクセーションや胸郭のストレッチ,口すぼめ呼吸などの呼吸法,呼吸困難増強時の対応としてパニックコントロールを重点的に指導した.同時に,介入当初はまだ離床しておらず床上での生活であったため,車椅子乗車を目標に離床を進めた.第7病日には車椅子乗車が安定して可能となり,一般病棟へ転棟した後,立位~歩行器歩行練習,低負荷での筋力トレーニングを開始した.運動負荷は呼吸数,SpO2,心拍数,自覚症状などを確認しながら調整した.また,リハなどの労作時はSpO2>90%となる範囲で酸素流量を変更する許可を医師から得て,調整しながら実施した.さらに,自宅退院に向けて看護師とリハ状況を共有し,リハ以外の時間も食事の際に車椅子乗車を促す,清拭時にヒップアップをする,トイレ時は立ち座り練習を5回するなど,病棟ADLに沿って実施可能なトレーニングを追加した.第13病日より病棟にて歩行器歩行開始した.歩行練習開始時は呼吸困難が強く数mでも疲労感著明であったが,休憩を挟みながら短距離歩行を頻回に実施し,第16病日より歩行器にてトイレ歩行を開始した.また,自宅退院に向けて,動作時に①呼気延長を意識すること,②息を止めないことを前提として指導し,パンフレット1を参考に腹部圧迫や上肢の挙上を避けるようなADLを練習した.最終的に歩行器歩行は自立し,第20病日に自宅退院となった.

3. 考察

本症例は最重症のCOPDであり,労作時呼吸困難への不安などから動くことに消極的となっていた.COPD患者では呼吸困難のために身体活動量が低下し,更に身体機能が低下していくという悪循環に陥りやすい2.呼吸リハビリテーションはCOPD患者におけるこの悪循環を止め,身体機能の低下を防ぐための戦略として推奨されている3.呼吸リハビリテーションに関するステートメント4では,重症例はまず排痰支援や呼吸練習,ベッド上での四肢や体幹の自動・他動運動等によるコンディショニングから開始することが推奨されている.本症例においても胸郭のストレッチや呼吸法,呼吸困難を起こしにくい動作の工夫や,呼吸困難時の対応を重点的に指導した.さらに,労作時呼吸困難及び運動誘発性低酸素血症を引き起こさないために,医師に許可を得た上でSpO2 の下限指示を下回らないよう酸素流量を調整してリハを進めた.運動負荷は,①前日の疲労感が残っていないか,②前回と同じ負荷をかけたときの自覚症状およびvital signの変動を確認して調整した.また,自宅退院に向けて病棟でのADLを拡大するために,リハビリ以外の時間でもできる限りご自身で動くよう看護師と目標を共有し,ADL動作時に合わせてトレーニングできるように工夫した.最重症例では軽労作でも呼吸困難を感じやすい症例が多く,リハの時間内では十分な強度で運動できないことをしばしば経験する.患者のADL改善のためには,看護師と協働し,リハ以外の時間でも活動量を向上させる取り組みをしていくことが重要と考えられる.

症例2

1. 症例紹介

80歳代男性,BMI 15.0.診断名はCOPD(III期),逆流性食道炎の既往あり.現病歴は,X年Y-10月急性増悪にて初回入院後に退院したが,X年Y月に38度の発熱,室内気にてSpO2 87%となり,治療目的に同年2度目の入院となった.胸部レントゲンでは肺過膨張,横隔膜の平低化,肋間腔の開大を認めた(図4).動脈血ガス分析は,pH: 7.42,PaO2: 47.0 Torr,PaCO2: 53.9 Torrであり,酸素療法を開始した.理学療法は第3病日から開始した.血液検査ではC反応性たんぱく(C-reactive protein: CRP)7.86 mg/dLと高値であり,誤嚥傾向があるとの情報もあった.入院7日後HOT導入となり,酸素流量は安静・労作時とも0.5 L/分であった.

図4 症例2の胸部レントゲン

2. リハビリテーション

1) 評価

視診・触診では,胸郭拡張性・柔軟性ともに低下していた.呼吸時の胸郭運動は乏しく,特に下部胸郭での外側への動きに制限を認めた.胸鎖乳突筋や僧帽筋などの呼吸補助筋群は,抗重力姿勢でより亢進していた.呼吸パターンは吸気:呼気=1:1~1.5でリズムは不整,呼吸数は20回/分であった.聴診では,両側下葉の肺胞呼吸音が減弱しており,発話時に嗄声のある時もあった.

関節可動域は両肩関節に屈曲制限があり,姿勢は軽度円背で骨盤後傾位,頭部は前方に偏移していた(図5).徒手筋力検査は両上下肢4~5レベル,ADLは室内であれば自立,入浴は清拭介助であった.下肢筋力は保たれていたが,骨盤前傾・体幹伸展位を長時間維持できず,片脚立位は両側とも数秒程度の立位バランスであったことから,体幹の支持性低下が示唆された.患者の希望は屋外散歩をすること,主訴は呼吸が安定せず歩行時にふらついて息切れがする,喉がおかしくて声が出ない時があるとのことであった.患者背景として,独居でサービス付き高齢者住宅居住,退職前は公務員であり,性格は真面目で心配性,社交的である.入院前の日常生活は自立しており,屋外はT字杖を使用して30分~1時間/日散歩をしていた.また,繰り返す肺炎に対して強い不安があった.

図5 症例2の座位姿勢

2) 理学療法経過および介入

入院中の理学療法は,週5日,1回40分実施した.コンディショニングとして,鼻での吸気と呼気延長を意識しながら口すぼめ呼吸を指導した.介入初期は療法士による胸郭や肩甲帯周囲の徒手的ストレッチを重点的に行った.呼吸筋ストレッチ体操では,体幹伸展・回旋および肩甲骨の運動ができるものを3種類選択し,各10回実施した.嗄声に対し,アクティブサイクル呼吸法を指導し,食事前後や嗄声時に自己喀痰を促した.誤嚥傾向に対して,頭部が前方に偏移しないよう,骨盤の前傾および体幹の伸展を促した.運動療法では,廃用予防のため,セラバンドを使用して上肢・下肢に2種類ずつ各10回の筋力強化運動を実施した.歩行時のふらつきに対し,下部体幹・下肢の安定性向上を目的に立位バランス練習を行った.歩行は,HOTを使用しながらSpO2 90%以上,修正Borg scale 3~4を目安に10分×2セットとした.

開始時はコンディショニング中心としていたが,疾患の回復に伴い,運動療法を中心とした自主練習プログラムへシフトした5.歩行時のふらつきや呼吸困難が軽減したため,最終的に病棟歩行は自立となった.

病棟内ADL自立となったが,繰り返す急性増悪の予防のために,退院後を見据えたセルフマネジメントが必要と考えられた.多職種によるカンファレンスを週1回実施しながら,栄養・服薬指導,HOT教育,療養日誌の活用など包括的なアプローチを実施した.その結果,患者自身が時間を決めて呼吸筋ストレッチ体操や運動療法を行い,体重増加のために食事摂取量を栄養士に相談するなどの変化が見られた.入院中から療養日誌を記載し,理学療法士に確認を求めるなど,前向きに疾患と向き合うようになった.退院可能なADLではあったが,もう少し筋力・持久力を向上したいというご本人の強い希望があり,呼吸リハ継続目的に転院となった(図6).

図6 症例2の入院経過

3. 考察

本症例は,フィジカルアセスメントにて胸郭拡張性・柔軟性ともに低下していた.抗重力姿勢での呼吸補助筋活動亢進は,体幹の支持性低下と肺過膨張による横隔膜可動制限が関与し,吸気努力が必要なためと考えた.また,不良姿勢や不規則な呼吸が嚥下困難感や動作時の息切れに繋がっていると推察された.改善にあたって,姿勢を維持するための可動性,筋力や持久性を総合的に向上する必要があった.

コンディショニングとして,口すぼめ呼吸を行いつつ,胸郭・肩甲帯・体幹の可動域拡大目的に呼吸筋ストレッチ体操を行った.運動療法では,入院中の廃用予防および体幹の安定性を図ることで呼吸困難の軽減や姿勢の改善を期待した.介入中期~退院までは,日常生活での活動量増加を目的に自主練習指導を中心にプログラムを構成した.また,誤嚥や急性増悪を繰り返さないように,姿勢の調整や疾患管理指導に重点を置いた.多職種とのカンファレンスにて情報や目標を共有しつつ,患者自身が適切にHOTや薬剤を使用し,体重減少もなく,運動療法を継続できた.患者自身の病態理解が深まり,自己管理能力が高まったことで退院後の不安が軽減した6.今後は転院先や地域と連携をし,チーム医療として継続する必要がある4

まとめ

今回の2症例のように,病期は異なってもフィジカルアセスメントを丁寧に行うことで,他の評価・検査や患者背景などを踏まえて,個別的なプログラムを提供することが可能である.疾患名は同じでも,患者の生活歴や背景,体格,性格等は異なるため,症状は決して同じではない.フィジカルアセスメントから身体の状況を把握し,患者・家族にフィードバックすることで,セルフマネジメント能力が高まり,急性増悪を予防することが期待される.呼吸リハを在宅でも継続し,セルフマネジメントを支援するために,介護分野での呼吸器障害への知識・技術などの教育や質の向上も重要である4

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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