日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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COVID-19患者に対する呼吸リハビリテーション
花田 匡利, 芦澤 信之, 山梨 啓友, 関野 元裕, 泉川 公一, 迎 寛, 有吉 紅也, 前田 隆浩, 原 哲也, 神津 玲
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2025 年 34 巻 1 号 p. 1-6

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要旨

2020年1月に国内初の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した患者が確認されて以降,国内の感染者数は約1,200万人以上,死亡者数も約3万2千人に上り(2022年7月現在),いまだ終息の気配は見えず深刻な事態が続いている.

その間,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は変異を繰り返しながら感染力を高め,全世界で猛威を振るっている.当院は県内の基幹病院として,中等症および重症例を受け入れ,治療とともに積極的に呼吸リハビリテーションを実施している.COVID-19患者に対する呼吸リハビリテーションは,超急性期の重症患者から,後遺症を抱える回復期の患者までその適応は幅広く,感染拡大が終息してない状況では今後も対象者の増加が懸念される.同患者に対する呼吸リハビリテーションの報告は限られており,その増加を期待するとともに,今後は効果の検証を行う必要がある.

緒言

新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID-19)は2019年末に中国湖北省武漢市で発生し,その後2020年3月には世界中での大流行,すなわちパンデミックを引き起こした1).その後,様々な新型コロナウイルス[重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2: SARS-CoV-2)]の変異株が出現した.本邦でもアルファ株から始まりデルタ株による流行の後,2021年11月末より流行し始めたオミクロン株の影響で,本稿執筆時点(2022年7月)でも収束の目途はたっていない.本稿では,COVID-19患者に対する呼吸リハビリテーションの役割とその実際について,長崎大学病院における急性期から回復期における経験と先行研究による知見も交えて解説する.

1. COVID-19患者の病態生理と治療

「COVID-19」という疾患を引き起こす病原体の名称は「SARS-CoV-2」とされるが,本邦では「新型コロナウイルス感染症」と表現されている.SARS-CoV-2はスパイクタンパク質やエンベロープタンパク質を有し,形態が王冠(crown)に似ていることから,その名称がギリシャ語で王冠を意味するcoronaに由来している2).このエンベロープタンパク質を有するウイルスはアルコールに感受性があるため,手指消毒は必須の感染対策として位置づけられている.

COVID-19患者では,ウイルスが下気道に感染,増殖することで肺炎を発症し,高度の低酸素血症をきたすことが特徴である.しかし,呼吸困難といった症状を伴わない低酸素血症,いわゆるhappy hypoxiaで経過することも少なくない.このような患者では適切な治療が遅れることがあり,呼吸不全の進行や死亡に至るなど問題となっている.

SARS-CoV-2は体内に取り込まれると,細胞表面のアンギオテンシン変換酵素2(angiotensin-converting enzyme 2: ACE2)受容体に結合し,細胞内に侵入し増殖する.肺炎が重症化する患者も少なくなく,Gattinoniら3)はCOVID-19患者の重症肺炎の特徴を,L型(軽症)とH型(重症)に分類した.L型は,肺コンプライアンスは正常で,肺循環障害により低酸素血症を呈している状態とされる.一方,H型は肺のコンプライアンスが低下し,シャントによる重度の低酸素血症および血管内皮障害による影響から,急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)と同様の肺傷害を呈し4),さらなる重症化へとつながる(図1).

図1 COVID-19における肺での病態悪化のメカニズム

2022年現在では,COVID-19重症患者に対する治療として,RECOVERY study5)により有効性が示されたデキサメタゾンなどのステロイド薬や,抗ウイルス薬であるレムデシビルなどが選択され,さらに中等症以上の症例においては,腹臥位療法の実施も推奨されている6).

2. COVID-19患者に対する呼吸リハビリテーションの目的

COVID-19患者は,罹患後も無症状からARDSと同様の肺傷害を呈する重症例まで症状は多彩である.高齢,基礎疾患(糖尿病,高血圧など),肥満などが重症化リスクとされ6),これらのリスクを有する患者はもとより活動水準が低く,低身体機能状態であることも予想される.このような患者が重症化した場合,治療の長期化により不動期間が長くなることで,さらなる身体機能の低下を招く恐れが高くなる.また,COVID-19患者の治癒後は長期間にわたる多彩な後遺症も報告されており,日常生活に大きな支障をきたしている.このように,リハビリテーションは急性期から回復後においても適用が求められる治療手段であるといえる.

COVID-19の重症例に対するリハビリテーションは,酸素化の改善,肺における不均等換気の是正,人工呼吸器からの早期離脱支援,早期離床,身体運動機能の向上を目的とした早期からの運動療法,ADLの早期再獲得が主な目的となる.

以下,超急性期のCOVID-19患者に対する腹臥位療法から,回復後の後遺症に対するリハビリテーションまでを経過にしたがって解説する.

3. 急性期呼吸リハビリテーションの実際

(1) COVID-19患者における腹臥位療法の考え方と実際

ARDSと同様の肺傷害を呈するCOVID-19の重症例においても,腹臥位療法はしばしば劇的な酸素化の改善をもたらすことから,重要な治療手段として確立されている(図2).したがって,酸素投与が必要な中等症II以上の症例においては腹臥位療法の導入が推奨されている6).COVID-19の重症化リスクのなかでも肥満は,腹部臓器や皮下組織などが肺を圧排するため,容易に荷重側(背側)の肺胞虚脱をきたす.そのため,より呼吸不全が重症となり腹臥位療法の最もよい適応例となる.

図2 重症COVID-19患者に対する腹臥位療法

重症COVID-19患者では,炎症による血管透過性亢進が主体となって間質,さらには肺胞腔内へ水分が滲出し肺水腫をきたす.これが時間経過とともに重力の影響を受けて水分が背側へ沈降貯留した結果,下側肺障害を呈する.加えて,肺の血管内皮細胞障害から微小血管凝固障害が進行することも明らかとなっている.その結果,重篤な低酸素血症を呈し,呼吸ドライブが刺激され強い吸気努力が生じる.炎症による血管透過性の亢進を基礎として,吸気努力に伴う過剰な胸腔内陰圧(高い経肺圧)は肺傷害を引き起こす可能性がある.この肺傷害を自己誘発性肺傷害(patient self-inflicted lung injury: P-SILI)といい,予後に影響することが知られている.

このような呼吸状態悪化の負の連鎖を断ち切る必要がある.下側肺障害による低酸素血症は体位依存性でもあることから,障害肺領域を上側にする腹臥位療法は酸素化を即時的に改善する.この酸素化改善の機序として,不均等換気の是正による換気血流比不均等分布の改善,機能的残気量の増大,同領域に貯留する気道分泌物のドレナージなどが指摘されている8).ただし,こうした改善には長時間を要するため,米国集中治療医学会9)やSurviving Sepsis Campaign10)のガイドラインにおいては,ARDSにおける肺保護戦略と同様に1日当たり12~16時間の腹臥位療法の実施が推奨されている.

腹臥位療法は,酸素化の改善に著しい効果をもたらす一方,長時間の同一体位による合併症にも十分な注意を払う必要がある.合併症として,骨突出部の皮膚損傷や褥瘡形成,気管チューブや各種ライン類の事故抜去,圧迫による末梢神経障害,嘔吐,顔面の圧迫に伴う眼球や耳介の損傷等などが報告されている8).当院では,P-SILIの予防も兼ねて重症COVID-19患者では筋弛緩薬投与下に腹臥位を実施するため,頸部や肩関節,肩甲帯の関節に過剰な外力が加わりやすく,同領域の末梢神経損傷をきたしやすい.したがって,特に注意が必要であり,その予防のために体位保持の工夫や注意深い定期的観察,体位の調整などが不可欠である.当院ではこうした合併症の予防を図るとともに,スタッフのマンパワーや患者の全身状態に合わせて,腹臥位だけでなく前傾側臥位や完全側臥位も体位管理の中に取り入れている.これには治療とケア,リハビリテーションに関わるチームのスタッフ全員で情報共有を図りながら,最適な管理となるように努めている.

(2) 覚醒下での腹臥位療法の有効性

COVID-19患者の治療と管理において一躍脚光を浴びたアプローチが,非挿管つまり「覚醒下」での腹臥位療法(awake prone position: APP)である.COVID-19患者の予後を改善すると同時に,医療スタッフの負担を軽減するためには,いかに挿管・人工呼吸管理を回避するかが焦点となった11).APPに関しては国外を中心に多くの検討が行われ,なかでも2021年にEhrmannら7)は高流量鼻カニュラによる酸素療法にて管理されたCOVID-19患者1,126例を対象に,ランダム化比較試験によるAPPの効果検証結果を統合した共同メタ解析を行った.その結果,APPによって挿管率および死亡率の有意な低下を認めた.Alhazzaniら12)は,4か国において400例を対象にAPPの効果を検討したが,挿管回避率や死亡率の低下は認めなかったと報告しており,APPの有効性に関しては,導入のタイミング,施行時間や頻度など議論の余地も残されている.一部の中等症患者では低酸素血症の合併からP-SILIを誘発することが懸念され,重症化を招く可能性が高くなる.そのため,肺傷害の進展を予防するという観点からも,十分な酸素投与とともに,患者自身で簡便に行うことができるAPPの早期導入は十分な臨床的価値があると考える.

また,APPは長時間にわたって腹臥位を強いるために,患者にとって苦痛を伴うことも多く,特に腰痛の訴えが少なくないことを経験する.そのため,スタッフは安楽な姿勢の取り方について様々な工夫に努める必要がある.筆者らの経験では,前傾座位が有用であった(図3).ベッド上での腹臥位が困難となった場合は,このような端坐位姿勢などを取り入れることも検討すべきであろう.今後これらの姿勢による効果検証も必要である.

図3 前傾座位による体位管理

(3) COVID-19患者における早期リハビリテーションの実際

全身状態の回復に伴い早期離床を進めていくが,これは従来から重症呼吸不全患者で得られてきたリハビリテーションのノウハウを応用している.人工呼吸管理を要したCOVID-19の重症患者は,全身に炎症と代謝亢進が誘発されるとともに,治療に長期間を要するために安静臥床を余儀なくされる期間が長い.また,当院ではP-SILIによる肺損傷の予防のために,筋弛緩薬を併用した鎮静管理がなされる.本患者群では,長期間の不動による廃用性の筋力低下に加えて,これらに起因して集中治療室獲得性筋力低下(intensive care unit acquired weakness: ICU-AW)など骨格筋機能障害を合併することも少なくない.したがって,同患者では,身体機能の回復と向上とともに,長期機能予後の改善も視野に入れたICUでの早期からのリハビリテーションは必要不可欠であり,特に可及的早期からの身体運動,すなわち離床(early mobilization and exercise)の開始が望ましい13,14).Zampognaら15)は,COVID-19患者140例を対象に入院中の呼吸リハビリテーションプログラムの有効性について検討している.その結果,6分間歩行距離,簡易型身体機能評価バッテリー(short physical performance battery: SPPB),日常生活活動において有意な改善を認め,集中治療後の患者においても継続した介入の必要性について提唱している.

COVID-19患者の離床の際に留意すべき点として,姿勢の変化によって生じる顕著な呼吸状態や循環動態の変動を示す症例が存在することである.特に同患者では,座位に伴う体位性の頻脈(postural tachycardia syndrome: PTS)16)や,呼吸困難の増悪を伴う顕著な低酸素血症(platypnea orthodeoxia syndrome: POS)17)が報告されており,筆者らもこれらの症状によって,離床に難渋する症例を経験している18).これらの病態については十分に解明されておらず,効果的な対策も存在しないため,現時点では離床が不可能であれば,ベッド上での身体機能維持を目的とした筋力トレーニングを中心に,運動様式や強度を考慮したプログラムの立案が必要となる19).

また,SARS-CoV-2による感染は,全身性の血管内皮細胞障害を誘発し,それによる血栓形成20)が,急性心筋炎,不整脈,横紋筋融解症,凝固障害,肝臓および腎機能障害などを惹起することが問題となる21).先述の通り,長期間の安静臥床を余儀なくされる重症COVID-19患者の29.4%において有意に血栓症を発症することが報告されている22).したがって,同患者では深部静脈血栓症などを引き起こす可能性が非常に高く,早期リハビリテーションの開始と実施にあたってはその認識と十分な注意,対応が必要である.中等症以上の症例では,抗凝固薬の投与が推奨されているが,それと同時に体動の促進を図る早期からの離床は重要な役割を担っている.

COVID-19患者の早期リハビリテーションにおけるその他の問題点は,感染予防対策である.リハビリテーションに関わるスタッフは,感染対策のため患者の正面に位置しないなどの配慮はしているものの,他職種と比較して介入時間が長く,患者との距離も近いため,特に注意が必要である.また,通常診療とは異なる特殊な環境でのリハビリテーションの提供,具体的には,個人防護具(personal protective equipment: PPE)の装着による動きにくさや,隔離されたレッドゾーンでの機器や器具を持ち込めない制約があるなかでのリハビリテーションの実施などがあげられる.同患者においても,特殊な環境下で隔離され,多くの不安とともに不自由な生活によって過度のストレスを抱えている.具体的には,情報が限られ,家庭内感染の場合では家族への感染拡大を招いたという思い込みによる自己否定や,自身の治療以上に家族の心配をしている患者等である.そのため,常に患者の心情に寄り添う配慮を行いつつ,活動量低下による血栓形成のリスクなどについても十分な理解が得られるよう丁寧に説明し,効果的なリハビリテーションプログラムの提供に努める必要がある.

4. COVID-19患者の後遺症に対する長期的なリハビリテーションの必要性

近年,救急・集中治療の発展に伴い重症患者の死亡率が低下している一方,生存患者においては身体や認知機能,メンタルヘルスに障害や後遺症をきたして社会復帰が困難となっていることが問題となっている.これらは集中治療後症候群(post-intensive care unit syndrome: PICS)と総称され,その対策が重要な課題である.重症患者の集中治療後に生じるこのような問題は,COVID-19患者においても同様であることが報告されており,「post-COVID-19 syndrome」または「long COVID」23)と言われている. COVIDの原因は様々な憶測がなされているが,詳細な機序については不明な点が多い.症状としては,長期間の全身倦怠感,頭痛,めまい,呼吸困難,胸部痛,咳嗽,不整脈,遷延する発熱,関節痛など多岐に渡り,日常生活に支障をきたす患者も少なくない24).Huangら25)は,約63%の患者において退院から6か月後も倦怠感,筋力低下を認め,特に重症例においてはこれらのリスクが約2.7倍になると報告している.また,COVID-19重症患者の約3割は,ICU入室から6か月後に新たな機能障害を有するとの報告もあり26),今後も感染者が増加することを考慮すると,長期的なリハビリテーションを必要とする患者の増加も懸念される.

回復期およびlong COVID患者に対する呼吸リハビリテーションの報告はまだ少ないが,3週間の包括的呼吸リハビリテーションによって,呼吸機能や運動耐容能の改善を認めた報告27),6週間の介入でも同様の改善を認めたとする報告もあり28),その有用性が期待される.今後,国内患者を対象とした調査や臨床研究が必要であろう.

結語

本稿では,重症COVID-19患者を対象とした呼吸リハビリテーションの役割と実際について,当院での取り組みと先行研究について解説した.本患者に対する呼吸リハビリテーションの報告は依然として少なく,感染対策や薬物治療を含めた治療管理の進歩に合わせ,リハビリテーションプログラムの有効性についても検証が必要である.今後,COVID-19患者の病態や臨床的特徴がさらに明らかとなり,有効な治療方法が確立され,感染拡大状況が終息することを期待するとともに,病態に応じたリハビリテーション方法論の発展が望まれる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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